カンピオーネ -魔王というより子悪魔-   作:雨後の筍

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エピローグです
前話と同時投稿しているので一つ前からお読みください
とりあえずオリジナル編はこれにて終了
次からは原作入りです
まぁとりあえずは帰ってきた束の間の日常をお楽しみください



さようなら、大いなる詩人

 まつろわぬオルペウスの脅威は去った。

 日本にはまたしばらくの平穏が訪れるだろう。

 ありがとう神殺し! ありがとう乾燐音!

 

「勝った! 第三部完!」

「そんなことにはなりません! もう! 真面目に聞いてください!」

 

 ならないらしい。

 彼女は顔を真っ赤にして怒っている。

 せっかく人が『まつろわぬ神』を倒して凱旋したというのに。

 血も涙もない。私だって頑張ったのさ! それが理解されないなんて……

 

「鬼! 悪魔! 夜叉女!」

「何とでも言ってください! それにその台詞はこっちのものです! いつから貴女は神殺しなんてものに……まさか、初めて会ったときから私を騙していたのですか!? 龍神の加護を受けたせいで、厄介ごとに巻き込まれやすくなったのだと、あの時はおっしゃっていたじゃないですか!」

「い、いやー、だってあそこで神殺しだってばれたら平穏なる私の日常が遠のくじゃん? それに龍神の加護を受けたのはほんとだよー、ちょっと呪いとか転生の秘術がくっついて来ただけで」

「そのちょっとが重要でしょう! あぁ、私があの光景を幻視したとき何を思ったのか……貴女には分かりますか!? 貴女が死んでしまうんじゃないかと本気で心配したのですよ! 加護を受けたといってもただの人間。『まつろわぬ神』に敵うはずがないじゃないですか!」

「まぁまぁ結果的には無事だったんだし、その辺で……」

「いいえ! だめです! 貴女が神殺しで最終的に勝てたのはわかりました。でも! それでもあそこまで、死ぬ間際まで追い詰められていたじゃないですか!」

「いや、それはオルペウスの力が私の想像以上だったからであって、それでも逆転する手札はまだいくつかあったし……」

「いいですか! 貴女は神殺しであるのかもしれません! それでも、乾燐音という私の大切なお友達なのですよ。それをこんなにずたぼろになってどろどろに汚れて、私は、私はぁ」

「わ、わ、わ、泣かないでよー、謝るからさ、ほら心配かけてごめんって、だから泣き止んでよー、もうこんな心配かけないようにするからさ。私が悪かったよ。」

「心配、したんですよ……ぐすっ……貴女がいなくなってしまうんじゃないかって……ほんとに……ほんとに……心配したんだからぁ」

 

 うわぁあああああああん、と彼女はそのまま盛大に泣き始めてしまった。

 正直予想できていたことではあったから、なんとか流してしまおうと思っていたんだけど……

 さすがにことが重過ぎてどうにもできなかった。

 まさか死に掛けたせいで権能のコントロールを手放す羽目になり、その上ちょうどいいタイミングでそこから霊視が降りるなんて。

 私のほうが泣きたいくらいだ。

 ばれてしまったからにはどうにかしないといけないから、対策は帰り際いくつか考えてきたわけだけど。

 そんなことより前に彼女を泣き止ませなければいけないようだ。

 しっかりしてるとはいえ彼女もまだ小学生。

 感情のコントロールもうまくいかなかったのだろう。

 いや、こればっかりは大の大人でも難しかったかもしれないが……

 はてさてこういうときはどうすればいいんだったか。

 とりあえず玄関先でいつまでも突っ立ってる必要はないだろう。

 まずは彼女の部屋にでも連れてって落ち着かせなければ。

 今日は長い一日になりそうだ、はぁ……

 

 

 

「すいません、取り乱しました」

「いやいや仕方ないんじゃないかな。私だって祐理が死に掛けてたらそんくらい慌てるもの。まぁ、今回は全般的に私に非があったわけだし……改めて謝るね、ごめん。心配かけて、大事なこと黙ってて、本当にごめん」

 

 これでも足りないんだろうな、とは思いつつも深々と頭を下げる。

 

「わわ、頭をお上げになってください! さっきは取り乱して暴言を吐いてしまいましたが貴女様は王なのですよ! 一介の小娘風情に頭をお下げになる必要などないのです! さ、先ほどの無礼も私だけで責任を取りますので! どうか家族だけは!」

 

 

 彼女はまだ混乱が抜けきってないのか敬語を使おうとして変な言葉を喋っている。

 これはこれで可愛らしい。

 しかし、彼女の中で私はどんな悪鬼羅刹となっているのだろうか。

 もしかして神殺しだとバレたから口封じでもすると思われているのだろうか?

