IS~女の子になった幼馴染   作:ハルナガレ

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夏休み 一夏と葵

「………………………」

 コーラを二つ持ったまま、葵は何故か驚いた顔をしながら無言で固まっている。なんだこいつ、俺を見たら物凄く驚きやがって?驚きたいのはこっちの方だぞ、用事があるとか言ってたくせに、こんな所で金髪碧眼になって現れやがって。

 

「葵、お前用事があって今日島根に行くとか言っていたよな、なのに何でこんな所で金髪碧眼なコスプレしてるんだ?夏休みデビューかよ?」

 俺は軽く睨みながら言った。なんか前も同じような事があったしな。まさかまた今回もこそこそ後を付けて来てたのか?そんな気配は感じなかったけど。しかし葵の水着は……おお!

 

「葵、お前が着てるの千冬姉が着てた水着だろ?千冬姉もそうだったけど葵、お前これいいぜ!!」

 いやこれ千冬姉よりも今の葵に合っている気がする。葵背が高いし、金髪でこの大人な水着の組み合わせは良い。……でもこれ俺がそう思うって事は、他の男もそう思ってるよな。いやさっきから誰かが言っていた話題の金髪は葵で間違い無いだろうから、皆そう思ってるんだろうけど。あれ、なんか凄くムカつくな?

 

「………………………」

 しかしさっきから俺が話しても、何故か葵は黙って俺を見ている。

「いや葵、お前何黙ったままなんだ?」

 俺が不思議に思っていると、葵は驚いた顔から急に笑顔を浮かべると、

 

「You must have the wrong person」

 ……なにやら英語で話し始めた。

 

「いや葵、何金髪になってるからって英語?しかもとぼけるなよ」

 俺がそう言うと、葵は何か困った顔をしたと思ったら、

 

「I can't speak Japanese」

そう言って、葵は何処かへ歩き出した。ちょっとまてこら。

 

「お前さっきそこの売店で『すみませーん、コーラ二つください』とはっきり言っただろーが」

 どこかへ歩き出した葵の肩を掴んで睨むと、葵は観念したのか、急に俺から距離を取ったら、

 

「はははは、さすがだね明智君!私の変装を一発で見破るとは!」

 指をビシッと俺を指して高笑いをし始めた。……誰が明智君だ誰が。ならお前は二十面相かよ。

 

「しかし一夏、よくすぐにわかったわね。この金髪は地毛と間違われる位完璧に染めてるのに。目も変えてぱっと見じゃすぐにはわからないと思ったのに」

 葵が少し感心しながら俺に言うが、何言ってるんだこいつは?

 

「ば~か。たかが髪と目の色変えただけのショボイ変装で、俺の目を誤魔化せれると思ってるのかよ」

 

「おやあ、IS学園で再会した時はすぐに私だとわからなかった奴の台詞とは思えないわね」

 

「いやあれはしょうがないだろ!流石に性別変わってたら!……でもな、あの時は直感で昔会った奴だとはわかってたんだぞ」

 あの時感じた猛烈な懐かしい感覚、多分葵が正体バラしてなくても俺は葵だと気付いたと思うし。

 

「ふ~ん、どうだか」 

 ニヤつく葵。あ、こいつ信じてないな。

 

「そんなことより、質問に答えろよ。何でお前ここにいるんだ?」

 俺が軽く睨みながら言うと、葵は急にばつが悪そうな顔をした。

 

「いやえっと……実は朝出発して電車に乗ってたら急に出雲技研の皆から連絡入って、予定を明後日に延期して欲しいと言われたのよ」

 

「何だよ、なら予定無くなったんならすぐにIS学園に引き返して、俺と鈴と一緒にここに遊びに来ればよかったじゃねーか」

 

「あ~まあそうなんだけど……いや鈴が持ってたチケットってペアチケットじゃない。二人分しかタダにならないし」

 

「だったらなおさら何でお前はここにいるんだよ?ペアチケット無いから俺達と来ようとしなかったんだろ?」

 俺の追及に、葵は顔を引きつらせた。

 

「ああ、それはまあその~」

 目を泳がせながら、葵は言葉に詰まる。

 まったく、一体何だよ?何で葵は困ってるんだ?ただ何で用事があるから今日来れないと言ったくせに、此処にいる理由を俺は聞いてるだけなんだぜ?そして葵、何でお前コーラを二つ注文してるんだ?普通に考えたら一つは葵ので、もう一つは……葵と一緒に来た誰かの分だよなあ。そう考えた瞬間、

 

すげー可愛い金髪少女がいるぞ!

