カンピオーネ -魔王というより子悪魔-   作:雨後の筍

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前回アテナからの痛撃を受けた燐音
果たしてどうなる!?
彼女の奥の手とは!?

始まりは祐理&甘粕サイドより、それでは本編をどうぞ

あ、本日2話目なので読んでない方は前話を読んでくださいね?


女神様が見てる‐4

「燐音!」

「燐音さん!?」

「…………」

 

 こちら黄昏に暮れる神社の境内で、燐音に渡された札を通して彼女たちの戦いを見ていた3人。

 燐音とアテナの本体は甘粕が社務所の中へと運んで横たえた。

 当初は燐音が神殺しであったことに腰が抜けかけていた甘粕だったが、途中からはその余りにも破天荒な力の振るい方と、いつもの我を通しすぎる性格を思い出して、違和感がそんなにないなと思い直すことにしたようだ。

 燐音が神殺しであることを受け入れれば、彼女が自分に施した口止めは絶対遵守の命令となるし、彼女が自分に何を望んでいるのかも理解できた。

 今までの戦いぶりからして、彼女が神殺しになりたてであるということはありえない。

 そうすると彼女は今まで、神殺しであるということを世界に対して隠し通してきたということになる。

 そんな彼女が、自身が神殺しであることを打ち明けるような行動をとったのだ。

 それの意味するところなど1つしか思い浮かばない。

 つまり、自分は彼女に味方に引き込むに値すると判断されたということだ。

 正史編纂委員会への連絡を禁じられたことから考えても、彼女は多分自分を正史編纂委員会へのスパイとするつもりなのだな、とそこまで考えて甘粕は泣きたくなった。

 自分は今でも給料分までしか働く気はないのに、どんどん責任と仕事と苦労が向こうからやってきている気がする、と。

 

 しかし、そんなことを考えながら現実逃避気味に眺めていた彼女たちの神域の戦闘は、始終燐音が有利に進めているように見えたのに、いつの間にか燐音が追い詰められる展開へと変わっていた。

 その隣で祐理も思っていたことだが、彼らに対してはアテナへと雨あられと飛ばした先の水弾ですら1発でトドメをさせる。

 そんなレベルの戦闘を繰り広げているから、こちらの状況判断はあてにならないのかもしれないとは思いつつ、今の一撃で燐音が負けてしまった場合どうしようか、と冷や汗が流れる思いもしていた甘粕は、境内へと続く階段を上ってくる2つの足音を聞いた。

 

「万里谷、と誰だ?」

「草薙さん! ご無事だったのですか!」

 

 そこで、燐音が負けそうになる様を見せられていた2人は、救世主がやってきたことに安心が隠せない。

 ここで燐音が敗れた場合、足止めをしなくてはならなくなるのは自分たちだったはずなのだから。

 そこで、ほっと胸を撫でおろしていると、札を通して3人に燐音から念話が入った。

 

『あー、テステス聞こえてるー? とりあえず甘粕さーん、この光景見せたんだから私の意図はだいたい伝わってるよねー? 護堂君にも私の正体は隠してね? それと祐理、さっきはゴルゴネイオン勝手に持って行ってごめんね。多分いつもの如くすっごい心配しているんだろうけど、こっから逆転するためにはこうせざるを得なかったんだよー、あとで謝るからさ、理解してね? さて、それでだ。わらし、護堂君たちも来たしその2人の護衛はもういいよー、こっちにおいで。()()()()()、はじめるよ。それじゃ、私の奥の手、とくとご覧あれ!』

 

 それだけを一方的に告げたその念話は、繋がった時と同じく唐突に切れてしまった。

 言いたいことが色々とあった祐理は、またも怒りがこみ上げそうになってくるが、あそこまでの傷を受けてまで勝とうとする燐音に免じて今は怒らないことにした。

 あとでお説教をすることは決定事項なのだが。

 さて、燐音が望むのならばその存在を隠さねばならない2人。

 救世主がやってきたと思った途端に、それが邪魔になってしまったという現実。

 あそこまで自信満々に念話を飛ばしてきたということは、きっともう護堂たちの出番はないということなのだろう。

 さて、そうするとこの現状を護堂たちに説明する必要性が出てくるのだが……2人してこの状況を護堂たちにどう説明しようか、頭を悩ませることになってしまった。

 なにせ燐音がアテナを夢の中へと引きずり込んだ瞬間、東京中を覆おうとしていた闇は忽然と姿を消してしまったからだ。

 アテナの姿は見えない、闇も消えた。しかし、護堂以外にアテナをなんとかできる存在など今この場にはいないはずなのだ。

 燐音もなんの方針も提示せずに念話を切ってしまったし、そこのところに2人で説明をつけなくてはならないのだが……燐音もかなり無茶な要求をしてくるものだ、と憤慨する祐理、あきらめの境地に達しつつある甘粕。

