最近一夏が俺を監視? ストーキング? している事を鈴達に相談したら、
「ごめん、それわたしのせいだから」
「すまない、一夏がそうなったのは私が余計な事を言ったからだ」
何故か鈴と箒に謝られてしまった。……何だそれ?
「鈴さん箒さん、どういうことですの?」
意味が解らないのは俺だけでなく、セシリアも困惑した顔で二人に尋ねた。シャルもラウラも似たような表情を浮かべている。
「いやさ、実はあたしと箒あんたに相談される前に、一夏から相談を受けたのよ」
「一夏から?」
「その相談内容なんだが葵、一夏はお前が昔と変わってしまいわからなくなったと言っていた」
「はあ?」
何を今更言ってるんだあいつは?
「正直そんな質問答えるのも馬鹿らしいから、あたしと箒は一夏にこういったのよ。『今の葵の姿良く見たら? それが答えだから』ってね。……そしたらあの馬鹿ああなっちゃったのよ」
「……そしてそこまで見てるのに気付かない一夏もどうかしている。葵は最初から答えを言っているというのに」
そう言って鈴と箒は溜息をついた。そうか、一夏が俺を見ていたのはそういう事か。
ん? いやちょっと待て。
「ねえ箒、鈴。私を見てたらわかるってどういうこと?」
見てたらわかる。それってつまり……。
「どういうこともなにも」
「葵。お前は本当の意味で、もう女として自覚しているという事だ」
俺の質問に、鈴と箒が答えた返事は
―――私にとって一夏に一番気付いてほしくない真実だった。
「いいか~猿渡~! お前がさっき言っていた妄想は~まず根本的に違う所があるんだよ!」
米から出来た般若湯を飲みながら、俺は先程の猿渡が言った妄想を否定する。
「お、なんだよ織斑。ヤッテないとこがか?」
「それは当たり前のことだろうが! そうじゃなくてだな~まず葵はなあ、シャワーとか浴びてもその後バスタオル一枚姿で出るとかねえから! 一度も無かったよそんな美味しいイベント! 千冬姉はやってるのに!」
あんにゃろう、元男の癖にシャワー浴びた後はきっちり着替えてから出てきやがる! 少しはサービスしてくれてもいいだろ! そして横で御手洗達が『千冬さんのバスタオル姿! テメエ自慢かコラ!』と言いながら俺に詰め寄ってきたが、それを俺は強引に振りほどく。
「それにお前等勘違いしてると思うが、あいつって着替えとか洗面所や俺がいない内に全て終わらせてるんだぜ! 生着替えとか俺見た事ねえよ!」」
「お、落ちつけ織斑! わかったからわかったから」
「一夏相当酔ってないか? 普段なら一夏がこんなぶっちゃけ話しないんだが?」
「……結構さ、いや般若湯に弱いんだな織斑は」
「うるせー、お前等がコレもってきたんだろうが!」
そして俺は、御手洗が作っているコーヒーから出来た般若湯牛乳割りをひったくり勢いよく飲み干す。うん、甘くてジュースみたいだな。葵は甘いの好きだから飲んだらハマるかもしれない。
「あ! 俺のカルー、いや般若湯を!」
「それになあ、さっきの妄想じゃあいつ女口調だったけど、普段俺と一緒にいる時は昔の口調まんまだぞ。 葵は外じゃ猫被って女っぽく振舞ってるけど、部屋じゃ完全に昔に戻ってるんだよ!」
大声出してまた喉が渇いたので、俺は大石がコップにオレンジジュースを注いでいたのを見ると、それをひったくり一気に飲み干す。 ? 妙な味のするオレンジジュースだな。
「おい一夏、勝手に人の飲むな。そしてお前そろそろ落ち着け」
「うるせー。俺は落ち着いてるよ」
ったく何を皆言ってるんだ? しかしさっきから妙に気分が良い。そしてなんか知らんが勝手に口が動いてる気がする。
「部屋でのあいつの姿が、本当の素なんだよ。外で見るあいつの行動は、演技でしかたなくやってるんだ……そう思ってたんだけどなあ」
でも……裕也の話じゃあいつ、中学の、それも女になってわずか半年しか経ってない時には、今自室以外では見せている猫かぶりモードで突き通してたらしい。決して裕也達の前では、男だった頃の素振り何て見せなかった。
じゃあ二年振りに再会した時、あいつは何で昔の態度で俺達に接してきたんだよ? それまで決して人前では男だった時の素振りみせなかったのに。わからん、わからない……やば、考え事し過ぎてなんか急に俺気分が悪くなってきた。頭が妙にグルグル回っていく。
急に気分が悪くなってきたので、俺はテーブルに突っ伏す事にした。あ、テーブルがひんやりしてて気持ち良い。
「……なあ一夏、一つ確認するぞ?」
テーブルのひんやり感を堪能していたら、上から弾が話しかけてきた。
「あ? 何を?」
「だからその、部屋では葵って昔の口調で話すって所だよ」
「ああ、さっきからそう言っているだろ」
何度も言わせるよなと思いながら弾に返事すると、弾は俺の返事を聞いたら「ん~?」と唸りだした。
「……なあ一夏、その部屋以外では二人きりでいる時以外は、外では葵は女口調で話すんだよな?」
「だからそうだって」
「ああ、俺も葵と二人だけでいる時が何回かあったけど葵は昔の口調で話した事は無いな。あったのは久しぶりに再会した時だけだ」
ああ、そういや葵の奴女になってから初めて弾と再会した時は、『私を葵と認識してもらうため』とか言って弾の前では男口調で話してたな。それから鈴に注意された後は女口調に戻してたっけ。そして……ふうん、そうか。葵……弾の前でも裕也と同じように、決して男には戻らなかったのか。
あ~、じゃああの時も似た理由で、俺と箒に葵と認識させるためにやったって事なんだろうか?
