戦国生活日記   作:武士道

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昌秀 鬼柴田と槍を交える

 昌秀が稲葉山城を預かるという名目で奪取してから数日後、義龍が稲葉山城の返還を要求しに家臣を連れて訪れた。

 

「昌秀殿、よく城を守ってくれた。早速城を返して頂きたい」

 

「えぇ、そのつもりです。それでは我らはまた墨俣辺りに陣を張っておりまする」

 

「あぁ、兵糧や武具はこちらから支給させてもらう。供に織田を倒そうぞ!」

 

「ははは、そうですね」

 

 二人は供に軽く笑って見せていたが、後ろにいる家臣達は笑わず真剣な顔で二人の会話を聞いていた。

 昌秀が『それではこれにて』と立ち去ろうとした所、義龍が『最後にもう1つだけ』と声をかけた。

 

「・・・何か?」

 

「そなた、何ゆえ稲葉山城を取らなかった? そうすれば、長門家の所領は一気に増えると言うのに・・・」

 

「ははは、稲葉山城を取るなんてそんな大層な野望は持ってませんよ。流石はマムシの道三のご子息ですな、いやはや考える事が違う」

 

 そう言って昌秀は義龍の前を立ち去った。

 義龍は昌秀が行ったのを確認すると、持っていた扇子を床に投げつけた。それを見た家臣一同は肩をビクッと震わせた。

 

 (おのれ・・・一体何を考えているのだあの者は。最初に会った時からあ奴の目は気に入らんかったが、今理由がわかった。似ているのだ・・・親父殿とあやつが)

 

 義龍は怒りで荒れた呼吸を落ち着かせて、美濃を見渡せる天守に登った。

 稲葉山城の天守からは、美濃を一望する事が出来る。見える景色の中で、昌秀が陣を張ると言っていた墨俣周辺も一望出来た。

 墨俣の地は複数の川の合流地点となっており、そこに城を築かれれば稲葉山城は危険な状態になる。

 しかし、後ろに長良川という川が通っているため、築城部隊は川に足をとられながら渡らねばいけなかった。

 無論、義龍も馬鹿ではない。築城部隊を確認すれば、すぐに軍勢を派遣する。故に墨俣の地は、死地とされてきた。

 その墨俣の地の近くに、昌秀が陣を張ったので墨俣の地に築城をする事は不可能である。

 自分の勝利を確信した義龍は墨俣の地を眺めながら、クククと笑い始めた。

 

 

 

 

 昌秀は墨俣の地に帰る途中、城下に良晴達の人相書きを見つけた。

 笑いながら手にとると、高虎が『殿、何かおかしい事でも?』とたずねた。

 

「いや、変わらない友を見ると思わずな・・・」

 

「はぁ・・・」

 

「ま、俺の独り言だと思って気にしないでくれ」

 

「承知しました」

 

 墨俣の地に戻ると早速陣を作らせ、自分は木に登り墨俣の地を眺めた。

 

(良晴はすでに尾張に戻っただろう。となると、今夜辺りでも築城部隊が来るかもしれんな)

 

 そう考えると、俺は今夜に向けて部隊を早めに休ませた。

 

 

 

 その日の晩、確率は低いと思ったが案の定、織田の兵が墨俣の地に築城を始めた。

 その軍勢を見ると且元が『昌秀様、好機です。奇襲をかけましょう』と指を指しながら呟いた。

 

「・・・率いているのは誰だ?」

 

「殿、恐らく敵の大将は柴田勝家かと存じます」

 

「鬼柴田か・・・あまり戦はしたくないが」

 

 仕方がないと膝に手をついて立ち上がる、それに続いて且元達も勢い良く立ち上がった。

 俺は馬にまたがり槍を構えると、クルリと槍をまわした。

 且元と高虎は陣へ残し、俺は少数を率いて出陣の用意をした。

 

「やるか・・・皆の者、突撃せよ!!」

 

「「おおぉおぉぉぉぉおおお!!」」

 

 長門勢は鬨の声を上げて、織田勢へと向かった。

 勝家らしき人物は、味方を鼓舞して闘ってはいるが織田の兵は奇襲に驚いて逃げていった。

 

「あいつが柴田勝家か・・・どれ、一度手合わせをお願いしようか」

 

「あっ昌秀様!?」

 

 馬を勝家らしき人物へと走らせる。

 川を馬は強引に渡り、陸にあがると真っ先に勝家らしき人物へと向かった。

 