 しかし、彼らは待ってなどくれない。

 さすが魔王様御一行の面目躍如といったところか。

 

「あら、そこのお二人さん黙りこくってしまってどうかしたのかしら? 私の護堂が誰かと聞いているのに無視するなんて……随分と度胸がお有りなのね」

「はっ、これは申し訳ございません。私、正史編纂委員会の甘粕冬馬と申します。 今回、『まつろわぬ神』と思しき存在が現れたとのことなのでその事実の確認に派遣されました。そちらは草薙護堂様で間違いございませんね?」

「確かに俺が草薙護堂だけど、敬語はやめてくださいよ? 歳上の人に敬語を使われるのは慣れないんです」

「了解しました。それなら、敬語はなしで話させてもらいます。現在アテナは燐音さんが押さえ込んでいます。流石にアテナがあまりにも傍若無人であれば危なかったですが、なんとか交渉の通じる相手でよかったです。現在彼女たちは賭け事の最中です。これで燐音さんが勝利すればこれ以上の被害が出ることはないでしょう。草薙さんには燐音さんが負けたときに備えてもらえますか?」

 

 甘粕はその場で必死にそれっぽい説明をひねり出し、疑われないように喋ったつもりであったようだが、傍から見れば焦りまくって早口になっているわ、汗をダラダラ流しているわで不審者そのものであった。

 その様子からバレてしまうのではないか、と祐理は気が気でなかったが、護堂は何の疑いも抱かなかったようだ。

 それに比べてエリカの方はかなり胡乱気な目つきをしていたが、『王』たちに会うのが初めてなせいで慌てているのかもしれない、と判断したようだ。

 

「賭け事? 燐音さんも豪胆なことするなァ。あの傲慢な神様がまさか神殺し以外の言うことを聞いたっていうのも驚きだけど、まさか賭け事で撃退とか出来そうなところまで持っていくなんて……あの人、すごい人だったんだな」

「そうね、何を賭けてるのかはわからないけれど、もしかしたらここで日本第二のカンピオーネが生まれるかもしれないわよ? まさか、あの女神さま相手に勝負事をふっかけようと思うってあたりからして、常人からかけ離れているとしか思えないしね」

 

 護堂たちが頻りに感心している傍で、裕理と甘粕は肝を冷やしていた。

 エリカの指摘が鋭すぎることもそうだが、先にアテナへと接触していた護堂たちの感覚からすると、アテナはただの人の話は聞かない性格だったようだ。

 大半の神様はそのような傾向を持つと言われているが、そこを疑われなかったのは奇跡としか言い様がない。

 一通りの疑問が氷解したのか、いちゃつきだした2人をほっておいて裕理と甘粕は燐音たちの戦闘に目を戻すことにした。

 すると、一時目を話していた隙に、状況はまたも一変していた!

 

 

                  ◆◆◆◆◆

 

 

 さて、祐理たちにも念話を飛ばしたし、わらしもこちらに来る。

 準備は既に完了した。

 胸を切り裂かれ、後ろへと倒れいく私を見て、アテナは勝ち誇った顔を浮かべている。

 大丈夫、今にその顔を驚愕一色に染め上げてあげるからね!