「プールで遊びに行った時も釣りしてた時も、他にも葵と二人だけの時はあったが、あいつと一緒にいて俺が思った感想は―――もはや男としてでなく、完全に女としての人生楽しんでるなあと」
……なんだ、妙に弾に対し理由も無くムカつくんだが? しかし……部屋での様子を知らない弾からしたら、葵に対しそう思うのか。
「だから俺からしたら……その、部屋でお前と一緒にいる時の葵の行動の方が、今の葵にとって猫かぶりなんじゃないか?」
「……!」
弾がためらいがちに言った言葉。それを聞いた瞬間、最近俺の中でその言葉の意味を理解し―――何故か理由も無く俺の心は焦りだしていった。
弾の言った、部屋での葵の姿が偽り。それは、俺がここ最近薄々思っていたことでもあった。しかし、何故弾にその指摘をされると俺は焦っているんだろうか?
「なあ織斑に弾。さっきから横で聞いてたけどお前等難しく考えすぎなんじゃね?」
弾の言葉にしばし呆然としていたら、猿渡が顔を赤くしながら呆れた声を出した。
「俺は青崎とは中学時代の時しか知らないけどよ、ようは青崎は自室で織斑といる時だけ男時代に戻ってるってわけだな? じゃあ単純に織斑という幼馴染の前では織斑の言う素を出してるってだけでいいんじゃね?」
「だよなあ。別に弾の前では今の女の振る舞いしか見せないとかって、それが何か問題あるのか?むしろ織斑だから信用して素に戻ってるだけじゃないのか?」
猿渡の主張に、大石も頷いていく。
「そもそも織斑、何でこんな事でお前グチグチ悩んでるんだ? 青崎と再会してもう数ヶ月経ってんだろ? それが何で今更青崎が解らないなんて言いだすんだ? お前が悩みだした発端の原因ってなんだよ。青崎が変わったとか言われても、普段会って無い俺達からしたらそれ聞かないと答えようがない」
さらに御手洗が呆れた顔をしながら、ここ最近俺が悩む原因となった出来事を聞いてきたので、俺は答える事にした。
「グチグチって……ああ、発端の原因? それは……IS学園で葵に告白した裕也ってのがいたんだが、そいつが葵は裕也の前では一度も男の時の口調や振る舞いをしなかったと言ってたんだよ」
「ふんふん、それで?」
「いや、それで終わりだ」
続きを促す大石に、俺が終わりだというと、猿渡に大石、御手洗は『はあ?』と呆れた声を出した。
「……なあ織斑、そんなことで何で急に青崎の事が解らなくなるんだ? さっき言った猿渡と同じ理屈じゃないのか?」
「いやだってよ、葵の奴島根では裕也とその友達等がいたから救われたとか言ってたけど、その連中にも葵は素の姿を見せないんだぞ?」
「……いや一夏、それって別に変じゃないだろう。前葵が言っていたが、島根にいる時はまだ自分の正体をおおっぴらに言う訳にはいかなかったと言ってたんだし」
「でもよ弾、聞いた限りじゃ葵が蹴落とした元代表候補生に学校で元男だとバラされたと言っていたぞ。それでも葵は、裕也達の前では男に戻らなかった!」
島根にいた時は、裕也達がいたから救われた。葵はそう言っていた。
そこまで救われた相手なのに、葵は本当の姿、男には決して戻らなかったんだ。
「……いや織斑さ、それのどこが問題なんだよ? よく考えてみろよ、青崎は女の人生選択して、女として島根の学校に転校したんだろう。これは青崎にとって、女になってからの最初の第一歩の学校生活だぞ。女になると決心し、女として振舞ってきたのに、そこで正体バラされたからと言って、何で男に戻る必要がある? 今までの苦労が全て水の泡じゃねーか」
「その裕也達ってのと青崎が仲良かったようだけど、何で青崎が今更態度変えなければいけないと思うお前の考えも理解できない。青崎は女の子としてそいつらと友情作ったんだろう? 青崎からしたら女になって初めて出来た男友達だ。それをなんで青崎から根底をぶち壊すような真似するんだよ? それにその裕也達も青崎が男時代に戻るより、今のままの方が嬉しいに決まってるだろ」
「あ、いや、それは……」
葵が裕也達に男時代の姿を見せなかったことに納得しない俺に、御手洗や大石が本当に呆れた顔を声を出しながら、葵の行動を分析し俺に指摘する。御手洗や大石の言葉の意味が理解できない訳じゃ無い。それは……ここ最近、その可能性もあるなあと俺自身わかっていた事だ。
「……まあ、そういう可能性はあるな」
「いやそうだろ、可能性としてはかなり高いだろう?」
「まあな」
御手洗の言う通り、それが答えなんだろうが……何でだ、皆が納得する答えが今出ているのに、俺が納得できないこの気持ちは?
「そうそう、その裕也達ってのに青崎が女の姿で通したのはそんな理由で、弾にも女の姿で通したのは青崎の女としての人生歩むという決意の表れだろ。男時代を知っている奴にも、今はもう女だって、女として見ろという事だと思うぞ。だから弾の前でも男には戻らなかったんじゃないか? そして幼馴染のお前の前では息抜きみたいな感じで昔に戻っている。お前難しく考えすぎてたけど、実際はこんな単純な事なんだよ」
大石はそう言って、軽く笑いながら俺の肩を叩いていく。周りを見ると猿渡に御手洗も頷いていた。
そうか、そんなもんなのか? 俺が難しく考えてるだけで、あいつは何も変わっていないのか?
御手洗達に葵の態度の違いは、俺が葵の幼馴染だからと諭され、葵にとって俺はある意味特別なんだとわかり嬉しいはずなんだけど……何で俺、まだ納得いかない、そして焦る気持ちが抑えられないんだろう?
