IS~女の子になった幼馴染   作:ハルナガレ

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学園祭 序章

 葵と久しぶりに二人で羽目を外して遊んだ翌日から二学期は始まった。

二学期になるとまず最初に1組と2組の合同訓練があり、そこで2組の鈴との試合が行われた。

 二学期最初のクラス対抗試合とも言えるこの試合に、俺と鈴も気合を入れて試合に挑んだ。お互いクラスの看板背負っている為負けるわけにもいかないからな。

しかし俺はこの試合自信があった。この夏千冬姉と楯無さんからほぼ毎日地獄のような特訓を受け続けていたからだ! 二人から基礎を徹底的に叩き込まれ、俺も少しは強くなったという自覚もある! 千冬姉の名に恥じないよう、モンドグロッソ優勝を夢物語にしないよう俺は必死になって訓練してきた! 今の俺なら、臨海学校の時とは違うと皆に言えることが出来るはずだ!

俺はそんな事を思いながら意気揚々と試合に挑み、鈴との試合は2試合行われ、その結果―――

 

 

「ま、まあ元気を出しなよ一夏。一夏は頑張ってたよ」

 

「そ、そうですわよ一夏さん。試合内容はわたくしから見ても大変素晴らしいものでしたわ」

 

「そうだぞ嫁。夏休み前と比べると、嫁の成長速度は異常とも言っていいぞ」

 机の上で突っ伏している俺に、シャル、セシリア、ラウラが慰めの声を掛けてくれている。今俺達がいるのは1組の教室で、周りを見たら他のクラスメート達も俺の周りにいて『おりむーは頑張ったよ』『次リベンジしようよ』『織斑君なら次は絶対勝つって』と温かい言葉を俺に言ってくれている。

 

「……はあ。二試合戦って、二試合とも俺の負けとか。俺の夏休みは何だったんだろ」

 クラス代表戦、俺は鈴と戦い……2試合とも負けてしまった。いや、ただ負けるならここまで悔しがったりはしない。俺がここまで落ち込んでいるのは、

 

「でもちょっと情けないわね。鈴に一太刀も零落白夜の一撃与えることも出来なかったし、鈴のシールドエネルギー2試合とも半分削っただけで終わっているし」

 

「葵、言い過ぎだ!」

 普段とは全然違う冷めた声で言う葵の辛辣な言葉を聞き、箒が窘めるが…そうだ。ただ負けただけならここまで落ち込まない。仲間を守るという誓いをしたのに、その守りたい仲間よりも俺はまだまだ弱いという事実を突き付けられたからだ。

 

「そうね、言いすぎたわね。一夏の実力じゃ鈴にまだ勝てるわけないし。当然の結果だものねこれ」

 

「ッ!」

 俺は思わず顔を上げ、すぐ傍に立っている葵を睨む。葵は冷めた目をしながら俺を見下ろしていた。

 

「ねえ一夏、悪いけど確かにこの夏休み一夏は以前と比べたら格段に強くはなっているわよ。でもね、たかが夏休みの間だけで代表候補生に勝てるまで強くなれたなんて思ってたんなら一夏、幾らなんでも私達代表候補生を舐めているとしか思えないわよ」

 

「……舐めてるわけじゃねえよ。それにそんな事も思ってはいない」

 

「いいえ、舐めているわね。言っとくけど私達は一夏よりも倍以上搭乗経験あるのよ。それが7月まで専用機持っていながら真剣に訓練しなかった一夏が、夏休みの間必死で頑張ったのに追い付けてないから悔しいとか。ふざけるなと言いたわよ」

 葵の厳しい言葉と目が俺を貫いていく。ふと周りを見回したら、シャルにラウラにセシリアが何とも言い難い表情を浮かべながら俺と葵を眺めている。

 ……もしかしたら、三人とも内心では葵と同じ気持ちを抱いていたのかもしれない。そうだよな、千冬姉や葵だけでなく、鈴達も俺よりも元々格上の相手だったんだ。守るとか言って、俺は……何時の間にか俺よりも弱い存在みたいに思ってしまっていたんだ。じゃあ俺は負けて悔しいと思う前に―――