 まずはこのあからさまに致命傷な傷をどうにかしないと。

 そのためにも一回()()()()()()()()

 手に持った短剣で首を掻っ切る。

 アテナはその奇特な行動を見た時点で驚愕を顔に浮かべているけれど、驚くべきなのはここから先だよ? こんなところで驚いてちゃまだまだだよっと。

 それじゃあ皆さんいっときの間さよならです。またの出会いを心待ちにしておりますっと、()()()()()

 

 一瞬真っ暗になった意識を取り戻したとき、目の前には私の残した短剣をその手に持ち、アテナを私から遠ざけようとしているわらしの姿が。

 ()()()()()私は眠りから醒めたかのように首を振り、ふらふらと揺れる膝を支えながら立ち上がる。

 ヒュプノスの権能、「醒めない眠りはないから(スリーピングビューティ)」。

 眠りから醒める権能。ただし、その眠りとは人の最後に訪れる眠り。つまり死だ。

 簡単に言うと蘇生の権能だね。これを手に入れた経緯はいろいろとこんがらがって厄介だけど、能力の強力さだけは折り紙付きだ。

 さてと、傷も全て治った。アテナは今私にかかずらっていられない。わらしの権能も自在に使えるほどに不運を溜め込んだ。準備は完璧、機は十全。

 

 さぁ、神降ろしを始めよう。

 

「高天原に 神留坐す 神漏岐神漏美の 命以ちて 皇親 神伊邪那岐の大神 筑紫の日向の橘の小門の 阿波岐原に 禊祓へ給ふ時に 生り坐せる 祓戸の大神等 諸々禍事 罪穢を 祓へ給ひ清め給へと 申す事の由を 天津神国津神 八百万神等共に 聞食せと 畏み畏みも 白す」

『たかまのはらに かむづまります かむろぎ かむろみのみこともちて すめみおや かむいざなぎのおおかみ つくしのひむかのたちばのおどの あわぎはらに みそぎはらえたまいしときに なりませるはらいどのおおかみたち もろもろのまがごと つみけがれを はらいたまいきよめたまえと まおすことのよしを あまつかみくにつかみ やおよろずのかみたちともに きこしめせと かしこみかしこみも まおす』

 

「ほう!? 蘇生の権能に、日ノ本の主神の祝詞だと!? 貴女はまだそんな奥の手を隠し持っていたのか! 先の一撃で勝負は完全に決したと妾は思っておったぞ! 来い。その奥の手すら妾が受け止め、今度こそ勝負を決して見せようぞ!」

 

 さすがアテナ、一発でこちらの祝詞の意味を解読したようだ。

 だがもう遅い。たとえその正体が分かり、アイギスを構えたとしてももうこれは止まらない。勝負を決めるのはこちらだ!

 

「『おかめはちもく(ワレ二チカラヲカシタマフ)天照大神!』」

 

 言霊の最後を閉じれば、またしても場に大きな変化が起きる。

 今まで無機質な都会の風景を映し出していた夢の世界は、その神力を浴びて有り様を変容させつつあった。

 辺りは古き鎮守の森を彼方に望む、まっさらな草原と化しつつある。

 空からは不躾なまでに太陽の光が降り注ぎ、風が吹き渡るその草原には遮蔽物など何もない。

 全てを遍くその光で照らし出す大いなる神。天照大神がここに降臨した。

 

「あらあらあら、燐音ちゃんお久しぶりねぇ。今回のお相手はあの女の子? 女の子は大切にしなきゃダメよって、何度も言ってる気がするんだけど……燐音ちゃんたら言うこと聞かないんだから」

『違うんだよ天照のおねーちゃん。アテナを大事にするためにもここでボッコボコにしないといけないんだよ。第一、私と『まつろわぬ神』のお歴々が出会ったら、女の子とか関係なく毎度ドンパチやってるじゃん? そろそろ慣れてほしいなぁ』

 

