長秀は一度追い返しても諦めず、二度三度と尋ねてきた。
四度目の訪問となると流石に昌秀も根負けしそうになった。
「また来たのか・・・・いい加減諦めて欲しいもんだ」
「そうですね。長秀殿がここまでするとは思いませんでした」
二人がハァと溜め息を吐くと、何時もと違って外が騒がしくなってきた。
「何だ・・・喧嘩か?」
「天安様、一大事です! 門前で長秀殿が妙な輩に囲まれていますっ!」
「・・・何だと? 供の者はいないのか?」
「はい、今日はお一人で来られたようです」
高虎の顔が険しくなり昌秀に目をやった。
昌秀もコクリと頷くと、頭に笠を被って床下に隠していた蔓丸を手にとった。
「天安様、外は危険です!」
「安心しろ、ちょっと注意するだけだ」
「刀を持ってですかっ!?」
昌秀は安心しろと言いながらズカズカと門前へと向かった。
高虎も懐に隠した小太刀を持って昌秀の後を追う。
昌秀は扉を少し開けて状況を確認した。
確かに長秀が笠を被った山賊のような格好をした三人に囲まれていた。
しかも一人は胸があるのを見ると女のようだった。
昌秀は女山賊とは珍しいな・・・・と思いながらも出るチャンスを待った。
やがて一人の山賊が刃物を持って斬りかかろうとした瞬間昌秀は動く。
素早く蔓丸の柄で鳩尾を打つと山賊は腹を抱えてその場に崩れ去った。
もう一人の山賊が仲間が倒れたのを確認すると、こちらは拳で殴りかかって来た。
昌秀は拳を受け止めて刀を握っている手で殴り返す。
すると何時の間にか女山賊が刀を抜いて昌秀の背後をとっていた。
(こいつ・・・!? マズイ・・・やられるっ!?)
昌秀が斬られる覚悟をした瞬間、高虎が現れて持っていた小太刀で相手の斬撃を受け止めた。
女山賊は高虎に驚いたのか体制を崩す、昌秀はそれを見逃さずに蔓丸を鞘ごと下段から相手の頭へと向けた。しかし女山賊も反応し、後ろに飛んでかわした。昌秀の攻撃は相手の笠を破く。
そして女山賊の素顔を見た瞬間、昌秀は固まった。
「・・・・勝家?」
「お、お前何で私の事を知っているんだっ!?」
「勝家殿・・・素顔を見られては意味が無いでしょう。三点です」
「そ、そんなぁ・・・急に出てきたあいつがいなければ一撃で仕留められたのに」
「おいおい勝家、お前の役割はそんな事じゃないだろ?」
「うるさいサル! 大体お前はすぐにやられすぎだっ!! 何で一回殴られただけで伸びているんだっ!」
「し、仕方ないだろっ!? 以外に天安って奴が強かったんだから・・・」
ギャアギャアと騒ぐ二人に昌秀達は状況が理解できず混乱する。
長秀はニッコリと笑いながら昌秀に近づく。
「お騒がせして申し訳ありません。こうでもしなければ天安殿に会えないのでやらせて頂きました」
「・・・織田の者は破戒僧に会うために騙まし討ちを仕掛けるのか?」
「騙まし討ちなど滅相も無い。私は只あなたとお話がしたかっただけなのです。まぁ、確かに勝家殿が暴走してしまいましたが・・・」
長秀がチラリと勝家を見ると、勝家は『えぇ~! 私のせいなのかっ!?』と頭を抱えてうな垂れた。良晴はそれを見てざまぁみろと笑う。
「・・・織田と話す事など一言も無いのだがな」
「貴方には無くても私にはあるのです。お時間頂いてもよろしいですか?」
昌秀は少し悩んだが長秀達を入れることにした。
長秀、勝家、良晴の三人は天安寺の客間に通された。
三人の山賊の内、昌秀にやられた最初の一人は川賊の一人だったようで先に帰ったようだった。
昌秀は笠を被ったまま長秀達の向かいに座る。
「おい、お前は客の前で笠を被るのかっ!?」
「無礼な奴らを客と認めた覚えはないな」
「何だとっ!?」
勝家が刀に手をかけると長秀がそれを止めた。
勝家は渋々手を離す。
「失礼いたしました。天安殿、貴方の力量を見込んで言います。織田に仕官しませんか?」
「断る」
「おい返答早すぎだろっ! なぁ天安さん、信奈に会うだけでもいいから一緒に来てくれないか?」
「嫌だね、大体俺はお前らがよく知ってる人物だぞ?」
「「「・・・・はっ?」」」
昌秀は意地悪な笑みを浮かべると、笠をはずして横に置いた。
三人は笠を取った昌秀を見て唖然とする。
「ま、昌秀っ!? 何で尾張にっ!?」
「何でって長門家を出奔してきたんだよ。今は元の時代に帰るために旅をしているんだ」
「・・・零点です。まさか天安の正体が昌秀だったとは・・・」
「どうりで私の事を知ってるわけだ・・・」
「で? どうする? これでも俺を連れてくか?」
「・・・・そうですね。とりあえず姫様に会ってもらいましょう」
「えっマジで・・・?」
長秀が昌秀の腕を抱えると勝家が反対の腕を掴んだ。
昌秀はそのまま長秀の馬に無理矢理乗せられる。
高虎がそれを見て着物姿のまま昌秀の麻月に乗って追いかけてきた。
「殿っ!? おのれ織田めっ! 殿を連れ去るつもりだなっ! 許せんっ!」
「昌秀、何だあの可愛い子はっ! お前あんな可愛い子に慕われてんのかっ! 説明しろ!」
「こらサルっ! 大人しくしろっ!」
良晴は勝家の後ろでワケのわからん事をギャアギャアと騒いでいた。
昌秀はそれを見ると溜め息を吐く。
「昌秀・・・霧生の方はいいのですか?」
「・・・霧生には片桐親子を残してきた。あいつらなら大丈夫だろ」
「片桐親子を・・・六十三点」
「何だ、随分微妙な点数だな」
「貴方が守っていれば百点満点だったのですけどね」
長秀は残念そうにハァと溜め息を吐く。
「珍しいなお前が溜め息なんて・・・」
「四日もかけて会えた天安殿が知り合いだったら溜め息だって吐きたくなります」
「・・・それはそうだな」
昌秀がうんうんと頷いていると、長秀は凄い殺気を出しながら昌秀をにらんだ。
「な、何だよ・・・」
「・・・何でもありません」
長秀はムスッとした表情になると手綱を握り締めて尾張へと急いだ。