 

「ま、まあ葵さんそれくらいにしてあげなよ」

 

「そうだよ葵さん。織斑君は男の子なんだからやっぱり勝負で負けたのが悔しいんだよ」

 空気が重くなったのを察してか、鷹月さんと相川さんが場の空気を変えようとしている。

 

「それに葵さんも2年前は男の子で過ごしてたんでしょ。なら織斑君が悔しいって思う気持ちも」

 

「ええ、そりゃあもう理解出来るわよ。ただ私だったらいつまでも負けた事にいじけてないで、何故負けたのかとかどうしたら勝てたかを考え続けるわよ」

 そう言って、また冷めた目をしながら俺を見ている葵。

そう、それだ。悔しいが……確かに全部葵の言う通りだな。いじけていてもしょうがない。それに負けたのは今に始まったわけじゃないんだ。まだ俺には時間もチャンスもあるんだ。今日の反省を活かし、次こそは!

 

「どうやらようやく一夏らしくなってきたわね」

 俺の表情を見ながら、先程までとは違いいつもの口調で葵は俺に言って笑いかけた。

 

「ああ、いつまでもいじけるなんて俺らしくないよな」

 

「そういう事。まあ私なら負けた原因を真っ先に考えて次リベンジに燃えるものねえ」

 

「はいはい、俺が女々しくて悪かったなっと。ああ、皆ごめんな。俺が何時までも落ち込んでたせいで気を遣わせてしまって」

 俺はクラスの皆に詫びながら辺りを見回した。そしたら、何故かクラスの皆妙にニヤニヤしながら俺と葵を眺めている。セシリアにシャル、箒にラウラは何故か仏頂面している。

 

「ふうん、やっぱりあれよね。織斑君の性格よくわかってるわね」

 

「あれが男の子の慰め方なのかな」

 クラスの皆が何故か面白そうな顔をして俺と葵を眺め、

 

「うう、あれが正解だったとは」

 

「優しい声だけじゃ駄目ってことかあ」

 

 ラウラ達は何やら不満顔でぶつぶつ言い合っている。なんだこの対照的な反応は。葵もそんな二つの反応を眺めながら苦笑している。

 

「はいはい、一夏がようやくいつも通りになったんだから、反省会始めますか」

 今回俺が負けた敗因。2試合戦って俺が2試合とも負けた理由は……

 

「白式の切り札、零落白夜が当たらなかったからか?」

 って、これじゃ切り札が当たらないから負けたという言い訳じゃねえか! 

 

「はい一夏、それだけじゃ50点よ」

 

「……だよなあ。他にも原因あるよなあ」

 零落白夜が決まっていたら勝っていた可能性があるから言ってみたが。

 

「……一夏、お前の零落白夜が当たれば勝てたは全ての試合に当てはめることができるぞ」

 

「僕の盾殺しに葵の正拳突きよりも威力あるしね。そりゃあ当たれば勝てるけど」

 ……例外もあるようだけどなあ。

 

「嫁の機体は攻撃力だけなら全ISで最強だからな」

 

「ですが今回2試合とも一夏さんが零落白夜で攻撃しても全て鈴さんは防いでましたわね」

 何時の間にか箒達も会話に加わってきた。

 

「でも織斑君、今回の試合見てたけど前回よりもずっと凰さんを追い詰めてたよね」

 

「それに近接戦での格闘なら織斑君の方が凰さんよりも強かった気がする。凰さんも双天牙月で織斑君の雪片弐型と斬り結んでたけど、織斑君の方が最後は有効打浴びせてたし」

 箒達に続き、谷本さんや鷹月さん達も会話に加わってきた。

 そうだよな、確かに近接格闘なら今日の俺、鈴よりも結構良い線行ってたと思うんだけどなあ。

 俺は今日の2試合を振り返ってみる。鈴の衝撃砲は砲身も弾丸も見えない厄介極まりない兵器。何時どこから撃たれるかわからない衝撃砲の攻撃を、俺はとにかく鈴の背後から回り込むように移動して鈴に肉薄していった。