「柴田勝家殿とお見受けいたす! 某、長門昌秀と申す者。ぜひ、槍合わせをお願いしたい!」

 

「へぇ、あたしと闘おうなんていい度胸してるじゃないか!!」

 

「ちっ、勝家も女なのかよ」

 

「ん? 何か言ったかお前?」

 

「いや、なんでもない」

 

 俺はハァと溜め息を吐くと、すぐに槍を構え勝家に突撃した。

 馬上から思い切り十文字槍を振り下ろすと、勝家は槍を横にして防ぐ。

 そして、『ハァ!』と言う掛け声とともに俺の槍を弾いた。

 

「うおっ!? お前、本当に女かっ!? もしや男だったりして―――――――」

 

 俺が彼女の予想外の怪力に驚いていると、彼女は顔を赤らませながら俺の頭より高く跳び、槍を振り下ろしながら言った。

 

「あたしは女だぁ!!」

 

「ぐっ・・・」

 

 かろうじて槍で防いで持ちこたえるが、あまりの怪力に押し込まれそうになる。

 そしてとうとう馬が限界に達し横に倒れた、俺は勝家の怪力で吹き飛ばされるとその場は土埃に包まれた。

 

「くぅ・・・痛ってぇ。何だよあの馬鹿力」

 

「これで終わりだ!」

 

 勝家は昌秀を見つけると止めの一撃を全身全霊の力を込めて槍を振るうが、何かに足が引っかかり体制を崩した。

 前のめりに倒れ、『一体何が・・・』と呟きながら足を見ると馬の手綱が足に引っかかっていた。

 

「何時の間に・・・」

 

「さっき土埃があがった時に、巻きつけておいたんだよ」

 

「貴様っ! あっ・・・」

 

 倒れながらも槍を振るおうとするが、昌秀の槍に弾かれ三メートル程はなれた所へと刺さった。

 昌秀は勝家の目の前で腰を下ろすと、笑いながら声をかけた。

 

「いやぁ、あんなに強いとは予想外だったよ。瓶割り柴田の名は伊達じゃないってか?」

 

「・・・お前、長門昌秀って言ったな。猿の友達なんだって?」

 

「猿? あぁ良晴の事か。確かに友達だが、そんな事より・・・」

 

 昌秀が手を挙げると、三つ蜻蛉の旗を掲げた数人がその場を囲んだ。

 

「あたしを捕らえるつもりか。くっ、こんな姿姫様に見せられない! 今ここで――――――――」

 

「この馬鹿・・・」

 

 咄嗟に勝家の首を打つと、勝家はうぐ・・と気絶した。

 ・・・少し強く打ちすぎたかな。

 すると、一人の侍大将が歓喜しながら昌秀に言った。

 

「昌秀様、やりましたね! 柴田勝家を捕らえたとなれば、昌秀様の名も上がりましょう!」

 

 その侍大将に俺は馬鹿者!と一喝した。

 侍大将はビクッと肩を震わせ、『出過ぎた事を申しました』と陣へと引き上げていった。

 

「伝令!」

 

「はっ! ここに!」

 

「高虎達に伝えよ。俺はこれからこいつを尾張へ送り届けるとな。後、重秀殿たちや義龍には何とか上手くごまかしてくれって伝えてくれ」

 

 その言葉に伝令は思わず、『はっ・・?』と問いを聞き返す。

 昌秀は勝家の体をおぶると馬の手綱で自分へ縛りつけ、兵から別の馬を借りて乗ると自分の槍を家臣に渡し、代わりに勝家の槍を拾った。

 

「聞いてなかったのか? 俺はこれから尾張へ参ると申したのだ」

 

「昌秀様! それでは死ににいくようなものです! ご再考を!」

 

「それは俺の命令が聞けないって事か?」

 

「・・・分かり申した」

 

 伝令は渋々陣へと向かった。

 あぁ・・・これ間違いなく且元に説教されるだろうな。

 且元が鬼のように怒る姿が目に浮かんだ。

 

「・・・マジで怖ぇな。それにしても―――――――」

 

 後ろに抱えている勝家を見ながら思う。

 

(闘っていた時は気付かなかったけど、胸めちゃくちゃでけぇな・・・)

 

 いかんいかん、意識しては負けだな・・・

 そう心に言い聞かせながら、昌秀は尾張に向けて馬を走らせた。

 


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