戦国生活日記   作:武士道

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長門家 浅井朝倉連合軍と対陣する

 唐突だが、長門家は周辺諸国と仲が悪い。無駄に戦に強いからだろうか理由は良く分からないが・・・

 織田とは先代から仲が悪く、長門家の家臣一同は織田家に身内を殺されているため強い恨みを抱いている。しかし重秀の代から、尾張の丹羽家との交流が始まり昔ほどの確執はなくなった。

 さて、実は長門家はこの織田家よりも仲が悪い大名家が二つある。

 

 1つは近江の浅井家、この浅井家とは長門家の始祖からの因縁があり互いに仇敵同士であった。しかも領地が隣同士のため頻繁に小競り合いが続いている。

 もう1つは越前の朝倉家、確執はそんなにでは無いのだが・・・重秀曰く『あの男を見てると虫唾が走る』との事。朝倉家の現当主である朝倉義景はかなりの物好きらしい。物好きと言うのも源氏物語が好きらしく、美しい女性を目にすると源氏物語に出てくる人物と重ねてしまうらしい。

 つまり長門家は朝倉家が嫌いなのではなく、朝倉義景が嫌いという事だ。まぁ、他にもいろいろ理由はあるらしいのだが一番はこれらしい。

 

 

 そんな周辺諸国と仲が悪い長門家だが、もちろん仲が良い大名家もある。それを三つ程紹介しよう。1つは先程も紹介した尾張の丹羽家、重秀の代から交流が盛んになり現在は昵懇の仲となっている。

 他の二つは遠いのだが、越後の竜とも呼ばれる上杉謙信率いる上杉家。もう1つは今は滅びてしまったが美濃の斎藤家である。

 

 

 何故こんな話をするのかと言うと、広間で褒美の話をしている途中に重秀殿の使いが火急の用件と広間に押し入ってきた。

 その内容とは浅井が朝倉と手を組んで、先の戦で奪い取った吉備津城に向かっているという報せだった。

 

「分かった、すぐ戻ると伝えてくれ」

 

「はっ」

 

 使者は昌秀の返事を聞くと足早でその場を後にした。

 昌秀は重い面持ちで信奈に振り返る。

 

「聞いての通り、長津の地が危険にさらされていますのでこれにて・・・」

 

「デアルカ。いいわ、行きなさい」

 

「はっ」

 

 昌秀は頭を下げて高虎と供に広間を後にした。

 昌秀が広間からいなくなると信奈は不満そうな顔をする。

 

「何よあいつ・・・一体何を考えているのかしら?」

 

「俺もさっぱりだ・・・本当はあんな奴じゃ無かったのにな」

 

「相良殿、どういう意味ですか?」

 

 長秀が興味深そうに尋ねると良晴は手を組んで懐かしそうな顔で答えた。

 

「いや、あいつはもっと優しくて正義感のある奴だったんだよ。確かに頭は良かったけど、それを謀略なんかに使うほど悪い奴じゃ無かった筈なんだ。昔は良くいじめらてた奴を庇ってたよ」

 

 長秀は真剣な表情でその話を聞いて『成る程・・・四十点』と一人で頷くと、真剣な表情から一変して何時もどおりの温和な表情に戻る。

 

「姫様、私も昌秀の後をすぐに追います」

 

「どうしたのよ急に? 別にあせらなくても後で充分間に合うわよ」

 

「いえ、和議の条約で私が長門家に内政を教えなければなりませんので・・・」

 

「・・・分かったわよ。その代わりちゃんと護衛をつけるのよ?」

 

「えぇ、では・・・相良殿」

 

「えっ俺?」

 

「相良殿はこの仲で唯一昌秀と旧交ある人物、昌秀との交渉も上手くいくかもしれません」

 

「交渉? 万千代、どういう事?」

 

「それは―――――――――――」

 

 

 

 美濃を出て二日足らずで長津の津川城へと到着した。

 道中、領地を切り取りに行かせた且元と合流し津川城に入城した。

 広間に着くと一門衆と重臣一同が勢ぞろいしていて、ピリピリとした空気が伝わってきた。

 その中で重勝が笑いながら語りかける。

 

「昌秀、よう無事に帰った。美濃の事は聞いておる、盗られた物は仕方あるまい」

 

