戦国生活日記   作:武士道

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昌秀 美濃へ向かう

 ある日、城で政務に励んでいると突然、重秀殿からの呼び出しがかかった。

 俺はすぐに津川城へ向かう為、馬を走らせた。

 

 津川城に到着し、重秀殿の部屋を訪ねると一門である重秀、重勝、永重、義重が重い表情で座って待っていた。

 どうやら重秀殿の斉藤家との同盟で悩んでいるらしい。

 

「父上が斉藤家と同盟を結ぶとは・・・と言う事は、織田と戦を始める気か」

 

「しかも斉藤家からはすでに援軍要請が来ているらしい・・・父上はこれにどう対応するのか」

 

「無論、すぐにでも援軍を出すに決まっておろう」

 

 重勝は当然だと言わんばかりに強い口調で言う。

 重い空気の中、昌秀が来た事に気付いた永重が待ってましたとばかりに問いかけた。

 

「おお、昌秀か。待っておったぞ、お主が今回の斉藤家の援軍要請をどう見る?」

 

「義理を重んじるのならば与するべきでしょうな」

 

「おぉ!流石は先の戦で大功を挙げた昌秀じゃ!やはり言う事が違う」

 

 重勝は期待通りの答えに、気分を良くし笑い始める。

 しかし昌秀は、『しかしながら・・・』と言葉を続けた。

 

「大局を見るのなら、今からでも織田に与するべきかと存知まする」

 

「何じゃと・・・!?」

 

 『そのような事はありえん!』と感情が昂ぶる重勝を永重、義重が『まぁまぁ』となだめる。

 当主である重秀は俺らの会話を目を瞑りながら聞いていた。そして、ゆっくりとまぶたを開けると穏やかな口調で尋ねる。

 

「昌秀、何故そう思う?」

 

「はい、織田は今川を破って三河の徳川と同盟し後顧の憂いを無くしました。今の織田軍は士気が盛んで勇将ぞろい。それに比べ斉藤家は道三殿のご子息が家督を奪いましたが、義龍殿は成る程、一軍の将としては優秀だと思いますが大名としては些か道三殿に劣ると存じます。さらに、義龍殿は傲慢でいらっしゃいます。あれでは家臣からの不満が溜まるのは必定かと・・・」

 

「ふむ、織田は斉藤に調略を仕掛けると申すか」

 

「はい、恐らくは軍師竹中半兵衛辺りかと・・・」

 

「成る程のう・・・」

 

 昌秀の答えに重秀は満足そう頷くと扇いでいた扇子を閉じた。

 重勝達は昌秀の言葉を唖然としながら聞いていた。

 その中、義重が恐る恐る尋ねる。

 

「昌秀、お主何時の間に他国の情報をそんなに・・・」

 

「霧生城に移った際、他国に間者を放っておりまする。当然、尾張や美濃、近江にも」

 

 義重は『何と・・・』と感嘆の声を上げると、永重達に視線をそらす。

 永重達も昌秀の戦略眼に驚きの声を上げた。

 しかし、重勝は頑として援軍要請を受けるべきだと主張する。

 

「兄上、我らは先代より斉藤家の支援のお陰でこれまでやって参りました。今こそ、斉藤家に恩を返すべきではござらぬか!」

 

「重勝よ。お主の言うことは正しい、が・・・大局を見よ。昌秀の言うとおり織田の士気は高く、奴らは大量の鉄砲を所有しておる。それに比べ我らは、六百丁程しかないのだぞ?」

 

「しかし、美濃三人衆は健在です。それに、鉄砲が何だと言うのです? そんな物、我等の騎馬隊の突撃を見たら蜘蛛の子を散らすが如く逃げてゆきます」

 

 重秀が『うむ・・・』と出兵を渋ると、重勝がもう一押しとばかりに言葉を続けた。

 

「兄上、斉藤家を見捨てれば長門家が周りからどう思われるとお思いか!」

 

「されど浅井はどうする? 我らが出兵がすれば、浅井がこの国を侵すとも限らんぞ?」

 

 昌秀を除く、四人が頭を抱えて悩みだす。俺はそれを見かねて口を挟んだ。

 

「恐れながら、重勝殿はどの程度の兵を援軍に出すおつもりか?」

 

「我等の兵力五千の内、三千をだすつもりじゃ」

 

 そんな事をすれば浅井が後方より攻めて来た時に対応できなくなる。出すとしても千程度で体面は守られる筈だ。恐らく、重勝殿はこの期に乗じて織田に復讐しようとしてるに違いない。

 重勝殿は五千とは言っているが、俺の持っている二千五百の兵は何故かカウントしていないらしい。

 すると義重が『そのような事をすれば浅井からの侵攻に耐えられませぬぞ』と助言してくれた。

 『さればどうするのじゃ!』と悩む重勝とう~んとずっと悩んでいる永重。

 重秀は悩みに悩んだすえ、俺に斉藤家救援の兵を出すようにと命令を下した。

 俺は渋りながらそれを了承し、早速軍備を整えるため城へと戻った。

 

 

 

 

 稲葉山城の城下は戦が近い事があってかどんよりとした空気に満ちていた。話を聞くと、織田がこの美濃へと向けて出陣したらしい。それで民が不安になっているのだった。

 俺は稲葉山城へと軍勢を連れて入城した。すると、図体のでかい人物が笑いながら近寄ってきた。

 

