カンピオーネ -魔王というより子悪魔-   作:雨後の筍

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どうも作者です
昨日は寝落ちしてました

書き直しに書き直しを重ねた結果なぜか書き直した部分を全部削除して投稿するにいたった現状
世界はこんなはずじゃなかったことばかりですたい……


まぁなにはともあれ今回は短いですが本編をどうぞ


雷帝ヴォバン降臨‐2

「今日はご馳走様でした。皆様にも宜しくお伝えください」

「ありがとーね、護堂君」

「まぁ、悪くなかったぞ。また来てやってもいい」

「みんなありがとうな。無理言って来てもらったのに、こんな時間まで引き留めちゃって」

 

 私たちが草薙家を辞したのは、夜の8時過ぎだった。エリカ嬢はまだ残るようである。

 玄関口まで護堂君が出てきて、見送りがてらすまなそうに謝ってくれた。

 

「いやいや、私たちは本来招かれざる客だからね。感謝するのは私たちの方だよ。でも、次があるならその時は一気に4人もつれ込むのはどうかと思うけどね?」

「ああ、それはしみじみ身に染みたよ……なんにせよ楽しんでくれたなら良かった。……じゃ、また明日な」

 

 護堂君に別れを告げ、私たちは帰宅の途についた。

 ――結局、静花ちゃんたちとの面談の後、私たちは夕食をご馳走されることになった。

 祐理は私たちが飲酒しないか目を光らせていたけれど、おしゃべりと食事に従事したのだ。

 アテナは食いしん坊キャラでも付けにいってるのかと思うほど夜は食べる。

 かくいう私は昼食べなかった分を夜に食べるわけだけど、おしゃべりも大好きだからずっとお祖父さまに話をねだっていた。

 エリカ嬢が話を振って回っていたから、それに乗ってあげても良かったんだけど……なんか世間話に混ざって、きな臭い話題を何度か振ってたんだよねぇ。

 祐理は天然で気付かないし、アテナはその辺引っかかるような智慧の女神さまじゃないから、放っておいても大丈夫だったんだけど。

 エリカ嬢、やっぱりアテナが学校に通うまでに温厚になったのが気になってるみたい。

 まぁ、私がアテナを屈服させた過程とかその他諸々とか伝えてないからねぇ。色々と疑問を抱えてるのは当然だと思う。

 護堂君も男子高校生らしくがっついていたけど、ところどころでは口を出してフォローもしてくれていたし、私が参加しなくても楽しそうにやっていた。

 少しだけ面白くないなぁとも思ったけど、エリカ嬢がいる前であまり護堂君にちょっかい出すのもあれなので、まぁよかったのかな?

 静花ちゃんも機嫌直してくれてたし、お祖父さまは優しかったし!

 とりあえず楽しい食卓だったことに違いはない。

 そして、今日もまたそんな余韻を打ち壊す空気の読めない冴えない中年が1人。

 

「で、甘粕さーん? 今日は何の用事かにゃあ?」

「やあ、燐音さん。見つかってよかった、探していたんですよ。お願いですから、携帯電話をマナーモードにするのやめてくださいよ。仕事で緊急の連絡が必要な時だってあるんですから。祐理さんもですよ? 今時携帯電話を待たないのはよしてください。アテナさんは……持っていてくれると連絡が楽なので、お願いしたいところではありますけれど……文明の利器はお嫌いですかね?」

「携帯電話の話は後回しねー。こっちの2人の分は今度買っておくから。それでー? 今日は何の用事だってー? というより、なんで私たちの場所がわかったし。……ストーカー?」

 

 私たちが最寄駅の根津駅にたどり着こうかというところで、その男は姿を現した。

 もちろん彼の名前は甘粕冬馬。

 我らがジョバンニである。

 本来の所属は正史編纂委員会ということになっているから、最近はそちらの仕事も忙しいらしい。知ったことじゃないけど。

 

「たまたま近くまで来ていましてね。電車に乗る前に捕まえられないかと思って、ちょっと待っていたんですよ。ご自宅に電話したら、学校近くのお友達の家に寄られていると教えてもらえましたので」

