IS~女の子になった幼馴染   作:ハルナガレ

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更識 楯無&篠ノ之 箒 VS 織斑 一夏&更識 簪

 専用機専用タッグトーナメントが始まり三戦目、とうとう俺達の出番が来た。一試合目は葵とシャル&ラウラが戦い、中盤まで劣勢だった葵が後半から大逆転による勝利。二戦目は鈴&セシリアと先輩二人との試合、観客の多くが先輩二人のペアが勝利すると思ってたが、まさかの鈴&セシリアが勝つ大金星をあげた。

 観客が予想していた展開が悉く覆され、一応教師陣には秘密に行われている勝敗予想の賭けは大荒れらしい。そしてこれから行われる三戦目、この試合もほとんどの生徒が会長と箒のペアが勝つと予想しているらしい。俺達が勝つと予想している人もいるようだが、勝てばラッキーの万馬券扱いで、本当の意味で俺達が勝つと思ってないようだ。

 葵も試合前はこんな感じで、誰からも期待されて無かっただろう。でもあいつはその予想を見事裏切って見せた。なら……次は俺の番だろ! 葵は勝って次に進んだ。なら、次は俺が勝って、あいつを待ち受けてやらないと!

 

 

 

「まさか一夏君と本気で戦う日が、こんなに早く来るなんて思わなったわ」

 

「俺もですよ楯無さん。今日の俺は楯無さんにISを教わる生徒じゃない。持てる全ての力を使って倒させてもらいます」

 試合開始まであと少し。アリーナ内で合図を待っていたら、楯無さんが話しかけてきた。何時もと同じ余裕ある態度で、そこに緊張している様子は全く見えない。

 

「私がいるのを忘れて貰っては困るぞ、一夏。絶対にお前に勝つ!」

 

「勿論忘れてねーよ。箒、お前にも勝ち、決勝に進むのは俺達だ」

 楯無さんが最大の脅威なのは間違いないが、箒も決して油断していい相手ではない。このタッグトーナメントが決まってからは一緒に練習をしていないが、その前までの模擬戦では俺と箒の勝率はほぼ互角だった。簪と一緒に練習しだし、以前よりも強くなった自覚はある。しかし、それは楯無さんの指導を受けた箒にもありえる。しかもこのタッグ戦だと箒のワンオフアビリティ『絢爛舞踏』は凶悪的なまでの性能を発揮する。楯無さんばかりに気を取られたら確実に負けてしまう。

 

「ふむ、ちゃんと私も忘れてないようで安心した」

 俺の返事を聞き、箒は満足そうに頷いたが、

 

「頑張れー箒ちゃん! フレ、フレ、箒ちゃん! お姉ちゃんは箒ちゃんを全力で応援するからねー!」

 

「~~~あのバカ姉!」

 解説席で大声を上げながら笑顔で応援する束さんの声援を聞き、顔を赤くしながら箒は俯いている。そんな箒をおかまいなく、束さんは楽しそうに応援し、その横で千冬姉は束さんを呆れた顔で見ている。

 

「……え~っと、篠ノ之博士は置いといて織斑先生はこの試合はどう予想されます?大方の予想は会長&篠ノ之ペアが勝つと思われてますが?」

 束さんが堂々と箒の応援をしている為、黛先輩は勝敗予想を千冬姉に尋ねている。

 

「それは」

 

「あ、こら君何馬鹿な事をちーちゃんに尋ねてるんだい!」

 千冬姉が何か言いかけたが、それは何やら怒っている束さんの声で遮られた。

 

「ええ!? 私何か変なこと尋ねました? 織斑先生に試合予想をお願いしただけで」

 

「だからそれが馬鹿な質問だよ! 君ね、これから戦うのは箒ちゃんにいっくんなんだよ! ちーちゃんからすれば可愛い弟のいっくんが勝つと思うなんて聞かなくてもわか」

 

「もういい加減お前黙れ!」

 束さんが言いきる前に、千冬姉がアイアンクローで束さんの口を物理的に黙らせた。

 

