FAIRY TAIL ~魔導騎士と星の姫~   作:ジャージ王子

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3日連続というにはちょっと時間がオーバーしてしまいました・・・それでは第9話スタートです!


第9話 “DEAR KABY”・・・

エバルー邸の地下にある下水施設。走り続けたルーシィが足を止めたのはこの場所だった。

ここならば暫くの間は誰かに見つかる事もなく、集中して本を読むことが出来ると考えたからだ。

 

「・・・・・・」

 

今ルーシィがかけているのは“風詠みの眼鏡”。この眼鏡は本を読むスピードを倍以上に速める魔法アイテムである。

 

「まさかこんな秘密が隠されていたなんて・・・。この本は燃やせないわ」

 

日の出(デイ・ブレイク)を読み終えたルーシィは、ついに隠された秘密に気付いた。

そして、彼女にはその秘密を伝えなければならない人物がいた。

 

「早くこの本をカービィさんに届けなきゃ」

 

依頼主にこの本を届けようと決意し、立ち上がるルーシィ。しかし、背後の壁からそれを阻もうとする腕が伸びていた。

 

「ボヨヨヨヨ。風詠みの眼鏡を持ち歩いているとは、お主も中々の読書家のようだ」

 

「えっ!?」

 

ガシィッ!

 

一瞬の隙を突かれ、壁から伸びたエバルーの手に捕まってしまい身動きが取れなくルーシィ。強い力で腕を捕まれ、相手は背後、しかも半身を壁の中に潜らせているためルーシィの方から反撃をする事が出来ない。

 

「さあ言え。何を見つけた?」

 

「誰が教えるもんですか。アンタは文学の敵だわ!」

 

「ボヨヨヨヨ。我輩のように偉くて、教養のある人間が文学の敵だと?」

 

「あんな変なメイドを連れている人間に教養なんて・・・」

 

「我輩の“美人”メイド達を愚弄するでない!」

 

「痛っ!」

 

エバルーの力が更に強まる。

 

「さあ早く秘密を言え!でなければこの腕をへし折るぞ!」

 

口調が段々と荒くなっていくエバルー。恐らくはったりではなく本気なのだろう。

ルーシィもそれを察してこの状況の打破を考える。肝心の星霊の鍵はエバルーに捕まれた時の衝撃で地面に落としており、拾うことも出来ない。

つまり今のルーシィには降参するしか手が残っていない。しかし、自分の知った秘密を教える相手はカービィであってエバルーではない。ルーシィの、そしてケム・ザレオンのプライドの為にもここで屈するという選択肢は存在していなかった。

 

「アンタなんかに・・・教える訳ないでしょ。べーだ」

 

舌を出しながら反抗のポーズをとるルーシィ。その態度に遂にエバルーも我慢出来なくなった。

 

「調子に乗るでないぞ小娘ぇ!その本は我輩の物!我輩がケム・ザレオンに書かせたんじゃからなぁ!つまり本の秘密も我輩のものじゃあ!」

 

「あぐっ!」

(このままじゃ・・・本当に、腕がっ・・・)

 

ボキィッ

 

無惨にも鳴り響く骨の折れる音。

しかし、その音を奏でたのはルーシィの腕ではなかった。

 

「おおぅっ!?」

 

「ハッピー!」

 

ルーシィを追ってきたハッピーが寸での所で到着し、飛んできた勢いを利用して逆にエバルーの腕に強烈な一撃を与えたのだ。

反動を回転しながらいなし、地面に着地しようとするハッピー。しかし、ここは下水施設。着地場所を見誤ったハッピーはそのまま水没した。

 

「・・・・・・」

 

「何だこの猫は!?」

 

「バッビィべぶ」

 

「“ハッピーです”だってさ。っていうか上がってくれば?」

 

「びぶ、びぼびいべぶ(水、気持ちいいです)」

 

「それ下水よ?」

 

「おのれぇ・・・」

 

「形勢逆転ね。この本をあたしにくれるんだったら許してやってもいいわよ」

 

拾い上げた鍵をエバルーに向けて対峙するルーシィ。

 

「ほう、貴様星霊魔導士か。だが文学少女の割には言葉の使い方を間違えておる。形勢逆転とは勢力の優劣状態が逆になること」

 

またしてもエバルーが地面に潜っていく。

 