「なるほどね。で、そろそろ用事を話そうか。私はそういうはぐらかしは好きじゃないんだけど?」

 

 私の質問に、苦労人であることが容易に察せられる、板に付いてしまった苦笑が向けられる。

 

「燐音さんにというよりは祐理さんに用事なんですけどね。頼み事があったんですよ。でも、今日はもう遅いから明日とかどうですかね?」

「ん? 私じゃなくて祐理にってことは霊視のお願いかな?」

「私ですか? 大丈夫ですけれど、今ここで済ませても構いませんよ? モノはなんですか?」

「いえ、少々移動しなければならない場所にモノはあるので、明日にしておきましょう。なに、祐理さんなら軽い仕事ですよ。ルーマニアだかクロアチア辺りから流れてきたとかいう魔導書が見つかりましてね。本物かどうか、パッと鑑定していただきたいなと」

 

 相変わらず軽い口調で不謹慎な人だねぇ。

 祐理がため息ついてるじゃん。小言言われちゃうよ?

 

「甘粕さん、私の霊視は何でも『視える』ほど便利なものではありません。何もわからない時だって多いのですから」

 

 確かに霊視というのは、決して万能の解析能力ではない。

 神が気まぐれに天啓を降ろしてくるのを受け取るだけの不確かな力だ。

 私の権能なら、もう少し人為的にアカシックレコードにアクセスできるけど……目の前にモノがあっても重労働だから、頼まれてもやりたくないけど。

 

「というか、魔導書の内容が知りたいなら私に聞けばいいじゃん。タイトル教えてくれれば内容教えてあげるよ?」

「いえ、これが正史編纂委員会の正式な指令でしてね。祐理さんをお連れしないといけないんですよ。そうでなければ、内容は燐音さんに聞いて、モノの方はそれっぽい履歴を残しておくだけで済んで楽だったんですけどねぇ」

 

 甘粕はそう言って笑う。

 それが普通に笑っているはずなのに、苦笑に見えてしまうのは私が悪いのだろうか。

 

「……承知いたしました。明日の放課後でよろしければ、ご協力致します」

「甘粕さーん、私が付き添う必要はある?」

「ありがとうございます。いえ、大丈夫ですよ。ちょっと青葉台の図書館までお連れするだけなので、危険もなにもありません。なに、魔導書の霊視だって本に触れなければ何も起こりませんよ、触れなければ」

 

 そこまで言ったところで甘粕はいきなり話題を変えてきた。

 少々、話が臭くなってきたとでも思ったのだろう。そんなので逃げ切れたつもりか。まぁ、祐理も別に正史編纂委員会の普通の依頼で負傷するような半端者ではないし、今回は私がついていかなくてもいいかな。

 

「ところで、学校の近くのお友達の件ですが、もしかして草薙護堂氏のお宅にでもいらっしゃっていましたか?」

「はい……あの、もしかして何か問題でも? 私としては、もう十分に関わってしまっている以上、草薙さんと距離を取る意味はあまりないと判断しているのですが……」

 

 祐理は訝しんでるみたいだね。別に私たちに意味はなくても、委員会の方に意味があることだってあるとは思うけど……私たちには関係ないことかな?

 

「あ、いえ、それは問題ありません。祐理さんに至っては2人のカンピオーネと仲良くしておられますし、アテナさんという『まつろわぬ神』とも仲がいい。世間に未だ知られていることではないにしても、その立場は稀有なものです。これからも是非是非親密にお過ごし下さい。燐音さんの前じゃなかったら草薙護堂とくっつくのもありですよ? とでも言えるんですけどねぇ」

「ははは、甘粕、貴様よほど死にたいと見える。ここでその首もらってやろうか? 子分の分際で頭に楯突くとは……命が惜しくないのかな?」

 

 もともと挙動不審だった甘粕は、私の言葉を聞いてガタガタ震えだした。

 祐理が正史編纂委員会から見て、都合のいい護堂君のお相手だということは理解している。

 だからこそ祐理の心を護堂君の方に傾かせないように苦心しているし、私こそがそのハートを射止めようと日々精進している。

 ……つまり、そんな私の前でその話をだすってことは、私は死にたいですよっていう意思表示にほかならないよね?