「……黛、先ほどの質問だが」

 

「あ、いえいえ織斑先生! やっぱりいいです! そうですねこの試合織斑君が出てますからね、織斑先生は遠慮なく織斑君の応援をしてください!」

 

「……あのな黛、家族関係なく私は教師としてそういう」

 

「いいじゃないかちーちゃん! この子の言う通り応援したい人を応援しよう! ほらほらちーちゃん、いっくんに向かって声援送ろう!」

 黛先輩に千冬姉は何か言いかけたが、それは千冬姉のアイアンクローから逃げた束さんの言葉に再度遮られた。

 

「さあちーちゃん、大きな声で大好きないっくんに頑張れーと言っちゃおう!」

 

「だあー!いい加減にしろ!」

 顔を赤くしながら千冬姉は束さんに掴みかかり、束さんはそれに対抗しながら笑顔で千冬姉や、時折こっちを見ている。

 

「清々しいほど私達姉妹が無視されてるけど、お姉ちゃん! 今日の試合は勝たせてもらうからね!」

 

「ええ簪ちゃん、それはこっちの台詞だからね。そういえば……私達仲良し姉妹が本気で勝負するなんていつ以来かしら?」

そして解説席でじゃれあっている千冬姉と束さんを横目で見ながら、簪と楯無さんが対峙している。

 

「確か……最後に私達が戦ったのは1ヵ月前通販限定のお取り寄せケーキのあまりをどっちが貰うかだった」

 

「あの時はお姉ちゃんが勝ったわね」

 

「あの時のケーキの恨み、ここで返す!」

 

「返品してあげるわ簪ちゃん!」

 互いに負けられないと主張をする楯無さんと簪だが……うん、仲良いよなこの二人。そんなことでIS戦するなよとか思ったりするけど。

 なんかグダグダな雰囲気が流れたが、その後山田先生からアナウンスが流れ俺達は試合開始地点まで誘導された。

 俺達が開始位置につくと、

 

「ではこれより第三試合、更識楯無&篠ノ之箒 VS 織斑一夏&更識簪の試合を行います。始め!」

 山田先生の合図により、試合開始された。

 

 

 

 

 

 

 更識 楯無&篠ノ之 箒 VS 織斑 一夏&更識 簪。

 この試合、開始と同時に一夏は箒に、箒は一夏目掛けて互いに接近し接触。数秒後には一夏の雪片弐型が、箒の雨月と空裂が打ち鳴らす剣劇の音がアリーナに響き渡った。右手に空裂、左手に雨月を持つ二刀流の箒の連撃を、一夏は雪片弐型を両手に持ちながら弾き返していく。

試合開始10分が経過するも、両者未だに有効打を浴びせられないでいた。

 

「いけー箒ちゃん! いっくんを打ち倒すんだ! 頑張れ頑張れ箒ちゃん! うーんいっくんも夏の頃より強くなってるし、ちーちゃんこの試合は永久保存決定だね!」

 

「おおおお!織斑選手に篠ノ之選手! 物凄い剣劇の応酬です! 織斑先生、弟の織斑選手の攻防について何か意見お願いします!」

 

「黛! お前いい加減にしろ!」

 前の試合ではあからさまに眠そうな顔で試合観戦していた束だったが、この試合は開始直後からハイテンションで試合を観戦している。主に箒に対する応援8割、残り二割は一夏と千冬に対する話であり、更識姉妹に関する話題が一切ない。

 

「織斑選手と篠ノ之選手の攻防も凄いですが、更識姉妹による戦いも負けてはいません! いや、というかこっちの方がレベルが違う!」

 束が更識姉妹はガン無視し千冬に絡んだりしてるので、更識姉妹に関する内容は黛が主に放送しているのだが、黛は更識姉妹の戦いを眺めながらただひたすら感心していた。

 黛が言ったレベルが違う。これは黛が本心から思う言葉だった。

 

