FAIRY TAIL ~魔導騎士と星の姫~   作:ジャージ王子

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黒アルト暴走回。
伏線張りまくってかなりカオスな回になっていますがどうぞお付き合いください。



第28話 この化け物が

「アンタには礼を言っておくぜ」

 

目の前に立つ黒く染まったアルトの第一声はこの言葉だった。

 

「礼だと…?」

 

「元々、錬金魔法の出来損ない野郎がこの身体に負の波長を送ってきた事で封印は緩み始めていた。続けてアンタがコイツ(・・・)の怒りを煽ってくれたお陰で解放されたオレが表に出てこれた訳だ」

 

まるで、相手が理解できないであろう事を分かっているかのような、完全にジョゼを見下した態度と表情のアルト。

正にその通りで言っている意味はほとんど理解できないジョゼであるが、自身の胸あたりを指さして他人のようにコイツと呼んでいる事が気にかかった。

 

「もう一度聞こう、貴様は本当にアルト・イミテイティヴか?」

 

「さっきまでアンタと戦ってた奴をアルトと言うなら、オレとアイツは別人と言ってもいい」

 

「っ!」

 

その言葉だけでも十分に衝撃的であったが、目の前のアルトではない青年は更に話を続けた。

 

「ただ、そうだな…。どちらかというと、アイツよりオレの方がアルトだ(・・・・・・・・・)

 

「一体何を…」

 

「まぁ、長話する為に出てきたわけじゃねぇからさ。さっさとやろうぜ」

 

結局、ジョゼは彼の言っている事のほとんどが理解できなかった。そんなジョゼに対して黒いアルトは同じく黒に染まって意匠も変化した剣を突き付ける。

 

「貴様はアルトであっても“アルト・イミテイティヴ”とは別人、そう言ったな。ならば我々が戦う理由など無いのでは?」

 

そう言った瞬間、今までの見下すようなにやけ顔が一変して険しくなった。

 

「あぁ?寝ぼけた事言ってんじゃねぇぞ…。理由が無いだ?こうして向かい合ってるだけで十分じゃねぇか」

 

が、その表情はすぐにまた深い笑みをこぼし、鋭い殺気も霧散する。

 

「それとも、ビビってんのか?得体の知れない相手を前にして不安と恐怖で足も動かせねぇか?」

 

「貴様…!」

 

分かりやすく単純な挑発であったが、その言葉はジョゼを煽るには十分だった。と言うのも、黒いアルトが言っている事はあながち間違ってはいない。勿論、先程までの戦いを振り返ればジョゼが敗ける事はまずあり得ないし、今目の前に立つアルトであっても勝てないとは思っていない。しかし、黒いアルトの放つ魔力や殺気がジョゼに直感させる。“この男は何をしかけてくるか分からない”と。

 

だが、ジョゼも聖十大魔導の一人。相手が何を繰り出して来ても自身の力で叩き潰せば良いだけの事だ。

 

「先程よりも強めに痛めつけないと分からんようだな…」

 

その返答は戦いを受けるという意志を示し、黒いアルトをより歓喜させた。

 

「んじゃ、始める前に一つだけ。後で言い訳とか言われたくねぇから先に言っておくぜ」

 

この黒いアルト、ジョゼが戦う気を見せてから前置きを挟むなど先程から何度もジョゼのペースを乱している。挑発に続きこれもまたジョゼを苛立たせる原因となっていた。

 

「…何だ」

 

「いいか?今からオレはテメェに攻撃する。構えておけよ?」

 

「ハッ!何を馬鹿な事を…」

 

宣言と共に走り出してきた黒いアルトを一笑に付すジョゼ。一直線でこちらに向かってくる相手をどう警戒すればいいのか。更に言えば、今のアルトは風の能力で加速したアルトに比べてあまりにも遅い。唯一ジョゼに傷を付けたあの速さがないのなら対処法を考える時間も出来る。

 

(先程のようにデッドウェイブでカウンターを……む?)

