真剣で武神の姉に恋しなさい!   作:炎狼

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今回は朝うやむやになってしまった千李と百代の対決です。
ではどうぞ。

PS 今までの話での千李の口調を女口調に統一しました。


放課後 朝の決着そして・・・

 放課後になり多くの生徒が下校する中、千李は百代と共に一子達のいる2-Fへ向かっていた。

 

 今二人には全くと言っていいほど会話はない。

 

 別に喧嘩をしたというわけではない。ただ百代は感じ取っていた。千李の纏うオーラが今は話しかけるなといっていると。そうこうしているうちに、二人は2-Fに到着した。

 

「一子?帰るわよ」

 

 千李が呼ぶと教室で大和たちと話していた一子が、千李の下に駆け寄ってきた。その後ろに大和たちも続いた。

 

「千李姉さん?俺たちも一緒に帰っていいかな?」

 

 大和が聞くと千李はただ一言述べた。

 

「ええ。構わないわ」

 

 その千李の様子に大和は百代に小さく耳打ちする。

 

「モモ姉さん。千李姉さんと何かあったの?」

 

「いや。何もないはずなんだが……。6限が終わったあたりからずっとあんな調子なんだ」

 

 百代もこのことはまったくわからない、とそこへ一子が寄ってきた。

 

「どうした?ワン子。」

 

「うん。なんか今の千姉様すごくピリピリしてる感じがして近づきにくいというかそんな感じがするの」

 

 気が使えない一子でさえ千李のピリピリとした感じを掴んでるのだ。相当なのだろう。

 

 すると千李が振り返り告げた。

 

「じゃあ。帰るわよ」

 

 そのまま千李たちは終始無言のまま帰路についた。

 

 京は部活があるとのことで、すでにいなかった。

 

 

川神院

 

 

 無言のまま千李たちは川神院に到着した。

 

 しかし途中で岳人と卓也は一緒にいるのが辛くなったのか、島津寮の近くでフェードアウトしていった。

 

 残ったのは大和だけとなった。

 

 川神院に到着した千李たちを待っていたのは、鉄心とルーそして多くの修行僧達であった。そこでやっと千李が口を開いた。

 

「さて、じゃあ百代、朝の決闘の決着を着けましょうか?」

 

 先ほどまでのピリピリとした雰囲気とは打って変わって千李は明るく言った。

 

「は?あ、ああ」

 

 千李の変わりように一瞬百代はたじろいでしまった。

 

「なによ?うれしくないのかしら」

 

「いや!うれしい!……けど姉さん?一つ聞いてもいいか?」

 

「ん?」

 

「なんでここまで無言でしかもピリピリしてたんだ?」

 

 百代が聞くとそれに呼応するように一子と大和もうなづいた。

 

 それに千李はニヤリと笑い、こう告げた。

 

「それはね……。これもサプライズだから!」

 

 その千李の言葉に三人は思いっきりこけた。

 

 三人がほぼ同時にこけたことに千李はうわっという反応を取った。

 

「なに?どうしたの?そういえばお前らずっと話してなかったけど。なんだったの?」

 

「姉さん……。それはなぁ、あんなピリピリした気をずっと放ってれば黙るに決まってるだろう!何事かと思ったぞ」

 

 百代はため息混じりにそういった。

 

「それには俺も激しく同意」

 

「私も~。なんか千姉様ずっと怒ってるのかと思っちゃったし」

 

 二人もほっとしていた。

 

 そんな三人を尻目に千李は心底うれしそうだった。

 

「フフッ。それはごめんね。でもサプライズにしたほうが面白いかと思ってね。」

 

 その様子を見て百代たちはなんやかんやで胸をなでおろした。

 

 千李は百代たちから目をそらし鉄心たちの方へ振り返った。

 

「ねえじじい?もう準備できてるのよね?」

 

「うむ。無論できておるぞ、修行僧とワシとルーで結界をガッツリと張っておる。多少暴れてもビクともせんわい」

 

 鉄心はどうじゃ、という感じにニヤリと笑った。

 

「そう。じゃあ百代ちゃっちゃと着替えてきなさい。それともこのまますぐにやる?」

 

 そんな鉄心を千李は軽く流した。

 

「いや。着替えてくるよ。少し待っててくれ姉さん。姉さんはそれでいいのか?」

 

 百代が聞くと千李は首を縦に振った。

 

「ええ。私はこのままでも大丈夫」

 