 楯無がナノマシンによって超高周波振動を起こした水を纏うランス、蒼流旋を簪に振るうが、簪は対複合装甲用超振動薙刀≪夢現≫を両手に持ち応戦。両者の武器が互いに打ち合うと同時に簪は背中に搭載されている連射荷電粒子砲≪春雷≫を二門至近距離から放つ。

 楯無は春雷から放たれる連射をアクアクリスタルを変形させ、水のヴェールを形成し攻撃を無効にし、蒼流旋を繰り出しながらその先端に搭載されているガトリングガンを簪に浴びせる。簪は打鉄に搭載されている防御シールドを展開させ防ぐが、これだけではガードを突破されるのですぐに連射から距離を取って逃げる。楯無はすぐに逃げる簪に蒼流旋を向けるも、

 

「おおっと!」

 突然楯無は簪の追撃を止めその場に大きくしゃがんだ。しゃがんだ楯無の頭上すれすれを、簪が楯無の頭すぐ横に展開させた対IS用ライフルの徹甲弾が通過した。掃射と同時に簪はライフルを収納し、すぐさま簪の周辺に対IS用ライフルが再度展開。他にもショットガン、グレネードランチャーと10数の重火器を展開させ、それらをPICを応用し固定。重火器全ての照準は眼前の楯無に合わせられており、一斉射撃を行った。

 簪が展開した重火器の弾丸の嵐が眼前の楯無の体を貫いていくが、それらの攻撃を受けた瞬間楯無の体は爆発した。

 

「水の分身……いつの間に」

 デコイに全力攻撃してしまったと簪は悔しがり、すぐにハイパーセンサーを巡らせ楯無の居場所を探すも、

 

「甘いね簪ちゃん!」

 楯無は簪が気が付く前に、簪の背後を蒼流旋で強打。衝撃に吹き飛ぶ簪だが、強打されると同時に簪は背中から高性能爆薬弾道ミサイルを8発展開させ発射。至近距離にいた楯無に8発のミサイルをぶつけた。楯無は慌てて後退しながら水のヴェールを纏い、ガトリングガンを撃ち迎撃するも間に合わず、6発は撃墜できたが残り2発は楯無に着弾し大爆発を起こした。

 

 

 

「自分から離れた場所でも武装を明確にイメージし展開させることが出来る簪に、簪相手に気付かれず水の分身を作り出したり、あの至近距離でもミサイルを冷静に迎撃してのけた会長。流石というべきか、今のところほぼ二人は互角ね」

 アリーナの観客席に座りながら、葵は試合を観戦していた。鈴・セシリアペアに勝てた場合、次に戦うのはこの試合の勝者な為、少しでも相手の手口を知ろうとしている。

 

「一夏と箒の方も今のところほぼ互角、といったとこだし……この試合、どっちかが流れを傾けた瞬間に一気に決まりそうね」

 試合を観戦しながら、葵はそう結論づけた。そしてその瞬間はそう遠くないと、葵は一夏と箒の戦いを眺めながら思った。

 

 

(どういうわけだ? ほんの1ヵ月前は私は一夏とほぼ互角だったはずなのに……)

 試合開始から15分経過。箒と一夏、未だに両者有効打を浴びせていないが、剣を打ち合いながら箒はある変化に気が付いた。

 試合開始直後は一夏と箒、互いにIS戦における剣の技量はほぼ互角だった。しかし開始から15分経った現在、箒は―――若干だが一夏に押されだした。

 打ち合う剣の威力、これが時が経てば疲労が増し本来なら鈍っていくはずなのに、一夏は逆に時が経つほどに早く鋭く、そして重くなっていった。

 

(一夏め! 久しぶりに会った時は剣を鈍らせた大馬鹿者だったのに! しかも最近でも剣道では未だ私にまともに一本取れないのに何故IS戦だとここまで打ち合える!?)