 第3世代兵器は、操縦者のイメージ力に大きく左右される。操縦者が明確にイメージして攻撃しないと発動されない。鈴の衝撃砲も同様で、ISが勝手に俺を識別して攻撃してくるなんてことはありえない。そしていくらISがハイパーセンサーのおかげで360度の視野を認識できるといっても、本来人間は視野は180度から200度までしかない。そのためISで幾ら360度全ての視野を理解していたとしても、どうしても人間の本来の視野の外の光景に若干の遅れが生じる。その領域から上手く接近し、鈴の衝撃砲を掻い潜り攻撃する。葵がよくやっていた手口を俺も真似てみて結構良い線行ってたんだが……。

 

「近接戦で鈴と斬り結び隙が出た所に零落白夜を発動し、いざ攻撃したら……1回目は鈴から俺が握っている雪片弐型を下から蹴り上げられて雪片弐型を手放され、そのすぐ後に双天牙月で殴り飛ばされた後衝撃砲連打されて撃沈。2回目は……1回目と同じように零落白夜展開した瞬間に鈴がスラスターを噴射して俺に向かって激突。互いに抱き合っているような状況の後鈴が体を捻って……俺の腹を殴り飛ばし、俺も無我夢中で雪片弐型を振るうも鈴の体に当たる前に鈴の左手が俺の雪片弐型の剣腹を叩いて軌道をそらしかわされ、その後鈴の衝撃砲の集中連打喰らって負けた」

 あれ? なんかこの鈴の動き、誰かと似てね?

 

「……」

 周りを見たら、皆視線が葵に集中している。

 

「……二人の試合見てて思ってたけど」

 

「うん、やっぱり凰さんって」

 

「ええ、この夏私が鈴に格闘戦叩き込んだわよ」

 皆の視線を受けながら、葵はあっさり答えた。妙に嬉しそうなのが少し気に入らない。

 

「鈴から夏休み入った後すぐに頼まれたからね。本国に帰りたくないけど、強くなっておかないとあたしの立場が危ないとかなんとか。それに夏休み入った後箒達いなかったし、一夏はずっと千冬さんからしごかれてたじゃない。対戦相手鈴しかいなかったのよね。だから私は鈴の要望に応える為、鈴とほぼ毎日格闘戦やってたわ」

 

「……その特訓って、もしかして主に第4アリーナでやってた?」

 

「ええ、そうだけど。どうして?」

 

「いや……僕達がこっちに帰って久しぶりに学園のアリーナで訓練したら、第四アリーナだけ壁に人型の跡がたくさんあったから。もしかして」

 

「ええ、全部私が鈴を殴り飛ばした跡よ」

 ……俺もこの夏相当厳しい特訓重ねたと思ってたけど、鈴も負けずに凄まじい訓練してたんだな。確かの思い返せば、箒達がIS学園に帰ってくるまで葵と鈴って一緒に訓練してたな。

 

「そのおかげで、鈴は近接格闘じゃかなりの腕前になっていると思うわよ。それも一夏対策で零落白夜が使われたらどう対処すればいいか私の考えも叩き込んだし。今回の試合見て、鈴の努力と私の理論が正しいのが証明されてちょっと嬉しかったのよね」

 ちょっとまて! 何だ、その零落白夜対策って!

 

「い、いやでもおかしくないか? 今お前近接格闘かなりの腕前になったとか言ってたけど、零落白夜は当たらなかったがその他は俺の方が押して……いや、あ~まさか」

 今思えば俺が零落白夜使おうとした時って、全部俺が鈴を攻撃して隙が出来た時だった。

 

「葵さんもしかして……、鈴さんはわざと攻撃を緩めて一夏さんが零落白夜を使わせようとしたということですの?」

 

「はいセシリア正解! 一夏の零落白夜を鈴はわざと発動するよう誘導してたのよ。少し攻撃の手を緩めて、一夏が自分が押していると錯覚させてね」

 ま、まじかよ……。俺、近接格闘しか出来ないのにそれすら鈴に負けてたって事か。

 

「しかし葵、何故わざわざそのような面倒な事を鈴はしたのだ? 万が一、一夏の攻撃が当たったら負けてしまう可能性があるというのに?」

 

「あれ、箒知らないの? 一夏の白式だけど、零落白夜発動中に攻撃を喰らったら洒落にならない位シールドエネルギー減ってたのを?」

「ええ! そうなのか葵!」

 初耳だぞそれ!

