カンピオーネ -魔王というより子悪魔-   作:雨後の筍

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目指せ一日一投稿!
あれ、息抜きのはずだったのになぁ
ちなみに誤字はタブレットからの投稿なので仕様です
報告いただけると作者は歓喜します
それでは序章をどうぞ


さようなら日常、こんにちは非日常‐2

「私? 私は私、私はあなた、あなたは私、さて私は誰かしら?」

 

 昨日の朝、お出かけだとか浮かれていたからこんなことになったのだと。

 やっぱり平凡であることが一番無難なんだと。

 目の前に蠢く私達を見て私は恐怖しそして後悔していた。

 

 辺りを観察してみれば、そこには闇が広がり光などなく、私は取り残されたことを知った。

 ()の温かみは龍になってからも変わっていなかったのだから。

 暗く冷たくそして生気のないこの空間で、私は何をすればいいのだろうか?

 ()は試練だと言った。

 ならばこの状況には打開策があるはずだ。

 こんなところに閉じ込められて精神だけがすり減っていく余生などお呼びではないのだ。

 考えろ、考えるんだ。

 ここを抜けて()にもう一度会うために。

 

「わぁーすごいですねぇ。これ流れてるのほんとに温泉なんですかー?」

「そうだよ、温泉の川というのはなかなかに珍しい物なんだけど、この国では各所に見かけるね」

「水神さんは旅をされてるんですね! どんなところに行ったことありますか?」

「そうだね、インドのガンジス川の周りを巡ってみたり、中国の黄河を流れに沿って下ってみたり、それでもって今は日本の色々な川巡りをしているかな」

「川ばっかですねぇ、そんなに川が好きなんですか?」

「水の流れというのは悠大で、心を落ち着けてくれるものだからね。そして川を見たあとは近くの神様の奉られているところを見に行くんだ。そこに奉られている神様を見ればその辺りの人たちが代々何を大切にしてきたのかがわかるからね。そんな感じで今までは旅してきたかな」

「水神さんって歳いくつです? 明らかに見た目と話してる内容が一致してないんですけど。あ、ちなみに私は花も恥じらう15歳です☆ミ」

「最初に会ったときの大人しかった君はどこに行ったんだろう。それから嘘はよくないからね。僕の歳はトップシークレットさ、そう簡単に話すわけにはいかないかな」

「もう、水神さんのいじわる」

 

 確かに彼と()触れ合っていたのは短い時間だったかもしれない。

 それでも、()()なりに、私に大事なことを伝えようとしてくれていたのではないだろうか。

 私たちがあの温泉街でしていた些細な雑談ですら、この時のために用意されていたものだったのではないか。

 ()は私に何を伝えたかったのだろうか。

 私は確信しつつあった。

 昔神話をかじっていてよかったなと思う。

 ただの痛い思い出にならずに済んでよかったなとほんとに思える。

 中二病なんかじゃなかったのだなと今なら自信をもっと言える。

 私はこの時のために備えていたのだ!

 さて、そんな私のうろ覚えな知識と()の話、そして状況から考察するにここはきっと精神の世界なのだろう。

 そして目の前にいるこの薄気味悪いのは、多分、私だ。

 

 目の前の私はニヤリと笑う。

 私はそんな笑い方はしない。

「いやいや、そんなことないよ。私も笑うよ。あなたのように、私のように」

「あなたは私、でもあなたは私じゃない。少しずつ思い出してきた。なるほどこれはそういうからくりか」

「さて、こんな機会も滅多にないわ。話し合いましょう。心いくまで」

「話し合おうか。心いくまで」

 

 こんな状況になるまで意識して思い出せなかったことがある。

 そうだ、そういえばそうだった。

 そりゃ()だって見とれるでしょうよ。

 神々ってのは魂の輝きに惹かれるもんなんだから。

 当然()()()()も転生してれば一目見ただけで釣られるわけだ。

 なんせその分だけ魂は磨かれているんだから。

 いやしかし今回は運がいい。

 生きてるうちにこの事実を思い出せた回数は片手で数えられるほどだったはずだ。

 目出度いことだ。

 さて、大事なことも思い出したし、こんな陰気なところとはおさらばしようか。

 

「こんなところ、か」

「こんなところ、ね」

「それじゃあ行ってくる。ああ、今回の人生はとても楽しめそうだ」

「行ってらっしゃい。ええ、それが死亡フラグじゃないといいんだけど」

「きっと大丈夫さ、なに()にもわかってるだろうさ。()に出会い、声をかけてきた時点でな」

「そうね、それじゃあ暫しのお別れを。さようなら、今生の私」

「まぁ、またしばらくしたら会うことになる気がするんだけどな。それじゃ、さよならだ」

 

 そう言って私は格好良く振り返り、格好悪く空いていた穴に落ちていった。

 

「何で脱出方法が落とし穴なんだよぉおおぉおぉおおおおお!!!」

 

「さぁ、今度の観劇も、とっても楽しみね」

 

 

 気づけば目の前には馬鹿みたいに大きな龍がいた。

 龍はそのギョロギョロとした眼でこちらを面白いものを見たかのように見ている。

 龍の眼の前で崩れ落ちていた少女が、何事もなかったかのように平然と立ち上がる。

 龍はその大きな口を盛大に開けて大笑いを始めた。

 その余波を受けてはばたく服をよそに少女は嗤っていた。

 龍はその顔を獰猛に引き攣らせ口を開く。

 

「人の子の身にありながらよくぞ我が試練を耐え抜いた。その気概やよし」

「我が次に求むるはまたも力の強さではない、心の強さよ」

「その点、主は安心してよい」

「これは闘いぞ、主の心をかけた闘いぞ」

「いざ尋常に、等しき力を与えよう」

「さぁ、始めるとしようではないか」

「準備はすでに整っているようだな」

「往くぞ、我の全力……見事打ち破って見せよ!」

 

 それらの言霊が場を駆け巡り、龍と少女はここに激突した。

 




いかがだったでしょうか?

感想批評評価批判文句質問疑問指摘推薦、荒らし以外の全てをお待ちしております
あと句読点などは随時ちまちま修正しているので、読んだときと多少印象が変わるかもしれませんがあしからず

それではそれでは

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