 剣道での一夏とIS戦での一夏。この違いに普段から箒は不思議だった。昔、一夏は剣道と篠ノ之流剣術を熱心に練習し、その実力は葵や箒よりも上回っていた。箒が転校後は練習をしなくなり、IS学園入学する頃には昔と違い一夏は箒達よりも弱くなった。その後一夏はIS学園の剣道部に入部し、メキメキと腕を上げていったが未だに剣道では箒や葵には勝てていない。しかし、IS戦で勝負すると一夏は箒とも葵とも互角に戦えている。

 何故と思いながらも箒は眼前にいる一夏の顔を見て、箒の顔は若干熱を帯びた

 

(ああ、うん。まあそういうことなんだろうか)

 一夏が浮かべている表情。それはかつて一夏が浮かべていた――誰よりも強くなってやると目的を持った時の顔。そしてそれは……箒が一夏に惚れた顔であった。

 

(今の一夏は剣道でなく、このISで誰にも負けたくない、強くなりたいとしてるのだな……)

 そのことに箒の胸は若干痛んだ。一夏が強くなりたい理由、それは世界で唯一男性でISを操縦出来るから一夏は強くなりたいとかではない。一夏が強くなりたいと思う理由、そして目標にしている相手が誰だかわかるからだ。そしてそれは箒ではないということも。

 

(しかし一夏の目標の相手が私でなくとも、今の一夏が全力を持って挑んでいる相手はこの私だ! なら私もそれに応え、全力で挑むまで!)

 箒は大きく後退すると、右腕を左肩まで持って行った。篠ノ之流剣術流二刀型・盾刃の構えをした箒に、一夏も箒が纏う空気が変わったのを察したが、今押しているのは自分と思った一夏は攻撃の手を緩めない。しかし今まで以上に箒の挙動に意識を集中しだした。

 

(チャンスは一回。今の一夏に有効な戦法。それは――)

 箒の脳裏に、夏休み期間中に起きた葵と楯無の試合の光景が思い浮かんだ。劣勢だった葵が楯無に起死回生した戦法。篠ノ之流剣術の技の一つ、二刀流で行われる相手の武器を手放させる武器払い。IS戦でも篠ノ之流の剣術は通用すると証明した葵の姿を箒は思い出しながら、実行した。

 

 一夏から繰り出される袈裟斬りの一撃。これに箒はタイミングを計り練習通りに実行した。

(よし、この手応え!)

 箒が行った篠ノ之流武器払いの業。これは一夏の雪片弐型に箒の雨月と空裂が接触し、絶妙のタイミングで繰り出されたのだが、

 

「ああああああああ!!」

 武器が払われる一瞬前、箒がやろうとした意図を見抜いた一夏は、裂帛の気合の声と共に雪片弐型に力を入れて箒の業を力づくで打ち破った。武器を打ち払うはずが、逆に一夏の一撃によって箒の武器は両の手から離れてしまった。

 そしてその致命的なチャンスを―――、一夏は見逃さなかった。

 すぐさま一夏は箒にさらに接近し、至近距離で箒の胸に零落白夜を展開させた雪片弐型で斬りつけた。零落白夜の一撃によって箒の紅椿の絶対防御は発動し、箒のシールドエネルギーは急速に失っていく。このまま押し切れば勝てると一夏は確信したが、

 

「まだだ!まだ終わっていない!!」

 そう叫ぶ箒の全身から黄金の粒子が溢れ覆っていく。箒のワンオフアビリティ『絢爛舞踏』が発動し箒のシールドエネルギーの減少は停滞。そして紅椿の展開装甲からレーザー群を発射させて眼前の一夏の機体を吹き飛ばした。

 箒は残りシールドエネルギーを確認。かろうじてまだ残っているがこれではすぐに無くなってしまう。その為箒は絢爛舞踏を発動させながら一夏から距離を取るようにした。当然一夏は箒を追いかけるが、二人の向かった先には激しい攻防を繰り広げてる更識姉妹の姿があった。

 

 

 

「ハイハイハイハイ~!」

 