 

コンマ数秒の思考の最中にジョゼは違和感を覚えた。

アルトの速度に対して、自分達の距離が予想より僅かに短くなっている。あの速さではそこまでの距離を詰める事はできない筈というのがジョゼの予想であった。しかし、今もジョゼの速度に対する感覚を無視してお互いの距離が縮まっていく。その事実にジョゼは目を疑わずにはいられなかった。

 

 

 

「捕まえた」

 

気付けばジョゼはアルトの間合いの中に入っていた。

 

「しまっ──!」

 

迷いのない黒き一閃が直撃し、部屋の中央にいたジョゼは吹き飛ばされ大きな音を立てて壁に激突する。

 

「お?」

 

衝突の際の感触に違和感を持ったアルトはジョゼが吹き飛んで行った方へ視線を向ける。

そこには被った瓦礫を落としながら立ち上がるジョゼの姿があった。刃を受ける直前、ジョゼは自分とアルトの間にデッドウェイブの壁を作り直接攻撃を受けずには済んだ。それでもなお自分をここまで吹き飛ばずその威力にはただ驚愕するしかない。

 

「いいね、いいねぇ。一撃で沈まれたらどうしようかと思ったぜ」

 

「貴様、何をした…!?」

 

余裕の笑みを浮かべるアルトと、息を切らし始め肩が上下するジョゼ。たった一度のやり取りで2人の状況は完全に入れ替わっていた。

 

「種明かしの時間は早ぇだろ、ショーはまだまだ始まったばかりだからな」

 

「ふざけるなぁっ!!」

 

アルトの態度にいよいよ逆上したジョゼはデッドウェイブを連発する。

その猛攻の波にアルトは躊躇せず突っ込んで行った。怒りで狙いが定まっていない攻撃ではあるが、幾つかはアルトの身体に傷を付けるし、ダメージも負わせている。

攻撃の勢いで足を止めるしかなかったが、アルトは焦り一つ見せずジョゼを見据える。特有の弧月を連想させるその笑みを向けながら。

 

「どうだ!これ以上近づけまい!」

 

「テメェがこっちに来るんだよ」

 

ジョゼに向かって黒に浸食された右手を向けるアルト。すると、ジョゼの身体が段々とアルトの右手の方へ引き寄せられて行く。

 

「何だと!?」

 

「わざわざ来てくれてありがと、さんっ!」

 

為す術もなく引き寄せられるジョゼに剣を振るう。咄嗟の事に腕を盾代わりにする事しかできず、ジョゼの右腕はバキバキという音を立てて呆気なく砕けた。

 

「ーーーーーっ!!」

 

激痛によって絞り出されたような掠れ声がジョゼの口から漏れ出す。

 

「斬られたかと思った?錬金魔導士(アルケミスト)は魔力を調整して切れ味を変えられるんだよ。だからこうやって打撃もできる。よかったなぁ?身体が真っ二つにならなくて」

 

「ぐっ!」

 

ゆっくりと近付いてくるアルトを避けるように後ろへと跳ぶジョゼ。それを見たアルトは嫌われたもんだなとうそぶいてみせた。

 

「ハァハァ…貴様の能力、“引力”か。人格が変われば魔法の能力も変わるというのか…?」

 

力が入らなくなった腕をぶら下げながらも、ジョゼは気丈に振る舞う。

 

「まぁ、あんだけ間近で受ければバレるか…。ご名答、引力がオレの属性の性質だ。オレの能力は闇…だからな」

 

「闇属性…!?」

 

別人などとは言ってはいたが、先程までは風火水土の四大元素、そして今は闇。目の前に立つこの魔導士の身体には一体どれだけの能力が秘められているというのか。

先程までならアルトのその力を手中に収めようと奮い立っていただろう。

だが今は違う。

 

「さぁ、久しぶりの戦いだ。もっと楽しませてくれよ?」

 

「この化け物が…!」

 

今のジョゼが抱いているのは恐怖の感情だけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

†††††

 

「ハッ…ハッ、あそこだ!」

 

エルザ達から離れ、アルトのいる部屋へと向かっていたルーシィはいよいよその入り口を目で確認できる所までやって来た。

 