「私が女として受け入れてるって……それこそ今更じゃない? 私はあの登校初日の時に、そう言ったつもりだけど?」
私がそう言うと、鈴が少し顔の端を上げ、ニヤッと笑った。箒を見ると、鈴と同じような顔をしている。
「ええ、あんたはそう言ったわね。その姿してる時点で、そうなんだろうけど……葵、あんたはあの時少し小細工をしたじゃない」
「小細工? 何の事?」
「とぼけるな。葵、あの久しぶりに会った時、お前は私達の前では昔の口調と態度で接したではないか。 あれが私達を騙すためだったとは言わせないぞ」
鈴の指摘にとぼけたら、箒からも指摘された。ああ、やっぱりもうこの二人にはバレてるのね。
セシリア達を見ると、セシリアにシャルロットは、どうやら鈴と箒が何を言っているのか理解してるっぽいかな。ラウラはわからないのか、頭に?が浮かんでいるのが見える。
皆の視線が私に集中する。……ああ、こりゃもう年貢の納め時かなあ。今まで頑張ってきたけど、さすがにもう誤魔化すのは無理かあ。
覚悟を決めた私に、
「つまりあんたは……久しぶりに再会したあの日に、わざと男らしく振舞う事によってあたし達にあんたがまだ中身男だという事を認識させたかった。違う?」
「……正解。まあ今更否定しないから言うけど……うん、大体正解、かな」
鈴が自信を持った顔で真実を言ってしまったので……私はもう認める事にした。
「……よくわからないのだが? 葵は何でそんな事をしたのだ?」
「あ~それは……」
私が認めると、ラウラが何故そんな事をしたのかと言う疑問を私に尋ねてきた。
理由は幾つかあるけど……これは慎重に答えないといけない。全部言ってしまうと、さすがにここにいる皆が怒る。
「あ~うん、まあ一番の理由だけど……一夏と親友としての関係維持したかったから」
「? 嫁がお前の事を中身男だと思わせるのが、それと関係あるのか?」
「大有りよ。一夏ってIS学園という女子高に入学して、まあ皆からしたら不服かもしれないけど、相当居心地悪かったみたいだし」
「……ああ、うん。それ僕はよ~く知ってるよ。男の仲間が出来たと喜んでいた一夏は、僕に凄く積極的に関わろうとしてたもん」
あ~シャルロットが男装してた時の話は私も聞いたけど、相当一夏男友達に飢えてたんだなあと思ったわね。……一緒に着替えようとか、普通は言わないけど今まで一人で着替えてたし、ちょっとしたことでも男同士の会話したかったんだろうなあ。
「そんな一夏に、長年一緒にいた幼馴染が女になってるだけでも驚愕なのに、『私もう女の子だから、女の子として扱ってね』みたいな事一夏に押し付けたら、一夏の心は許容オーバーでパンクしちゃうわよ。だから私は最初にああやって振舞う事で一夏に中身は変わってないアピールし、一夏が私に昔みたいに気軽に接する事ができるように仕向けたってわけ」
初めに私は昔と変わってない、一夏とずっと一緒にいた男の幼馴染みだよと強く意識づけたのは今でも間違ってないと思う。一夏とまた昔同様の親友でいるためには、ああするしかなかったのだから。
「それをやったから、一夏は昔みたいに気安く、昔みたいに気の置けない関係を女になっても続ける事ができた。それは皆も見てわかるでしょ?」
「なるほど、葵の行動にはそんな意味があったのか。しかし、先程の箒と鈴の話じゃ嫁にもうそれを気付かれかけてるようだが?」
ラウラの疑問に答えた私だけど、ラウラはさらに疑問を私に尋ねてきた。……うん、何でか知らないけど、一夏は私の事疑ってるみたいなのよね。
「それが不思議なのよね。私結構上手くやってきたと思うんだけど? 部屋では結構、まあなんだかんだで昔に戻って振舞うのは楽しかったし違和感与えなかったはずなのに。それに外でも、一夏の前では基本思考は男寄りで考えて行動してたんだけど?」
「基本思考だけどあんた、そういえば私と二人きりとかでも思考男寄りで考えてない?」
「ああ、それなら私に対してもそうだな。もっと厳密に言えば、一夏、鈴、私と一緒の時の葵は、なんとなく雰囲気が男寄りだ」
「……ジーザス」
鈴と箒の言葉に、私は内心で驚愕した。……うわあ、一夏だけでなく、鈴や箒にも私は中身が変わってないと装って話してたのに、なにそれそんなにあっさりバレてたの? だって一夏だけでなく、箒や鈴も私の昔を知ってるんだから、そうしないと二人から一夏に「葵って女っぽくなったよね」なんて言わせないよう頑張ってたのに。
「……ちなみに聞くけど何で二人わかったの?」
私の疑問に、
「女の勘よ」
「女の勘だ」
鈴に箒、二人は自信満々に答えた。うわあ、私も女だけど女って凄い……。
「うわ~、まさか二人にもう此処までバレるとか思って無かったかな。結構小細工して印象付けやってたのに。あの千冬さんが私をどつく理由とか、あれ私が元男だと知っているクソババアが、元男ならガサツに決まってる~みたいな考えで通達してたのよね。予想が外れ私が全くそんな素振り見せなかったけど、それを利用して千冬さんにやらせてみたりね。……そこまでやったけど二人は誤魔化せなかったかあ」
「当然! あたしもあんたの幼馴染だってこと忘れてない?」
「そういう事だ。そしてそれらを踏まえた上で聞くが……今後はどうする気だ?」
「どうするって?」
「一夏の事だ」
「……はあ、どうしっよか」
一瞬恍けて見せたけど、鋭い目をした箒に聞かれ……私は頭を抱える事となった。
「もう一夏も気付きかけてるし……今まで通りってわけにもいかなくなるかな」
いや既に今の状況も破綻してるんだけど、決定的に壊れそうだし……。
「大丈夫ですよ、葵さん。心配する事なんてありません!」
少し落ち込んできた私を励まそうとしたのか、セシリアが妙に力強い声で私に声を掛けた。
「いやセシリアそう言っても……」
「大丈夫ですって葵さん。だって一夏さんとは親友なのでしょ。なら大丈夫です。今までとは少し形が変わるだけで、親友のままでいられます! 私もチェルシーという親友がいますので、自信を持って言えます!」
弱音を吐こうとする私に、セシリアは笑顔で、大丈夫だと励ましてくれた。
「そうね、あたしもそう思うわよ。あんたが一夏との関係を今まで通り望むとあいつに強く言ったら、まあ大丈夫とあたしも思うわよ。だから良い機会だから、一回関係リセットしなさい。どうせ何時までも騙せるわけじゃなかったんだから、ここらが良い機会よ」
セシリアに続き、鈴も大丈夫だと私に言ってくる。周りを見ると箒達も同じ考えなのか、私が視線を向けると頷いている。
「そうね、確かに何時までも昔のままってのは無理だもんね。最初は一夏を友達と思っていた箒や鈴が、今では恋人にしたいとか思ってるんだし」
「余計な事は言わなくていい」
「ごめんごめん」
顔を赤くしながらつっこむ箒に、私は苦笑しながら謝った。そうね、箒なんか最初私と一夏を嫌ってたんだし。それが今じゃこうなんだから……一夏とも、考えすぎてるのが私だけで案外あっさり解決するかもしれないわね。
「はい! これにて葵の相談は解決したのでこの話は終了!」
話が纏まったので、鈴が今回の話題終了の宣言をした。事の発端となった私の悩みは解決したし、少し衝撃的な事実とかもあったけど、この女子会開いてくれた鈴に感謝しないといけないわね。
「では次のお題! 葵の島根での逆ハーレム話を詳しく聞きましょうか!」
……うん、前言撤回しようかな!