 

「……何で一夏がそれを知らないのよ。大体少し考えたらわかるでしょ。零落白夜って白式のシールドバリヤーのエネルギーを攻撃力に転換しているのよ。すなわち発動中は完全に無防備状態。攻撃喰らったらすぐに絶対防御発動」

 あ~、言われてみたら2試合とも鈴の攻撃喰らったら物凄い勢いでエネルギー減ったっけ。いや俺の白式、そんな弱点あったのかよ! ただでさえエネルギー喰う機体なのに、防御力まで減るのか!

 

「なにかあ、じゃあ今回の勝負は……」

 

「鈴に完敗したわね一夏」

 葵の言葉を聞き、再度俺は机に突っ伏した。……いじけるのは俺らしくないとかさっき言ったけど、負けた原因がわかったら前言撤回したくなった。

 

「ううむ、しかしそれなら今の鈴は相当強いって事か」

 

「わたくし達とは違い、ここに残って遊んでたとばかり思ってましたけど」

 

「考えを改めないといけないね.鈴は間違いなく僕達にとって強敵になった」

 

「あ、そうそうラウラ。今度鈴がラウラに1学期のリベンジするとか言ってたわよ」

 

「ふ、面白い。楽しみだ」

 俺が完敗していたのがわかると、皆俺より鈴に関心を持って行ってるし。……おい、俺本当にいじけるぞ。

 

「はいはい一夏、原因ががわかったんだから落ち込まないでそれをどうするか考える。それと」

 

「ああ、わかっているよ。鈴には素直に負けを認めるよ」

 勝ったくせに、俺がショックを受けてたせいであいつ気を使って喜べてなかったからな。

 

 はあ、少しは皆に追い付いたと思ってたのに、考えが甘かったかあ。

 ちなみに3組と4組の試合を後で聞いたが、4組の圧勝、いや完封勝利したらしい。

 

 

 

 

 

 その時の俺は、ああそういえば4組って葵と同じ日本代表候補生の子がいたんだよなあとしか思わなかった。

 

 

 

 

 

 

「さあ青崎さん、観念して青崎さんもメイドを着る! これはクラスの総意でもあるんだから!」

 

「嫌! 絶対嫌!」

 

「嫌でも駄目! うちのクラスはありえない程の専用機持ちがいるんだから! 専用機持ちの子がメイドでお出迎え! 凄い宣伝になるのよ!」

 

「私がいなくても箒含めて5人もいるんだからいいじゃない! 見た目なら申し分ないでしょ。黒髪に金髪に銀髪までいるんだから」

 ……葵、お前さらっと俺も人数に含めたな。いや俺もメイドでなく執事服着るけどな。

 現在俺のクラスは、葵がメイド服を着るよう相川さんが説得している。

 何故そのような事態になっているかというと……それは昨日全校集会があり、楯無さんが全校生徒の前で『次の学園祭! クラス、部活その他諸々が店やイベントするけど、一番売り上げが多かった所に織斑一夏君が出張マッサージに行きます! さらに副賞として学食来年までタダにします』と宣言したからだ。

 俺のマッサージはともかく、学食タダ=デザート食べ放題な意味らしいのでどこもかしこも気合を入れて学園祭に燃えている。くそ、皆食い意地張ってるなあ。部屋で葵にそう言ったら何故か温かい目で見られたが。

 当然俺のクラスも皆燃えていた。学園祭の出し物を何に決めようかと俺が言ったら多くの人が積極的に意見を言ってきたが……全て俺がホストをする案だったので却下した。

 最終的にラウラがメイド喫茶が良いと言いだし、クラス一同あのラウラが! と驚愕したが案としては悪くなく、喫茶店をやってみたいという子も多かったので1組の出し物はメイド喫茶に決まった。

