カンピオーネ -魔王というより子悪魔-   作:雨後の筍

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どうも作者です
前回のサブタイトルを変更しましたのでご報告を
まぁ大して変わりませんが

さて今回で『まつろわぬ神』と遭遇します

それでは本編をどうぞ

あ、ちなみに作者に詩才はないので作中の詩はそれっぽいだけのただの文章です!
戦闘描写もかなり怪しい出来栄えに…
精進あるのみですねぇ


こんにちは、大いなる詩人‐2

 早速私は、神のいるであろう場所へ風に乗って移動する。

 その際、一般人にバレないようにきちんと隠蔽をかける。

 些細な噂から正史編纂委員会なんかに見つかっちゃあ、元も子もないからね。

 七雄神社は東京の都心部の方にあるが、今回神が降臨したのは多摩などの23区外だと思われる。

 位置は把握できても、地理の知識がないのだから細かいことはわからない。

 もしかしたら都外にまで出てしまうかもしれないが、その時はその時だ。

 ちょっと移動に時間がかかるので面倒ではあるが、その程度の苦労はエッセンスに過ぎない。

 日本の神格と戦うのは久しぶりだから余計に昂る。

 訳あって、日の本から遠く離れた異国の地をフラフラと放浪していた身の上なので、異国の、特にギリシアの神々なんかとはよくドンパチやる羽目にはなったが、やっぱりわびさび溢れる日本の神なんかもたまには見てみたいものなのだ。

 異国の神々は豪放磊落すぎて、ほんと日本人みたいに謙虚という言葉の意味を知るべきだと何度思わされたことか……

 あいつらは高慢ちきで、酒池肉林やら破壊活動やらとかく大雑把な事が大好きなのだ。

 全くけしからん。

 うちのわらしを見習うべきだ。

 さて、そろそろこの辺りだと思うのだが、何分眼下は深い森。

 気配は掴めれど正確な位置が把握できない。

 ここら一帯に結界が張られているようだ。

 感覚的には音を媒介として領域を区切っているものか。

 聞こえる音色は竪琴の音、なんだか嫌な予感の再来が……

 日本の山奥の森の中だってのに、なんだってギリシャの神がいるのやら。

 さて、結界に穴も開けた。

 日本の神じゃなかったのは残念だけど、『まつろわぬ神』であることに変わりはない!

 さぁ、憂さ晴らしに付き合ってもらおうか!

 

「問おう! あんたはどこのどいつだ?」

 

 着地と同時に声を張り上げる。

 辺りは少し拓けていて、泉から流れ出した水が細々と流れ出ている。

 そして、泉のすぐ横の岩の上にそいつは座っていた。

 竪琴を抱えて優雅にポロロンポロロンとやっている。

 声をかけたってのに、自分の世界にどっぷり入り込んでいるのか目なんか閉じちゃって……

 これは襲ってくださいっていうサインかな?

 あと5秒だけ待ってあげよう、それで反応がなかったらこのまま頸り殺してやる。

 5・4・3・2・1……

 

「ゼロ。さて、反応がないってのは喧嘩を売ってるんだよね? このまま殺らせていただくけど、問題ないってことかな?」

 

 そこまで言って初めてそいつは反応を見せた。

 

「無粋な神殺しよ。この調べの美しさが分からないのか。邪魔立てするな。観客となり、この調べに聞き入るのだ。私はこれより神話の語り手となり、貴様に我が詩を披露してやろうというのに……なんと物騒で野蛮、そう!野蛮なのだ!」

 

 すっごい苛立つ反応の仕方だけどね!

 

「そもそも、本来ならば私の前には群集どもが寄ってたかって、詩をせびるべきなのだ。本来ならそうあるべきだ。何が罷り間違って、こんな辺鄙なところで一人調べを奏でなければならないのか。せめてもの救いは風はそよぎ、泉はせせらぎ、木々はざわめく、その自然の奏でる調和だけだったというのに……目の前には無粋なる神殺し、只人であるならば歓迎はすれども拒みはしないものを、何故現れるのは神殺しなのか。それに加え、我慢に我慢を重ね披露を始めようと思えば、闘いだ、戦いだとわめきたてる始末……全く、神世が終わってより現世は不条理ばかり罷り通らん。今の私は詩を詠むところなのだ。戦いならば後でしてやるから今は我が詩を聞け!」

「なんて我侭なやつなのさ……私にだって都合ってものがあるんだけどな! その詩ってのは終わるまでどれくらいかかるのさ? 神世の詩人が詠む詩なんていくらかかるかわかったもんじゃない。最後まで待ってらんないね!」

「せっかちなやつめ、ならば我らが活躍の詩をご覧じあれ!」

「あれ! 拒否権なしで始まるの!? しかもナニコレ!? 体がうまく動かせない……まさか詩を聞かせるためだけの能力? なんて力の無駄使い……」

 

 ”我らのことを語ってくださいムーサよ、数多くの苦難を経験した「我ら」を……

 

 おお! 我らは勇猛果敢なアルゴナウタイ! 数々の試練を乗り越え金羊毛を持 ち帰りし若き志士たち! 争いに勝ち、魔女を打ち破り、魔性の歌を切り抜け、落伍者を出すも、難所を越え、神に出会い、数多の苦行に負けず故郷へと凱旋せし偉大なる英雄! 我らはアルゴナウタイ! イタケーへと帰還せし王のとも! ”

 

「…………」

 

 ……え? それで終わり?