「で、どうなのよ。あたしとしては裕也よりも、この雑誌に載ってる、あんたと一緒に弁当持って歩いてるこいつが気になるんだけど」
「殿方とはどういった話をいつもされてましたの?」
「嫌らしい目線されたりしなかった?」
「嫁以外の男はどういうものなのだ?」
「葵、まさかその……意外とその……大人の階段を登ったとか、そういう出来事あったのか!?」
鈴を始め、皆して私に質問が殺到した。……ああもう、さっきもだけどやっぱり皆この話題になったら異様に目がキラキラするわね! そして箒、あんた何を期待してたの!?
「あ~わかったわよ! 全部答えてあげようじゃない!」
その後、私の島根で過ごした時の話題は、普段男と接しない皆にとって新鮮だったようで、かなり盛り上がりました。
……それにしても、私が一夏に何でああ振舞ったかをもっと詳しく聞かれなくてよかった。昔同様に気軽に接してもらうが大きな理由だけど、もっと大きな理由……、裕也達と一緒にいたから気付いたアレは、できれば杞憂で終って欲しいなあ。
「おいおい! いい加減にしろよ織斑! お前まだ納得いかないのか!」
さっきから御手洗達が色々言ってくれたが、どうしてもまだ納得しない俺に、大石がとうとうキレた。
「お前自分で俺の前で男として振舞っている青崎が真実の姿とか言っていて、その意見に合う仮説を俺達が言ってあげたじゃねーか! それでさっきお前頷いてただろう! なのに何で未だに悩むんだよ」
「~~うるせー! 確かにそうなんだけどよ……何でか知らないが納得できないんだよ!」
ああ、そうだよ。皆が言ってくれた話は俺が考えてた仮説通りで、理屈では納得してるんだよ! でも、何故か、それを認めてしまうと……よくわからないが絶対に認めたくないって思ってしまうんだよ!
「ああもう! なんなんだよこのいらつきは!」
あれはやけくそに叫ぶと、手近にあった一升瓶を掴むとラッパ飲みした。喉から腹が熱くなるが、その熱さ妙に心地良い。
「ああ、馬鹿! 止めろ一夏! そういう飲み方はヤバい!」
弾が慌てて、俺から一升瓶をひったくる。返せと手を伸ばすが……あれ? なんか反応が悪いな。
「……なんなんだこの織斑は? 一体織斑は何がそこまで気に食わないんだ?」
猿渡が呆れた顔で俺に言ってくるが、そんなのは俺が知りたいんだよ!
妙に今度はイラついてくる。目の前にあったから揚げに俺は勢いよく箸を突き立てて、それを口に放り込んだ。
「……千冬さんもさ、いや般若湯癖悪いと以前一夏が言っていたが、一夏もどうやらそうみたいだな」
弾が呆れながら何か呟いてるが、よく聞こえない。
猿渡も大石もなんか呆れた顔をして俺を見ている。なんだよ、変な目をして俺を見やがって。
ますます不機嫌になっていく俺だが、
「……まあさっき弾が言ってた話や、大石が言ってた話。そして一夏が言ってた話はどれが正しいのかわからないけど、纏めるとやっぱり青崎にとって織斑はやっぱり特別なんだとわかるな。本当に、織斑だけ特別扱いをしている」
「……なに? 何だよそれ?」
御手洗が頭掻きながらしみじみと言った台詞が、俺の不機嫌を止めた。
「だってそうだろう? 青崎は弾といる時は女として接している。その島根にいた連中も青崎は女として接している。織斑といる時は、部屋限定だけど女としてでなく、昔の青崎として接してるんだろ? つまり、あ~その、言い方が悪くなるが青崎にとって、お前だけ異性として接してないんだよ。昔通りの親友として接したいという現れなんだろうな」
………
………
………
うん?
あれ? なんだ? 今の御手洗の話聞いて、何で、俺
こんなにショック受けてるんだ?