ああ、糞!男がいなけりゃなあ

 

 さっきプールで浮かんでいた時、誰かが言っていた噂話を思い出した。ああ、金髪の少女。間違い無く葵だ。そしてその後に続く、男がいなけりゃなあの台詞から考えると、葵と一緒にいたのは男だな。そしてこの噂話、おそらくその男とは一人だよな。数人いたら男で無く、男達とか野郎共とか言うだろうし。つまり葵は……男と一緒にここに来たというわけだ。

 ああ、そうか。誰か知らないが箒や鈴達とは違う男の誰かと来たのか。

 そして噂を聞く限り、結構楽しく遊んでいたようだな。

 

 

 

 

 その考えに至った瞬間、――――――――――――――――――俺の心は葵に対する怒りで埋め尽くされていった。

 

「なんだよ、それ」

 気にいらない、納得行かない、ムカつく!ああ、くそ何だよそれ!ふざけんなよ!ああ、そうかよ、よくわかったよ!

 

「?どうしたの一夏、何か顔怖いわよ」

 さっきまでオロオロしていた葵が、俺の雰囲気が変わったのを察したのか少し戸惑いながら俺に聞いてくる。俺はその葵の肩を乱暴に掴むと、

 

 

「葵、納得のいく答え聞かせてもらうぞ。―――――――何で他の奴は良くて、俺は駄目な理由をな」

 物凄く低く怒りに満ちた声が、俺の口から洩れた。

 

 

 

 

 

「ったく、葵の奴どこまでジュース買いに行ったんだよ?」

 俺は小腹が空いたので近くでやっていたたこ焼き屋からたこ焼きを買って、ジュースを買いに行った葵を待っていたが、かれこれ15分過ぎても戻って来ない為俺は葵を迎えに行く事にした。まさか迷子になっているとは思えないが、別の心配もある。

 

「あいつ今の姿は目立ち過ぎるし……たちの悪い連中に絡まれてる可能性もあるしな」

 昔はともかく、今の葵は極上の金髪美少女。ナンパされていても不思議ではない。もっとも、あいつなら例えそんな連中何人いようが軽くあしらえるだろうけどな。中学の時、鈴に絡んできた不良5人を、俺も一夏もいたがほぼ葵だけでボコボコにしていたからな。いや、そういうのは関係ないか。なんつーか、あれだな。そういう場合でも、葵で無く俺が助けてやらんとな。それが男ってもんだ……もしそういう状況下で見捨てたら一夏に爺さんに殺されるだろうし。もっとも、見捨てるなんて選択肢は最初から無いが。

 それにしても葵、さっきの話は正直―――よくないな。事情と理由は考えたらなんとなくわかるんだが、それはちゃんと一夏に理由を言ってやらんとなあ。

いや、言えるわけないか。でもな、そこははっきり一夏に言ってやった方がいいかもしれない。一夏に空気を読めっていっても、この問題に関してはあいつ超鈍感だからな。でないと……一夏が可哀想だ。

 

 3分後、両手にたこ焼き抱えながら探していた俺は、葵を見つける事が出来た。そして、俺の予想は少し当たっていた。俺の目の前で、葵は絡まれていた。しかし、それはたちの悪い連中とかではなく、

 

「だから違うってば! それは一夏の考えすぎだから!」

「嘘つけよ! だったら何で今日用事があって来れないとか言ったんだよ!」

「いや用事があったのは本当だから!」

「だから嘘だろそれ! そう言って本当は用事が無かった事が何回もあったじゃねーか!」

「……いやそれは、その」

 

 

 ……葵にとって一番の味方であるはずの一夏だった。

 

一夏は顔を赤くし、物凄い形相で葵に対して怒鳴っている。対する葵は……少し泣きそうな顔で一夏に訴えていた。

 おいおい、何だこの状況は? まさか一夏と鈴のデート先ってここだったのかよ!なんつう偶然だ。いやそんな事考えてる場合じゃない。なんか一夏の奴、物凄く葵に対して怒ってやがる。やっぱ嘘ついてたからか?