 

「あ、はは、は、ま、この件についても明日、詳しくお話します。それではごきげんよう……良い夜を」

 

 甘粕は、乾いた笑いを残して去っていくつもりのようだ。

 捕まえようと思えば容易に捕まえられるが、あれで優秀な男だ。

 さっきのだって私をからかおうと思って発言したら、ちょっと加減を間違えて私がブチギレただけだろう。

 いつもの優秀さに免じて今回のところは許しておいてやろう。

 

「あ、私は貴女サイドの人間ですよ!? 正史編纂委員会の間者とかじゃないですからね!? 逆ですからね! そこのところお頼み申しますよ!!」

 

 うん、きちんと飼い主も把握しているようだ。

 仕方ないな。この怒りを鎮めておかないと。

 祐理も天然発揮してなんだかよくわかってないみたいだし。

 今日のところはこれで帰ろう。駅もすぐソコだしね。

 あ、もちろん甘粕は明日一回シバくよ?

 

 

 

 ちなみにそのやりとりの間、アテナは草薙家でお土産にと貰った煎餅をずっと囓っていた。

 

「これはうまいな。なかなかの味だ」

 

 ……アテナさん、貴女本格的に食いしん坊キャラを付けにきてません?

 

 

                      ◆◆◆◆◆

 

 

 城楠学院高等部では、体育の授業を男女別に行う。

 そのかわり2クラス合同で授業を行うこととなるので、体育は5組と一緒に受けることになる。

 この日の授業の種目は、男子が野球、女子がソフトボールだった。

 正直を言うなら、こんな暑い日に外で体育なんて正気の沙汰ではないと思っている。

 サッカーならまだしも、それがソフトボールだというのならなおさらだ。

 何を好き好んで当たらないバットを振り回さなくてはならないのか。

 そうやって私と祐理がヘタレているのを尻目に、エリカ嬢などは男子の方の野球に混ざって男子どもをけちょんけちょんにしている。

 まぁ、彼女が大活躍してくれているおかげで、女子の方も試合を中断して観戦に回っているのでとてもうまいのですが。

 そんなこんなで木陰でまったり観戦していたところ、祐理からこんなことを聞かれた。

 

「エリカさん、変な魔術とか使っていないですよね? もしそうなら、早くやめさせないと。男子相手にあそこまで活躍するなんて、普通じゃありませんよ」

「そうかなー? エリカ嬢の周りに魔術の痕跡はないよ? 一応騎士なんだし、正々堂々生身で戦ってるんじゃないの? 使ってるにしても私からは別にバレなきゃいいと思うけどねー」

 

 ケラケラと笑う。

 祐理はそれでもしかめっ面をしていたけれど、さすがに私が魔術を使っていないといえば否定する材料もないようだ。

 まぁ、祐理は運動は大の苦手だから、少し嫉妬もあったのかもしれない。

 なにせ中学の時のマラソン5kmで、2kmほど走ったあたりでバテてダウンし、次の日には筋肉痛になるほどの筋金入りだ。

 あの時は盛大に笑ってしまって、拗ねた祐理に口をきいてもらえるまで少々時間がかかってしまった。

 それに比べて、私は魔術なしでも動こうと思えばあのレベルまで動ける。伊達にカンピオーネではないのだ。

 でも、いつも体育の授業では一般人レベルにしか働かない。

 精々運動神経がいい文化部員程度にしか動きたくない。目立つし。

 そもそもがインドア派な私だから、体育とかスポーツとかはなかなか縁がないのだ。

 ちなみに放浪癖とインドア志向は両立するとだけ言っておこう。

 あれはアウトドアじゃなくてサバイバルです。

 さて、体操服姿の祐理の可愛さをお送りしてもいいのだが、そろそろ授業も終わる頃合だ。

 次は昼休み、精々のんびりするとしましょうか。

 