「お~い、どうした織斑? ぼーっとして。ヤバい位酔いが頭に回ったか?」
猿渡が俺の顔の前で手を振っているが、俺はそんな事よりも、何故こんなにもショックを受けている俺に驚いていた。何でショックを受けているんだよ。御手洗の話は……俺が望んでいる、親友としての関係を葵が望んでいるわけで、嬉しいはずじゃないか。
「ま、それは織斑、お前が望んでいる事でもあるからいいんだろう? 青崎とお前は幼馴染で親友と言う関係を、今後も続けるんだから」
「…………ああ、それが俺にとっては一番だ」
続く御手洗の言葉に、俺は……本来なら即答で返す当たり前の返事が、何故かすぐに言葉として出なかった。
そんな俺を見ながら弾は顔を顰めながら髪を掻きだし、御手洗も何故か残念な物を見る顔をし、溜息をついた。
「へ~、もったいねえなあ。青崎ほどの極上な女、滅多にいないのに。普通は駄目元でも告白するけどな。」
「だよなあ。まあ織斑は昔からモテる癖に彼女作らない変人だから、それは青崎にとっても例外じゃないってことか。ああくそ、モテるのに彼女作らないとか、俺達に対する嫌味かよそれ! こっちは作りたくても出来ないってのによ!」
一瞬場が暗くなったが、そんな空気を察してか猿渡に大石が盛大に茶化し始めた。
「うっせーよ。それにお前等、別に俺はモテた覚えないが?」
「まあ! 聞きましたか奥さん!」
「ええ、無自覚ってのはたちが悪いですわねえ」
俺が反論すると、大袈裟にリアクション取りながらさらに俺をなじる二人だが……うん? あれ何かこいつらマジで怒ってないか?
「まあ、織斑はこんなだがまだ俺達と同じ彼女無しの仲間。しかし、この中に裏切り者がいる!」
うん? 裏切り者?
「おい裏切り者って……」
「おいお前等」
俺が疑問の声を掛けようとしたら、弾が横から口を出してきたが、
「うっせー! この裏切り者! 一人だけ幸せになりやがって! 死ね! リア充マジで死ね!」
「そうだ弾! 何でお前だけあんな美人な年上巨乳彼女が出来るんだよ!」
「……あ~、あれには流石に俺も嫉妬するよ。楽器を弾けたらモテるかもしれないという理由でバンド始めたら、バンドする前から会場にあんな人がお前の為に来たんだから」
猿渡、大石、御手洗が嫉妬、いや怨念を込めた目で弾を睨み付け恨み言を吐いた。
いや、そんあことよりも、え! マジか!
「え、弾! お前彼女出来たの! マジ! 何時の間に?」
「……ああもうるさい! ああ、まあその一夏には言って無かったが……まだ彼女とかそういうもんじゃないかもしれないけど、そういうのが出来た」
俺の質問に、弾は……うわ、顔がにやけ切ってるぞお前。
「へ~、弾に彼女かあ。知らんかった。しかも年上の彼女かよ。どこで知り合ったんだ?」
「あ~あの時だよ。IS学園に行った時」
「あん時かよ! え、まさかその彼女ってIS学園の人なのか?」
「ああ、多分お前も知ってると思うが、布仏虚さんだ」
「え! あの楯無さんの片腕の人と!」
楯無さんに呼ばれて何度も生徒会室行ったことあるが、あののほほんさんの姉で楯無さんと古い付き合いとかで仕えてるあの人とかよ!
「え? いったいどういう経緯で知り合ったんだ?」
「いや、あの学園祭で告白大会が終わった後、こっそり俺をあの人が逃がしてくれてな。その日今後困った時があったら力になりますよと言われ連絡先を貰って……そっから頑張ってプライベートでも話せる関係まで持って行った」
「……凄いなお前」
「おうよ! 必死で頑張ったんだぞ! プライベートで俺の高校の文化祭見に来てくれた時の喜び! お前にはわかるまい!」
確かにわからない。まあでも。
「へえ、おめでとう弾! 良かったな、お前が前言っていた好みドストライクの人が彼女になって」
「おうよ! これで俺も勝ち組! この先にはバラ色の人生しか見えないぜ!」
テンション高くなる弾だが、
「死ねよリア充」「バラ色の人生でも、別のバラ咲かせちまえ」「マジでこいつ羨ましい」
……この三人全く正反対にテンション低くなったな。
「しかし弾に恋人かあ。こりゃあ葵が知ったら驚くだろうな」
俺がそう呟いたら、
「いや、葵はもう俺に彼女出来たの知ってるぞ」
弾がニヤけた顔をしながら返事をした。
「え? 何だそれ? なんで葵は知ってるんだよ?」
「だって俺、虚さんと仲良くなるために葵と相談していたから。葵から虚さんの好みとか聞いたりして、俺の恋が実るようサポートしてもらってたからな」
「……なんだよそれ。葵には相談して、俺には相談なしかよ」
「だってなあ……お前に恋愛相談とか無駄な気がしてなあ」
俺が憮然として聞くと、弾は苦笑いをしながら返事を返した。なんだよそれ。そして
御手洗達、お前等も何で納得してるんだよ。
「まあそんなこんなで葵にも協力してもらって、なんとか虚さんと上手くいったんだよ。それを葵に報告したらあいつも喜んでくれたよ。『えー! 上手くいったかなあ。じゃあもう私とは遊べないかあ』とか言ったりしたけどな。俺もそれは残念だがしょうがないと返したけど」
ん?
笑いながら言う弾だが、俺は弾の言った台詞が一つ気になった。
「何だ、その葵の言った弾とは遊べないって? どういう事だ?」
俺がそう聞くと、……何故か弾を始め御手洗に大石、猿渡も俺を馬鹿を見る目で見だした。
「……あのな織斑、彼女が出来たら彼氏は彼女以外の女と一緒に遊んだりしたら、不味いに決まってるだろう?」
「まあ恋人がいるのに、恋人以外の異性と一緒にいるとかは普通ねえよ。三人四人、大人数で男女一緒に遊ぶとかは構わないが、二人だけとかは論外だ」
「葵とは以前はプール行ったり海で釣りしに行ったりしたが、そういうのはもう出来ないって事だ。まあ俺も虚さんに変な心配かけたくないから、そういうのは絶対しないけどな。限りなく無いが鈴から誘われても断るぞ」
「……ああ、そういう事か」
御手洗に大石に弾にあきれ顔で指摘され、さすがに何が問題なのか俺もわかった。確かに弾のお袋さんが親父さん以外の男と一緒にいて親密だったら……うん、こりゃあ親父さんからしたら大問題で済まないな。
しかし葵そんな事言ったのか。つまりもう葵は、弾とは二人で行動する事がなくなったのか……ん、あれ? 何か知らないが、妙に俺ホッとしてる気がする?