「おぉ、長門家からの増援か。待っておったぞ」

 

「斉藤義龍殿とお見受けいたす。自分は長門昌秀と申します。手勢二千を連れて加勢に参りました」

 

「うむ、大儀である。早速軍儀を始めたい、参るぞ」

 

 義龍は最低限の挨拶をした後、すぐに行ってしまった。

 その態度を見て、且元と高虎が呟く。

 

「何ですか、あの態度は! 私達が加勢に来てあげたって言うのに・・・」

 

「落ち着け且元。逆に噂どおりの人物で助かる」

 

「しかし、あの態度は殿を家臣扱いしているではありませんか! あの野郎、ここで斬り捨てて―――」

 

 背中に背負ってる大太刀に手をかける高虎に『やめい!』とチョップをかます。

 二人を諌めながら広間に向かうのは骨が折れた。軍儀の際でも、所々で嫌なオーラが感じてすごくヒヤヒヤした。

 軍儀を終えて俺らは稲葉山城を出て、墨俣の近くの山に陣を張り敵の様子を見た。

 

 

 翌日、且元と高虎を連れて城下町へと向かった。軍勢は且元の父である、直貞殿に任せた。

 城下町を見て回ると、どうやらお祭りらしく異様な賑わいを見せていた。

 先日のあのどんよりとした空気が嘘のような賑わいで、本当に戦があるのかと疑問に思うほどだった。そんな中、且元が無言で甘味処と書いてある店を凝視していた。

 

「何だ?腹減ったのか?」

 

「い、いえ・・・別に食べたいわけでは」

 

「そうか?それじゃあ、俺と高虎は食って来るからお前は他の所見て来いよ」

 

 素っ気なく言いながら二人で向かうと、それを後ろから『嘘です!本当はすごく食べたいです!!』と叫びながら且元が追いかける。

 途中、偉そうな三人組と見覚えのある男と女子二人が騒いでいた。

 何だ・・・?と思いながら近づくと、どうやら身分がどうたらで騒いでいるらしい。

 猿風情がどうたらこうたらだのと話しているのを見て、思わず猿と呼ばれている男に視線を向けた。

 

「・・・・良晴?」

 

「殿、あの者と知り合いなのですか?」

 

「そう言えば初めて会った時の昌秀様と似たような格好をしてますね」

 

 まさかこの時代に来ても高校の制服を着ているとは・・・目立つだろうに。

 俺は『あの馬鹿・・・』と毒づくと、彼らの騒ぎはヒートアップしていた。

 しかし、あいつはこんな所で何やってるんだ? それに後ろにいる女の子達は一体・・・

 そんな事を考えている間に、三人の内の一人が刀に手を当てた。それを確認すると咄嗟に男が刀に置いた手を捻り上げた。

 

「うっ!? な、何だ貴様!?」

 

「その家紋・・・貴様ら浅井の連中だな? 何故、この美濃にいる?」

 

「そういうお前は長門の者かっ!? 重秀殿が我らに通行の許可を出されたのだ。浅井との和睦を条件にな」

 

「そういう事か・・・」

 

「分かったらその手を離せ!もう良いだろう!」

 

「悪いがそういうわけにはいかないなぁ・・・」

 

 何だと?と聞く男は、そのまま訳も分からぬまま放り投げられた。もう一人の男も突然の出来事に目をパチクリさせる。男は遅く状況を理解すると、『おのれ!長門家風情が!』と刀を抜いて上段で振り下ろした。

 且元が危険を知らせるが、振り下ろされた筈の刀は途中で折れてしまっていた。少したつと、男の後ろに折れた刀身が地面に突き刺さる。突き刺さる刀身を見て、男は腰を抜かした。

 刀をしまうと、周りの見物人から歓声が上がった。俺は『どうもどうも』と歓声に応えると、視線を再び両チームに戻した。

 

「後はあんただけだが・・・どうする?」

 

「いえいえ、私はあなたと殺し合いをするつもりはありませんよ。長門昌秀殿?」

 

「俺を知ってるのか・・?」

 

「えぇ、貴方の戦ぶりを知らぬ者はいません。私は浅井長政と申します。以後、お見知りおきを」

 

 昌秀は間者が浅井の当主が変わったと言っていたのを思い出した。

 長政はニコリと笑うと、『それでは私達は用事がありますので』といって去ってしまった。

 俺はハァと癖になってしまった溜め息を吐くと、良晴の方に振り向いた。

 

「よう、久しぶりだな?良晴」

 

「お、お前・・・・昌秀か?」

 

 良晴は驚きの顔を隠せないようでその後ろからは、長髪で広いおでこの女の子が『猿人間の知り合いですか?』と良晴の方から顔を覗かせる。虎の被り物を頭に被った女の子は、『良晴・・・誰?』と鮎を食べながら尋ねた。

 良晴は『そうだ!自己紹介しなきゃな!」と手をポンと叩いて、俺らが行こうと思っていた甘味処へと意気揚々と向かった。後の二人もそれに続き、且元と高虎もついて行った。

 

 俺は変わらない友人を見て少し安堵しながら、浅井の当主が来た理由を考えていた。


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