「そうか。じゃあ少し行って来る」

 

 百代はそういうと川神院の中に駆けて行った。

 

 その後姿を見送る千李に鉄心は話しかけた。

 

「どうじゃ?モモの様子は」

 

「う~ん。まぁ朝に比べれば若干落ち着いてると思うわね」

 

「そうじゃのう。確かに昨日に比べても大分落ち着いておるようじゃし」

 

 そう最近の百代は強いものと戦うことができなくて、かなりイライラというかウズウズしていたのだ。

 

 それはもう爆発寸前の爆弾のようなものだったのだ。

 

 しかし、今日の朝千李と戦ったことそして千李が帰って来たことにより、これから千李と存分に戦えるということで百代のイライラも若干落ち着いてきていたのだ。

 

「ん~。でもまぁ、私のガキの頃に比べれば全然普通だと思うけど?」

 

「それはお主からすればの話じゃろう?」

 

「それもそうね。っと、百代が来たわね。じゃあじじいこの話はまた後で」

 

 千李はそういうと武舞台にあがった。

 

「うむ。さて、では皆の衆心してかかれよ!」

 

 鉄心の掛け声と共に修行僧達がすでに張ってあった結界をさらに強めた。

 

「よし。これで準備は完了じゃな。直江、一子。もう少し離れておれ、結界を張っておるとはいえ多少は危険じゃからの」

 

「あ、はい。行くぞワン子」

 

「うん。千姉様~!モモ姉様~!二人とも頑張って!」

 

 一子が声をかけると二人は手を上げて答えた。

 

 

「妹と弟分が見てる前だ。さすがに姉さんといえど負けられないな」

 

「それは、私も同じだってのよ。……いい?百代本気で来なさい。朝みたいな手加減なんていらない。全力で来なさい!!」

 

「ああ。そのつもりだ!!」

 

 二人は構えを取る。

 

 そして二人から膨大な気が放出され、川神市に若干の振動が走る。

 

「それでは。両者はじめ!!!」

 

 鉄心の合図と共に武神と鬼神が真っ向からぶつかり合った。

 

 ぶつかり合う気の奔流はすさまじく、結界全体に激震が走った。

 

 気の奔流のせいで結界の中は光に包まれ中の様子がはっきりとはわからない。

 

 その光の中から最初に出てきたのは千李だった。

 

「ぐっ!やっぱりパワーが強いのは百代の方よね」

 

 考えていると百代が追撃をしてくる。

 

「せい!」

 

 百代は前傾姿勢を保ったまま突っ込み、千李に全力の拳を叩き込もうとした。

 

 だがまたしてもそれは空を切った。

 

「ちっ!またか!だけど、そこにいるのはわかっているぞ姉さん!!」

 

 言うと百代は左足で回し蹴りを放つ。

 

 それは後ろから百代に不意打ちをかまそうとした千李にあたる。

 

 そのまま千李は舞台の端まで吹き飛んだ。だが百代はそれに不満そうだ。

 

「くそ!浅かった。あれじゃまだ、姉さんにダメージを与えられない」

 

 そのとおりだった。吹き飛ばされた千李は片手で体勢を立て直しまた構えを取る。

 

「さすがに今のは危なかったわよ。百代。まさか朝のアレだけで見切られるとはね」

 

「当たり前だ。私を誰だと思ってる?姉さんの妹だぞ」

 

 百代は何を言っていると言う風に千李を見つめた。

 

 その様子に千李は軽く鼻で笑う。

 

「フッ……。それもそうね。じゃあ、今度はこっちから行くわよっと!!!」

 

 千李は百代に向かって駆け出す。

 

 そして百代の懐に入った瞬間また千李は消えた。

 

「その手はもう飽きたぞ姉さん!!」

 

 百代はすぐに千李が現れるであろう後方に、裏拳を放つがそれはまた空を切っただけだった。

 

「残念。こっちよ!」

 

「えっ!?馬鹿なまた前に……うぐ!?」

 

 千李の拳は百代の腹部を直撃し、さらに千李はそこから腕に捻りを加えた。

 

 直撃を受けた百代は先ほどの千李と同じように吹き飛んだが、何とか体勢を立て直し千李に向き直った。

 

「ハァ……ハァ……。今のは一体どうやったんだ姉さん」

 

「それはこの試合が終わってから教えてあげるわよ」

 