 その後内容を煮詰める話になり、喫茶店で出すお菓子類の話になると葵が身を乗り出すように手を挙げ、

 

「喫茶店で出すお菓子は私が作りたい! ケーキでもクッキーでもシュークリームでも和菓子でも何でも作るわよ!」

 かなり気合入った声で皆に宣言した。葵の菓子作りの腕は、正直かなりの腕前だ。たまにキッチン借りて、俺や箒達、クラスの皆にも振舞っていたので全員賛成で葵はホール担当になると俺は思っていた。……この時までは。

 しかしその後接客の話が出て、誰が接客しようかという話になり……誰かがこのクラスは専用機持ちが多いから、それを目玉にしようと言いだして今に至る。

 

 

 

「お菓子作りたいが9割の理由だけど、接客したくないから私名乗り上げたんだから! じゃあ私何も作らないわよ!」

 

「……う~ん、それはそれで困るわね。メイドだけだと他のクラスも似たような事をしたらインパクト弱くなるし。それに日本代表候補生のお手製お菓子というキャッチコピーも欲しいし」

 頭を悩ませる鷹月さん。……どうでもいいが、メイド喫茶に決まった後は谷本さんや鷹月さんがほとんど中心になって話進めてるんだよなあ。俺がクラス代表のはずなんだけど。

 

「仕方ありませんわね。ではここは葵さんの代わりにわたくしがお菓子を」

 

「お願い青崎さん! キッチン担当は貴方しかいないわ!」

 

「ええ! やっぱり最初に名乗ったのは私だしそこはやり通すのが筋ってものよね!」

 セシリアが何か言いかけていたが、谷本さんと葵の大声で掻き消された。……あっぶねえ、セシリアには悪いが学園祭でテロ事件を起こすわけにはいかないんだ。

 

「でも青崎さん、本当にお願いだけど貴方もメイド服着て欲しいのよ。なんだかんだ言っても、メイドの中で一番の目玉になるのは青崎さんなんだから」

 顔の前で両手を合わせながらお願いする相川さん。まあ俺でもそう思う。言っちゃ悪いが、このIS学園が日本にあり来客の多くが日本人だという事を考えたら、同じ代表候補生でも異国のセシリア達よりも、日本の代表候補生の葵の方が興味持たれるからな。それに葵はつい最近日本代表候補生として紹介されて、強烈なデビューを果たしているから話題性高い。

 

「アオアオは日本の代表候補生なんだから、国民を助ける義務があるよ~」

 

「それに青崎さん、臨海学校の時は私達協力したんだから今度は青崎さんが協力する番じゃないかな~」

 

「う、いやあの時は確かに助かったけど……はあ、わかったわよ。やればいいんでしょやれば」

 のほほんさんや、鷹月さんから臨海学校で箒の誕生日会の時の件を言われ、葵はとうとう折れてしまった。

 

「よっし! これで問題は全てクリア! 後は細かい装飾やメニューは次回話し合いしましょ!」

 

「ラウラさん、メイド服の伝手は大丈夫なの?」

 

「ああそれは問題無い。以前ちょっとした縁があってな」

 その後メイド喫茶の細かい内容は次回する事となったが……完全に谷本さん達が仕切っているので俺は書記係として内容を纏め、千冬姉にクラス案を提出したのだった。

 

 

 

 

「っというわけなんだよ。やっぱり女子ばっかの所は大変だぜ」

 

「……まあ、それは大変だったな」

 俺は目の前にいる弾に、IS学園の出来事を愚痴っていた。一昨日、特に用事もない俺に弾から電話があり、『俺と御手洗達が趣味でやっているバンドがついに来月デビューが決まったから、聞いて評価してくれ』と言われたので、弾達が練習している高校に俺は来ている。デビューと言っても弾達がいる高校の文化祭でという事だが、正直何時の間にそんな事やっていたのかと驚いたが、『女にもてるにはやはり音楽だ』というメンバー全員の共通の意見の下結成したらしい。最初は楽器を弾くだけで満足していたようだが徐々にハマっていき、夏の間は練習に打ち込んでいたらとうとうそれなりに弾けるようになったとか。弾以外のメンバーはまだ来ていないので、俺は暇つぶしに弾とIS学園の話をしていた。

