俺が目を覚ますと、見慣れた天井が目に入った。
どうやら気絶していたらしい・・・何故か気絶する前の事を思い出せないのは何故だろうか?
なにやら体のあちこちに包帯が巻かれている。俺は何処かで怪我をしたらしい。
俺が横になりながら目を瞑り考えていると、部屋の襖がゆっくりと開かれた。
「・・・長秀か」
「目が覚めましたか? 昌秀」
「あぁ、おかげさまで。それより気絶する前からの出来事が思い出せないんだが・・・何か知らないか?」
俺が体を起こして訊くと、長秀は『私が訊きたい位ですよ』と首を傾げて手に持っていた包帯を床に置き、自分も座った。
「恐らく、そこらで転んだんでしょう。まったく、長門家の謀神ともあろう者が三十点です」
「転んだ・・・か。でも転んだにしては凄い怪我だよな。 まるで、誰かに斬られそうになったよう―――――――――――」
「まぁ、助かったのですから良しとしましょう・・・ね?」
「あ、あぁ・・・そうだな」
長秀のあまりの剣幕に俺は渋々納得する。
長秀は俺が怪我人だからと朝食を持ってくるため部屋から退出した。
その時、長秀が部屋を出る瞬間、不適な笑みをこぼしたのは気のせいだろうか・・・?
長秀が中々来ないので朝食の準備が手間取っているのかと思い、俺は手伝いに行くかと体を起こした。ふとその時、押入れの隙間に何やら光る物が俺の視界に入った。
俺は何だ・・・?と思いながらも、押入れの取っ手に手をかける。
(何故だろう・・・? 今、俺の本能が猛烈に開けるな!と叫んでいるような・・・)
「・・・気のせいだよな。そうだよ、気のせいに決まってる」
俺は『何だ気のせいか~まったく脅かすなよな~』と言いながらも、戦に行くときのような面持ちで押入れを眺める・・・そして、『せい!』と言う掛け声と共に押入れが開かれた。
そこには、一本の長刀と・・・恐らく誰かに千切られたのであろう沢山の縄があった。
その瞬間、俺はすべてを思い出す。長秀が笑顔で、長刀を振りかざして追ってくるのや縄をさながらカウボーイの如く操っている長秀の姿を・・・
俺がすべてを思い出すと廊下から足音が聞こえた、俺はすぐさま布団に潜り込む。
すると長秀は笑顔で襖を開けた。
「昌秀? 朝食を持ってきましたよ・・・って何をしているのですか?」
「いや・・・お前に対する見識を改める必要があるなと考えていただけだ」
「??? 一体何を―――――――――」
長秀は首を傾げながら、無表情で押入れの方へと目をやった。
長秀は無言で押入れの前へと足を運び、そしてゆっくりと押入れを閉めた。
「昌秀・・・」
「はい」
「私も昨日は流石にやり過ぎました。と言うことで昨日の事はお互い忘れましょう。」
「そうだな・・・それがいい」
「良い判断です。九十点」
長秀はそう言いながら朝食へと視線を戻す。
「朝食が冷めてしまいますね。さぁ食べましょうか?」
「何だ、長秀も食べてないのか?」
「えぇ、私は公務があったので・・・」
「へぇ・・・」
俺はそう言いながら長秀の手へと目をやると手が赤くなっていた。
俺は枕の横に氷水が置かれているのを確認すると笑いながら話しかけた。
「長秀、ありがとうな」
「な、何です・・・急に礼など言って」
「看病してくれたんじゃないのか?」
「わ、私ではありません。私の側近がやってくれたのです。勘違いしないでください」
「それでも礼は言う。ありがとう」
長秀は『うっ・・・』と顔を赤らませると、『・・・零点です』と小声で呟いた。
「何か言ったか?」
「何でもありません!」
俺は出されたお粥を食べてから聞くと、長秀は不機嫌そうに答えご飯を口に運んだ。
俺は『何だよ・・・』と呟きながら、襖の隙間から見える外の景色を眺めた。
長秀はそんなに大した怪我では無いので、俺の陣へは明日出発するという事だった。
と言うことで、現在俺こと長門昌秀はすごく退屈している。
体の方も動けないという事は無いので、外に出てみるかと着替えて部屋を後にした。
「昌秀? 何処に行くのです?」
「あぁ、退屈なんで城下町でも見て回ろうかと思ってな」
「ならば私も同行しましょう。監視してないと何をするか分かりませんからね」
「・・・勝手にしろ」
「えぇ♪ そうさせてもらいますね。」
俺はそんな訳で長秀を連れて城下町へと向かった。
城下町へと着くと、人々が笑いながら今日と言う日を謳歌していた。
こんな時代でもこんな笑顔が出来るのか・・・と思いながら歩いていると、後ろの長秀が笑いながら話しかけてきた。
「どうです? 小牧山城の城下町は」
「・・・まぁまぁだな」
「本当は?」
「俺の城下町より凄い賑わいだ・・・」
俺の本音を直ぐに見抜いてしまう長秀・・・もしやこいつは俺と性格が似ているのではないかと俺は思った。
そんな長秀は何かを見つけて俺の肩に手をかける。
「何だよ・・・」
「昌秀、お団子でも食べていきますか?」
長秀の指差した先には確かに団子屋の旗が立っており、中々の繁盛振りであった。
「いやいいよ。腹へってないし・・・」
「食べますよね?」
「食べさせて頂きます」
「ふふっ♪ 素直でよろしい八十点」
監視している者と監視されている者・・・そんな関係の俺らが一緒に団子屋へと入る光景はかなりシュールであった。
団子屋へ入ると、意外な人物と出会った。
「げっ・・・良晴」
「おっ昌秀じゃねぇか。お前も暇な奴だなぁ・・・一人で団子食べに来たのか?」
良晴はそう言いながら長秀の姿を確認すると、目の色を変えて俺の首を掴んだ。
「お、お前・・・まさか長秀さんに手を出すつもりじゃないだろうな?」
「く、苦しい・・・放せ馬鹿」
良晴が『あ、悪い・・・』と手を放すと、俺は咳き込みながらこの野郎とにらみつけた。
長秀が心配そうに眺めるが、俺が心配ないと言いながら手を振ると安心した表情をした。
団子を食べ終わり一服すると、良晴が茶を啜りながら話しかける。
「昌秀、良かったら家に来ないか? 久しぶりに遊ぼうぜ」
「・・・そうだな。今日は俺も暇だしな。と言うことで長秀は帰っていいぞ」
「帰るわけ無いでしょう。あなたを監視するのが私の役目なのですから、私もついていきますよ」
「長秀さんも俺の家に来てくれるんですか? ・・・よくやったぞ昌秀」
「何でこいつは嬉しそうなんだ・・・?」
「私にも分かりかねます。三点」
俺が席をたつと長秀もそれに続いて、さっさと団子屋を後にした。
「お、おい待て昌秀! お前、俺の家の場所知らねえだろ!」
良晴は直ぐに後を追おうとすると、店の人に肩を掴まれる。
「お客さん・・・お勘定は?」
「・・・・はい?」
俺らが歩いていると後方から、良晴の恨みの声が聞こえた。
俺がそれを聞いてふっと笑っていると、後ろから長秀が尋ねる。
「・・・騙すのはお好きですか?」
「――――――――どういう意味だ?」
「いえ・・・何でもありません」
時刻は昼過ぎ、俺が空を見上げると綿菓子のようなウロコ雲が空を気持ち良さそうに流れていた。