カンピオーネ -魔王というより子悪魔-   作:雨後の筍

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どうも、お久しぶりです作者です

なんとか約束通り? 一週間以内に投稿できました

今回からあとがきは活動報告に記載しています
ツッコミどころはそちらへどうぞ

そんなところで本編を!


雷帝ヴォバン降臨‐5

 ところで七雄神社はいつでもけったいな存在感を放っている。

 なぜなら、実際この神社には神が祀られているからだ。

『まつろわぬ神』とか御霊とかじゃなくて正真正銘の"神"がこの神社には存在している。

 全国的にも神が居座っている神社は稀だ。それこそ片手の指で数えられるほどしかない。

 そして、その存在を捉えられるほどの術者もまた日本では数えるほどしかいない。そのうちの一人というのが祐理であり私である。

 捉えられるとは言うものの、祐理は天性の霊視の才能で、私はアメノウズメの権能の影響で視ているので、そこに拒否権はない。

 捉えられない人からすると神というのはそこにいて何をしていても気づけない存在だ。例え神に触れられたところでそれを意識することはない。

 実際ここに来た頃の私はその存在を捉えられていなかった。

 カンピオーネだとしても無条件で視えるということはないのだ。

 私の場合、巫女としての修業をするようになってからしばらくして突然見えるようになった。

 アメノウズメの権能を持ってはいたけど、狭い意味で巫女としてその力を揮うことはそれまでなかったから、修練を積んだことで巫女としての力量がある一定ラインを超えたってことなんだろうけど……それってつまり日本でも有数の媛巫女になるってことだったんだよね。

 何も知らずに無邪気に喜んでいたころが懐かしい。今ではそのあまりの仕事量に辟易とする日々ですよ。どうしてこうなっちゃったのかなぁ。

 

 おっと、話がそれた。

 さて、なぜこんな話をしたのかというと目の前にその神がいるからなのだ。

 普段ならただ何をするでもなく街を歩き回っている無害な存在なのだが、極稀に面倒事を起こすうちの神様。

 名を徐福という。

 中国古代、戦国の世に生まれ、秦の始皇帝に蓬莱の山に長生不老の霊薬があると具申し、その霊薬を手に入れに東の海へと旅立った方士である。

 本人曰く霊薬を飲んだからこそこうやって神様として君臨しているのだというけれど、長生不老の霊薬を飲んでおいて実体を持たない神となっているのはこれいかに。

 毎度毎度不思議に思うことではあるけれど、そこについては聞いてはいけないらしい。

 なんでも只人が聞いて正気を保っていられる内容ではないそうなのだ。

 カンピオーネですら正気を保てない真実とはどんなものなのかとても気になるところではあるのだが、彼は死んでも口を割る気はないらしい。死なないけど。

 

 それで、だ。

 何をこんなに長々と思考を垂れ流しているかと聞かれれば、目の前の徐福様がそれはそれはイイ笑顔でこちらを見ているからなのだ。

 こういうときの徐福様はまず必ずと言っていいほど面倒事を起こす。

 それは祐理が毎日一日に一回私にお説教をするかの如く、護堂くんがすぐフラフラと女の娘を引っ掛けてくるが如く、エリカ嬢が毎日大寝坊をするかの如くだ。

 そう、現実逃避のために意識を彼方に飛ばしても怒られないはずだ。

 この徐福様、普段は私たちを孫のように可愛がって穏やかにしているくせに、何がしかの要因でスイッチが入ると、人が変わったんじゃないかと疑うほどはっちゃける。

 なまじっか力があるから私でも止めるのには苦労するのだ。

 毎度毎度、徐福様が暴れるたびに私の正体がバレそうになるのだから笑えない。

 

