FAIRY TAIL ~魔導騎士と星の姫~   作:ジャージ王子

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第15話 やり直す事だって出来るさ

「どういう状況…?」

 

ナツのいる場所にたどり着いたルーシィの第一声である。

というのも鉄の森(アイゼンヴァルト)一員、カゲと呼ばれる男がエルザに押さえつけられ脅されている、と言ったような状況が繰り広げられていたからである。

そこで先に来ていたグレイが事情を説明する。

 

「あのカゲって奴は解除魔導士(ディスペラー)だったんだ」

 

「でぃす…何?」

 

「ディスペラー。ようは魔法でできた罠や封印を解除する魔導士の事だよ」

 

「確かに解除魔導士(ディスペラー)だったらあの風を消せるかもな。けど、どういう事だ?エリゴールは?」

 

「エリゴールはここにはいない…」

 

「何?」

 

「あいつの、鉄の森(アイゼンヴァルト)の狙いは初めからじーさん達ギルドマスターのいる定例会さ。そこで呪歌(ララバイ)を吹くつもりらしい…」

 

「それって急がないとヤバいじゃない!」

 

「だから急いでるだろ、ああやってな」

 

そう言ってグレイはエルザとカゲのやり取りに視線を戻す。

 

「早く風の魔法を解いてもらおうか。緊急なのでな、命を奪うつもりはないが、切る事にためらいはないぞ」

 

「大人しく言う事聞いた方が身のためだぞ。それ、エルザにしては譲歩してる方だから」

 

「なんか、どっちが悪者か分かんなくなってきた…」

 

「相変わらずエルザはこえーな」

 

ここまでくればカゲがこちらに応えるのも時間の問題だろうとアルト達も思い始める。

 

しかし、

 

 

「ぐはっ」

 

「「「!?」」」

 

突然、カゲが血を吐き出し力無く崩れ落ちる。

 

「カゲ!」

 

「何やってんだエルザ!」

 

グレイが叫ぶものの、カゲに攻撃を加えたのはエルザではない。カゲの後ろの壁からナイフを持った腕が現れそのままカゲの背中に突き刺したのだ。

 

「すり抜ける能力…!逃げた奴か!」

 

そのすり抜けてきた男、カラッカも自分のやってしまった事にとても戸惑っている様に見える。

 

「ひぃっ!」

 

仕舞いには怯えて逃げ出してしまった。

 

「おい、待て…「テメェッ!!!」…ナツ!?」

 

アルトが追いかけようと走り出す瞬間、それよりも早くナツが叫びながらカラッカの抜けた壁に突っ込んだ。

 

「こんのぉっ!」

 

炎を纏った拳で加速しながら、その壁を殴り壊す。

 

「!?」

 

カラッカも突然の事に反応出来ず、崩れた壁と共にやってきたナツにそのまま押し倒される。

 

「何で仲間を刺した!おい!何とか言え!」

 

「ナツ!もう気絶してるから無理よ!」

 

カラッカに迫りながら更に拳を振ろうとするナツをルーシィが慌てて止めに入る。ルーシィの言うとおりカラッカは今の衝撃と迫力で泡を吹いて完全に気絶してしまっていた。

 

「カゲ!しっかりしろ!」

 

カゲもまた刺された場所が悪かったのか意識がない。

 

「くっ、お前にはやってもらう事があるのだ!起きてくれ!」

 

「やってもらうって、こんな状態じゃ起きたとしても魔法は使えねぇだろ!」

 

「エルザもグレイも落ち着けって」

 

「「アルト…」」

 

「今は魔法よりもコイツの命の方が優先だ。エルザ、ちょっとどいてろ」 

 

「……」

 

アルトの言葉で冷静さを取り戻したのかエルザは大人しくカゲから離れた。

 

「…アクア!」

 

アルトは倒れたカゲの前に立つと水の剣を錬成し、カゲに向ける。

 

「ちょ、ちょっとアルト!何する気なの!?」

 

「はぁっ!」

 

ルーシィの制止も聞かず、アルトはカゲに剣を振りかざした。

 

「っ!!!」

 

こんな惨劇は見たくないと、ルーシィは目を瞑る。

 

「……え?」

 

しかし、いつまでたっても想像していたような悲惨な音は聞こえてこない。疑問に思ったルーシィは結局目を開いた。

 

そこにはスライムのような個体と液体の中間と言ったようなものかカゲの傷口に乗っかっていたのだ。

 

「何これ?」

 