「重勝殿、我らも美濃の一部を切り取っております。これをご覧ください」

 

 昌秀は懐から義龍の署名を見せると重臣達がヒソヒソと話し始める。

 重勝達は署名を見るとおぉ!と喜んだ・・・しかし、重秀の顔は只目を瞑っていた。

 

「重秀殿・・・何か?」

 

「昌秀よ・・・わしは天下を望んではおらん。わしが心から望んでいるのはこの長津の地の安寧と、皆が仲良く暮らしてくれる事じゃ」

 

「しかし重秀殿は戦が好きなのでは?」

 

「確かに戦は好きじゃ・・・戦が来ると血が滾るのを感じるが、それと同時に民の事を考えてしまうのじゃ」

 

「民の事? 戦に犠牲はつき物です」

 

「若いときは確かにわしもそう考えておった。じゃが気付いたのだ、戦は戦を呼ぶ。戦が起これば民が疲弊し国が衰える。わしはそんな事でこの長津の地を滅ぼしたくないのだ」

 

「重秀殿・・・・」

 

 重秀が手を強く握り締めると、永重達も思うところがあるのか黙り込んだ。

 その空気を打ち破り重勝が反発する。

 

「兄上は長津の地を滅ぼすおつもりですか?」

 

「何を言うのだ重勝。皆が戦をしなければ平和になるではないか」

 

「その惰弱な考え方が国を滅ぼすのです! 現に浅井朝倉連合軍がすぐそこまで来ております! このままでは長津の地に大量の血が流れまするぞっ!?」

 

「・・・わしが長津を守らぬと何時言った?」

 

 重秀の顔つきが変わる。その顔つきは戦場のそれだった、広間の空気がしんとなった。

 重秀の威圧感に押されて重勝も怯む。

 

「いえ・・・そういうわけでは」

 

「確かに戦は避けなければならぬ。じゃが、奴らが攻めてくるなら話は別じゃ。その身にたっぷりと長門家の槍の味を味合わせてくれるわっ!!」

 

 重秀がいきり立つと永重達や重臣達もおぉ!!と歓声を挙げて立ち上がった。

 こうして長門家対浅井、朝倉連合軍の戦が始まったのである。

 

 

 

 昌秀が今回の戦で命じられたのは霧生城、津川城の防衛であった。

 戦に出向いたのは重秀殿と重勝、義重の三人と宮部継潤含む重臣一同である。

 正直な所戦に出なくて良かったと胸を撫で下ろす昌秀。

 

「昌秀様は此度の戦はどう見ます?」

 

「そうだなぁ・・・連合軍は己の欲にしか目が行かぬ烏合の衆、恐らく重秀殿が勝つだろうな」

 

「しかし、連合軍は一万を超える軍勢ですよ? それに対してお味方は我等の兵を入れて五千程度、倍の兵力です・・・野戦では勝ち目は無いと思いますが」

 

「前の戦と一緒さ、兵が倍もいるんだ。自然と気が緩んでくると思うぜ? そこを重秀殿は狙っているのだろうが・・・」

 

 且元は成る程!と手をポンと叩くと、お茶を淹れる為何処かに行ってしまった。

 昌秀は広間から見える霧生の地を見ながら思う。

 

(嫌な予感がする。何も起こらなければいいが・・・・)

 

 高虎は昌秀を見つけると新しく増えた領地の事を報告に来た。

 

「殿、先の切り取った領地の事なのですが・・・」

 

「あぁ、どうだ民心の方は?」

 

「それが比較的友好的です。重秀様の人徳が行き届いているのでしょう」

 

「そうか・・・すごいなあの人は」

 

「殿? どうかしたのですか?」

 

「いや、何でもない・・・」

 

 高虎は首を傾げると仕事が山積みだったと駆け足で広間から出て行った。

 昌秀はそれを見送って再び外の景色を眺めた。

 すると見覚えのある人物を見かける。

 

「ん・・・? あれは・・・」

 

 よく目を凝らしてみると長秀と良晴だった。

 すっかり長秀の事を忘れてたと昌秀は急いで出迎える為に外へと向かった。

 

 

 昌秀は予想だにしなかっただろう、自分の嫌な予感が最悪の形で当たるとは・・・・

 


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