「……それもそうだな。だが、姉さん忘れてないよな?」

 

 百代は千李に対してにやりと笑う。

 

「私にはこれがあるってことを!」

 

 言うと先ほどまで苦しそうだった百代の顔が見る見るうちに治っていく。

 

「……瞬間回復……ねぇ」

 

 百代の傷が癒えていくさまを見て千李はつぶやいた。

 

「そうだ。これがある限り、姉さん!もっと強い攻撃じゃないと倒せないぞ!まぁ、私の気が尽きない限りどんな傷も回復するけどな!」

 

 超えたか高々に百代は言った。

 

 確かに瞬間回復はどんな傷でも癒してしまう。

 

 しかしそれにより多大なほどの気を使うことで使えるものは少なかった。百代の場合その有り余る気のおかげでできているのだ。

 

 ちなみにこの瞬間回復千李も使える。

 

 だが千李はそんな百代に対し冷たく言い放つ。

 

「そう。だけどね百代。一つ教えてあげるわ。その瞬間回復を使っているようじゃあ、私には勝てないわよ?」

 

「なに……?それはどういう意味だ!姉さん!」

 

「そのままの意味よ」

 

千李は百代に対し先ほどと同じ声音で伝える。

 

「そうか。なら私が勝って、姉さんに勝てるということを証明してやる!!」

 

 百代は右腕に気をこめる。百代の赤い気が右の拳に集中し、眩いまでも光を放つ。

 

「いくぞ!……川神流!!星殺しいいいいいいいいい!!!!」

 

 百代の放った星殺しは完全に千李を捕らえていた。千李もその攻撃をよけることはしない。

 

 ……さすがの姉さんでもアレをくらえば、ひとたまりもない!!

 

 百代は勝利を確信していた。

 

 星殺しをもろにくらえば、さすがの千李でさえひとたまりもないのは明白だったからだ。

 

 そして星殺しは千李を直撃し、大きな爆発を起こした。

 

 その爆発は結界にヒビをいれた。

 

「よし!これで私は姉さんを……!?」

 

 勝ったと思い百代は拳を握ったがその顔は驚愕に歪んだ。

 

「ふー。さすがに今のは危なかったわね」

 

「な……に」

 

 先ほどの星殺しは確かに本気だった。

 

 それをうければたとえ千李であろうと気絶は免れないまずなのだ。

 

 しかしその千李はケロリとした様子で立っている。まるで何事もなかったかのように。

 

「さて、百代そろそろ決着をつけようかしらね?」

 

 千李はを見据える。

 

 その視線に百代は後ろに一歩引いた。

 

「くっ!まだだ!!」

 

 百代は再度構えを取る。

 

「百代。さっきお前は、瞬間回復は自分の気がある限り続くって言ったね。てことは、すべての気を使うだけの攻撃を当てれば、勝てると思うのだけど?」

 

「ああ、そうだが。どうする。まだ私は10回以上はできるぞ?」

 

「そう……。じゃあやってみようかしらね?」

 

 百代は全身に寒気が走った。

 

 今の千李の目はまさに獲物を屠る鬼の目をしていたからだ。

 

 朝の臨時生徒集会で見せた比ではない。そんなことを百代が思っていると千李が消えた。

 

 この消え方は百代でさえわからなかった。呆然とした百代の後ろに千李が現れる。

 

「なっ!?一体どうやって!?」

 

 百代はすぐに防御体制をとる。

 

 が遅すぎた。

 

「川神流……。震皇拳!!」

 

 放たれた拳は百代の胸部を正確に捉え直撃した。

 

「終わりよ。百代」

 

 千李は武舞台から降りるため後ろを向いた。

 

「え?」

 

 百代は疑問を浮かべる。

 

 直撃した拳は痛みすらなくまったくの拍子抜けだったそれなのに終わりと言われては疑問を浮かべるのも当たり前だろう。。

 

「待ってくれ姉さん!!私はまだ!!……!?」

 

 百代がそういった直後だった、百代の全身に激痛が走った。

 

「ぐあああああああ!!??」

 

 叫びを上げた百代はそのまま気絶し倒れた。

 

「勝者!!川神千李!!!!」

 

 戦闘が止んだ川神院に静けさだけが残った。

 

 

 百代は目を覚ました。

 

 目覚めてすぐ視界に入ったのは姉であり、先ほど負けたであろう相手千李だった。

 

「ん?気が付いたみたいね百代」

 