 

「おい、なんとか言えよ!鈴や箒や弾は良くて、何で俺は駄目な理由をな!」

「だから一夏!別に駄目な理由はあるわけないでしょ!今までのはたまたまだったのよ!」

「はあ!ならさっき聞いた事の返事しろよ!何で嘘の理由ついてまで俺の誘い断っていた理由をな!」

 しかし、それにしても少し変だな。確かに用事があってこれないとか言ってた奴が来てたとして、そこまで怒鳴る程怒る事か?そりゃいい顔はしないにしても、一夏の怒りは尋常じゃない。それにさっきから一夏の声を聞いていたら、一夏が本当に怒っているのは嘘の用事をついたわけではないな。いやそれについても怒っているが、さっき一夏が言っていた台詞を考えると……。

 

 

 

「ん!おい、そこにいるの弾だろ!」

 俺の視線に気付いたのか、一夏は俺の方を向き、俺を見つけると怒鳴って来た。

 

「ふ~ん、葵、弾と一緒にここに来てずいぶん楽しんでるようだなあ」

 なんか嫌みったらしい顔をしながら、一夏は俺が持っているたこ焼きと、葵が持っているコーラを見る。……おい、どうした一夏。おまえそういうキャラじゃないだろ?いや、一夏をそんな風にしたのは……葵か。仕方ないと言えば仕方ないんだろうが……。

 俺は一夏の横にいる葵を見る。葵はかなり困惑していて、泣きそうな顔をしながら俺と一夏を交互に見詰めている。

 ああ、たく、そんな目で見るな。わかっているよ、なんとなく今がどういう状況なのか、そして一夏が怒っている理由も。今日、お前の話聞いた時、変だと思いあの後考えていたから。しかしまさか今日、その問題が表面化するとは思わなかったが。

 俺は泣きそうな葵に、

 

 

まあ、まかせろ

 

 そんな意味を込めながら笑みを浮かべた。そして俺は一夏の方に向くと、

 

「ああ、めっちゃ楽しんだぜ。葵とここの施設を満喫したぜ」

 俺が笑顔を浮かべながら言った。言った瞬間、葵は目を見開いていた。その顔に『何今の一夏を挑発してんだよ!』と読み取れるが、今は無視する。

 

「……ふん、それは良かったな」

 一夏も俺が堂々と言うもんだから、少し鼻白んだ。

 

「おお、良かったぜ。つーか一夏もここにいるってことは鈴も一緒か?ならお前も鈴と一緒に楽しんだだろ?」

 

「……ああ、そうだよ」

 

「じゃあいいじゃねえか、お互い楽しい時間を過ごしていた。そして今、俺達は合流した。何か問題があるか?」

 

「はあ! だからお前等」

 

「葵は用事が急に無くなり、俺も予定していた用事がキャンセルになって暇になった。そこに同じく暇になった葵が俺んちに飯食べに来た。そして俺と葵は爺さんがたまたま持っていたここのタダ券貰い、お互い暇になったからここに来た。葵もそう言ってただろ?別に葵も俺も嘘は言って無いぜ」

 

「……ああ、葵も同じ事言っていた」

 ……あ~よかった! おそらく葵が一夏に言ったであろう説明を予想しながら言ったが、合っててよかった! ここで食い違ったら面倒な事になるからな。ただそのリスクを払ってでも、今一夏に葵が今日の事では嘘はついていない。そう思わせる事が大事な為、博打張ったが、いやマジで上手くいって良かったぜ。……まあ一夏に言っている事は少し嘘なんだが。

 

「別に何て事はない。ただそんだけの事だ。お前が葵に怒鳴るような変な事は起きていない。暇になった友達が、同じく暇になった友達と一緒に遊びに行った。ただそれだけじゃねーか。俺、何かおかしなこと言っているか?」

 

「……いや」

 一夏は顔を曇らせながらも、俺の言葉に渋々頷いていく。納得のいかない顔をしているが……悪い、一夏。俺結構卑怯な事言っているし、お前が何で怒っているかも見当ついてるが、今は触れないでやるから我慢しろ。

 

「よし、納得したら一夏、鈴を連れてこい」

 

「は?」

 

「いや一夏、お前も多分鈴からお遣い頼まれていたから一人でこんな所にいたんだろ?おそらく結構な時間鈴は待ちぼうけくらっていると思うが」

 俺の台詞を聞き、一夏の顔から血の気が引いていく。あ~あ、一夏の奴完璧に鈴の事忘れてやがったな。多分20分以上は待たせているだろうから、鈴の奴カンカンに怒っているだろう。

 

「じゃあ一夏、鈴連れてそうだな……今から一時間後にプール入口の喫茶店に集合としようか」

 

「は?何で一時間後に集合するんだ?」

 

「お前も葵も、少し頭冷やす時間がいるだろ?特に一夏、お前にそれが必要だ」

 

