戦国生活日記   作:武士道

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昌秀 良晴の家へと向かう

 城下町のはずれに少しボロそうな長屋が並んでいる、どうやらここが良晴が住んでいる所らしい。 あの後、良晴が追いついてきて不満の声を俺に浴びせたが俺がはいはいと軽く流すと、溜め息をついてすぐに諦めた。

 俺は長屋が並んでいる光景を少し眺めると、長秀に視線を移した。

 長秀は何時もどおりの穏やかな表情をしているが、何故か少しションボリしているように見えた。

 俺は長秀の先程の言葉が気になった。

 

『・・・・・騙すのはお好きですか?』

 

 正直に答えるのならばどちらでもないが正しい答えだろう。

 しかし、俺が騙すのを好きでも嫌いでも長秀には関係ない筈である。

 それこそ余計なお世話なわけで、無論俺は極力、他人の事に余計な口出しはしないことにしている。

 俺があれこれ考えている内に良晴が目の前で急に止まった。

 俺は思い切り良晴にぶつかりはっとした。

 

「おい昌秀大丈夫か?」

 

「あ、あぁ・・・悪い。よそ見してた」

 

「そうか、ならいいんだけど。それより着いたぜ」

 

「ここが・・・」

 

 俺は良晴の家を見る。

 今にも崩れそうなオンボロ長屋で、俺が履物を脱いで床に足をつけるとメシと嫌な音を立てた。

 俺は可哀想な者を見る目で良晴を見る。

 

「良晴・・・お前、もしかして嫌われてんのか?」

 

「お前なら言うと思ってたが、違うぞ。これは全部信奈が給料をケチるせいなんだよ」

 

「信奈って・・・まぁいいや。それより、あそこにいる子供は誰だ?」

 

 俺が指差す方向には、庭で柄杓を振り回している桃色の着物を着た子供が居た。

 

「あぁ、あれは――――――――――」

 

「兄様、帰られたのですな! おや、そちらの方は兄様の友達ですかな?」

 

 兄様とその子供が言った瞬間、俺はその場で硬直した。

 良晴は慌てて弁明する。

 

「ま、昌秀っ! これは違うぞ! 誤解だからな!」

 

「いやいや・・・これは誤解もクソも無いだろう。まさかお前がこの時代に来てからロリコンになっちまうとはな・・・俺は何も見てないし聞かなかった。それでいいだろう? 良晴」

 

「だから違うんだって! 長秀さん、何とか言ってください!」

 

「昌秀、この子は姫様が桶狭間の報酬として用意した義妹です。とても相良殿に懐いているのですよ」

 

「懐っ・・・お前と言う奴は・・・しかも戦の報酬で義妹とは、恐ろしいな良晴」

 

「だから違うんだって! 長秀さんも誤解を生む言い方をしないでください!」

 

 その後良晴の必死の説得により何とか誤解は解け、良晴の家で楽しく談笑した。

 俺は何故かうこぎ汁とか言う物をご馳走になり(まぁ美味かったのだが)、二人で将棋を作り遊んだ。

 長秀はその光景を見ながら微笑んでいた。

 

 

 

 夕方の帰り道、俺と長秀が歩いていると空模様が怪しくなってきた。

  

「おっ・・・雨降りそうだな。ちょっと急ぐか?」

 

「えぇ、そうしましょう」

 

 俺らが急いでいると、雨が勢いよく降り注いできた。

 城下の人たちも慌しく家へと入る。

 急いでいると長秀が急に足を止めた。

 

「どうした、疲れたのか?」

 

「こんな時に鼻緒が切れるとは二十点です」

 

 長秀は千切れた鼻緒を気にしながら、それでも歩こうとする。

 俺は見かねてはぁと溜め息をついて長秀の前でかがんだ。

 

「な、何を・・・・?」

 

「何をっておんぶに決まってんだろ。ほらさっさとしろ。仲良く風邪ひいちまうぞ」

 

 長秀は『それでは・・・』と渋々、俺の背中に体を預けた。

 俺はちょっと待てと、自分が着ていた上着を長秀へかぶせる。

 

「これでは貴方が風邪をひいてしまいます。早く着てください」

 

「俺はお前に風邪をひかれる方が困るんだよ。お前の提案は十三点」

 

「私の真似ですか・・・零点です」

 

 長秀は俺の上着を被ると、ムスッとした表情になった。

 俺は小声でボソッと呟く。

 

「まったく、お前見たいな奴がご先祖様とはな・・・」

 

「何か言いましたか昌秀?」

 

「何でもないよ」

 

 俺は長秀を担ぎながら屋敷へと走り出した。

 屋敷に着く頃には俺は全身ずぶ濡れで、そのまま屋敷へは入れる状態ではなかった。

 俺は長秀を玄関の前で下ろし、濡れた衣服を気にしながら長秀を見る。

 長秀は濡れた髪を気にしていたが、他は大丈夫なようで安心した。

 長秀は微笑みながら俺を見つめた。

 

「昌秀、礼を言います」

 

「礼なんて要らないさ。目の前で女が困っていたら助けるに決まってるだろ」

 

 俺がそう言うと長秀は俺の顔を見ながらふふふと微笑んだ。

 その可愛らしい笑みに俺は不覚にも少し照れてしまった。

 俺は返してもらった上着を絞りながら、長秀の視線が気になるのでじっと見かえす。

 

「・・・何だよ?」

 

「ふふっ、何でもありません♪」

 

 長秀はそう言うと屋敷の者に風呂の用意をさせて、早々と行ってしまった。

 俺の気のせいかもしれないが、その時の長秀は少し嬉しそうな表情をしていた様な気がした・・・

 


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