「無駄無駄無駄無駄~!」

 楯無と簪、互いに持てる武装をフル活用しながら世界最高峰の姉妹喧嘩を継続している。

 試合開始から20分が過ぎ、楯無と簪のシールドエネルギーは半分近く減っていた。その減った量は全く同じであり、両者互角の戦いを繰り広げているがすでに互いに手詰まり感が漂っていた。技量に置いて二人の間に差はなく、この膠着状態をなんとか打破できないか二人は必死で策を巡らしていると、

 

「ん? あれは箒ちゃん?!」

 

「あ、馬鹿一夏! こっち来るな」

 試合開始からずっと離れた場所で戦っていた箒と一夏が、楯無と簪がいる方角に向かっている姿を二人は捉えた。絢爛舞踏を発動しながらこちらに逃げている箒に、その箒を倒すべく追いすがる一夏。簪は二人がこちらに向かって来て焦るのに対し、楯無は向かってくる箒に笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 一夏の零落白夜の一撃を受け、態勢を立て直すべく無我夢中で距離を取ろうとした箒だがいつの間にか楯無と簪が戦っている近くまで来ていた。

 

(箒ちゃん! そのままこっち来て簪ちゃんに雨月でも空裂でもいいから攻撃して!)

 箒の頭に楯無からプライベート・チャネルで指示が来て、箒はそれをすぐに実行。雨月を突き出して簪目掛けてレーザー弾を放射。同時に紅椿の展開装甲からレーザー群を撃ち出し簪を攻撃した。

 楯無と交戦中に攻撃された簪は攻撃を逃れようとしたが、無理に避けた為大勢を崩し、その隙を楯無は見逃さず蒼流旋の簪に振り下ろし地面まで叩きつけた。

 

「簪!」

 簪攻撃後、箒はすぐに方向転回し一夏を迎えうつ。また互いの武器が打ち合われるが、勢いに乗る一夏に対し箒は劣勢だった。防戦に追い込まれる箒に一夏はさらに攻撃を繰り出すが、

 

「はい、今度は私の番!」

 一夏の上空に移動した楯無からガトリングガンを掃射され、被弾した一夏は簪の近くまで落下。

 それを見届けた楯無は勝機と思いすぐさまミステリアス・レイディの専用パッケージ

麗しきクリースナーヤを展開し接続。二人が行動を起こす前に自身の最強の必殺技であるワンオフアビリティ“セックヴァベック”を発動させて簪と一夏の動きを拘束した。

 

「勝った」

 切り札であるワンオフアビリティが完全に決まったのを見届けると、楯無は勝利を確信した。

 

 

 

 

「か、体が動かない……」

 箒に零落白夜の一撃を決め、あと一歩で勝てると箒を追っていたら楯無さんからガトリングガンを喰らい撃墜し、すぐに反撃しようと上空に飛ぼうとしてるが……ラウラのAICを受けたかのように全身が拘束されている。

 

(動こうとしても無駄よ、これお姉ちゃんの切り札の沈む床だもの。超広範囲指定型空間拘束結界で、拘束力はボーデヴィッヒさんのAICより強力だよ)

 なんとか体を動かせないかもがいてると、簪からプライベート・チャネルが来た。

 

(これにかかったら抜け出すのは無理。一夏の零落白夜も腕が動かせないと斬れないでしょ。完全に私達捕まったわ)

 視線を向けると簪も空中で楯無さん達がいる上空を睨んだ状態で拘束されていた。

 

(はあ!? おいおいじゃあ俺達……)

 簪の言葉に、俺の全身に絶望が覆っていく。簪の言う通り、何でも切断する俺の零落白夜も腕が動かせないと斬れない。俺と同様に簪も全身を拘束されているから反撃が出来ない。

 

 え、じゃあ……俺達は負け、た?

 

 脳裏に浮かぶ敗北の現実。それは全身動かせないこの状況が無情にも肯定させる。視線を上に向けると、結界の範囲外では楯無さんが蒼流旋に水のナノマシンを纏わりつかせ、高速で振動させている。箒も楯無さんよりさらに上空で肩の展開装甲を展開させ、弓のような武装をこちらに向けている。あれが何かわからないが、直感であれを受けたら不味いのは理解した。

 完全に詰んだ状況を見て、もう勝てないのだとわかった。

 

 ああ、こりゃ負けだ

 

 

 

 ああ、だからしょうが……ないわけあるか!

