戦国生活日記   作:武士道

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 武士道です。
 『・・・』を『…』に直してみては?との感想をもらいました。
 一度そのように書いてみますので、こちらの方が読みやすかったらご感想をお願いします。


昌秀と良晴

 城の広間は何時もの活き活きとした朝議ではなく、鬱々とした空気になっていた。

 それもそうだろう、朝っぱらから生首の入った木箱を持ってこられたら誰でも気分を害する。

 

 しかしこの女武将達の反応はどうかと昌秀は思う。

 謀反人の首を持ってきたのだから、普通の反応なら喜んでいそうなものだ……

 

「何かご不満でも? 謀反人の首を持ってきたんだ。喜んでくれてもいいのに」

 

「あんたねぇ……朝早くから生首を見て気分が良くなる人がいると思う?」

 

「目の上のたんこぶが取れたんだから嬉しさのあまり踊る所だと思うが?」

 

 はぁ…と信奈は頭を抱えながら溜め息を吐く。

 昌秀は約束どおりの報酬を手にとって感謝の意を告げると、長居は無用とばかりに広間を後にした。

 

 

 

「……分かってはいたけど、あんまり気持ちの良い勝利とは言えないな」

 

 帰る途中に緩やかに流れる川で、先程貰った金子を眺めながら昌秀は呟いた。

 すると、昌秀の後ろに石段を下りてきた見慣れた人物が一人息を切らして膝に手を当てている。

 

「良晴か……」

 

「昌秀、何で殺したんだよっ!? 二千の兵で包囲していれば犠牲が出さずに勝てたんだぞっ!?」

 

「犠牲を出さずに……か」

 

 ふっと笑いながら川辺で丁度良い石を拾って、川に向かって投げる。

 投げた石は水面を四、五回跳ねると水面にポチャリと落ちた。

 沈んでいった石を見ていた昌秀はギロリと良晴に視線を移した。

 

「良晴、お前も分かっているとは思うが……戦ってのは犠牲はつきものだ。犠牲を出さない戦なんてこの世にありゃしない。お前といい、あの馬鹿姫さんといい……お前らは甘すぎる」

 

「昌秀、何かあったのか……? お前はそんな奴じゃなかった筈だ!」

 

「質問を質問で返して悪いが……お前は元の時代に帰る気はあるのか? 帰る方法を探そうとしたのか?」

 

「それは……まだだけど……」

 

「まだ? はっ! お前を心配して探していたら、戦国時代に来ていて再会したと思えば、いなくなった本人は戦国ライフを満喫していると来た! ……笑わせないでくれ」

 

「昌秀……? 何怒ってんだよ?」

 

「お前、自分がした事分かっているのか? 今川義元を殺さず、斉藤道三を助け、織田信勝の謀反もお前の助言で信奈は許したらしいじゃないか。そんな事をすれば歴史が変わるぞ? そうすりゃ、俺らの持っている知識はいずれ役に立たなくなる。分かるか?」

 

「だけど……義元ちゃんが殺されそうだったんだぞ? 普通助けるだろっ!?」

 

「俺は義元に会った事が無いから分からんが……どんなに美人でもそいつは桶狭間で死ぬ筈の今川義元だ。知ってるか? 足利義輝と足利義昭が三好三人衆と松永久秀によって、暗殺されかけて明国に逃げた事を」

 

「えっ!? 確か義輝の方は暗殺されるんじゃ……」

 

「お前が今川義元を殺していたらそうだったのかもな」

 

 黙り込む良晴に昌秀はハァと溜め息を吐きながら近づく。

 そして良晴の頬を思い切り殴ると、良晴は二メートル程吹っ飛んだ。

 

「痛ってぇ!? 何すんだよっ! 昌秀っ!」

 

「……こうなってしまった以上、もうやるしかないだろ? 帰る気がないなら、お前なりに筋を通してみろよ。お前が頑張っている間に、俺なりに元の時代に帰る方法を調べてみるから」

 

「昌秀……」

 

 昌秀は少し悲しそうな表情をして、また手頃な石を見つけるとおっと言いながら手にとった。

 良晴は殴られた頬を押さえながら、ポカンとした表情で昌秀を見る。

 

「懐かしいな良晴、昔はこうやって水切りしながら遊んでたっけ……」

 

「もしかして昌秀……何か理由があって殺したのか?」

 

 良晴の問いに昌秀は何も答えなかった。

 これでもかと言わんばかりに昌秀は手頃な石を見つけては投げていた。

 手頃な石が見当たらなくなると、昌秀はその場に爺さんのようによっこらせと腰を下ろした。

 

「……あのまま、あいつを許しておけば必ずまた謀反を起こすだろう。しかも、今度は同じ境遇の者を誘ってより強大な勢力になってからな。その時、誰かがあいつを……いや、もっと大勢の人々を殺さなければならない。そろそろ、織田家が上洛の軍を起こす頃だ……上洛の途中、謀反を起こされたらどうする?」