 だが、どんなに嫌な予感がしたとしても、ここで考え込んでいるだけでは事態は好転しない。

 ここは、勇気をもって徐福様に話しかけるところから始めたいんだけど……この場にはエリカ嬢がいる。

 私だって彼女の目的は分かっているのだ。

 彼女は、祐理と私を護堂君の愛人に仕立て上げるつもりでいる。

 カンピオーネである護堂君のまわりに有能な人材を配置しておきたいんだろうね。

 私に至っては捕まえれば女神すらついてくるのだ、それはそれは喉から手が出るほど欲しい人材だろう。

 ある一定以上の策謀を働かせるようになると、大体考え方も似るもの。

 おかげで正史編纂委員会が護堂君に首輪をつけようとしていることもわかるし、それに対抗してエリカ嬢が私たちを護堂君側に引き込もうとしているのもわかる。

 確かに彼ら彼女らからすると、私たち2人は日本でも有数のとびきり優秀な媛巫女な上にかなりの美少女、護堂君の首輪にするにせよ愛人にするにせよ、もってこいの人材だ。

 でも残念、私は護堂君の味方をしてあげることはあれども、護堂君の庇護下などに行くつもりはない。

 祐理に関してもそうだ。

 彼女は私のものであり、決して正史編纂委員会にもエリカ嬢にも、はたまたヴォバン候爵にも渡すつもりはない。

 私だってカンピオーネ、不遜なまでに自由気侭に振舞う存在だ。

 この世において私を縛ろうとするものは、本来なら須らく排除するところなのだ。

 それだけの力を私は持っているし、それを適切に振舞うこともできる。

 でも、その力を一度でもおおっぴらに振るえば私たちの平穏は崩れ去る。

 力を振るえば面倒な毎日、振るわねば縛られる毎日。 

 力を持つということはかくも面妖な二律相反を考えさせてくれる。

 いや下手に力を持ったからこそそうなっているだけか、力を持ったからこそ新たな選択肢ができたと喜ぶべきか。

 

 閑話休題

 

 妙に考え込んでしまった。

 時間にしてみれば1分にも満たない思考ではあるけれど、護堂君もエリカ嬢も私を見て不思議そうな顔をしている。

 大階段を見上げてはいるものの、上るでもなく手前で立ち止まっているのだから当たり前だが。

 祐理はといえば、私が目の前の面倒なナニカへの対処法でも考えていたのだろうと、同情的な視線だ。

 彼女も毎度毎度、巻き込まれては迷惑を被っている側だからね。余計な思考で時間を使ってしまって申し訳なく思う。

 ……そういえば、アテナは徐福様の姿を捉えることができるのだろうか?

 ボーッと中空を眺めているので、どちらとも知れないのだが……後で聞いてみるとしよう。

 

 よし、決めた。これ以上エリカ嬢に私の有用性をアピールするのもどうかと思ったけど、諦めよう。アテナを屈服させる以上の大事はそんなにないもんね。

 "神"を視認できるってのもかなり稀有な才能ではあるけれど、『まつろわぬ神』をカンピオーネにならずにくだすことと比べれば些か以上に見劣りするからね。

 状況が噛み合っただけとは言っても、『まつろわぬ神』を屈服させたという事実だけでカンピオーネに次ぐくらいの扱いはされるのだから。

 ……決してアテナを畏怖してとかじゃなくて、私個人に対する敬意だと信じています、はい。

 それに、もしかしたら私のプロフィールを既に手に入れてるかもだしね。

 私とか祐理レベルの媛巫女の資料なんてかなりの機密のはずだけど、エリカ嬢だからなぁ。紅き悪魔とかそういう話じゃなくて、彼女自身の能力値が高すぎるから油断ならない。

 まぁ、その手の話は置いておいて。

 

 「それで、今度は何を企んでるんですか徐福様?」

 

 なんだか無性に悲しくなってきたから、それを誤魔化すためにも徐福様に話しかける。

 私は力を隠しているだけであって、本当は強いんだもんね! ふーんだ。

 さて、本音を言ってしまえばこのままスルーしたいところなんだけど、それはそれでどんな問題が起こるかわかったもんじゃないから、まだ事態を収められる可能性がありそうな方へと誘導する。

 これに成功すれば、多少精神的な疲労が貯まることはあれども、致命的なまでなことは決して起こらないはず。

 自分の国が欲しいとか言い出して国会議事堂に特攻することも、蓬莱の山を探しに行くとか言い出して、神社をほっぽってハワイまで遊びに行くようなことも起こらないはず!

 

「いや? 特になにも考えてるわけではないよ? ただ、君たちがここに友達を連れてきたのは、初めてのことじゃないか。はは、僕はそれが嬉しくてねぇ。ついついこんなところまで出てきてしまったんだよ」

 

 ……確かに言われてみれば、この家に来てから家に友達を招くという行動はとったことがなかった気がする。

 でもそれは居候の身だったからであって、決して友達がいなかったわけではないのだ。

 だから、それはそれは生暖かい目でこちらを見るのはやめて欲しい。

 今まで家に友達を呼ぶこともなくここまで来てしまったのは、祐理であって私ではないのだ。

 その旨を伝えようかとも思ったが、何を言っても暖簾に腕押し、あの"初めて友達のできた子供を見守るような生暖かい目"はやめてくれないだろう。

 