なんでか知らないが心が少し軽くなったなとか思っていたら、
「そういやさっきお前青崎とは親友でいるとか言ってたけど、お前か青崎。どっちかに恋人が出来たら今の関係維持は無理になるなあ。その辺はお前考えてんの?」
え?
猿渡の言葉に、俺の心は再び大きく動揺した。
「え? 何言ってんだ? 別に問題が……ああ」
いや、ついさっき言ってたじゃないか。恋人が出来たら、恋人以外の異性と会うのはよくないって。言われてみれば……そういう事が今でなくても、今後起きる可能性がある、のか?
「で、でもよ。別に今俺は誰かと付き合っているわけじゃ無いし、ありえないだろそんなの」
「まあ織斑は確かに今特定の誰かと付き合っているわけじゃ無いが、もし青崎にそんなのが出来たら? IS学園の学園祭で青崎に告白した奴いるんだろう? 今後もそういう奴が現れて、その中の一人が青崎の心を射止めたら……お前絶対そいつから厄介者扱いされるぞ」
「そんな奴が出るかは疑問だが、まあ仮にもし現れたら葵は一夏と今一緒に部屋で生活してるが、それは論外になるな。二人でいるのも葵から拒否されるだろうし」
「あ~それはキツイな。織斑は青崎を親友として接したくても、青崎は恋人優先で拒否か」
「でもそれはしょうがないんじゃないか? どうしても男女としての壁だからなあそういうの」
俺はありえないと否定しても、猿渡に弾、大石に御手洗が俺の言葉を否定し、……考えたくもないような未来を口にしていく。
え、ちょっと待て。なんだその未来?
葵が、俺以外の男と一緒にいて……
葵が、俺以外の男と仲良く笑って……
葵が、俺以外の男と、その……
バリン
痛! あ、握りすぎたせいか、コップが割れてしまった。
ガラスが刺さったのか切ったのか知らないが、右手のひらが痛い。でも、そんな痛みよりも、何倍も何故か……胸が痛い。
「おいおい! 一夏大丈夫か! 血出てるぞ血!」
弾が何か言ってるが、そんな事よりも、
「……ふざけるな」
「は? 何言ってんだ?」
「ふざけんな! そんな事断じて俺は認めない!」
葵が、俺以外と、俺じゃなく別の野郎が葵の一番になる! そしてそいつが、葵を奪うだと!
「認めねえ! 断じて認めない! あいつのとって一番は、俺なんだよ!」
握りしめたせいか右手のひらからどんどん血が流れている。でもそんなことよりも、もし葵が恋人とかが出来、そのせいで俺からまた離れていくとか、それは絶対に嫌だ!
興奮する俺に皆ビックリしているが、弾はすぐに驚くのを止めると、
「は、ははっははは!」
俺を見ながら急に笑い出した。
「何だよ弾! 急に笑い出して」
俺が睨みながら言うと、弾は笑うのを止め、
「一夏、一つ言ってやる。お前が今抱いているその感情は、断じて友情とかじゃないから。それ、ただの嫉妬だ。しかも嫉妬でも根が深い恋の嫉妬ってやつだ」
俺を見ながら、面白そうに言った。
「はあ? 何言ってんだ?」
「それはこっちの台詞だ。一夏、お前さっき俺に彼女出来たと聞いた時、祝福してくれたじゃないか。でも葵にもし出来たらとなったら、お前は怒りだし、その相手を否定しだした」
「あ、いやそれは……ただ葵に仮にそんなのが出来たら、さっき言った通り一緒に」
「違うだろう一夏。さっきまでの流れなら、もう葵とは一緒に遊べない、残念で終る話だ。でも、お前はそれについて悲しむのではなく、葵に出来た男に対し怒り認めないと喚いた」
「い、いや、それは」
「違わないだろう?」
違う、違うはずなのに……何でだ、何で俺はそれを言葉に出来ないんだ?
黙る俺に、弾はハアっと大きく溜息つくと、
「なあ一夏、覚えてるか? 昔俺とお前と葵で海に遊びに行ったこと?」
唐突に、昔話を始めだした。
「あ? ああそういえば行ったっけ」
「あん時三人の好みを言い合ったよな? 覚えてるか?」
「好み……ああ、そういえばそんな話もしたか」
「まさかの三人同じとかだったけどよ……あの時お前、好みは確か髪が長い巨乳の美人系お姉さんが好みだと言った」
「……おいおい、それって」「まんま織斑のお姉さんの事だよな」「何時の話か知らんが、昔から織斑は筋金入りのシスコンだな」
「うっせーよ外野!」
「……一夏、無視しとけ。で、その好みだが、まんま今の葵に当てはまらないか? 年上ではないが、あいつ見た目は年上に見えるし。さらに後から付け加えたお前の条件は、家事炊事が出来る子だ。ますます葵はそれに該当する」
……うん、確かに。い、いや、それはまあその、実は前から思ってた事でもあるんだけどよ……。で、でもそれを認めてしまうとな、そ、その!
「はっきり言ってお前の理想の体現してるぞあいつは。そしてさっきお前のあの態度。ま~此処まで来ると馬鹿でもわかるんだが、はっきりいってやる。一夏、お前もう葵に惚れてるんだよ。それも結構根深く、まあわかりやすく言えばべた惚れな程に」
焦る俺に、弾は……容赦なく、俺の心を抉る言葉を口にした。
俺が、葵に惚れている?
まあ平たく言ったら……俺は葵が好き? いや好きなのは当然だがその好きは友情でなく、あれか、よく男女の、青春漫画でよく言われる、恋?