 

「しかし葵がメイド服着るのか……、一夏写真撮って来てくれ。正直かなり見たい」

 

「見たいなら見に行けばいいだろ。ほい、弾これやるから当日来いよ」

 俺は弾に学園祭の招待券をあげた。今日わざわざ出向いたのは、弾にこれを渡すためでもある。俺が渡したチケットを、弾は震えながら手に持っている。おい危ないぞ、千切れたらどうするんだ。

 

「一夏~~! 俺は今日ほどお前が友達で良かったと思った日は無いぞ!」

 

「……大袈裟だなあ、それくらいで」

 

「阿保か! IS学園とか俺みたいな一般人には限りなく縁が無い所なんだぞ! しかも通っている生徒は皆可愛いらしいじゃねーか! 男の憧れの象徴みたいな所に通っているお前は全男性の敵って事を認識しろ」

 

「いやお前、俺の今日の話聞いてたか!」

 お前が何思っているか知らないが、少なくとも俺はそこまで幸せじゃねーよ!

 

「まあ、それはわかってはいるがとりあえずリア充爆発しろと言わせろ」

 一気にテンションが落ちた弾が、ニヤッと笑った。……まあ、なんだかんだでこいつは俺の気持ちをわかってくれているんだとは思う。

 

「でもマジでサンキュな一夏。話聞くだけでなく、お前たちがどんな所で勉強しているのかは興味あるからよ」

 そういや弾、前一人だけ違う学校にいることに少し寂しがってたな。

 

「……当日は俺と葵、鈴で学園案内してやるよ」

 

「おお、すげえ楽しみにしとくぜ!」

 俺の言葉を聞き、本当に嬉しそうに弾は笑った。

 

 

 

「しかし御手洗達遅くないか?」

 

「そうだな、もう集合時間なんだが」

 集合時間になっても、御手洗達は姿を現さなかった。どこにいるんだよと思いながら携帯を取り出そうとしたら、

 

「悪い悪い! 遅れちまった!」

 汗をかきながら御手洗達―――御手洗に大石、猿渡が姿を現した。おお、そういえば弾とは違いこいつらは会うの久しぶりだな。最後に会ったのは……ああ、葵がIS学園に来た前日だったな。

 

「あれ? 葵は?」

 

「葵なら今日は用事があるから来れなかったぞ」

 

「……そうか」

 俺の返事を聞いて、一気に落胆する御手洗達。葵も誘われてたのだが、それよりも先に箒と買い物の約束をしたとかで、俺よりも早く二人でIS学園を後にしていた。

 

「あ~あ、何か今日やる気なくなった」

 

「暑いしプールにでもいかね?」

 

「いいな、織斑を餌に可愛い子ナンパしようぜ」

 

「おいお前等! なんだよそれ! お前達来月バンドデビューするんだろ!」

 葵がいないからって落胆しすぎだろうが! 弾の野郎も今日いないの知ったら溜息ついたし。結構俺傷ついたぞ!

 

「だって可愛い子がいた方が気合入るしよ」

 

「それに俺達お前や弾と違ってそこまで青崎と縁があるわけでもないし。こういう機会でもなければ会う事出来ないんだよ」

 

「中学の時は青崎の姿を見て『あれは男あれは男俺はホモじゃない俺はホモじゃない』と自分に言い聞かせていたが、それから解放されて普通に美少女として見て欲情できると思ってたのに」

 いや、確かにそうかもしれないがとりあえず最後の猿渡、テメーはもう葵に絶対会わせないようにしよう。

 

「いやでも……今日は葵には来てほしかったな」

 

「何だよ御手洗、そんなにお前葵に惚れたか」

 残念がる御手洗にからかう弾。しかし、

 

「そうではなく……ちょっとヤバい事になっているからな」

 さっきまでのふざけた空気から一変、御手洗だけでなく大石に猿渡も真剣な顔をしだした。

 様子が変わったのに戸惑う俺と弾に、猿渡は一冊の雑誌を俺に手渡した。ん? なんだこれ?