 千李が気づき百代に振り返る。

 

「私、どれくらい気絶してた?」

 

「ものの5分くらいよ。相変わらず桁違いな回復力ね。瞬間回復を使えるだけあるわ」

 

 千李はフフッと笑った。

 

 その反応に対し百代は真剣な面持ちで千李に聞いた。 

 

「そんなことより、姉さんに聞きたいことがあるんだけど」

 

 そんな百代の反応に千李はやれやれといった様子で聞き返した。

 

「震皇拳のこと?それとも移動方の事?」

 

「両方だ!!」

 

 百代はぐっと千李に近寄った。

 

 百代は疑問に思っていた。

 

 一つは千李のなぞの移動方、そしてもう一つは自信に止めをさした最後の攻撃のこと。

 

 百代は川神流はほとんど使えるが、あの移動方と攻撃は川神流では見たことがなかったからだ。

 

「そうね。教えてもいいけど、一子と大和にも教えておくのもいいかもね。おーい。一子、大和。ちょっとこっち来なさい」

 

 千李が呼ぶと大和と一子が駆けてきた。

 

「お疲れ様!千姉様、モモ姉様!すごかったわ二人の試合」

 

「うん。俺もそう思うよ」

 

 殆ど俺は見えなかったけどねと大和はつなげた。

 

 まぁ確かに一般人では見えないだろう。

 

 武道をたしなんでいても見えるかどうか怪しいが。

 

「ありがとう。二人とも。それでね、さっき私が百代との決闘で見せた移動法と最後に見せた技の解説をしようと思ってね」

 

「いいの!?」

 

 千李の言葉に一子が目を輝かせた。

 

 一子の反応に苦笑しながら千李は言った。

 

「ええ。かわいい妹と弟分にはこれくらいね、それに両方とも川神流じゃないから問題なし」

 

「「え?」」

 

 二人の声が重なった。

 

 それもそうだ二人は今まで今まで千李が川神流をつかって、百代と戦っていたと思っていたのだから無理もない。

 

「なぁ姉さん!もったいぶらずに教えてくれ」

 

 痺れを切らした百代が千李に近寄る。

 

「はいはい。わかったから、近すぎるって」

 

 千李は百代をいったん引っぺがし三人に向き直った。

 

「コホン、えっとまずは私が百代の後ろに行った時の移動方についてね。アレは縮地よ」

 

「しゅくち?」

 

 一子が不思議そうに聞いた。

 

「それってなんなの千姉様?」

 

「ようはあれよ、何歩かで行く距離を一歩くらいで行くこと。まぁ、私の場合気を使ってやってるから、見る人が見れば瞬間移動したように見えるかもしれないけどね。一子だって練習すればできるようになれるわよ」

 

「本当!?」

 

 またも目を輝かせる一子。

 

「ええ、練習さえ怠らなければね」

 

「うん!私やってみる。よーし。そうと決まれば早速明日から練習練習!」

 

 一子はすでにやる気満々だ。

 

 その姿を見た千李は驚くと共にうれしそうな笑みを浮かべていた。

 

「それにしても、いつの間に縮地なんで覚えたんだ姉さん?」

 

「旅してるときにね、ただ歩くだけじゃつまらないからずっと練習してたのよ」

 

「ふ~ん。……私もやってみるか」

 

「ええ。できたら技のバリエーションも増えるから頑張ってやってみなさい。それで二つ目ね。あれは、川神流って言ったけど、私が考案したいわば新・川神流みたいな感じかな」

 

「あれは、俺も気になってたんだけど。一体どうなってんの?」

 

 大和もこれには食いついてきた。

 

 確かに百代の胸に拳があたった数秒後に百代が倒れたのだ、気になるのも無理はない。

 

 それに気になっているのは大和だけでなく、百代も一子も鼻息を荒くしながら聞こうとしていた。

 

「あれの名前は震皇拳って言ってね。拳に溜めた気を相手に当てて、体内に送り込み、内部で弾けさせるって技なのよ。気の入れ方で威力も変わるしね。」

 

 一子と百代は若干わからなそうにしているが、それはさておき。

 

「へ~。……なんか千李姉さんがどんどんえらい方向に向かってる気がするけど。っと俺そろそろ帰らないと」

 

 大和は携帯を取り出すと腰を上げた。

 

「ん。そうね、それじゃあ門のとこまで見送るわよ。百代、一子行くわよ」

 