は、はは。ま、まさか。葵は、昔からずっと一緒にいた俺の親友で、そうずっと一緒にいたい、親友で、そういつまでも一緒にいたい奴で……。
そ、それにあれだ! 恋っていうのはほら、もっと胸がドキドキしたりして、相手の事しか考えられなくなるようなもんだろう? だから別に葵は、ってあれ? あ、そういや俺って初恋ってあったけ? そういや未だに無かったような? あ、そもそも相手の事を考えて夢中になるのが恋なら、今の、さっきまで葵ばかり考えてたあれって?
え、ちょっと待って?
ええ、つまり……この、今持て余している、それでいて葵ばかり考えてしまうこの感情が……
う、うわああああああああああああ!
え、何だよ何で急に俺顔が熱くなってんの? 心臓もさっきから早く鳴りっぱなしだし、そして脳裏には……あいつの笑みばかり浮かんでいく。
「お、おい大丈夫か?」
急に俯いて頭を抱えだした俺を心配したのか、御手洗が声を掛けてくるが……今はそれどころじゃない! 自分でも持て余している感情が、こう暴走してるんだよ!
くそ、これは不味い。何が不味いかも良くわからないが、今のままじゃ弾達に返事も出来ない。
そう思い、俺は近くにあった瓶をひったくると、栓を開け、中身を一気に飲んでいく。ここは一つ、般若湯の力を借りてって……!!!!!
「ブハッ!」
な何だこれ! 喉が痛い! 口が痛い! 腹が焼けるようだ!
「ゲホ! ゲホッ! ゴ、ガハ!」
「おい、大丈夫か! おい! しっかりしろ!」
ひたすらむせ続ける俺に、流石に異常を感じた弾達が俺に駆け寄ってきた。
「あー! 一夏が飲んだの、これスピリタ○じゃねーか!」
「ああ! それ俺が冗談で持って来たやつ!」
「アホか猿渡! とんでもねー酒持ってくんじゃねー!」
「だから冗談で持って来たんだよ! 話のネタになるとか思って!」
「馬鹿言ってないで、早く水! 水! 後洗面器! 一夏の中身全て吐き出させる!」
ああ、何か弾達がうるさいなあとか思いながら、俺の意識はどんどん無くなり……
気が付いたら、俺は何故か知らない場所にいた。
「は?」
あ、あれ? どこだここ? いや、なんか見覚えがあるような……ああ、なんとなく、ここ篠ノ之道場に似ているような?
って、いやまてまて! 何で俺ここにいるんだ! さっきまで俺は弾達と家で男子会やってたよな? ……ああ、その葵に対する自分でも気付かなかった感情を気付いた俺は、心を落ち着かせるというかなんというか、とにかくまともにいられなくなって手近にあった瓶の中身飲んだら……
「この馬鹿者がー!」
「痛ええええ!」
男子会の出来事思い出そうとしたら、何故か怒声と共に俺は後ろから背中をぶっ叩かれた。 は、何だ一体!
驚きながら振り向くとそこには、
「え? 誰?」
……全身を西洋風の白い甲冑で固めた騎士と、体操服にブルマを着た銀髪の少女が立っていた。いや、本当に誰ですか貴方達は? ブルマ少女はともかく、この騎士の姿している人は、どうも女性っぽいな。甲冑の形が何処となく女性っぽいし、顔は半分覆われてるから口元しか見えないけど、雰囲気がそう感じる。
俺はいきなり現れた謎の二人組に警戒した。いや、だってどうみても不審者だろこいつら。
俺が警戒する中、謎の騎士は腰から剣を抜き、それを床に突き立てると、
「ナイト道場~~~~!」
「いえ~~~~~~~い!」
「は?」
……謎の言葉を発し、銀髪少女も謎の合いの手をし出した。え? なんだこれ?
混乱する俺だが、
「人生の選択を誤り、うっかり死んでしまった織斑一夏! ああ、一夏よ、死んでしまうとは情けない」
「でも大丈夫! そんなうっかりな一夏を鍛え直すべくあたし達がみっちり指導し正しい道へ進ませるのがこの道場なの!」
「何それ!?」
テンション高く、騎士さんと少女が笑顔で俺に何か意味不明な事を言ってくるので、俺はさらに混乱した。
「全くのこの大馬鹿者め! 臨海学校(終章)で「今度は俺がお前を必ず守ってやる!絶対にな!」の後に「だって俺は、お前の事が好きだから!」と言って何で押し倒さなかった! あの時は葵もお前の言葉に心動かされ、続け様に告白し押し倒せば流されるまま葵√一直線だったのだぞ! 童○を捨てれるチャンスをみすみす逃がしおって全く情けない!」
「何の話だよ!」
謎の言葉を熱く語る騎士に、俺は思わず大声でつっこんだ。なんだ、今世界観というか、何かが根本的におかしくなる話をされたような気がするんだが?
「というか、何処だよここ! いやさっき死んだとかなんとか言ってたけど……まさかここがあの世なのか?」
「違うよ、ここはあの世じゃないよ」
もしかしてマジで俺死んだ? と不安に思っていたら、銀髪少女が答えてくれた。ああ、良かった、マジでここがあの世なのかと。ホッとした俺だが、
「……まあ大差ないけどね」
「おおい!」
顔を逸らし何か不吉な事を言う少女に、俺は再度つっこみを入れた。
再度不安がる俺を見た騎士と二人は、
「さて、冗談はこのくらいにしますか」
「そうね、あんまりここに長くいたら不味いもんね」
何か満足したのか、二人からさっきまでのおちゃらけた雰囲気が消えていった。騎士さんも口元が引き締まり、銀髪少女も神妙な顔をして俺を見つめていく。
雰囲気が変わった二人に、俺はさっきまでとは違う意味で、再び身構える事にした。
そして騎士さんが口を開き、
「で、実際の所あの子、ああ青崎葵の事ね。葵を貴方はどう思ってる訳?」
「胸キュン? 胸キュン?」
真面目な顔で、騎士さんは俺に質問し、銀髪少女は……あ、また物凄く良い笑顔浮かべてるや。
「さっきのシリアスな空気何処行った!」
「はいはいそれで誤魔化さない。どうなのですか?」
再びつっこむ俺を、面倒くさそうに騎士さんはスルーした。
……何なんだ、この異空間は?