 

「それで……殺したのか?」

 

「そうだ。あいつらは武将である前に女性だ、首を取る方法を知っていてもやっぱり抵抗があるんだろう。彼女達の反応を見ていれば分かる」

 

 昌秀は川の流れる音を目を瞑って聞いていた。

 そこまで考えてと良晴は頬を押さえながら立ち上がって、昌秀の隣に腰を下ろした。

 

「……なぁ、人を斬るってどんな感触なんだ?」

 

「……聞かない方が幸せだぞ。まぁ、昼飯が食べられなくなってもいいなら話すが?」

 

「……やっぱやめとく。それより、何でその事を信奈達に言わなかったんだ? それを言えば信奈も納得するのに……」

 

 昌秀はゆっくりと瞼を開けると、笑いながら良晴に顔を向けた。

 

「良晴、これは持論だけどな……この時代、誰かが汚れ役をやらないと上手くいかないと思うんだよ。それに、あいつ等は虐殺を良しとしないだろう……只でさえ、信長…じゃなかった信奈の考えは周囲に敵を生む。そんな時、どうやって敵を黙らせるんだ?」

 

「それは話し合いで何とかなるんじゃないか?」

 

「無理だ。そんな事をしていたら、爺になっても天下は取れん。取りたかったら、魔王になるしかない……」

 

「だけど魔王になったら信奈は……」

 

「お前……もしかしてあの女に惚れてんのか?」

 

 なっと良晴は顔を赤くして首を必死に横に振った。

 マジかよと昌秀も冗談のつもりだったが予想外の反応に目を丸くさせた。

 

「やめとけ……相手が悪すぎる。他の女を見つけるんだな」

 

 昌秀が無愛想に言うと、良晴はだけど…と諦められないのか昌秀に助けを求めるような視線を送る。昌秀はその視線を完全に無視する。

 良晴は残念そうな顔をすると、突然思い出したと手をポンと叩いた。

 

「あっそうだ。俺、信奈に呼ばれてるんだった。じゃあな昌秀、また明日」

 

「あぁ、また明日」

 

 良晴が走っていくのを見ながら、こうしてまた明日と言える日がいつまで続くのだろうと昌秀は思いながら再び川を眺めた。

 川は戦国も現代も変わらずにゆっくりと流れている。

 人の命も同じなのかもしれないと昌秀は眺めながら思う。

 例え今生きながらえても結局は死ぬのだ……それに何の意味があるのだろう。

 死ぬ筈だった人間が未来の人物から助けられて生き長らえる、それは俺達のエゴなのではないか? 

「……やめよう。さぁて、せっかく金子を貰ったし今日はパ~っといこうかな」

 

 一応長秀の屋敷でお世話になってるんだしなと昌秀は腰を上げて、陽気な足取りで長秀の屋敷へと向かった。

 

 

 

 昌秀が行ったのを確認すると、木の陰から二つの影が現れた。藤堂高虎と丹羽長秀である。

 高虎は昌秀の事を心配してついて来た所、丁度昌秀を発見して様子を見ていた。

 長秀は昌秀を叱ろうと追っていた時、昌秀と良晴が話しているのを見つけて高虎と同じ場所で様子を伺っていた。

 高虎は滝のように涙を流しがら、一度でも主君を疑った事を恥じていた。

 長秀も先程までの昌秀に対する感情が恥ずかしくて扇で顔を隠している。

 

「殿……最初からそう言ってくれれば良かったのに、疑った私がうつけでした! うわぁぁん!」

 

「高虎殿、そんなに泣かないでください。私達以外は皆、昌秀の事を危険視しているのですから、あなたが昌秀を支えてあげないと……」

 

「でも……他の人はこの事を知らずに殿を軽蔑しているかもしれないんですよっ!? 私、我慢なりませんっ! ちょっと城に乗り込んで皆に訴えてきます!!」

 

 高虎が城に向かおうとするのを、長秀が慌てて押さえた。

 

「待ちなさい! 昌秀が自分の意思で汚名を被っているのです。先程の事を伝えれば成る程、昌秀の汚名は挽回されるでしょう。しかし、昌秀の思いを踏みにじる事になるのですよっ!?」

 

「しかし……殿は織田家の事を思ってやったのに、その織田家から邪険にされるなんてそんな理不尽な事がありますかっ!?」

 

「それが昌秀の選んだ道です。昌秀もこうなる事を分かってやっているのです。貴方も昌秀の家臣なら察してあげなさい」

 

「………分かりました」

 

 高虎はギリと歯噛みすると、急いで昌秀の後を追った。

 ポツンと取り残された川辺で、長秀は良かった……と安堵して胸に手を当てた。

 

「………昌秀、皆が貴方を邪険にしようと私は分かってますから……」

 

 今日位、優しくしてもいいかもしれませんねとクスッと笑うと、長秀はゆっくりとした足取りで昌秀達を追った。

 

 

 

 

 

 


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