「猫が1匹増えたところで、我輩の魔法“土潜(ダイバー)”は破れん!」

 

「これって魔法だったのかぁ。ってことはエバルーも魔導士!?」

 

ルーシィが真下から現れたエバルーの拳を避ける。

 

「この本はアンタが主人公のヒドイ冒険小説だったわ」

 

「我輩が主人公なのは素晴らしい。しかし、内容はクソだ。ケム・ザレオンのくせに駄作を書きおって!」

 

一旦水辺に入るも、エバルーは関係なく攻撃を繰り出してくる。

 

「無理矢理書かせたくせに、偉そうな事を!」

 

「偉そう?違う、我輩は偉いのじゃ。その我輩の物語を書けるなど光栄なことであろう!」

 

「脅迫して書かせたんでしょ!」

 

「それがどうした?結局ヤツは書いた!我輩がいかに偉大か気付いたのだ!」

 

「違う!彼はアンタから家族を守る為に書いたの!自分の作家としての誇りを捨ててでもね!」

 

「貴様が何故そこまで知っている?」

 

疑問に思ったエバルーは攻撃の手を休め、地上に出てくる。

 

「書いてあるからよ、この本に。全部ね」

 

「その本なら読んだ。しかしケム・ザレオンを含めそんな事は何一つ書いてなかったぞ」

 

「勿論、この本は普通に読めば彼が書いたとは思えない程の駄作。だけどケム・ザレオンは元々“魔導士”」

 

「・・・まさか!?」

 

「そう、彼は最後の力を絞って・・・この本に魔法をかけた!」

 

「魔法を解けば我輩への恨みを綴った文章が現れる仕組みか!?」

 

エバルーの言葉にルーシィが深いため息を吐く。

 

「発想が貧困ね。確かにこの本が完成するまでの経緯も書いてあった」

 

でも、と一拍置き日の出(デイ・ブレイク)をエバルーに見せつける。

 

「ケム・ザレオンが本当に伝えたかった言葉はそんな事じゃない。本当の秘密は別にある」

 

「何ぃっ!?」

 

「だからこの本はアンタには渡さない。“本当の持ち主”の元に届けるんだから!開け!巨蟹宮の扉!!」

 

鍵の一つを取り出し、契約の元、異次元の扉を開く。

 

「キャンサー!!!」

 

現れたのは背中に蟹の足が生えている美容師のような男性だった。

 

「蟹キタ━━━━━━!」

 

何故かハッピーのテンションが上昇する。

 

「絶対語尾に“~カニ”ってつけるよ!お約束だよね!」

 

「静かにしないと肉球つねるわよ」

 

「ルーシィ…」

 

ハッピーの期待が高まる中、遂にキャンサーが口を開いた。

 

「今日はどんな髪型にする“エビ”?」

 

「エビ━━━━━━━!?」

 

「今はそういう状況じゃないの!戦闘よ、戦闘!そこのヒゲオヤジをやっつけちゃって!」

 

「了解エビ」

 

想像とのギャップに戸惑うハッピー。そして、戸惑っている人物がもう1人。

 

(ひ、秘密じゃと・・・!?まさか、我輩の事業の裏側を書いたのか!マズい、それが評議院に渡ったら・・・我輩は終わりだ!)

 

「ぐおぉぉ!おのれぇぇぇぇ!」

 

自分で立てた仮説に1人焦るエバルー。もはやなりふり構っていられないと考えた彼は最後の切り札を切った。

 

「開け!処女宮の扉!!」

 

「え!?」

 

「ルーシィと同じ星霊魔法!?」

 

「バルゴ!!!」

 

溢れ出す煙と共に、あのゴリラメイドが現れる。

 

「お呼びでしょうか?御主人様」

 

「コイツ!星霊だったの!?」

 

ゴリラメイドが星霊だった事に驚くルーシィだったが、ある事に気付き更に驚きが増す。

 

「え!」

 

「え!?」

 

「えぇっ!?」

 

「アルト!ナツ!」

 

そう、(ゲート)を抜けてアルトとナツも共に飛ばされてきたのだ。

 

「何故貴様等がバルゴと!」

 

「いや~、このゴリラメイドとチェイスしてたらなんか光に巻き込まれてさ~」

 

「うぷっ・・・」

 

「人間が星霊界を通過して来たって事!?というかまたナツ酔ってるし!」

 