 天照大神なんてすごい名前を持ってるけど、中身は天然ポケポケのおっとりお姉さんだ。

 しかし侮ることなかれ、性格がぽやぽやしてるくせに、実力はそのネームバリューに見合うだけの破格なものを持っているのだ。

 今回、天照大神を呼び出したのはアメノウズメの権能「おかめはちもく(ワレニチカラヲカシタマフ)」、お笑い、芸能、巫女としての力を司る権能だ。

 この身に神を降ろして代わりに戦ってもらう神降ろし。

 火力不足の私の最終手段だ。

 基本的に呼び出すのは、権能との相性が抜群な天照大神が多いけれど、たまに他の神々を降ろしたりもする。

 ただ、いろいろと厄介な制限があったりするから余り使いたくない。

 最たるものとしては、これを使って弑逆した神の権能は手に入らないということ。

 あとは天照大神に限ったことだけど、陽が昇ることに見合った状況を作り出すことが必要だ。

 他の神様は他の神様で条件があるけど。

 今回はあえて眠りから醒める権能を使って、朝日が昇る状況を再現した。

 そして長大な祝詞を唱え、それを共鳴させて初めて神降ろしができる。

 実際、祝詞を唱える間私は無防備になってしまうから、わらしの手助けが不可欠である。

 まぁ、一回招来に成功すれば私の体の限界が来るか、戦闘が終わるまでは強力な力を振るってくれるので、あとは安心して任せっきりに出来るっていうのはいいことだけど。

 

『さぁ、天照のおねーちゃん! アテナをぼっこぼこにして私に服従誓わせちゃってよ!』

「しょうがないわねぇ。燐音ちゃんの頼みだしねぇ、やれるだけやってみるわぁ。そちらの……アテナさん? 遠慮しないでいくから、死なないように頑張ってねぇ?」

「ふっ、来るが良い! 貴女の奥の手の力見せてもらおう!」

 

 そういってアテナはアイギスを一つに束ね、巨大な大盾を作り上げた。

 それに対して天照大神は、頭上に太陽の力を集めて、擬似的な太陽とでも言える光球を作り出している。

 彼女たちの間には何らかの暗黙の了解があるのだろう。

 一発で雌雄を決するつもりらしい。

 アテナの大盾は次第に強烈な冥府のプレッシャーを帯び始め、天照大神の擬似太陽はだんだんとその輝きを増し、辺りへ所構わず放射を始めている。

 両者の全力を振り絞って集められたその力の具現は、現世だったならば漏れ出した力だけで都市に大打撃を与えるほどの密度となりつつある。

 地中海の女王と倭国の女王。

 夜の神と太陽の神。

 どこまでも相反する二人の女神は、そのどこまでも対極に位置する力の塊を以て、ここに激突した。

 それを、宙にふよふよと浮きつつ眺めている私は、いつの間にか横に退避していたわらしとともに、余りにスペクタクルなその光景を見て、感嘆の息を零していた。

 擬似太陽から放出された一閃の光は、アテナの構える大盾にぶつかり、冷気と熱を散らしあって、爆ぜる。

 熱線と大盾は衝突を続け、辺りに渦巻く異様な規模の呪力嵐をものともせずに、自らこそが勝者だと主張し続ける。

 太陽が統べていた草原を、半分ほど闇が覆い、今夜と昼とがここにせめぎ合っている。

 しかし、だんだんと押され始めたのはアテナの方だ。

 大盾と化したアイギスがあまりの熱量に赤熱し始めている。

 灼熱の光線を受け止めて、さすがの冥府の冷気も限界が来たようだ。

 そもそもが弱点である太陽を司る一撃。

 私が太陽を扱えないと侮って、準備を怠ったからこその劣勢。

 さらに私の言霊で弱体化したところにこの攻撃なのだから、むしろよく耐えたといってもいいくらいだろう。

 ここに決着は決しようとしている。

 大盾はついに赤熱を超え、中心部分が溶解を始めた。

 この一撃をその身に受けてアテナが蒸発しなければいいのだけど……

 今の私には出来ることは何もない。祐理や甘粕さんと同じく、ただこの最後の勝負を見届けることしかできない。

 いつも思うんだ。神降ろしを使う度に私は何をしているんだろうって。

 それでも、これは私の不甲斐なさの象徴であり、力の不足を補ってくれる優しい力だ。

 相手にとっては悪夢でしかないのかもしれないけどね。

 

『終わり、だね。ありがとう、天照のおねーちゃん、そしてアテナ』

 

 その言葉とともに、アテナを天照大神の放った太陽光線が、押し包んだ。

 最後に大盾が溶けきって見えた彼女の顔は、それでも笑っているように見えたんだ。

 もう……あんな満足した顔浮かべて、消えてもらったら困るんだよ、私との賭けがあるんだからね……

 太陽光線はそのまま広がりつつあった闇を打ち払い、草原には光が燦々と降り注ぐ。

 

 ここに決着はついた。

 勝者は……私だ。




いかがだったでしょうか?

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