「コイツはリキッドって言ってな、色々と形を変えられる水なんだ」

 

「つまりアルトはこれでカゲの止血をした訳か」

 

「あぁ、グレイの氷でも良かったんだけど、これだったら溶けたり割れる事もないからな」

 

「おもしれぇな、今度俺も炎でやってみるか」

 

「はあ~…」

 

突然に色んな事が起きすぎてルーシィは腰の力が抜けてへなへなと地面に座り込む。

 

「大丈夫か?」

 

苦笑しながら手を差し伸べてくるアルト。

誰のせいだ、と思いながらため息をついてその手をとる。

 

「大丈夫じゃないわよ、まったく…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

†††††

 

「さてと、これからどうするか…だな」

 

一悶着を終えて、一行は自分達が駅の入り口として使ったエリアまで戻ってきた。当然ながらエントランスの下にあるこの一階部も風に覆われている。

 

「アルトの風でなんとかできないの?逆風で相殺~!みたいに」

 

「さすがに無理だな…」

 

アルトの能力、通称四大元素は状況によって力を使い分ける事で戦闘を優位にできる。が、今回のエリゴールやナツ、グレイといった1つの属性に特化した魔導士に対して同じ属性で張り合える程ではない。あくまでもアルトの能力は広く、浅くの方向に特化しているものなのだ。

 

「ルーシィはどうだ?それらしい能力を持ってる星霊はいないか?」

 

「それも考えてみたけど、あたしの方も駄目みたい」

 

「と、なると直接風を破る以外で何かないか…」

 

「あっ!!!」

 

アルトとルーシィの会話を聞いていたハッピーは突然何かに気付いたように大声を出した。

 

「ルーシィ、ルーシィ」

 

「どうしたの?」

 

ルーシィを呼んだハッピーは慌てながら背中の風呂敷をあさり始めると金色の鍵を取り出した。

 

「はい、これ」

 

「それ、バルゴの鍵じゃない!」

 

バルゴ、それは先日エバルーの屋敷で戦闘を繰り広げた星霊の名前である。

 

「もしかしてネコババしてきたの!?いくら猫だからって駄目じゃない」

 

「ルーシィ、そのギャグは流石にないぞ…」

 

「違うよ、バルゴがルーシィに渡してくれって」

 

「本人が直接って…あのゴリラメイドが来たのか…」

 

「それは嬉しいけど、今は関係ないでしょ?」

 

「アルトが風を破る以外の方法って言ったから。バルゴなら地面を潜って移動できるでしょ?」

 

「そうか、風の下を…!ナイスだハッピー!」

 

「たまにはやるじゃないハッピー!」

 

「ルーシィひどいよ…」

 

「ごめんごめん、じゃあ鍵貸して」

 

鍵を受け取ると早速呼び出すための詠唱を始める。

 

「開け、処女宮の扉!バルゴ!!!」

 

ボムッと煙が舞い上がる。

 

「……っ!」

 

アルトとナツは勿論の事、グレイとエルザも先程から言われているゴリラメイドが一体どんなものかと見守る。

 

「お呼びでしょうか、ご主人様」

 

「「「え?」」」

 

しかし意外にも煙の中から現れたのはゴリラという言葉から程遠い華奢な少女だった。

 

「お前痩せたな」

 

「あの時はご迷惑をおかけしました」

 

((痩せたというか別人…!))

 

「私はご主人様の望む姿にて仕事をさせていただきます」

 

「そうなのか。その…この前は思い切りぶっ飛ばして悪かったな」

 

「いえ、ありがとうござましたアルト様」

 

「何故にお礼?」

 

「と、とにかく!ここから外まで穴を空けてほしいの!できる!?」

 

「かしこまりました、“姫”」

 

「姫…わ、悪くないわねっ…」

 

「ルーシィー現実に戻ってきてー」

 

「では、行きます!」

 

そう言いバルゴは地面に飛び込むと、とてつもないスピードで穴を掘り進めて行く。

 

「よし!これで外に出られるぞ!」

 

 

 

 

 

 

 

†††††

 

「うわ、凄い風」

 

駅の構内ではそれ程感じなかったが、外側は風の流れの関係なのか強く吹き荒れている。

 

「さぁ、急いでクローバーに向かうぞ」

 

「無理だね…今から行ったってエリゴールさんには追いつけやしない」

 

「カゲ!?目が覚めたのか」

 

「何よ、倒れてる癖に偉そうに。ここまで運んだナツに感謝しなさいよ…ってナツは?」

 