「……わかったよ」

 俺の言葉に、一夏は素直に頷いた。……まあこいつも、今少し反省というより後悔しているんだろう。葵を見る目が、さっきとはもう違う。睨むような目では無くなっている。 一夏は葵を少し見た後、

 

「……暇な友達が誘う。ただそれだけじゃねーか」

 先程までとは違う、力無い声でそう言った後一夏は鈴がいた場所に向かっていった。

 一夏の姿が見えなくなると、

 

「……ありがとう、助かったわ弾」

 葵が暗い顔をしながら、俺に礼を言ってきた。

 

「まだ終わって無いぞ葵。とりあえず今はお互い頭に血が上ってたから、それを冷ます間を設けただけだ。その間に―――今回の喧嘩の原因をよく考えろ」

 もっとも、考えるまでもなく葵ならおぼろげにわかってそうだけどな。わかっているからこそ、一夏にあそこまで言われっぱなしになっていたんだろうから。

 

「うん、わかってる」

 

「よし、なら少し俺達も移動しようぜ。お前達二人が熱いバトルを繰り広げたせいで、……この野次馬達にさらにネタの提供なんてしたくないしな」

 周りを見ると、結構な数の野次馬達がいた。なんか口々に三角関係とか生修羅場とか言ってやがるが、好き勝手言いやがって。面白がっている奴等の目が気に食わない為、俺はこの場から早く離れたかった。

 

「ええ、りょーかい。でもその前に―――鈴、出てきてくれない」

 葵がそう言うと、近くの物陰から鈴が現れた。え、鈴。お前そんな近くにいたのか。そして鈴も、葵同様暗い顔をしていた。

 

「……葵、よくあたしがいるとわかったわね」

 

「弾より少し後に現れたの見たから」

 

「そう……」

 ……く、暗い。二人とも暗すぎる。まあそりゃ今の状況を考えたらそうなるか。

 

「よし、なら葵に鈴!少し移動するぞ!」

 俺は二人を連れて、とりあえず落ち着ける場所に行く事にした。

 

 

 

「落ち着いたか、葵」

 俺達は、とりあえずさっきの場所から離れた休憩スペースまで移動し、そこにあるテーブルと椅子に腰を落ち着ける事にした。もうぬるくなったコーラと冷めたたこ焼きを食べたりしながら、少し休憩を取った。……たこ焼きは俺しか食わなかったけど、さすがに今は二人とも食欲は無いか。

 

「うん、まあ元々そんなに混乱してたわけじゃなかったから。ただ、少し戸惑っていただけ」

 葵はそう言って、大きく溜息をついた。そして隣に座っている鈴の方を向くと、

 

「ごめん鈴、せっかくのデートなのに」

 そう言って鈴に頭を下げた。しかしその直後、

 

「馬鹿!」

 

「痛!」

 葵は鈴に頭を殴られた。

 

「何であんたが謝るのよ!だって、あんたが一夏と喧嘩した原因! もろあたし達のせいじゃない!」

 

「いやそれは違うから!」

 

「まあ待て二人とも。少し落ち着け。お前らまで争ったら収拾がつかなくなる」

 俺が間に入ると、二人は黙ってくれた。

 

「よし、なら一つ一つ話していくか。まず最初に、一夏と葵が言い争いになった原因からな。葵、何でお前一夏からの遊びの約束を断っていたんだ?」

 

「いや全部断っていたわけじゃないわよ。結構一夏の誘いに乗ったし、私からも誘ってたし」

 

「まあそうだろうな。なら質問を変える。葵、―――何で一夏が二人出かけようみたいな誘いは断っていたんだ?そして葵、お前も一夏と二人で出かけるような誘いはしたか?」

「え、そ、それは~」

 葵は目が一瞬鈴の方を向いたと思ったら、言葉に詰まっている。これが一夏と喧嘩になった最大の原因なんだが、あの時もそうだが葵はどうも答えたくないようだ。そんな葵の様子を見ていた鈴が、溜息をついた。

 

「あたし達に遠慮と誤解を受けたくないから、でしょ」

 

「ううう」

 鈴の言葉に、葵は反論出来ず項垂れていった。……はあ、やっぱりそれか。

 

「昔は葵、お前も男だったから一夏と二人で出かけても何の問題も無かったが、今は女だから、か。そして現在一夏の周りには一夏の事が好きな女の子がたくさんいる。そして皆こう思っている。『一夏とデートしたい』って」

 