 

 

 

 

 諦めるな、どんなに劣勢でも、どんなに勝てる見込みがなくとも、諦めるのだけは駄目だ!

 最後の最後まで勝つことを諦めなければ、勝負は最後までわからない! それをあいつが、葵が証明して見せただろ!

 

(いい顔じゃない)

 どうにかこの状況を打破できないか必死で考えていたら、再び簪からプライベート・チャネルが届いた。視線を再び簪の方に向けると、

 

 簪は上空を睨みながら――笑っていた。そこに負けるという絶望は見えず、最後まで足掻こうとする意志が見えた。

 

(勝手に絶望してたらもう負けようと思ったけど、一夏が諦めてないならいけるわ!)

 

(誰が諦めるかよ! でも簪、何か策があるのか!?)

 

(あるけどもう時間がない! 一夏、これが上手くいけばお姉ちゃんの沈む床の拘束は解けるから、後は任せた!)

 上手くいけばって何だよ? と思った瞬間、上空で弓を構えていた箒が行動を起こした。準備が終わったのか、照準を簪の方に向け弓を発射させ――

 

「!!?」

 発射しようとするほんの一瞬前に―――箒の腕のすぐ横に対IS用のライフルが展開され、箒の側面を撃ちぬいた。

 突然出現したライフルの銃撃をまともに受けた箒は体勢を崩しながら弓を発射。発射された矢は軌道をそれ、下にいた楯無さんに向かっていった。

 

「!?」

 箒の攻撃がまさか自分に来るとは思わなかったのだろう、楯無さんは箒の一撃をまともに受けてしまい、衝撃で地面に叩きつけられた。

 楯無さんが地面に叩きつけれたと同時に―――俺達の拘束は解かれた。

 

 俺は拘束が無くなったと同時に地面にいる楯無さんに向かってスラスターを最大噴射で接近した。地面に叩きつけらえた楯無さんは、俺が向かってくるのを気付き、蒼流旋を構えて迎撃態勢を取る。

 

 

  一夏、イメージして。イメージするのは、常に最強の自分。ISに必要なのは、そのイメージだから

 

 かつて簪に言われた言葉が脳裏によぎる。そう、イメージだ。イメージするのは常に最強の姿! かつて俺の目の前で見せてくれた千冬姉と束さんのあの剣術! それを俺が振るうイメージ!

 楯無さんの至近距離まで来た俺に、楯無さんは牽制しようと蒼流旋を繰り出す。俺はその蒼流旋目掛けて剣を振りきった。

 

 楯無さんの蒼流旋に俺の雪片弐型が打ち合った瞬間――楯無さんの蒼流旋は砕けちった。

 

 篠ノ之流奥義の一つ。断刀の太刀。学園祭で裕也との決闘時に使用した、相手の武器破壊を目的とした業。あの後俺は千冬姉に頼み込み、再度この業を練習したんだ。実戦で初めてやったが、今の俺ならISでも再現出来ると信じ、実行しかろうじて成功して見せた。

 蒼流旋の槍先が砕けたことに楯無さんが驚愕しているが、俺は最後のチャンスとばかりに剣を構える。

 イメージするのは居合。千冬姉が世界一を獲った、あの居合の姿。

 蒼流旋が砕かれたショックを受けた楯無さんだが、自分が攻撃されるとわかり水の盾を作り守ろうとしているが、俺はお構いなしに居合を放った。

 剣を振りぬくと同時に俺は零落白夜を発動させ、楯無さんの水の盾を斬り裂き雪片弐型の刃は楯無さんに直撃。絶対防御を発動させ楯無さんのシールドエネルギーは急速に無くなり――0となった。

 

「か、勝てた……」

 俺は茫然としながら、掲示板に移されている楯無さんの数値を眺める。そこに映されている数値は0。俺の攻撃は完全に楯無さんを打倒していた。

 眼前の楯無さんを見ると、楯無さんは信じられないといった顔で自身の数値と俺を交互に見つめていたが、大きくため息をつくと

 

