戦国生活日記   作:武士道

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昌秀 織田の窮地を救う

 三人が戦場に着くと良晴が守っている砦は陥落寸前の状態であった。

 櫓の上では良晴が必死になって味方を鼓舞している。

 

「・・・この状況は零点です」

 

「確かにな・・・しかしここで織田がやられては俺達が困る事になる。高虎! お前はここで良晴達を援護しろ。そしてこう言いながら闘え。美濃三人衆の稲葉と氏家が敵に寝返ったとな」

 

「成る程、分かりました」

 

 高虎は頷くと大太刀を肩に担ぎながら敵の懐に向かった。

 この虚報を流せば敵は少なからず動揺するだろう。しかし・・・

 俺は派手に燃えている鉱山の方角を見る。

 煙が大量に出ており、織田信奈が生きているとは考えられなかった。

 俺は首を振ってそれを否定する。

 

(あの女が本当に織田信長の代わりだとするなら・・・こんな所で終わるわけが無い筈だ)

 

 そうだそうに決まっていると自分に言い聞かせながら長秀を見る。

 長秀は顔を青ざめさせると長刀を構え、すぐに馬を駆って敵陣に飛び込もうとした。

 俺はすぐに長秀の傍に馬を走らせ長秀の馬をどぉどぉと止めた。

 

「ばっ・・・何してんだお前っ!?」

 

「姫様が危険な目にあっているのですよ!? じっとしていられる訳無いでしょうっ!?」

 

「それでお前が死んだら俺が困るんだよっ! しっかりしろっ丹羽長秀! 俺の知ってる丹羽長秀は、戦場でそんなに感情的にはならない筈だぞっ!」

 

 長秀は『くっ・・・』と言うと大人しくなり、ギュッと握る手綱を握る手を緩めた。

 俺は溜め息を吐いて長秀の肩に手を置いた。

 

「な、何ですか・・・?」

 

「お前の主君をお前が信じてやらなくてどうする? ちゃんとした確信が出てくるまで諦めては駄目だ」

 

「・・・そうですね。昌秀の言うとおりです。私が姫様の事を信じないと・・・」

 

 俺達がそう言っている間にも戦は続いている。

 まぁ高虎が入ってから敵陣は混乱しているようだが・・・

 俺は戦場を見渡すと敵陣に僅かな隙間が出来ている事に気付いた。

 

「長秀、あの敵陣の隙間が見えるか?」

 

「いえ、私には・・・」

 

「そうか、ならお前は俺の後ろを只ついて来ればいい。いいか? よし行くぞ!!」

 

「ま、昌秀っ!?」

 

 二人の馬が戦場を駆ける、長秀は俺の言うとおりに後ろをピッタリとついて来ていた。

 斎藤家の旗を掲げているからばれないと思っていたが、途中敵将らしき人物が俺らの行く手を遮った。

 

「待てっ! お主ら何処に行く気じゃ! 敵を目にして逃げる気かっ!?」

 

「俺の邪魔を・・・するなっ!!」

 

「がっ――――――」

 

 馬同士が交差した一瞬で俺の十文字槍が敵将らしき人物の首を刎ねた。

 飛んできた首を目にして周りの敵の兵は『ひえぇぇ! 味方が寝返ったぞぉ!』と叫びながら逃亡した。

 動揺は伝染し、高虎の虚報と俺の動きが敵兵の疑念を確信に変えた。

 斎藤方は大混乱に陥った。良晴達も息を吹き返して反撃を開始し始めた。

 長秀は昌秀の後姿を眺めながら聞いた。

 

「昌秀、何故そこまで・・・織田が負けても長門は痛くも痒くも無いはず。それなのに何故、織田に力を貸すのですか?」

 

「・・・お前が勝手に戦場に死にに行ったからだよっ!!」

 

「私が死んでも昌秀には害は無いでしょう?」

 

「・・・・俺の気まぐれだよ! これは長門家としてではなくて、昌秀個人の独断でやった事だ!」

 

 長秀はそれを聞くとふふふと微笑みながら『分かりました。感謝します昌秀』と感謝の意を伝えた。

 昌秀は槍を構えなおすと『調子狂うなぁ』と呟く、気がつくともうすぐ敵陣を突っ切る所だった。

 敵陣を無事に抜いて、しばらく進むと織田の旗が翻っていた。

 先頭を行くのはもちろん織田信奈である。

 

「姫様っ! ・・・ご無事で何よりです。九十四点」

 

「万千代!? どうしてここに!?って、あんたは長門の・・・」

 

「昌秀にはここに来るまで協力していただきました。それより、墨俣をご覧ください」

 

「そ、そうよっ! サルは! サルはどうなったの?」

 

 信奈は馬を走らせ墨俣を見る。

 敵が壊乱状態になりそれを良晴の残党がちまちまと追撃していた。

 それを見て信奈はほっとすると、すぐに全部隊に横から義龍の陣へ突撃を命令した。

 勝家は意気揚々と『お任せをっ!』と言うと全部隊を率いて向かった。

 俺はその中に斎藤家の旗を確認する。

 

「あれは・・・?」

 

「あぁ、あれは美濃三人衆よ。ついさっき私達の仲間になったの」

 

「昌秀の虚言が当たりましたね八十点」

 