「……まあそうよ、あたしもその一人だし」

 鈴、正直でよろしい。

 

「そんな状況の中、確かに休日に昔のように『一夏ー!野球しようぜー!』な感じで一夏と二人で出かけるのは……やりずらいな」

 おそらく皆牽制しあってるんだろうなあ。そんな状況の中、一夏が特定の女子と一緒に遊び回ってたら、例え相手が葵といえども穏やかにはならんかな。

 

「……そーいうこと。ただでさえ部屋は同じだし、普段の学園生活でも一番話すのは一夏だし。さらに一緒に出かけ回ってたら誤解なんてものじゃないだろうから」

 まあ幼馴染とはいえ、そりゃ男女が仲良ければそう思われるかもな。

 

「なるほど、確かに一夏には言えるわけがないよな。『お前を好きな子がいるから、お前と一緒にいると誤解されるから嫌だ』なんて。しかし鈴、葵はこんな事いっているが実際はどうなんだ?」

 

「……そうね、確かに否定はしないけど」

 

「ああ、やっぱり」

 鈴の言葉を聞き、溜息をつく葵。

 

「でもね葵、ちょっとそれはあんたの考え過ぎ。言っとくけど、あたし達はあんたが一夏と二人だけで出かけても、そこまであんたが考えてるような嫉妬はしないわよ」

 

「……嘘だあ」

 

「嘘じゃないわよ!大体、さっきも一夏が言ってたけど友達が友達を遊びに誘うのに何もおかしいことないでしょーが。あんたと一夏がどんな関係なのか皆知っているんだから。それにじゃあ聞くけど葵、あんたは一夏と……その恋人関係になりたいわけ?」

 

「いや全く。一夏は私の親友だから」

 真顔で言う葵を見て……なんだろう、俺は少し一夏に同情したくなった。言葉は確かに普通の親友同士なら喜ぶ台詞なんだろうけどな。

 

「でしょ、別にあんたは一夏を狙っているわけじゃない。今まで通り親友関係にありたいと思っているのをあたし達もわかってるんだから、そんなに目くじら立てないわよ。一夏とデートする機会を奪われたみたいな事は考えるかもしれないけどね。大体、それならあんたよりも一夏のファーストキスを奪ったラウラの方があたし達はムカついたんだし」

 ほう、ラウラって子が一夏とキスしたのか!それは初耳だな。しかし一夏のファーストキス?妙だな、それって確か。

 

「あれ、確か一夏のファース」

 

「いやいや鈴!それなら学期末テストの件!あれとかはどうよ!」

 俺の言葉を遮るように、葵が大声で鈴に質問する。……やば、すまん葵。確かに藪蛇をつつく所だった。

 

「あれ?ああ~あれなんだけど……実は葵が思ってるような、あんたに嫉妬して皆攻撃したとかじゃないのよね。……まあ3割位は入っているかもしれないけど」

 

「ええ!」

 

「う~ん、ああもうやっぱ言わない!葵、その件だけは教えない! ただ言っとくけど、あんたが思っているような嫉妬や暗い感情は、あたしたちに無いとは言わないけどあんたが思っているより無いのよ!そんだけあたし達は……あんたを認めているんだから」

 言って照れたのか、顔を背ける鈴。おお、しかし良い事言ったなあ鈴。ご褒美に頭を撫でてやろう。

 

「何撫でててんのよ!それに何ニヤニヤ笑ってるのよ」

 鈴は俺の手を払いのけた。ニヤニヤ笑うのはしょうがないだろ。もし俺が少しだけ考えた心の狭い鈴でなくて良かったと思ってるんだから。

 

「え~じゃああの学期末テストの本当の原因って何? 本当にあれが原因で私自分の考えが正しいと思ってたのに」

 

「それは教えないって言ったでしょ」

 悩む葵に、あくまで鈴は答えを言わないようだ。う~ん、しかし何だろうなそれ。幾つか候補はあるにしても俺は鈴以外の連中に会った事ないから判別できないな。

 

「は~~~、じゃあ私は変に考え過ぎてただけって事なの?」

 思い切り溜息をつく葵。今日何回目だそれ?しかし、さっきまでとは違い、葵の顔には少し笑みが戻ってきている。

 

「まあ仕方ないだろ。女になってお前考え過ぎなんだよ」

 男から女になって、アイデンティティが根本的に変わってしまったからな。しょうがないとはいえ、前とは違うと考え過ぎるあまり、少しずれてしまったんだろう。

 

「そっか、そうよね。鈴は、鈴達は……あの連中とは違うものね」

 

「え、何か言った葵?」

 

「なんでもない」

 葵が漏らした言葉は小さく、鈴には聞えなかったようだ。……あの連中って誰なんだろうか?