「全く、早すぎる師匠越えでしょ」

 苦笑いを浮かべながら言って、俺の胸を叩いた。

 

「言いたいことはいっぱいあるけど、まだ試合終わってないわよ」

 楯無さんの言葉で、俺は慌ててハイパーセンサーを使い簪と箒の姿を探した。そして二人が戦っている場所を見つけ、この試合を終わらせるべくその場所に向かった。

 

 そして簪相手に箒も奮闘していたが、簪の射撃と薙刀の一撃に翻弄されている間に俺は再度零落白夜を発動させ、その一撃を箒に与えた。

 

 こうして、俺達の勝利は決まった。

 

 

 

 

「残念だったね~箒ちゃん。でもよく頑張ってたよ! 悔しいでしょお姉ちゃんの胸で泣いていいんだよ~!」

 

「ええい、離してください! 誰も泣いていません!」

 試合が終わり俺達はISを解除すると、束さんが一直線に箒に抱き着き傷心?している箒を慰めている。……まあ箒は大声で喚いて否定してるけど。

 

「いやあ~まさかの大逆転! まさかまさかのどんでん返し! 会長の切り札が発動し、勝利が確定したかと思ったらそこから試合をひっくり返すだなんて! この大会最優勝候補の更識 楯無&篠ノ之 箒ペアを下し、織斑 一夏&更識 簪が勝利だあ!」

 解説席で黛さんが大興奮している。いや黛さんだけでなく、会場にいる多くの生徒が大騒ぎだ。優勝候補を俺達が倒したのもあるが、あの絶望的な状況をひっくり返した俺達に皆驚いてるようだ。

 その立役者である簪に視線を向けると、

 

 

 簪は片膝をついて右手で頭を押さえながら地面に蹲っていた。

 

「簪!?」

 俺は慌てて簪に近づき、そこで俺は簪の耳と鼻から血が流れているのを知った。

 

「無茶しすぎよ簪ちゃん……」

 動揺する俺に楯無さんが簪の前に現れ、

 

「簪ちゃん、まずは医務室に行って横になりましょ」

 

「……うん、我ながらあれは無茶しすぎた」

 楯無さんの言葉に簪は素直に頷き、楯無さんは簪をお姫様だっこした。

 

「楯無さん、簪に一体何が……」

 

「簪ちゃん私のワンオフアビリティを受けてた時、あんなに離れた場所にいた箒ちゃんのすぐ横にライフルを展開させ精密射撃したでしょ。あれってはっきり言っていくらハイパーセンサーがあるからと言っても、人間の知覚領域を大幅に超えた無茶なものなのよ。脳の情報処理のキャパを超えた結果こうなってるの」

 

 

「簪……お前なんて無茶して」

 

「でもこうでもしないとお姉ちゃん達には勝てなかったもの」

 

「……あの簪ちゃんがここまで勝利に拘るなんて、一体誰の影響かしらね」

 簪の返事に呆れてる楯無さんだが、目は何故か嬉しそうだった。

 

「あの時、一夏は最後まで諦めていなかった。だからそのパートナーである私も、諦めるわけにはいかないの」

 あの時俺は必死で諦めないでいたが、簪もやれることを必死で考えそれを実行してくれたのか。

 

「無茶しやがって……でも簪、ありがとう」

 

「どういたしまして」

 

「そういう気概を簪ちゃんはもっと普段から持ってほしいわあ」

 苦笑しながら、楯無さんは簪を抱きながら医務室に向かった。別れ際簪が右手を俺に向け持ち上げたので、俺は簪の右手に向かって右手を叩いた。

 

「次も勝つわよ」

 

「当然だ」

 




Bリーグ試合結果


×更識 楯無&篠ノ之 箒 VS 〇織斑 一夏&更識 簪


一回勝ったらもう決勝というのもトーナメントしてどうかと思ったりします。

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