「陸地だー! 陸地が見えたぞー!」
一人の水兵が叫ぶ声が聞こえる。
出航より七日。ようやく陸地が見えてきたのだ。
「なかなかに長い旅路だったな……」
七日の海上生活は、思ったよりも快適であった。
船団は順調に進み、少々大きな波が来た時も難なく乗り越えていた。だがそれも、我が軍の水兵の尽力があってこそだ。陸地で一段落ついたら酒でも振る舞ってやろう。
ーー? ふと、磯の香りに混じって、焦げるような臭いがした。
「煙だ! 陸の方で煙が上がってるぞー!」
再び張り上げられる声。どうやら酒は、もうしばらくおあずけのようだ。
*****
「ハアッ、ハアッ、ハアッ……」
逃げる、逃げる。焼け落ちる家屋から。断末魔の叫びを上げる皆から。そしてーーー
「ほらほらぁ、もっと頑張って走らねえと死んじまうぞ~?」
ーー襲って来るあいつらから。
「どうして、どうしてこんな事に……」
揚州のはずれにあるこの村は、普通の小さな漁村だった。毎日の生活は慎ましやかだけれど、今まで平和に暮らしていたのだ。
ーーそれが崩壊したのは、つい先ほどのこと。黄色い布を体に巻いた屈強な男達が、突然村を襲ったのだ。奴らは私達の家を焼き、村の仲間を殺し、金目の物や女の人をどんどん略奪していった。私も攫われかけたけど、両親が身を挺して逃がしてくれた。…でも、それももうここまでかもしれない。
「おいおい、遅くなってるぞ~? お嬢ちゃん、だいじょうぶでちゅかー? うひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!」
「くっ……あっ!」
「へっへへ……つ~かま~えた!」
男に腕を掴まれて、地面に引き倒される。
「そんなにこわがんなよ~。ただ、ちょーっといいことするだけだからさ?
だいじょうぶだって、皆で可愛がってやるよ」
「いや……お願い……やめて……」
怖くて思わず目をつむり、弱々しく懇願してしまう。…そんなの無駄だって分かっているのに。
「ひゅー、か~わい~! 食べちゃいたいくらい。こっちの意味でな! うひゃひゃひゃひゃ!「黙れ」ご、ぶ……!?」
凛とした声が男の笑い声を遮り、直後に聞こえるぼとり、という音。
恐る恐る目を開くと、そこには首を切られた男の体。そしてーーー
「賊共は全員始末した。……もう大丈夫だ」
ーー不思議な紅白の着物を纏い、不思議な形の剣を携えた黒髪の女性の姿が、あった。
「立てるか?さあ、村に戻ろう。村人たちが君の帰りを待っているぞ」
「は、はい……えと、あ……あなたは……?」
私の問いかけに、彼女はーー
「私か?私の名は壱与。邪馬台国改め、大和国の初代女王だよ」
ーーそう、言った。