 

「よし、じゃあ葵聞くが、今後は」

 

「ええ、もう遠慮しない事にする」

 俺の言葉に、葵は吹っ切れた顔をしながら答えた。よし、これで第一の問題は終了だ。

 

「よ~し、じゃあ次の問題について話し合うか」

 

「え、もう解決したでしょ?」

  おいおい鈴、まだ解決してないぜ。

「ば~か、まだだよ。これはあくまで原因解明しただけだ。よし、葵聞くが正直話せ。今日一夏に怒られて、お前こう思っただろう?うぜえ、何で弾と二人で来た位でこんなに怒ってるんだよって」

 

「うん、それマジで思った」

 俺の言葉に、葵は云々と頷いた。

 

「そういや変ね、嘘ついたりして怒るのはわかるけど何で一夏あんなに怒ったのかしら?少し異常よ、あれ。なんというか、あの反応はまるで」

 

「ああ、鈴。先に言うがあれは別に恋人が浮気現場を目撃したからみたいなもんじゃないからな。いや少し似ているけど、誤解させないためにも言うが、一夏にそういう感情はないと思うぜ」

 多分な。俺も少しその辺は確信持てないし。

 

「う……そうなの。じゃあ弾、何で一夏はあんなに怒ったのよ」

 あ~鈴にはわからないか?鈴なら思い至ると思ったんだが……ああ、そういや鈴も葵と同じだからな。

 

「葵、わかるか?」

 

「……わからない。何で一夏があそこまで怒った理由が。弾はわかるの?」

 

「俺か?ああ、わかるぞ。一夏の親友のお前よりも俺の方がな」

 

「……そう、一夏の親友で何でもわかると思ってたのに、その私でなく弾ならわかるんだ。やっぱり、私が」

 

「あ~葵。違う違う。お前が女になったから一夏の事がわからなくなったとかじゃないから。単にこの件に関しては、おそらく俺と……鈴なら気付くと思ったんだけどな」

 

「え、あたしも?!」

 

「ああ、だがちょっと難しいかもな」

 

「え、どういう事? 弾と鈴ならわかって、私にはわからないって?」

 わけがわからないという顔をする葵。普段なら一夏の事なら千冬さんと同じくらいわかっている葵が、この件に関しては俺がわかって葵にはわからない。

 何故なら、それは。

 

「葵、二年前お前は黙って突然いなくなった。全てはそれが原因なんだよ」

 

「ちょっと弾、それは葵にも理由があったからの事で」

「そして、その時のお互いの立場の違いが、今回の揉め事の原因になったんだよ」

 鈴がなんかフォローしようとしてるが、それじゃなんの意味が無いので無視する。

「立場の違い?」

 

「そう、立場の違いだ。良く考えてみろ、お前は自分がいなくなる原因がわかっているし、そもそもいなくなった張本人だ。一夏や鈴、俺と別れるのは辛いが自分で納得する事ができた。じゃあ一夏は?多くの時間を共有し、ほとんど双子みたいに気があって遊び回っていた親友が、何も理由言わず居なくなったんだぞ。どっちがショックを受け傷ついたか考えるまでもないだろう」

 俺の言葉に、葵は暗い顔をして俯いていく。

 

「俺お前がIS学園に前触れも無く一夏の前に現れたと聞いて、実はお前に対し内心では結構怒ってたんだぞ。あんだけ突然いなくなって悲しませた一夏の前に、よくまた前触れも無くおめおめ会えたなって。正直俺は一夏がすげえと思った。よくお前の事を許せたなって」

 

「…いや弾、一夏も突然いなくなった事に対しては葵に不満ぶつけてたわよ」

 

「でも、すぐに許しただろ一夏は?葵が気にすると思って」

 

「……ええ、そうね。あたしと箒が間に入ったわ」

 事情が事情だから、一夏も葵に不満をぶつけにくいよな。怒る一夏を、鈴とその箒さんとやらが宥めている姿は容易に想像はつく。

 でも、おれはその場にいたら多分葵を責めてただろうな。なんせあの、あんだけ落ち込んでいた一夏の姿を見せつけられたんだから。

 