「まさか本当に裏切るとは・・・」

 

 そうだそういえば美濃三人衆は織田に帰順するんだった・・・

 俺はすっかり忘れてたと手を額に当てる。

 信奈は満足そうに頷くと俺に視線を移した。

 

「それでよく敵陣の中を突破できたわね。しかもこの敵の大混乱は何? そういえば貴方護衛はいないの?」

 

「質問は一個にしてくれ・・・」

 

「何よっ! 私が聞いてあげてるんだから素直に言いなさいよっ! 何よ、何なのよ貴方はっ!」

 

(・・・よく良晴はこんな奴に仕えているな。感服するよ・・・)

 

 俺は心底そう思いながらハァと溜め息を吐くと、信奈は『今度は溜め息っ!? 織田家の当主の前で溜め息ッ!?』とギャアギャアと騒ぐ。

 俺が耳を両手で塞ぐと、長秀が『まぁまぁ姫様、落ち着いてください』と信奈をなだめた。

 その後、長秀が一部始終を信奈に説明すると信奈は所々に驚きながらも納得したようだった。

 そして義龍は捕らえられ美濃は織田家の物となったのである。

 

 

 義龍の処遇で広間が騒がしいなと思いながら俺は高虎と城内を見物していた。

 もしこの城を落とす事になった時のためである。保険は多いに越したことはない。

 一通り見終えると、義龍と廊下ですれ違った。

 

「・・・覚えておれ昌秀。この恨みは必ず忘れんぞ」

 

「ふん・・・勝手にしろ。次も軽く騙してやるよ」

 

 義龍は苦虫を噛んだような顔をすると、そそくさとその場を去って行った。

 高虎は『大丈夫でしょうか・・・?』と心配そうに聞いてくる。

 俺は遠ざかっていく義龍を見ながら思う。

 

(信奈は義龍を許したんだな・・・てっきり殺すかと思っていたが。あの男は生かすとは、存外信奈も甘いのかもしれんな。しかし、義龍が気になる。俺の杞憂であってくれればいいが・・・)

 

 いや、今考えるのはよそう・・・と俺は広間へと足を運んだ。

 

 

 

「信奈殿、此度の御戦勝お祝い申し上げる」

 

「・・・その言葉、素直に受け取っておくわ。それで万千代が言ってたんだけど、貴方達かなり活躍したみたいじゃない?」

 

「いえ・・・活躍と言えるほどでは――――――――」

 

「謙遜しないのっ! 正直私だって長門の手を借りたくは無かったけど、今回に限っては貴方に感謝するわ。そこで褒美をあげようと思うのだけど・・・どうかしら?」

 

「褒美ねぇ・・・」

 

 『早く言いなさい!』と信奈は迫るが、昌秀は比較的ゆっくりと考えていた。

 信奈はそれを見ると良晴に耳打ちする。

 

「ねぇ、あんたの友人って何時もこんな調子なの?」

 

「う~ん、本当はもう少ししっかりしてる奴なんだけど・・・何か変なモンでも食ったのかな?」

 

 織田家の全員がジッと昌秀に注目する。

 昌秀は『おぉそうだ!』と手をポンと叩くとニコリと笑いながら言った。

 

「それでは・・・」

 

 その場の全員がゴクリと唾を飲み込んだ。

 すると昌秀は全員が予想だにしないことを口にした。

 

「確か、尾張はういろう・・・と言う物が名物なんでしたっけ? いやぁ実は先日尾張に来た時は食べ損ねてしまいまして、一度食べてみたいと思うのですが・・・どうでしょう?」

 

「・・・もしかして昌秀、それはういろうを食べさせてくれと言っているのか?」

 

「当たり前だろ。無論それだけじゃないぜ。他に名物があったらそれも食べてみたいね」

 

「と、殿・・・一体何を・・・」

 

 その場にいる全員が固まる。一緒にいる高虎もまた、驚愕しながら昌秀を見た。

 そんな中、唯一長秀だけがクスクスと楽しそうに笑っていた。

 

「ま、万千代? どうかしたの?」

 

「い、いえ姫様。昌秀らしいなと思っただけです」

 

「すげぇ、長秀さんがあんなに笑っているとこ始めて見たぞ。確かあの二人尾張にいる時も仲が良さそうだったな。もしかしてあの二人・・・」

 

「な、何だよ? どうしたんだサル、変な顔して・・・・?」

 

 良晴が勝家のポカンとしている顔を見ながら『そういう事か・・・』と嫌な笑みをしながら言うと、勝家は『な、何だよ。どうしたんだサル?』と勝家がしつこく聞くと良晴は勝家の耳元でささやいた。

 

「もしかして長秀さんって昌秀の事好きなのかな?」

 

 良晴の言葉に勝家は顔を赤らませると、良晴の胸ぐらを掴みながら言った。

 

「な、なななな何を言い出すんだサルっ!? 長秀があんな奴の事が好きなわけ無いだろっ!?」

 

「しぃ! 声が大きいって勝家っ!? 他の奴らに聞こえちゃうぞ!」

 

 勝家は『ス、スマン・・・』と気持ちを落ち着かせる。

 良晴は拳を握り締めながら『あの野郎、俺全然興味ないよ的な顔してたくせに・・・』と黒いオーラが全身から出ていた。

 

 


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