FAIRY TAIL ~魔導騎士と星の姫~ 作:ジャージ王子
「何で…」
アルトとワイル、2人の前に現れたのは無数の風の刃によって消滅したはずのホワイトマンだった。
「あんちゃん!」
「っ!」
近付いてきたワイルの一喝によって我に返るアルト。彼がいなければおそらくアルトの思考は停止したままだっただろう。
「ここでまたあの野郎が出てきたのは想定外だったが…。やれるか?」
「…大丈夫です」
再び、剣を構え直すアルト。しかし、その表情を見て「大丈夫」だと感じる者はまずいないだろう。だからと言ってアルトを退かせワイル1人でホワイトマンを倒す事も出来ない。
(俺も出来る限りサポートしなきゃいけねぇな、こりゃ…)
そう気持ちを切り替えた時、戦況は再び動き出した。
「っ!?」
一瞬の間にホワイトマンがアルトに剣を振るう所まで接近する。もはや隣のワイルは見えていない。まるで復讐だとでも言うようにただ一点、アルトのみを狙っていた。対するアルトもまた剣を振るい、切っ先をずらしてホワイトマンを押し戻す。
「………」
再びホワイトマンと一定の距離ができたところで、アルトは切り傷の出来た左肩を見る。刃そのものは確かにかわした筈ではあるが、どういうわけかホワイトマンの斬撃はアルトに到達していた。まるで“見えない透明な刃”を放ったかのように。
そして気になる事がもう一つ。
(昨日より確実に早くなっている)
衝動のままに攻撃してくる太刀筋は変わらないが、斬撃、速度どれをとってもスピードが増している。
一体どういう事なのか考えておきたい所ではあるが、ホワイトマンと接触した時に起きる雑音がそれを邪魔する。
「くそっ…!」
前回は振り切れた雑音も、今は払うことが出来ない。そしてホワイトマンに感じる同族嫌悪にも似た感情がアルトの冷静さを失わせていた。
(このままじゃ埒があかない、一気に終わらせてやる!)
次に仕掛けたのはアルトだった。風の剣を錬成し、自身最速のスピードでホワイトマンの懐まで接近する。
「吹き飛べ…!」
再びホワイトマンに対して放たれる真空波。加減した前回とは違いほぼ全力、更に接近する際のスピードを反動として上乗せしているため威力は桁違いに上がっている。
このまま当たれば行動不能とまではいかないまでもかなりダメージを蓄積させることが出来る、この一撃によってアルトが優位に立つのは確実だった。
しかし、ホワイトマンに着弾する瞬間、風の砲弾は消えた。
「なっ!」
アルトが驚いたことにより隙が生まれる。元々こうなることが分かっていたのかホワイトマンはガラ空きになっているアルトの胸元に刃の先を向け、
「────ッ!!」
アルトが放とうとしていた真空波を撃ち出した。
「がッ…!?」
当然避ける事も出来ず、アルトは衝撃を受けながら吹き飛んでいく。その軌道線上に移動したワイルは掌を正面に向けてアルトを迎えるように構えをとった。
「波動・受けの型!」
そう叫んだワイルの前方にはうっすらと見える程度の透明な膜のようなものが形成され、それが飛んできたアルトを包み込むと同時に胸元に渦巻いていた風も拡散していく。
「大丈夫か!?」
「ハァハァ……ゴフッ…!」
口から込み上げてくる血液を吐き出す。胸部を覆う服は破れ、肉体そのものも多少なり抉れていた。本来ならば完全に真空波が貫通していたが、ウインドを発動している際は剣が常に大気を“纏う”為アルトもまた無意識のうちにホワイトマンと同じく風を相殺させていたのだった。
「アイツ、何で俺の風の能力を…」
復活したかのように再び姿を現したホワイトマンが自分と同じ風の能力を使ってみせた事によってアルトの疑問は更に増えていく。
一方、そうして思考を続けるアルトを見ているワイルは危機感を覚えた。アルトは明らかに冷静さを欠いているのだ。戦闘を見ていた側のワイルからすれば先程の攻撃もスピード任せの単純な突進にしか見えず、恐らくホワイトマンも同じように感じ、タイミングを合わせてカウンターを狙ってきたように思える。
「あんちゃん、ちょっと落ち着け」
「俺は落ち着いて…「そう見えねぇから言ってんだ」…っ」
どう反応してくるかは大体予想がついていたので、アルトの言葉を遮る。
「確かにあの怪物は昨日までのヤツとは別モンのように進化してる。今こうしていても攻めてこないのが良い例だ」
昨日までのホワイトマンなら、野獣のようなデタラメな攻撃でこちらが話す隙すら与えなかっただろう。しかし、目の前に立っている怪物は新たな力と共に知能も手に入れたようで、今もアルトとワイルの出方をうかがっている。
「お前さん、何と戦っている?」
「え?」