 そうだったとしたらかなりショックだ…ここ3ヶ月でそこそこ以上に仲良くなれたと思っていたのは私だけだったのか。

 もしくは神殺しというのはやっぱり、その辺の事情すらすっ飛ばすほどの印象を与えるのかもしれない。

 とりあえず弁明弁明。

 

「私は祐理にどういう風に思われてるのかなぁ。祐理も言ってたじゃん、私たち友達だよー? そんな堅苦しい敬語いらないって。そもそもその敬語ところどころ怪しいし? ぷっ、変なのー」

「もうっ、気を遣った私が馬鹿でした! そうですね、燐音は燐音ですものね……ひとつだけ聞かせてください。貴女は平穏を求めているようですが、私にその存在を知られてしまってどうするおつもりなのですか? 口封じに私を消しますか? それともまた放浪の旅にでも出るおつもりですか?」

 

 やっぱり口封じとかすると思われてたのか……これは祐理じゃなくて私が泣くべき場面だよね。まぁこの程度じゃ泣かないけどさぁ。

 

「祐理達に黙ってもらっていてここに居座るっていうのはやっぱり迷惑……ってことかな? その言い方は。そういうことならまた放浪の旅に出るのも吝かではないけど」

「いえ、そういう意図があったわけではないのですが……神殺しの魔王という人々は侯爵くらい横暴なのが素の性質なのかと思いまして……燐音ももしかしたら、と思いまして」

 

 これで邪魔だと思われてたら今度こそ泣いたね。

 一寸の曇りもなく泣いたね。

 

「ここに居ていいって言うならまだ居たいなぁ。折角、祐理とひかりとも仲良くなれたことだしねぇ」

 

 きっと今の私はにへら、と笑っているのだろう。

 むしろここでその顔を繰り出せないようでは女が廃る!

 

「もう、仕方ない人ですね。このことは私の胸の奥に大事にしまっておくことにします。でも、とても大切なことなので両親とひかりには伝えさせてもらいますよ」

 

 彼女もようやく一息つけたようだ。

 私が無事でその上いつもどおり軽口を叩いてるんだから、そろそろ安堵の息をついてもらわないと私としても困るところだったからね。

 よきかなよきかな。

 さて、それでもうひとつの懸案事項についてなのだが……

 

「それで燐音、ずっと気になってはいたのですが……あなたの後ろにいるその可愛らしい娘は一体どなたなのですか? 貴女に懐いているようなので問題はないと思うのですが……その娘、神獣ですよね?」

「おー、祐理ナイスタイミングー、今ちょうどその話を切り出そうと思ってたところなんだよー。あ、あとご両親とひかりには伝えても構わないけどきちんと口止めしてね。それでこの娘、わらしのことなんだけど……私が神殺しだってばれちゃったことだし、今まではみんなにバレないように私の部屋で顕現させてたんだけど、これからは隠す必要もないかなぁと思ってさ。私の権能の一つなんだけど、神獣であるチョウピラコを呼び出して、彼女がまつろわぬ神だった時の力を行使してもらうって力なんだ。ただ彼女に行使してもらうって点が厄介でね、きちんと常日頃から構ってやっておかないと拗ねちゃうんだ。拗ねるとこれがまた強情でねぇ、暫く権能が使えないどころか顔すら見せようとしなくなったりするんだよ。拗ねてる姿も可愛いんだけどね。ただ基本寂しがり屋だからすぐにまた甘えてくるんだけど。それがまた可愛くてねぇ。名前も私が付けてあげたんだよ。チョウピラコってのは簡単に言うと座敷わらしが神格化された神なんだ。だから、わらしって名前つけたんだ。可愛い名前でしょ?それでねそれでね、わらしったらね……」

「も、もう結構です! 貴女がその娘を存分に可愛がっていることは理解しました! それに一人分増えてもきっと大丈夫でしょう。いきなり問題が重なりますが、うちの両親なら何とかしてくれるはずです」

 

 さすが祐理、話がわかる女だ。

 うちのわらしはとっても可愛いからな。

 きっと彼女も愛でたくて愛でたくてうずうずしているのだろう。

 だが残念! わらしは私のものなのだ! まずは私が愛でる!

 

「さて、わらしちゃんでしたか。はじめまして、万里谷祐理と言います。これからよろしくお願いしますね」

「……わらし」

「はい」

 

 わらしが……私の後ろに隠れるのをやめた……だと……!?

 なにがあったんだわらし……あの魔性の笑みに惑わされたのか? 

 確かに魅力的な大和撫子スマイルだ。

 ふんわりと上品に笑って見せるあたりはさすが両家のお嬢様といった風情だろう。

 だがしかし、私のほうが君を満足させてあげられるに決まっているだろう!?

 ああ、わらし行かないでくれぇええええええ!!」

「燐音、途中から思いっきり声に出てますし、わらしちゃんも引いてますよ?」

「……今日の燐音、怖い」

「ぐはぁっ」

 

 そう、ここから始まるのだ。

 私たちの平穏なる日常が!

 邪魔者は私が片付けるから、いつまでもいつまでも平和に平凡に彼女たちとイチャイチャして過ごしたい……

 このなんでもないいつもの日々が、未来永劫続くことを『神様』に願おう。

『まつろわぬ神』なんて物騒なものじゃなく、純粋にこの世界ならいてもおかしくない『神様』に。

 ああ、私たちの未来に幸あれ!

 

「あ、燐音はお昼ご飯にすら帰ってこなかったので罰として晩御飯抜きです」

「ちょっ、『まつろわぬ神』倒してきてお腹ペコペコな私にこの仕打ち!?」

「燐音の分の晩御飯はわらしちゃんにあげましょう」

「……嬉しい」

「え!? わらし笑った!? 今笑ったの!? 私といても滅多に笑わないあのわらしが!? 祐理! 貴様わらしになんの魔術をかけた!」

「え、そんなものかけてませんよ! わわわ、だからそんな、あ、やめて、やめてください! き、きゃあああああっ!?」

 

 ……幸あれ!

 

 




いかがだったでしょうか

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