「ルーシィ!この状況俺は何すればいいんだ!?」

 

「・・・!そいつをやっつけちゃって!」

 

アルトの一言で冷静さを取り戻したルーシィは指示を出すと同時に、自身も腰元の鞭を手に取って行動に移る。

 

「りょーかい!ハッピー!早くナツを連れてけ!」

 

「あい!」

 

「うぷっ・・・」

 

未だに酔っているナツをハッピーが飛んで回収する。

 

「バルゴ!邪魔者を一掃しろ!」

 

「させねーよ!大地の剣“グランド”!」

 

バルゴの動きを封じるため、アルトは最も攻撃力の高い剣を錬成する。

大地の剣“グランド”。威力が高く、刀身の重さもトップクラスのその剣を落下の速度を利用してバルゴに突き落とす。

 

「いっけぇっ!」

 

「ぼふぉ!」

 

「何だと!!バルゴがやられた!?」

 

予測もしていなかった事態に動揺している間に、ルーシィの鞭がエバルーを捕らえた。

 

「これで地面には逃げられないわよ!」

 

「しまった!」

 

そのまま釣り竿のようにエバルーを上に引き上げると、キャンサーも跳びたつ。

 

「アンタみたいな奴は・・・」

 

エバルーとキャンサーの影が重なった瞬間、目にも止まらぬ速さで攻撃が繰り出される。

 

「脇役で十分なのよ!」

 

「ボギョオッ!」

 

鞭から解放されたエバルーは気絶したまま地面に落とされる。そして落ちた同時に髪の毛が刈り落ちていった。

 

「お客様、こんな感じでいかがでしょう?・・・エビ」

 

「うん、結構イイんじゃないかしら」

 

エバルーの光り輝く坊主頭を見て微笑んだ後、ルーシィは日の出(デイ・ブレイク)をそっと抱きしめたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

†††††

 

エバルー邸での一件は、日の出(デイ・ブレイク)の破棄ではなく回収によって幕を閉じた。

しかし、それで全てが終わった訳ではなく、彼らには日の出(デイ・ブレイク)を真に持つべき人物に届けるという仕事が残っていた。

 

「これは一体・・・どういう事ですか?私はこの本の破棄を依頼した筈てす」

 

カービィ・メロンはルーシィに日の出(デイ・ブレイク)を手渡されるとそう返答した。

 

「破棄するのは簡単です。カービィさんにだって出来る」

 

「だ、だったら私が焼却します。こんな本・・・見たくもない!」

 

(・・・・・・)

 

その状況をアルトはただ見つめていた。

 

「あなたが何故この本を破棄したがっていたのか分かりました」

 

「!?」

 

「父親の誇りを守る為。あなたはケム・ザレオンの息子ですね?」

 

「「えぇーっ!」」

 

(なるほどな・・・)

 

ナツとハッピーが驚く中、アルトは1人自分の推理が繋がった事を確信した。

 

「何故それを・・・?」

 

「カービィさん、この本を読んだことは?」

 

「?いえ、父から話を聞いただけです。しかし読むまでもありません。・・・駄作だ。父がそう言っていました」

 

「だからって燃やすことはねーだろ!父ちゃんの書いた本なんだろ!」

 

「ナツ!お前の言いたい事も分かるけど落ち着け!」

 

「ちっ」

 

舌打ちした後、育ての親であるイグニールがくれたマフラーに触れるナツ。突然親と別れることになった彼だからこそ親子を繋ぐ物を捨てる事は許せないのだろう。

 

「父はこれを書いたことを恥じていました」

 

そして語られる31年前の出来事。

3年間も音信不通だった事。

大金を持って帰ってくるなり、自分で腕を切り落とし作家としての人生を捨てた事。

親子の関係に亀裂が入ったまま父親が命を絶った事。

死んだ後も父親を憎んでいた事。

 

「ですが、年月が経つにつれ憎しみは後悔に変わっていった。もしかしたら私の一言が父を殺してしまったのかもしれない、とね。だからせめてもの償いに父が駄作と言ったこの本を、父の名誉の為にこの世から消し去りたいと思ったのです・・・」

 

全てを語り終えたカービィはマッチ棒に火を点け、本に近づけた。

 

「待って!」

 

カッ!