「葵、俺はお前と実質中学一年の間でしか遊び回って無いが、それでも相当濃密な時間を過ごしたつもりだぜ。出会ったすぐの春に、お前等に連れられて食費を浮かす為に山菜を取りに山を歩き回ったり、同じく飯確保の為に釣りに付きあわされた。夏は海や川に泳ぎに行ったり、廃病院やいわくあるトンネル行って肝試ししたりした。秋はまた食糧確保の為山を歩きまわされたり、冬は雪が降れば雪合戦したり炬燵で四人囲みながら徹夜で麻雀やったりしたな」

 どれも俺の中では大切な思い出だ。あの頃は毎日楽しかった。

 

「ええ、そうね。あの頃はそんなことやってたっけ」

 葵も昔を思い出しているのか、薄く笑みを浮かべながら目を閉じている。鈴の方を向いたら、鈴も同じ顔をしていた。

 

「ああ、楽しかったな。だが葵、お前がいなくなった年から……さっき言ったような事は激減したぞ」

 

「え?」

 

「具体的に言うと、さっき言った食費を浮かす為に山々を歩き回る事はしなくなった。俺の家も鈴の家もそれをする理由ないしな。その年から一夏の家も千冬さんがいない事が多いから、飯も一夏が一人分用意するだけでよかったから一夏も自分で作らず、俺か鈴の家で食べる事が多くなった。同じ理由で釣りにも行かなくなった。後肝試しとかもしなくなったな、まあこれは聞けばお前達が小学生時代にめぼしい場所はすでに行ってたから一夏が乗り気じゃ無くなったってのもあるか。麻雀も、他の面子が揃わないし、なんかお前以外の奴とやる気が起きなくなってやらなくなった」

 

「……」

 

「いや俺も鈴もな、お前がいなくなって落ち込む一夏を励ます為に色々遊びに連れて行ったりしたぜ。ただな、そんな時でも、笑っている時でもな、あいつはふとこんな事言ったりしてたんだよ。あいつもここにいたらなって」

 俺の言葉を聞き、葵の頭がどんどん垂れていっていく。鈴はそんな葵を、複雑な顔をしながら見ている。

 

「わかったか、葵。俺が何を言いたいか?お前は事情があってようやく一夏に会えたって感覚なんだろうが、一夏は違う。あいつにとっては二度ともう会えない奴と再び会えた感覚なんだよ」

 

「……うん」

 

「そしてあいつは、お前に再び会えて色々な不満や怒りをお前に抱いただろうが、同時にこう思ったはずだ。―――また、葵と一緒に遊べるって。二年間、燻ってた思いが溢れてたと思うぜ。なのにお前は」

 

「一夏の事を考えず、自分の都合だけ考えて一夏の誘いを断っていた」

 

「そういう事だ。今日はその不満が爆発したんだよ。……まあ導火線となったのはやっぱ俺が葵といたからだろうけどな」

 

「そこがよくわからないわね。今まで一夏の誘いを断って、鈴や箒と出かけた事はあったのに、その時は別に怒ったりしなかったのに」

 ああ、それか。いや葵、そこは気付けよ。わざと言っているのか?一夏も、実はお前同様、お前が女になったことで考えてた事があるって。

 

「まさか一夏、もしかして葵は女になったから、男とは二人きりで遊びにいかないようにしてるんだと思ったってわけ?」

 鈴が頭抱えながら言うが、おそらくそれが答えだろうな。

 

「ああ、自分の誘いを断り続ける葵に対し一夏はそう思ったんだろ。女になって同性となった鈴達とは二人きりでも出かけてるのを見てたから、葵は男とは二人きりで出かける事をしなくなったんだと。……多分無理矢理そう思って納得したんだろうな。いや、そう思い込みたかったんだろうな、一夏は。でも、今日俺と葵が普通に遊び回っているのを知り、その前提が崩れてしまった。」

 一夏本人から聞いてないから全て推測だが、大筋は違わないだろう。

 

「そっか、そういうことかあ」

 葵は項垂れながら呟いている。いい加減頭上げろ、貞子みたいだぞお前。

 

「あ~、もう何よこれ! どうすれば解決できるのよ!」

 葵の横で、鈴が頭抱えながら呻いている。……実は俺もだ。偉そうに原因解明したりしてみせたが……仲直り方法は思いつかない。こればっかしは葵、お前が考えるしかないだろうな。

 俺と鈴が悩んでいると、ずっと項垂れていた葵は顔を上げると、

 

「二人ともありがとう、ようやく答えでたから」

 さっきまでとは違う晴れ晴れとした顔で俺と鈴にお礼を言った。え、もう!