今のアルトを1人にさせてはいけない。別れ際の背中を見た時からずっとそう思っていた。自分に何ができる訳でもない、それでもアルトを守りたいという気持ちがルーシィを突き動かしていた。

 

 

 

「アルッ……!?」

 

部屋に入ってすぐに彼の名前を呼ぼうとした。しかし、目の前の光景が目に入った瞬間、ルーシィは何が起きているのか理解ができなかった。

 

そこに立つのは2人の男。1人は首を掴まれて無理矢理立たされているジョゼ。身体には無数の傷が刻まれ呼吸は荒く恐らく自力では立つのも困難な状態だろう。

そしてもう1人、ジョゼの首を掴んでいる男。自分が流した血か、それとも相手の返り血かおそらくその両方を纏っているのは紛れもなくアルトだった。

 

ジョゼの痛々しい姿にも驚いたが、アルトへの印象はそれ以上だった。あのアルトが笑いながら平然と人を傷付けている。ルーシィにはそれがとても信じられなかった。

 

 

 

「そろそろ終わらせるか」

 

「っ!?」

 

アルトから発せられたいつも自分を呼んでくれるあの優しさとは違う、全く別物の冷酷な声に思わず肩が震える。

 

「全身を細切れにされるか、引力で身体の中のモノ全部引きずり出されるか…好きな方で死なせてやるよ」

 

「………」

 

もはや喋る力もないのか、口だけは動いているがその声はルーシィにも間近にいるアルトにさえ聞き取る事ができなかった。

 

「そうかそうか、自分じゃ選べないか~」

 

勝手な解釈をして話を続けるアルトは、それならと呟きジョゼの首から手を離す。そのまま崩れ落ちたジョゼは膝を折った状態で力無く座り込んだ。

 

「頭から真っ二つにしてやるよ」

 

「!!!」

 

剣を振り上げるアルトの言葉は本気だ。それを見たルーシィはアルトの方へ走り出すと背中から抱きついた。

 

「止めて!こんなの間違ってる!」

 

「あ?」

 

突然の制止に少なからず戸惑う様子を見せているアルト。その背中に顔をうずめてルーシィは話し続ける。

 

「アルトの魔法はみんなを笑顔にする為のものなんでしょ!?なのに…こんなのダメだよ…」

 

途中から涙を抑えきれなくなり、声も段々とか細くなっていく。

 

「ったく、女か?こんな時に割って入って来るんじゃ…」

 

しかし、ルーシィの言葉が響いていないアルトは何の感傷もない様子でルーシィを背中から引き剥がし、彼女の正面へと向き直る。

 

「なっ!?」

 

ルーシィの顔を見た瞬間、黒いアルトはこの場所に立ってから初めてその余裕の表情を崩した。

 

「なんでテメェがここにいる!?」

 

「そ、それは…」

 

ルーシィにとってそれは“なぜ戻ってきたのか”という意味として伝わったが、発した本人にそういった意図はない。ただ言葉の通り“彼女がここにいる事(・・・・・・)”が信じられなかったのだ。

 

「…そういう事か」

 

「…え?」

 

「あの魔女(・・)か…仕組みやがったな!」

 

「何を言ってるの…?」

 

1人で話を進めていくアルトにルーシィはまったく付いていけない。

 

「けど残念だったなぁ…ここでコイツを殺しちまえばテメェの目論見も水の泡だ…!」

 

天井の方を見上げ、まるでここにいない誰かに話しかけているようにも見えた。そうかと思えば突然ルーシィの方へと顔を戻しその独特の笑みを浮かべる。

 

「そういう訳だからさぁ、アンタには死んでもらうわ」

 

「アル…ト…?」

 

未だに状況が掴めないルーシィに対して剣を高く上げる黒いアルト。アルトが自分を斬る、その事実を受け入れる事ができずルーシィの身体は固まっていた。

 

「じゃあな…お姫様(・・・)!」

 

何もできないルーシィへと、黒い剣が振り下ろされた。




感想やご指摘、質問などお待ちしています。

以上、ジャージ王子でした。ではでは( ・_・)ノシ

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