 はてさて、時は流れてはや放課後。

 いつもの通りに七雄神社にてお勤めをしていたところ、甘粕が訪ねてきた。

 昨日話したとおり、祐理を連れて青葉台の図書館へと向かうようだ。

 大方、そこへ向かう道すがら、祐理に護堂君の妾になることの重要性とかを説くつもりなんだと思うけど……私の下僕のくせして生意気だよねー。

 というわけで、宣言通りちょっとお仕置きしてあげた。

 泣いて喜んでいたので、きっと祐理にちょっかいを出そうとはもう思えないだろう。

 正史編纂委員会の方は適当にごまかして、他の要員を護堂君のお妾さん候補にするように働きかけることも指示した。

 これで今日のところは要件もないので2人を送り出したのだが、最近甘粕のお仕置きをされてからの目の輝きがおかしい気がする。

 なんだかとても興奮した目に見えたんだけど……まさか甘粕ってドM……いや、きっと私の勘違いだろう。疲れていたんだな、ははははは、はぁ……解せない。

 

 祐理たちを見送って、お勤めの続きをしていたところ、しばらくした頃に甘粕が祐理を連れて慌てて帰ってきた。

 なんでも、件の魔導書の霊視を行ってもらったところ、急に意識を失ってブッ倒れたそうだ。内容については聞いたあとだったので仕事に影響はないそうだが、祐理に問題が発生したかもしれないと、大慌てで連れ帰ってきたそうだ。

 私だけじゃなくて、宮司さんや権禰宜さんもとても怒っていた。

 畏れ多くも媛巫女様に何をさせているんだと。

 私からすると、その怒りは少し的はずれだったけど、彼らが祐理を大切に思っていることも知っているし、立場上そこを一番に気にすべきなのもわかっている。

 それでも、祐理が倒れたと言われて現実感がなくなる程度には、私は祐理のことを大切に思っている。

 今目の前で倒れているこの娘の夢を覗くまで、ほんとにどうなってしまうのか、心底心配したのだ。

 私がついていかなくても大丈夫だろう、とタカをくくっていた私自身を責めた。

 いや、私がそばにいたとしても何ができたというわけではなかったかもしれないけれど、それでも、自分を責めることでしか精神を安定させることができないくらいには取り乱していた。

 やっと彼女に悪影響がないことをこの目で確かめ、すやすやと眠るその横顔を眺める。

 いきなり意識を失ったとのことだったのに、呑気な顔をして寝入っている。

 今となっては安心できるからいいけれど、部屋に運び込むまでは余りに深く眠っているものだから、死んでしまったとか、精神が持って行かれたとか、色々と考えてしまった。

 心配させた罰だとばかりに、祐理のその柔らかい頬をつまむ。

 些か変な顔になっても、安らかに眠ったままだ。

 ここでもう食べられないよぉ、とでも寝言をこぼすのはアテナの担当だから期待はしていないけれど、それにしてもよく寝るものだ。

 多分この小ぶりな桜色の唇に触れても、彼女は目が覚めないのだろう。

 

 そこまで考えたとき、私の中でどうしようもないほどに、欲望が首をもたげ始めた。

 そう、彼女は目を覚まさないだろう。

 そしてその唇は、呼吸をするたびに上下する胸と相まって微かに開閉している。

 一度意識してしまえば、そこばかりに目が行く。

 キスしてしまえ、と私の中の悪魔が言う。

 接吻しなさい、と私の中の天使が言う。

 あれ? どっちも肯定してるぞ?

 まぁいいや、これは罰、そう私にどうにかなってしまいそうなほど心配をかけた罰なのだ。

 そう自分の中で結論づけ、私はその顔へと私の顔を近づけていく。

 彼女が起きる素振りを見せれば即座に飛び退けるように用意もしてある。

 一種異様な辺りの静寂は、私の緊張からくるものだろうか。

 静謐な空気だけが流れていた。

 そこに私と彼女の接触を邪魔するものは何もなかった。

 

 

 

 

 

 

【挿絵表示】

 




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