ルーシィに言われて全員が辺りを見回すがどこにも姿は見えない。更にハッピーもいなくなっている。

 

「あの馬鹿!エリゴールのとこに向かったのか!?」

 

「私達も追うぞ!」

 

「駄目だ!俺達の魔導四輪車が破壊されてる!」

 

「あーあ、ご愁傷様」

 

焦るグレイを見てカゲがわざとらしく言う。

 

「テメェらがやりやがったのか…」 

 

「時間がないんだ、どっかから持ってくるしかないな」

 

「どっかってどこ「ガコーン!」…あ?」

 

突然グレイの言葉を遮って強風に乗って何かが降ってきた。

 

「これは…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

†††††

 

「まさか風に乗って魔導四輪車が降ってくるとは…悪運だけはいいな妖精(ハエ)共め」

 

「ハエ言うな」

 

アルトがツッコミを入れるとカゲも言うことが尽きたのか黙り込む。

現在、エルザが魔導四輪車でクローバーに向かう線路上を走りながらナツ達を探している道中である。

 

「何故僕を連れて来た」

 

全員が黙り込んだ空気に耐えきれなかったか、それともただ疑問に思ったのか、カゲが誰にというわけでもなくそう問いかけた。

 

「しょうがないでしょ、どっかの闇ギルドのせいであの町の人皆逃げちゃったし。アンタをお医者さんに見せるにはクローバーに連れてくしかないじゃない」 

 

「何で助けたのかって事だ!人質にでもするつもりか!?」

 

「なんでそういう方向に考える訳…?」

 

カゲの陰湿な考え方にルーシィも次第にイラつき始めてきた。

 

「魔法は人を守る為、笑顔にする為の希望の力」

 

「「「?」」」

 

何か言ってやろうとルーシィの怒りが爆発する寸前、アルトの言葉がそれを遮った。

 

「俺は記憶喪失なんだけどさ、昔からこの言葉だけは忘れてないみたいなんだ。誰が言ったのか、いつ聞いたのかも分からない。けど、何も無い自分に唯一残ってた思い出だから俺はこの言葉の通り生きようと思ってる」

 

「そんなのただの自己満足だろ。現にお前達は僕らを倒した」

 

「そりゃ、お前達が人を傷つけようって言うんなら止めるさ。そんな事したってお前達の為にならないんだから」

 

「お前は僕らが今まで受けてきた苦しみが分からないからそんな事が言えるんだ。だから…!」

 

「だから復讐をする、か?」

 

「っ!」

 

「復讐にとらわれすぎなんだよ。お前達の魔法は人を傷付けたり復讐以外の使い方もあるんだ。だからやり直す事だって出来るさ」

 

「……」

 

アルトとのやり取りでカゲは思い返していた。今まで自分が鉄の森(アイゼンヴァルト)でしてきたことに意味があったのか、魔法を使えるようになって自分は何をしたかったのか、何ができるのか。

 

「いたぞ!ナツだ!」

 

「「「!!!」」」

 

話している間に随分と進んだのだろう。ようやくナツのもとまで追い付いた。

 

「遅かったじゃねぇか、もう終わったぞ」

 

(エリゴールさんが…負けた…!?)

 

「流石だな」

 

「こんな野郎に苦戦しやがって、おめーもまだまだだな」

 

「苦戦してねぇよ!」 

 

「実際どうだったんだ?ハッピー」

 

「あい、微妙な所で」

 

「何にせよ、よくやったナツ。これでマスター達は守られた」

 

「はぁ~、一時はどうなるかと思ったわ」

 

「このまま定例会場に行きマスターの指示を仰ごう」

 

「さてと、呪歌(ララバイ)はどこだ?」

 

アルトが笛を探そうとすると、突然魔導四輪車が動き出した。

 

「うおっ!」

 

「カゲ!?何をしている!」

 

そのままカゲは倒れているエリゴールのそばに落ちていた笛を奪い取る。

 

「笛はここだ!残念だったなぁ!」

 

そう言い残しカゲは魔導四輪車を駆ってクローバーへ向かった。

 

「あいつ…!」

 

「奴を追うぞ!」

 

(本当にそれでいいのか?カゲ…)




状況が二転三転したのでここから更に続けるとややこしくなりそうと思い、ララバイ編終了は次回に持ち越しorz
ホント、計画性の無さが現れております。

引き続き感想やご指摘、質問お待ちしております。

以上、ジャージ王子でした。ではでは( ・_・)ノシ

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