 「ああ、うん。言いたいことはわかりました。お話は後でいくらでも聞いてあげますから、今は引っ込んでいてもらってもいいですか?」

「ああ、いいとも。今はゆっくり友達との時を過ごしなさい」

 

 私も笑顔で応対する。それはそれはマックの店員のような素晴らしいスマイルだっただろう。

 そう、特に問題があるわけではなかったのはよかった。

 それでも、精神に多大なるダメージを与えてくるところだけはさすがと言っておこう。

 虚脱感というか諦観というか、この何とも言えない糠に釘感。直接的じゃないにしても、こう、心にくるものがある。

 まぁ、結果オーライ被害は無し。祐理も隣でホッと一息ついている。

 護堂君は怪訝な目で、エリカ嬢は興味深いものを見る目でこちらを見ているけど、いつも受けている仕打ちからすればよっぽど軽い。

 説明は後でしなきゃいけないかもだけど、とりあえず今は候爵についての話だ。

 もう立ち止まる理由もない。早く家に入ろう。雨の中、理由もなく立ち尽くすのは勘弁願いたいところだからね。

 

 ところ変わって万里谷家、私の部屋。

 わらしには護堂君たちにバレないように、祐理の部屋に行ってもらっている。

 本当はリビングなりなんなりでもよかったのだけど、一応秘匿性の高い話し合いになりそうだったから、防諜しやすい私の部屋にしたのだ。

 私の部屋はいつもカンピオーネなり神獣なり『まつろわぬ神』なりが出入りしているせいか、半ば呪的に異界化しかけているし、私自身もさらに結界を張っているから、魔術的な方法で干渉することは不可能に近いのだ。

 近代的な方法に至っては言わずもがな、だね。

 まぁ、6人も入ると流石にちょっと手狭ではあるけれど。

 

「さて、護堂君たちをこんなところまで呼びつけたのは、ちょっと面倒な事態が起こりそうだからなんだ。護堂君はヴォバン候爵についてどれくらい知ってる?」

「ん、確かとびきり凶暴な偏屈じいさんだったよな? バルカン半島に住んでて300年くらい生きてるって。あと狼を操ったり嵐を呼んだりするんだっけ?」

 

 護堂君もきちんと基本的な知識自体は持っているようだ。

 これなら話は早く済ませられる。

 

「うん、大体はそんな感じだね。あと補足するなら、生き物を塩に変える魔眼を持ってたり、自分が殺した人間たちをゾンビにして奴隷にしてたりってところかな? あー、それと欲が食欲と戦闘欲くらいしかないってのも追加しておこうか。ほかにも細々とした事項はあるけど、大枠はそんなところだよ」

「露骨なまでに傍迷惑な大魔王様だよな。それで? そのじいさんが東京に来てるって話だろ? 目的とか知ってるのか?」

 

 ……やっぱり護堂君は私たちよりも先に情報を手に入れていたようだ。

 それにしてはエリカ嬢も驚いているのが予想外なんだけれど。

 

「うーん、その前に一つ聞いていいかな? 護堂君はその情報どこで手に入れたの? 正史編纂委員会ですらさっき掴んだばっかの情報のはずなんだけど」

「ああ、それならサルバトーレの奴がわざわざ電話で教えてくれたよ。ケンカを売ってきたらどうだ? なんて言うもんだからついついキレちまった」

 

 ああ、うん。サルバトーレ・ドニか。ちょっと予想してなかった情報源だな、それは。

 でも確かに彼ならば、正史編纂委員会よりも赤銅黒十字よりも先に情報を仕入れていてもおかしくはない。彼の配下のアンドレア・リベラはそれくらい優秀な男だ。

 それにしても、ケンカを売りに行けだなんて……東京で魔王同士が本気でぶつかったらどうなるかだなんて、想像がつくだろうに。流石戦闘狂、発想からして格が違った。

 

「ああ、そういうことでしたか。私どもにも寝耳に水の話でして、実はその情報も『民』の術者の方が先に仕入れていた情報なのですよ。草薙さんも候爵が東京に訪れた理由をご存じないようですし……これは、困りましたねぇ」

 