まあ、でも、この人達は何者か知らないけど、知らない人だから、その言いにくい事も言いやすいな。
葵をどう思ってるかって? ああ、今なら、なんか素直に言えるな。
「どうなのかだって? 決まってる、俺は……葵が好きだ。俺自身気が付かない内に、あいつが俺の心の中で大きな存在になった。だから」
俺はぐっと拳を握り、そして前に突き出した。
「俺は、あいつとずっと一緒にいたい、これまでも、そしてこれからもずっと!」
謎の二人組相手に、何で俺こんな事話してるのか意味不明だが……何故だろうな、この二人なら何故か聞かれても良いような、いや聞いて欲しい気がしてくる。さっきはあんなに意味不明だと思っていた二人なのに、不思議だな。
そして俺の言葉を聞いた二人は、
「ふふ、そうですか」
「うんうん! 人間素直が一番!」
満足したのか、銀髪少女は満面の笑みを、騎士さんは口元しか見えないけど……笑みを浮かべていた。
「じゃあ、貴方はこんな所にいる場合じゃありませんね」
「さっさと帰るのだー!」
「え? でもここってあの世みたいな場所ってさっき言わなかった? というかここ本当に何処だよ? そして帰るってどうやって?」
再び混乱する俺に、
「あ~うるさいわね。心配しなくてもちゃんと返してあげるって。はい弟子一号! 準備を!」
「りょ~かいです師匠~!」
騎士さんは面倒臭そうに手を振りながら銀髪少女に何かを命令した。え、何をするってうわ!
「はいはい、暴れないでね~~」
銀髪少女が俺をいきなり両手で担ぎ上げた。え! 俺を軽々持ち上げちゃったよこの子! 驚く俺だが、
「はい、こっちも準備OKよ~」
何か気の抜けた声を出す騎士さんの方を向いたら……なんか物凄くごつい金棒を担いでいた。なんだよあれ! デカいなんてもんじゃない、騎士さんよりもデカいんじゃないか? それになんだあの金棒についている凶悪そうな突起物は!
少女に担がれながら呆然としながら俺はそれを眺めていたが、急に銀髪少女が走り出した。何処にいくのかと思ったら、道場の端まで移動すると、
「師匠! よろしいですか?」
「ええ、いいわよ!」
「でわ」
銀髪少女はそういうと、
「一夏、いっきまーす」
と叫んで、……俺を騎士さんの所へ投げ飛ばした。
「ええええ!!!!」
俺は水平に飛んでいき、騎士さんに近づくと騎士さんは棍棒を振りかぶり、
「アビゲイ○ホームラン!」
謎の掛け声を言いながら俺を棍棒でぶっ飛ばした。
「うわああああああああああああ!」
何故か棍棒で殴られたのに痛みがないが、俺は騎士さんに吹っ飛ばされ、天井を突き破り、どこかへ飛ばされていった。
「おい、おい!起きろ一夏!」
「っは!」
強く揺さぶれるのを感じ、目を覚ましたら……弾に御手洗、猿渡に大石が心配した顔で俺を見下ろしていた。あ、本当に俺帰って来れたんだ。あの異常空間から。
「おお、目が覚めたか! 一夏、気分はどうだ? 気持ち悪くないか?」
「いや、大丈夫だ。気分も悪くないし、むしろ何故か清々しい気分だ」
「何でだよ! お前さっきスピリタ○飲んでヤバい急性起こしてたんだぞ!」
マジかよ……、ってあれ?
「何で俺そんななのに無事なんだ?」
「それは俺達が知りたいんだよ! お前がぶっ倒れた後、お前のISがいきなり起動してお前がIS装着したと思ったら、数秒で解除されてしまったし! でも解除された後のお前は顔色良いし、何故かさっき怪我した右手のひらの傷も癒えてるし。……一夏、ISってそういう機能もあるのか?」
「いや、俺もそれ初耳……でもないな。確かに普通そんな機能ないけど、例外でたまに起きるみたいだ」
臨海学校での葵を思い出しながら、俺は弾に説明した。
「まあ無事なら良いが……なあ一夏、お前どうしたんだ? さっきまでと違い、妙に良い顔というか、吹っ切れた顔をしてるんだが?」
良い顔? 吹っ切れた顔? 当然だろう、俺は自分でも気付けなかった答えを、今日理解したんだから。それにあの異空間を経験したら、もう大抵の出来事には動じなくなった自信がある。
「皆聞いてくれ」
呆気に取られてる皆を見ながら、俺はある言葉を口にすることにした。
口にしたら、もう誤魔化すことは出来ない。でも、これはもう誤魔化すことは俺が出来ない。
ああ全く、裕也の言う通りだよ。ちょっと自覚したら、俺もお前と同様あっさり堕ちちゃったよ。
でも、それに気付く事が出来て、俺は本当に良かったと思うよ。
俺が初めて恋した相手は――――女の子になった幼馴染だった。
難産の末、後編完成しました。
ええ、この回で一夏は、葵に対し本気で好きになるようになりました。
一部異空間な出来事ありましたが、いい加減シリアスが長かった反動だと思って下さい。異論は聞きます、反省は今後読み返したらするかもしれませんが書き直したり消したりはしないでしょう。
これでようやく、本当にようやく心おきなくタッグ編に突入できます。
私の大好きな眼鏡っ娘、簪の活躍がいろいろな意味で書けると思うと嬉しいです
※作中一夏が飲んだスピリタ○は、度数96の世界で一番ヤバい物です。一夏みたいな飲み方は絶対に真似はしてはいけません。やったら本当に死にます。作中の一夏は本当に死ぬ一歩手前の、臨海学校の葵よりもヤバい状態になってたのですから、白式は本当に大慌てで生体再生機能使ってますから一夏は生きているんです。
飲むなら沢山のオレンジジュースで割るか、三ツ矢サイダーで割りましょう。