 

「はあ! 葵、答え出たって? さっきまで原因わからず落ち込んでたじゃないのにもう出たの?!」

 鈴も、葵の言葉に驚きながら質問する。

 

「ええ、二人の話し聞いて、結局の所私と一夏、二人ともお互い不満を言いあって無かっただけって事だし。親友だからと思って、私と一夏お互い勝手にわかりあってただけだと気付かされたわ」

 葵はそう言うと、大きく背を伸ばし体をほぐし始めた。そして、俺と鈴の二人を見ると

 

「二人とも、本当にありがとう。結論はさっさと出たけど―――それに思い至るには二人の話を聞かないとわからなかった。だから、本当にありがとう」

 とても良い笑顔を浮かべながら頭を下げた。え、いやそれはいいんだが…。

 

「葵、本当にもう大丈夫なのか?なんか吹っ切れてるが、本当にこれから一夏と仲直り出来るのか?」

 

「あんたと一夏、あんだけさっき喧嘩してたじゃない。そんな簡単に仲直りできるもんなの?」

 俺と鈴の疑問に、

「ええ、もう大丈夫。鈴達の一夏に対するあれこれはボカして話すけど、他はちゃんと話すわよ」

 笑顔を浮かべながら、言った。

 

 

「そして一夏に言わなくちゃいけないしね、――――――――二年間待たせてごめんって」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

    おまけ

 

「ねえ弾」

 

「何だ鈴」

 

「なんかさ、二人が仲直りしたのはいいんだけどさ。あんだけ喧嘩してこっちは心配したのに、当事者の二人が出会って10分もしない内に仲直りって、あたし達の心配ってなんだったのよ全く!」

 

「いや二人が喧嘩した原因はお前も少しはあったの忘れるなよ」

 

「あたしだけじゃないわよ、セシリア達もあったんだから」

 

「いいじゃねーか、二人がまた仲良くなったんだから」

 

「でもさあ。結局今日のあたしと一夏のデートは潰れるし、一夏は今葵と一緒にペアイベントに参加しちゃってるし」

 

「男は参加するなっていう視線を物ともしなかったな一夏。あいつの鈍感さはもはや尊敬に値するぞ」

 

「葵から一夏に出ようって誘ったのも大きいんじゃない?やたらと嬉しがってたし」

 

「まあそりゃあんだけ葵に対し怒鳴ってたからな。仲直りしても、やっぱ相手からペアで参加のイベントに誘われたら本当に許して貰ったと思うだろうし」

 

「しかし二人とも、このペースじゃ優勝しそうね」

 

「明らかに他の参加者達より息が合っているしな。何組もの参加者が一夏と葵を妨害しようとしてたがあっさり突破してるし」

 

「優勝ペアには沖縄旅行だっけ?行くのかしら二人とも?」

 

「いや行かんだろ。さすがに旅行は不味いだろ。多分葵が一夏にあげて、千冬さんと行ってきなさいとでも言いそうだ」

 

「あ~あ、なんかデートは結局滅茶苦茶になったけど……ま、これでよかったって気がするわね」

 

「そういや鈴、そのデートだがそもそも手ごたえあったのか?」

 

「……微妙かしら。お弁当作戦は結構上手く行ったとは思うけど。後一夏と別れる前はちょっと良い感じにはなったかも。ああ、思い出した! そういや初っ端から問題はあったわね!」

 

「へえ、何だそれ?」

 

「一夏の奴にあたしが今日着る水着選んで貰おうとしたんだけど……一夏ってばある水着をじ~~っと見てたのよ!」

 

「ある水着? どんな水着何だ?」

 

「……臨海学校で箒が来ていた水着よ。あたしとは明らかにサイズが大きし、嫌みで見てたのかしらあいつ」

 

「ふうん、あいつがねえ。もしかしたらその箒って子が一夏の本命だったりしてな」

 

「……ふん、そうだとしてもあたしは諦めないわよ! 巨乳に負けてたまるか!」

 

「まあ頑張れ。俺はそれしか言えんけど。あ、一夏達優勝した」

 




更新頻度、自分でも遅いと思ってます。
早く書ける人が羨ましい。



感想で幾つか書かれていた弾×葵や一夏×葵な展開で無く申し訳ない。
まだそこまで踏み込みたくないってのもありましたけど。
人間関係をテーマにするのは難しい……。

まあ次回はそういったややこしいことは考えず、IS学園最強と葵をぶつけてみますか。

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