 私のために短くしてくれたのかもしれないけど、余りにも短すぎたもんだから何とも言えない。

 敵同士なわけだけど……拍手とかしたほうがいいよね?

 うん、内容はホメロスのオデュッセイアに語られるアルゴナウタイのもののようだ。

 でも、我らと言ってるということから考えても、彼の名前は想像できた。

 太陽神の子供、吟遊詩人、しかしてまつろわす英雄。

 

 その名は、オルペウス!

 

 セイレーンとの歌比べに勝利し、ペルセポネにすらその歌で同情の気持ちを引き起こさせたという、ライアーの名手。

 彼の名を冠するオルペウス教の考え方は、私に対する皮肉と言ってすらいいものではあるが、彼の存在を紐解くのにそれは今回は関係なさそうだ。

 彼から感じるのは微弱な太陽の神力と、結界を張っていたことからわかるとおりの音楽の神としての神力、そしてさっきも喰らった吟遊詩人としての言霊を操る力。

 ただ、妙に引っ掛かりを感じる。

 私の感覚は霊視に近いものがあるから、かなり詳しく分析できる。

 それを辿っていくと、オルペウス教の辺りの関係性が薄いのだ。

 さっきは無意識のうちにそれを認識していたようだけど、普通に考えればそれはおかしい。

 彼の名を冠するだけあって、広めていたのは彼自身のはずだ。

 ディオニューソスに殺される切っ掛けにすらなったのだから、それを紐解けば有利に戦えるはず……

 なのに彼はそれが弱点となっていない。

 このことが彼の存在を理解するとっかかりになることはわかったが、それ以上先に進むには現状ではヒントが足りない。

 とりあえず考え事は切り上げて、体の準備をしよう。

 詩の時間も終わったし、ここから先は戦いの時間だからね。

 妙なことに時間を使わされて余計に苛立ってる私の手から、果たして彼は逃げ延びることができるかな?

 

「……まつろわぬオルペウス」

「ほぅ……」

「あなたの名でしょ。もう詩は十分だよね? そろそろテンションも乗ってきたし、今度こそ殺らせてもらうよ!」

「ふむ、吟遊詩人ではあるが、私はそれに合わせて英雄神でもある。私の全力を持ってお相手しよう!」

 

 彼がそう叫んだ瞬間、彼の手にあった竪琴から音が迸り、私が放った無数の水の弾丸は全て弾かれた。

 その隙に彼は飛び退り、逆襲とばかりに竪琴で音を奏で、衝撃波を飛ばしてくる。

 

 違和感はあるにしても、彼がオルペウスをもとにした神だというのなら、彼の竪琴の音が響いている間には飛び道具は全て効かないはずだ。

 逆に、その音をかき消すほどの音量を出してやれば、飛び道具は彼の命を絶ってくれるはずだが。

 私の手持ちでは風音しか出せないが、それでは音は掻き消しきれない。

 天候を操って嵐を呼べば掻き消せるかもしれないが、その場合あからさまな異常気象として正史編纂委員会に見つかってしまう。それは避けたい。

 水中に引きずり込んで完全なる静音を実現する手もあるが、その場合攻撃手段が乏しくなる。接近して殴る蹴る程度しかできなくなるだろう。

 彼が『鋼』の神ならば水蒸気爆発で一撃かもしれないのだが……彼の逸話に鋼の話はないし、不死だという記述もなかったはず。

 しかし、彼は死した後も川の流れに乗って歌い続け、レスボス島へとたどり着いたという。

 そして、彼がセイレーンと闘ったのは海の上だ。

 水中ということが、こちらだけのアドバンテージにはならないかもしれないし、不死まではいかないにしても、それに近い属性は持ち合わせているとも見るべきだろう。

 正体もまだ判然としないし厄介な相手だ。

 とりあえず、ここは積極的に彼の手札を引きずり出していくことにしよう。

 

 それらの思考を、衝撃波と水弾を相殺させながら纏め上げた。

 相殺しきれなかった衝撃波はステップで回避して、隙を見つけては水弾を打ち込むが、全く通らない。全て彼の手前で弾かれてしまっている。

 私も彼も決め手がなく、無意味な撃ち合いと化しつつある現状。

 川があったほうが水が操りやすいんだけど……

 やむを得まい。私の世界に引きずり込んでやる。

 そこでなら私の風も届くかもしれないし。

 この膠着状態で相手を煽ってもいいんだけど、それは私の流儀じゃない。

 というわけで、状況打破のためにも、私の庭にご招待!