 それまで黙って聞いていた甘粕からの報告。

 さっきは勝手に、正史編纂委員会の方でも候爵の存在を確認したのだと解釈したけど、低確率ではあるものの神獣とかが他の地域で出たって線もあったかもしれなかった。

 護堂君に頼るレベルの事案は候爵のことくらいしかないと決め付けてかかっていたから、他の可能性じゃなくてホッとしているところだ。

 

「ってことは、そのヴォバンってじいさんが日本に来た理由は全くわからないってことか?」

「いや、一応私は予想というか推測自体はできるんだけど……信じたくないんだよね。可能性だってそんなに高いわけでもないし。それでも聞いてくれるかな?」

 

 私は4年前の顛末について語った。

 それは存分に私の活躍を吹聴したいところではあったけれど、流石に正体を隠している手前自重せざるを得ない。

 おかげで目立つのはサルバトーレ・ドニに七星の野郎ばかりだ。

 まぁ、カンピオーネが三つ巴になって戦うなんて滅多にあることじゃないから、どうやったってあいつらが目立つことは邪魔だてできないんだけどさ。

 七星斗真、この世界7人目の神殺し。

 私と腐れ縁のアイツとはあの時何度目の邂逅だっただろうか。

 あの時もまた目の前で女の娘をかっさらっていきやがって……今思い出しても腹が立つ。

 まぁ、あんな奴のことはいいのだ。考えるだけでもイラッとくるし。

 というわけでヴォバン候爵が神の招来に失敗したところまで説明した。

 ここまで説明したところでエリカ嬢は私の言いたいことを理解したようだ。護堂君はまだ頭をひねっているけれど、甘粕もきちんと理解している。

 話を進めてもいいだろう。

 

「つまり、候爵が東京に訪れたのは、私と祐理を確保してもう一度『まつろわぬ神』招来の儀式を行おうとしているってことだよ。なんで前回はたくさん集めた巫女役を私たちだけでやらせるのかとか、今更になって失敗した儀式をもう一度やるのかとか、他にもいくつかの疑問はあるけれど、私たちはこれが一番可能性が高いと思っている」

 

 そう、『まつろわぬ神』招来の儀式。

 極めて高い巫力を持った巫女、狂気に至るまでに神を求める祭司、呼び出した神に実体を与える触媒となる神話。

 その三つの鍵が揃って、初めて行うことのできる最高等儀式だ。

 私と祐理は一度それに巻き込まれている。

 その時に候爵に目をつけられたと考えれば、今回のことも理解できなくはない。

 あの時集まっていた巫女たちの中で、私たちとリリアナの巫力はダントツだった。

 リリアナの方は七星に付き従っているから、安全なはず。

 だからカンピオーネの庇護を受けていない、お手軽な私たちを獲物にするのは想像に難くないのだ。

 それに、護堂君については噂は聞いているかもしれないけど、まだ生まれたてのひよっ子。全く意識していないに違いない。

 

「だからね、本当はこんなこと言いたくはないんだけど、護堂君、私たちを守ってくれないかな?」

 

 だからこそ護堂君の存在はジョーカーとなる。

 カンピオーネというのは存在そのものが理不尽の塊だ。

 生きてきた時間も、ネームバリューも、権能の数でさえその力量を測るには不適切だ。

 カンピオーネという存在の力をあらわすのはいつでも意志の強さだけだ。

 その点、護堂君はすごいものがある。

 平和主義者だ、平和主義者だ、と常々言ってはいるけれど、やらなければいけないところではきちんとやる男だ。

 まぁこれは私が見た護堂君じゃなくて、今までの風評から組み立てた彼の人物像だから多少ずれているところはあるかもしれない。

 それでも、今目の前で私の願いを受けて精悍な顔をしている護堂君は、きっとそんな人物なのだろう。

 友達のためならば躊躇なくその力を振るう、守るべきものがあるなら彼はどんなときでも立ち上がるに違いない。

 そう、それでこそカンピオーネというものになった人物だけが持つことのできる、強靭なまでの意志なのだろう。

 

「ああ、任せておけ。全部守りきってやるよ。東京の人たちも、燐音も、万里谷も、一切合切な!」

 

 ああ、かっこいいなぁ。

 

 正体を隠して厄介事を人に押し付ける私なんかとは大違いだ。

 私は自分が楽できるのならば、平気で知らん顔できる。

 別にアテナに頼んでも良かったし、私自身が出ても良かった。

 それでも、私は平穏を求めるのだ。

 苛烈な戦場へと呼び寄せようとするこの力に、記憶に、全て呑み込まれてしまわないように。

 私は、いつまでも抗い続けるのだ……




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