 

「今日発売された、そこそこ有名なIS関連を扱う雑誌なんだが……織斑、見てみろ」

 何なんだよ、まあIS関連の雑誌みたいだから俺の事でも載っているのか?適当にページを開き中を見る俺と弾。そしてあるページで、俺は驚愕した。

 

「な、な、な何! 千冬姉に恋人がいるだと! 弟の俺でもそんな影見た事無いぞ!」

 

「……いや一夏、それは馬鹿な俳優が話題性の為だけに言った嘘だから。それくらいわかれよ」

 

「ちなみに最新情報では、それ言った俳優が引きこもりになったらしい。なんでも『ウサギ怖いウサギ怖い』とずっと意味不明な事をいっているらしい」

 な、何だデマかよ。しかしその俳優、いったい何があったんだろうなあ。俺にはちっともわからないやあ。

 

「織斑、俺が見せたいのはそれじゃない。もう少し読んでみろ」

 御手洗から言われ、再度読んでいくが特に面白い記事ないんだが。中国代表が12歳の小学生とか、イタリア代表がフェンシングの国際大会で優勝したとかの記事しかないが……いや、なんだこれは。

 俺はあるページを開き、中身を見た瞬間に顔が強張った。一緒に見ていた弾も内容を見て絶句している。

 

「なあ織斑、これは……少々面倒な事になるぞ。弾、お前も織斑よりもはるかにマシだが他人ごとではないぞ。後葵にもこの件はすぐに伝えた方が良い」

 雑誌を見て固まっている俺と弾に、御手洗が心配した顔をしながら俺達に言っていく。さっきまでふざけていた大石に猿渡も同じ顔をしていた。

 

 俺が見ているIS雑誌、そこにはこう書かれていた。

 

『唯一ISが使える男性織斑一夏! 女子しかいないIS学園で女をとっかえひっかえ!未成年にあるまじき性の乱れ!』

 そしてそのタイトルの下に、葵、箒、鈴、セシリア、シャル、ラウラとツーショットで映っている俺の写真があった

 そして俺の特集記事が書かれている次のページに、さらに無視できない特集が載っている。

 そこには見出しにこう書かれていた。

 

『日本代表候補生青崎葵! 10代にして男を弄ぶ悪女』

 

 その見出しの下には、俺と弾、そしておそらく―――葵が以前言っていた出雲技研にいた時知り合ったと思われる連中と一緒に写っている葵の写真が貼られていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

    おまけ

 二学期初日、鈴に負けて落ち込んでいた一夏がトイレの為教室を出た後。

 

 

「さて、一夏がいなくなったし。本音を聞いても良い?」

 

「な、何の本音ですの葵さん」

 

「いやあ一夏、今日鈴に負けたけど……鈴でなく今日戦ったのが皆だったら」

 

「……意地悪だね葵」

 

「嫁には負ける気はしないが……おそらく夏休み前よりもはるかに苦戦はしただろうな」

 

「……私は剣で一夏に負ける気は無いが、IS戦では戦ったらおそらく負けただろう」

 

「わたくしも実力で負けているとは思いませんが、それでも……奥の手を出さざるをえないでしょう」

 

「セシリアの奥の手とやらがかなり気になるけど、僕もそうだね。もしかしたら一夏に負けたかもしれない。負ける気はないけど」

 

「まあ今日は予想以上に鈴が強くなっているから一夏負けたものね。ああ言ってたけど、うかうかしてたら本当に一夏に追い抜かれるわよ」

 

「忠告受け取っとくよ。でもそれよりも、鈴の成長の方が驚いたよ。本当に何時の間にあんなに……」

 

「まあ、それは鈴にもいるからねえ。一夏と同じように……絶対勝ちたい相手ってのが」

 




久しぶりに更新
アニメは観てますが、やはり簪は出したいですね。
この物語、葵が日本代表候補生だから同じ立場の簪をどう扱うか最初悩みましたが。
結論としては、一夏の為にも簪は重要なキャラだなあと。

次回、どんな写真が雑誌に張られていたか明らかになります。そしてそれを見た世間の反応ははたして。

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