その質問は敵を目の前にした戦闘中にするものではなかった。だからアルトも一度は自分の耳を疑い、少ししてからそれに対する答えを持っていない事に気がついた。
「昨日今日しか戦ってるとこ見たことねぇが、お前さんは敵を倒そうとしながら自分も死にに行くような戦い方をしてる。そういう奴は信念や理想なんて言う綺麗な建前がないと戦えねぇ奴だ」
「………」
確かにそうなのかもしれない。そう思うとアルトは口を開く事ができなかった。
「─────────ッ!!」
そんな中、相手が何もしてこないのを察したのか、それとも我慢が出来なくなったのかは分からないが、再びホワイトマンが仕掛けてきた。
「波動・反りの型…!」
「!?!?」
しかし、ホワイトマンの突撃はワイルの波動によって吹き飛ばされる。
「続けて、波動・囲いの型!」
「ッ!?」
更に追い打ちをかけるように、ホワイトマンをエネルギー状の檻に閉じ込める。
アルトのみが脅威だと感じていたホワイトマンは完全にワイルを標的から外しておりその油断の結果、ホワイトマンは動きを封じられるまでに至ってしまった。
「そこで、少し大人しくしてな」
「これが…ワイルさんの魔法…」
ワイルの魔法は“波動”。全ての魔法を中和・無効化する他、物理攻撃として転用する事ができる。
「油断していたとはいえ、俺だってあれ位はできる」
ホワイトマンからアルトに視線を移し、「そして…」と言葉を続ける。
「お前さんは間違いなく俺よりも強い。アルト、お前さんなら奴を倒せる」
「!!!」
「その為に俺を頼ってくれても良いんだぜ?」
そう言ってワイルはアルトに手を差し伸べた。
その手を見つめアルトは先程までの深刻な表情を払い笑みを浮かべる。
(そうだよな、俺1人で戦ってる訳じゃないんだ…)
思えば今までのアルトは常に1人で何でもこなそうとしていた。しかし、それには限界がある。そして、目の前には志を同じとする仲間が立っている。
「すいません、力を貸して下さい」
「そういう時は素直に礼を言うもんだが…。まぁ引き締まった良い顔つきにはなったから今回は大目に見といてやるか。んで、どうするつもりだ?」
「相手は風の力を持ってる…。だったらそれと相性の悪い属性をぶつけてやればいい」
「と言うと?」
「火です。風を巻き込み更に力を増す事ができる」
これはハッピーの機転でナツがエリゴールにとった戦法と同じものである。
「ただ、スピードではあっちが有利になる。いざという時の防御を…」
「俺がやるって事か」
「はい」
「なら俺も1つ良い考えがある」
†††††
「準備はいいですか?」
「いつでも行けるぜ」
話し合いが終わった2人は改めてホワイトマンと向き合う。アルトのその手には火の剣“フレイム”が握られている。
「行きます!」
「おう!」
アルトがホワイトマンに向かって走り出した瞬間、ワイルはホワイトマンにかけていた檻を解く。ホワイトマンもまた檻が消えたと同時にアルトの方へ駆け出した。
「フレイム…ヒートッ!」
アルトが叫ぶと同時に火の剣が赤く輝き出す。
「────ッ!」
危険だと察知したのかホワイトマンが牽制で風の刃を乱射してくる。
「波動・反りの型!」
アルトを包む形で波動を貼る。それが全ての風を弾いていた。
風が弾かれる度にアルトとホワイトマンの距離が縮まっていく。
「─────ッ!」
お互いの間合いに入ると、先に剣を振り出したのはホワイトマンだった。やはりと言うべきか風の力を手に入れたホワイトマンの方がスピードが勝っている。
ガキィィン!
しかし、その攻撃も波動によって弾かれる。それと同時に耐久力の限界に達した波動も消えた。
「うおぉぉぉぉっ!」
剣となった腕が弾かれた事で隙ができたホワイトマンに剣を振りかざす。ホワイトマンもまたもう一方の腕を剣に変質させ受け止めようと構えた。となれば必然的にぶつかり合う2つの剣。
「!?!?」
そこでホワイトマンは驚愕する。自身の腕にアルトの剣が段々と食い込んでいるのだ。
アルトの発動したフレイムの能力の1つヒート。剣を高熱にする事で切断力を格段に向上させ、まるで溶接のようにホワイトマンの腕が切られていく。
「これで……終わりだぁぁぁぁあ!」
渾身の叫びと共に腕を切り、その勢いのまま胴体を横なぎにぶった切る。
「─────────────ッ!!!」
悲鳴のような金切り声を上げたホワイトマンはそのまま倒れた。すると全身にヒビが入り、粉々に砕け散ってしまった。
このストーリーはあと2話くらいでラストとなります。
それにしても、ワイルさん。ラミアスケイルで波動を使う魔導士と言えば…
そこら辺も含め次回からは解決編です。コ○ンで言うところの後編ですね。
感想やご指摘、質問などお待ちしています。
以上、ジャージ王子でした。ではでは( ・_・)ノシ