戦国生活日記   作:武士道

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昌秀 旧友と再会する

 赤い旗におそらく団子と思われえる絵と甘味処と言う字が書かれ、赤い傘の下に木で出来た長い椅子を見ながら自分がタイムスリップした事を改めて確認する。

 この店は、元は京の都で営業していたらしいのだが相次ぐ戦乱のせいでこの美濃に流れ着いて現在に至る。何しろ、本場の京の茶を格安で味わえるのだから当然人気があった。

 店の人から出された緑の濃いお茶を見ながら、『おぉ、雰囲気でてるな』と言いながら団子を一口、口の中に入れた。

 団子の甘みと淹れたてのお茶の渋さが絶妙に合っていた。

 良晴は団子を満喫している俺を見ると、呆れ顔で言った。

 

「久しぶりに会ったと思ったら、案外順応早いなお前」

 

「それはお互い様だ。順応しなきゃ、この時代では生きてはいけないからな」

 

 串を口に銜えながら高虎と且元の団子の奪い合いを見る。

 

「昌秀は何時からこの時代に?」

 

「う~ん、大体一ヶ月とちょっと前かな」

 

「そうなのか? じゃあ、俺とあんまり変わらないな」

 

 良晴も食べ終わった団子の串を皿に戻すと、連れの女の子二人へと目線をやった。

 

「そういえば良晴、そいつら誰だ? それに今何してんの?」

 

「まぁ、いろいろあったんだけどさ・・・・」

 

 良晴はこれまでの事を大まかに説明する。

 自分が木下藤吉郎の代わりかもしれないという事、織田に仕官した事、姫武将の事などなど。俺がビックリする事をべらべらと話した。

 昌秀も今までの経緯を話す。

 互いに驚く事はたくさんあり、混乱したがとりあえず落ち着く事にした。

 

 

 

「まさか、光秀と利家も女になっているとは・・・一体何なんだよこの時代は」

 

「まぁ気持ちは分かるけどよ。とりあえず落ち着こうぜ?」

 

「あ、あぁ・・・」

 

 団子でも食べながら落ち着こうと手を伸ばすと、皿にあった筈の団子が消えていた。

『ん・・?』といい笑顔をしながら後ろを振り返ると、且元が口をもぐもぐと動かしていた。

 

「且元・・・お前俺の団子食ったろ?」

 

「失礼な! 何故主の団子を家臣である私が盗むのですか!」

 

「ほぉアクマでも白を切るか? ならせめて口についてるタレをとってから言え」

 

 『げっ!?』と言葉を濁す且元のでこにすかさずデコピンをかます。

 はぁと溜め息を吐くと良晴が気を使って、団子を差し出した。ここで受け取るとプライドが許せないので、無理して『いらない』と断った。

 

 

 

「成る程ねぇ・・・竹中半兵衛を調略に来たか」

 

「そういうお前は何しに来たんだよ」

 

 良晴は茶を啜りながら尋ねると、光秀も興味津々に話に入ってきた。

 

「そうです! 長門家の人が何しに美濃に来たんですか!」

 

「美濃に加勢に来たんだよ。義龍殿から援軍要請が来てな、重秀殿がそれを了承して俺が派遣されたわけだ」

 

「ってことは・・・俺達って敵同士か?」

 

 唖然とする良晴に茶を啜りながら『ま、そういう事だな』と冷たく返した。

 光秀はぶつぶつと後ろで、『長門昌秀って何処かで聞いた事があるような』と呟いていた。

 且元達が食べ終わるのを確認すると、『そろそろ行くか』と腰を上げた。

 不安そうに見る良晴を見て、ニカッと笑いながら『安心しろ。死にはしねぇから』と手をヒラヒラさせながら陣へと戻った。

 

 

 昌秀の姿が見えなくなった所で光秀が『あっ!?』と店に響く声を上げた。

 良晴が慌てて『どうした十兵衛ちゃん!?』と視線を光秀へと移す。

 

「あ、あれが・・・浅井勢と霧生賊を僅か8百の手勢で打ち破ったと言う長門家の謀神!?」

 

「昌秀ってそんなに有名なのかっ!?」

 

「当たり前です! 前の戦で浅井勢六千は壊滅ですよ!?」

 

 驚愕の顔が隠せない光秀は『何てことです!あんな奴が加勢に来てるなんて・・・』と嘆く。

 しかし良晴は最初こそ不安になったが、笑いながら昌秀が向かった方角を見た。

 

「あいつは絶対に俺らの敵にはならないさ」

 

「何で猿先輩はそんな事が言えるんですか!?」

 

「大丈夫だって、あいつは俺の友達だからな――――――――」

 

 

 

 

 

 (恐らく、長政も同じ魂胆だろうな・・・・)

 

 そう思いながら道中を歩いていると、二人は心配そうな顔をしながら先程買った鮎をほお張る。

 

「殿、これからどうするのです?」

 

「そうですよ。昌秀様の友人が織田にいるとなると、昌秀様も攻めにくくなるのでは?」

 

「いらん心配だ。あいつは簡単に死ぬ玉じゃないしな。とりあえずは泳がせとくさ・・・」

 

 陣に帰ると、俺はすぐに五人ほどを密偵として稲葉山城城下へと置いた。

 その翌日、密偵から稲葉山城から爆発音が聞こえたと一報が入る。

 

(良晴達め・・・動いたな)

 

 そう思った俺はすぐに軍勢を引き連れ稲葉山城へと向かった。

 稲葉山城へと着くと、城の中はもぬけの殻でどうした事だと辺りを確認すると、良晴達が目の前を走って来た。

 

「あっ!? 昌秀、何でこんな所に!?」

 

「よう、どうやら半兵衛殿が城を落としたようだな?」

 

 俺の問いに良晴が答える間もなく、光秀が『それより、貴方の後ろの軍勢は何ですか!?』と物凄い形相で問いかける。

 

「何って・・・俺は義龍殿が危険だと思って援軍に来ただけだ。何かおかしい事でも?」

 

「うっ、それは・・・」

 

「・・・本当の目的は何・・・?」

 

 虎の被り物被った犬千代が怪訝な表情をしながら問いかける。

 

「いや・・・どうやら義龍殿がいないようだし、この城は俺らが預かろうと思ってね」

 

「稲葉山城を横取りするつもりですか!?」

 

「おいおい光秀殿、あなた方は城を落としたにも関わらず逃げるのだろう? じゃあ、俺らが預かっても問題はないじゃないか」

 

「あくまで白を切りますか・・・・いいでしょう!」

 

 光秀が腰の刀に手をかけると且元達もそれぞれの武器に手をかけた。

 それを見て良晴がまぁまぁと光秀をなだめる。

 

「くっ・・・分かりました。今回は猿先輩に免じて、この城を預ける事にします」

 

「おう、信用してくれてありがとな」

 

「よくも抜けぬけと・・・・」

 

「まぁまぁ、信じて良いんだな?昌秀・・・」

 

 爽やかな笑顔で『あぁ・・・』と頷くと、良晴は視線を後ろの少女へと移して走り去っていった。

 俺は良晴におぶられている少女を見ながら、『もしかしてあれが竹中半兵衛?』と瞬きしながら見送った。

 


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