「ああ」「はーい」

 

 四人は門に向けて歩き出した。

 

「そういえば、姉さん」

 

「なによ?」

 

「さっきの戦いで私が瞬間回復を使っていては姉さんには勝てないって言ってたけど、どういう意味なんだ?」

 

「そのまんまの意味よ。その辺は自分で悩んでしっかり答えを出しなさい」

 

 百代の問いに対し千李は冷たく言い放つ。

 

 ……それに気づけなかったら百代。お前はまだまだ未熟者ってことよ。

 

 内心思いながら千李は百代を横目で見る。

 

「むー。姉さんのけちー」

 

 百代は頬を膨らませていた。

 

 その姿にため息を漏らしながら千李は言った。

 

「ケチで結構」

 

 ……まぁ、そんなに急がなくてもいいかもね。

 

 姉として妹を叱咤しながらも心配をする千李だった。

 

 そんな二人の光景を見ながら大和と一子は話していた。

 

「なんか千李姉さんがいるとモモ姉さんが一気に、子供っぽく見えるな?」

 

「そうねー。でも私はそんなお姉様たちが大好きだけどね!」

 

「そういう意味じゃないんだけど……。ま、いいか」

 

 そうこうしているうちに門に到着。

 

「じゃあ三人ともまた明日」

 

「ええ」「ああ。明日な大和」「気をつけて帰りなさいよ、大和~」

 

 三姉妹はそれぞれ大和に別れを告げた。

 

 大和が見えなくなると千李が妹達に提案する。

 

「さてと、じゃあ私達も中に入って風呂にでも入ろうかしらね」

 

「ああ、じゃあ姉さん久しぶりに三人で入ろうじゃないか。なっワン子?」

 

「うん!!一年ぶりだしね」

 

 そういうと一子は千李の手を握った。

 

「はいはい。じゃあ行きましょう」

 

 三人が振り向くとそこには鉄心が立っていた。

 

「なんかようか?じじい。」

 

 百代が怪訝そうに聞く。

 

「うむ。千李やちょいと話がある。なに、ものの5分程度じゃ」

 

「まぁいいけど。じゃあ二人とも先言ってて。すぐ行くから」

 

「ああ、行くぞワン子」

 

「うん。じゃあ千姉様お風呂でね」

 

「はいな~」

 

 二人が中に消えたのを見ると鉄心が口を開いた。

 

「まずは礼を言うぞ千李。百代の戦闘本能を抑えてくれてありがとうの。昨日までと比べればかなり抑えられておる。お前のおかげじゃ」

 

 妹と戦う役をさせて悪かったのうと鉄心は続けた。

 

 千李はそんなこと気にした風もなく結んでいた髪紐を解いた。

 

 夜の風に千李の黒髪がなびく。

 

「いいって別に。妹の面倒を見るのは姉の役目だから。それに、戦う前にも言ったけどアレぐらいなら、私のガキの頃の方がもっとひどかったでしょ?」

 

「そうじゃのう。確かにあのときのお主は、昨日までの百代と同じかそれ以上じゃったからのう」

 

 鉄心はしみじみとした様子で言った。

 

 そう、千李にも百代と同じことに陥ったときがあるのだ。

 

 ただ強い奴と戦うことのみを求めていたまさに、餓鬼の時代が。

 

「あのとき、じじいが湘南の極楽院に送ってくれたから今の私があるのよ。そこには感謝してるわよ」

 

「極楽院か、そういえばそろそろ行った方がいいじゃないのかの?その髪紐に込められた封印。そろそろ切れるじゃろう?」

 

「そうね。金曜は金曜集会があるし、土曜でも行って来るわ。たぶんあっちでも懐かしい顔に会えると思うし」

 

 千李もあちらでの再会を楽しみにしていた。

 

「ちゃんと土産を持っていけよ?」

 

「わかってるわよ。じゃあ私そろそろ行くから」

 

 千李は振り向き川神院に向かう。

 

「うむ。ではまた夕食にな」

 

「は~い」

 

 言うと千李はひらひらと手を振りながら院の中に入っていった。

 

 その姿を見送った鉄心はため息混じりににつぶやいた。

 

「湘南も荒れなければよいがの……」

 




今回は以上でございます。
ちょっと長くなってしまいました。スイマセン。

感想・駄目だし・アドバイスなどお待ちしております。

7月6日修正 

激震拳→震皇拳にしました

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