 

「風よ恵みよ豊穣よ! 我がもとにその咲き誇るを見せよ! 『花園の春』(リックリーカラードガーデン)!」

 

 言霊とともに風が吹き抜け、風が去ったあとの風景は、風が吹く前と比べて激変していた。

 そこに木々はなく、川も泉も岩もなくなり、ただ広がるは一面の花花花!

 蒼穹の下に咲き誇る春の花々!それらの花々が色取り取りに世界を彩っている!

 これこそが風と恵みと豊穣を司るローマ神話の風の神、ファウォーニウスより私が簒奪せしめた権能『花園の春』(リックリーカラードガーデン)の具現。

 聖句を唱えなくても、ある程度までの権能の行使はできるように特訓してはあるけど、やっぱり聖句を唱えてそのうえでこの世界を呼んだほうが、圧倒的に強力に行使できる。

 デメリットとしてはもう一個の戦闘用の権能が使いにくくなることだけど、これについては今回みたいに近くに水場がない場合は、ほとんど変わらないから考慮しなくていい。

 この庭において私は風を司り、豊穣を司り、植物を操る。

 相手を異界に呼び寄せられる上に、そこはこっちのホームグラウンドという非常に強力な権能なのだ。

 さすがに景色が一変したためか、さしものオルペウスも辺りを見回し、戦闘中だというのに感嘆の域を漏らしている。

 

「無粋なる神殺しにしては上々な舞台設定だ。ここならば我が竪琴の音色も天地の果てまで響き渡ることだろう」

「そんな余裕ぶっこいてられるのはいつまでかな。この庭に来たってことは、あなたは私の花々にとっての害虫でしかないってことを表してる。私の庭に虫はいらないんだよ! さぁ第二幕の始まりだ!」

「来るが良い! 花々の咲き乱れ、散り乱れる秘密の花園。ここに我が調べを轟かせようぞ!」

 

 風が吹き荒び、花々はその花弁を宙に舞わせ、私はその最中を舞い踊るかのように彼に向けて走り寄る。

 この庭ですら風が彼に届くかは五分の賭けだ。庭に引きずり込んで理解した。

 彼の遠距離からの攻撃に対する加護は、絶対的といっていいレベルなのだ。

 この庭の支配者である私でさえ抜けないかもしれないくらいに。

 それなら、風を纏って接近戦に持ち込んだほうがよっぽど勝ち目があるだろう。

 庭の外では突風を吹かせたり風に乗ったり程度しかできないが、ここでなら鎌鼬を起こすことも竜巻を起こすことも自由自在だ。

 体の周りに鎌鼬の薄い層を作って彼の懐に飛び込む!

 それを見て彼は、竪琴を左脇に抱え込み右手に剣を招来した!

 

「無粋なる神殺しよ! 私を侮ったな! その報いを受けるといい!」

 

 オルペウスに、戦闘に関しての記述はない。

 だから、遠距離から竪琴による音波攻撃くらいしかできないのだろうと思い込んでいた。

 これが切り札だろうか? いや、そうは思えない。

 これはオルペウス自身のものではないという奇妙な直感もするし、なにより警戒していた言霊の呪法を彼はまだ使っていない。

 それでも業物の剣に見えるし、未知の力だ。

 最大限の警戒を持って当たるべきだった!

 しかし、この剣こそが彼の存在を解き明かすヒントのはずだ。

 まつろった結果なくした神話を取り戻したか、ほかの神話を習合した存在となっているか、どっちにしろ彼は単なるオルペウスではない。

 剣を扱うということは彼は『鋼』の神なのだろう。

 これは予想外の事実だが、もともと英雄神であったのだし、死したあとも歌い続けたとの逸話もある。私は否定したが、そうおかしな発想でもない。

 川という水に浸かって不死の属性を得た、ということなのだろうか?

 それにしては剣を出してからの彼からは強力な『鋼』の気配がする。

 マイナスに襲われた時には、接近されて一方的に虐殺されたはずだ。

 その逸話を利用して接近戦で仕留めようとしたのだから、彼自身の逸話ではない公算の方が高い。

 そうすると彼がどの神と習合しているのかという話になるのだが……

 

 それを考える前に彼の剣が振り下ろされそうだ。

 接近戦で剣を持ち出されるなんて、微塵も考えていなかった私にそれを防ぐ術はなく……

 咄嗟に展開した鎌鼬の壁を破って、その剣は私の右肩から左脇にかけてを深々と切り裂いた。

 

 




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