 

ルーシィが止めようとした瞬間、日の出(デイ・ブレイク)がひとりでに輝きだした。

 

「「「!!!」」」

 

すると表紙に書かれている“DAY BREAK”の文字が浮かび上がり、次々に移動していく。

 

「ケム・ザレオン・・・本名ゼクア・メロン。彼はこの本に魔法をかけました」

 

ルーシィがそう言い終わると、文字が新しい意味に並び変わっていた。

 

「“DEAR KABY”・・・」

 

「そう、彼のかけた魔法は文字が入れ替わる魔法です。表紙だけでなく、中身も全部」

 

表紙の文字が入れ替わった直後、今度は中の文章の文字が外に溢れ出すと同時に並び替えが始まる。

 

「文字が踊ってるみたいだ!」

 

「彼が作家を辞めてしまった理由は、最低な本を書いてしまったと同時に、これ以上ない最高の本を書いてしまったからかもしれませんよ」

 

全ての文字を納め終えたこの本はもはや日の出(デイ・ブレイク)ではない新しい物語に生まれ変わった。

 

「それがケム・ザレオンが本当に残したかった本です」

 

その本を手に取ったカービィは1ページずつ大切に、大切に捲っていった。

 

「私は・・・私は父を理解出来ていなかったようですね」

 

「作家の考えてる事が分かってしまったら、本を読む楽しみがなくなっちゃいますから」

 

「本当にありがとう・・・この本は燃やせませんね・・・」

 

「だったら俺達も報酬はいらねーよ」

 

カービィが涙ながらに感謝を述べると、ナツが笑顔で返事をした。

 

「え?」

 

「ちょっとナツ!アンタ何言ってんのよ!?」

 

「だって依頼は“本の破棄”だろ?達成してねーじゃねぇか」

 

「もう!アルトも何とか言ってよ!」

 

「ウチの大将がこう言ってるんだ。報酬は貰えねぇな」

 

「そんな~」

 

こうして一冊の本を巡る一件は本当の形で幕を閉じたのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

†††††

 

カービィに本を届けた後、一行はナツの希望により徒歩で帰路についていた。

 

「はぁ~、せっかくの200万Jがパーだなんて・・・」

 

「まぁまぁ、いいじゃねぇか。本当は金持ちじゃなかったあの人から200万も貰えないし」

 

「それはそうだけど・・・」

 

どうやらカービィは依頼を受けてもらう為に見栄を張っていたらしく、豪邸も友人から一室を借りたらしい。

 

「あのケムとかいう小説家、ホントはすげー魔導士だよな」

 

「あい、魔法の効果が30年以上続くなんて相当な魔力だよ」

 

「若い頃は魔導士ギルドにいたみたいよ。そしてそこでの冒険を小説にした。・・・憧れちゃうなぁ~」

 

そんな様子のルーシィを見てアルトがある事に気付いた。

 

「なぁルーシィ」

 

「何?」

 

「もしかしてこの前部屋にあったアレって・・・自作の小説?」

 

「な・・・!」

 

「その様子じゃ当たりだな」

 

にっ、とまるでイタズラが成功した子供のような笑みを浮かべるアルト。

 

「ぜ、絶対!絶対皆には内緒にしておいてよ!」

 

「そんなに焦らなくても・・・。ルーシィって結構可愛いところあるんだな」

 

「へっ、かわっ・・・」

 

爽やかな笑顔+最高の誉め言葉=プライスレス

 

不意に可愛いと言われ、ルーシィの中のキャパシティがオーバーヒートを起こす。

 

ボンっ

 

結果、ルーシィは爆発した。

 

「ルーシィ!?大丈夫か!おいルーシィ!」

 

 

 

 

 

目が覚めたルーシィがアルトにおんぶされてることに気付き、二度目の爆発を起こすのはそれから数時間後のことである。




どうもジャージ王子です!
遂に完結しました日の出編!今回と前回の話を足すと字数1万超えでした。・・・分けて正解でしたね。
この日の出編全体のストーリーは“アルトとルーシィの距離感の変化”を織り交ぜながら書かせてもらいました。6話から9話までを見比べてみるとそんな印象がチラホラと・・・うーん、もっと上手く書ければ良かったんですが。自分の文才の無さが恨めしい…
さて次回、やっとあのキャラが登場しますよ!
引き続き、感想やご指摘などありましたらコメントお願いしますm(_ _)m
以上、ジャージ王子でした。ではでは( ・_・)ノシ

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