真剣で武神の姉に恋しなさい!   作:炎狼

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一ヶ月もお待たせしてスイマセン
狩りに熱が入りすぎました。

まぁ今回はサブタイにもあるようにただの閑話ですのでお気軽に読んでください

ではどうぞ


閑話

 ファミリーの仲間達と箱根に行った翌日の早朝。東の空が少しだけ白んできた時間に、千李は川神院の舞台上で静かに型の鍛錬を行っていた。

 

 その動きは流麗であり豪然、堅実さを持ちながらも彼女の動きには彼女らしさがあふれていた。

 

 するとそこへ、

 

「ほう……今朝は随分と早いのう千李」

 

 鉄心が気配もなく表れた。

 

「ジジイ、いたならもっと早く声かけたらどうなのよ」

 

 脱力をしながら千李は言うものの、鉄心は笑っている。

 

「いやお前が久々にこんなに朝早くから鍛錬しておるのでな。邪魔をしては悪いと思うての」

 

「別に邪魔でもなんでもないし」

 

「そうか。では今度からもっと早く声をかけようとするかのう」

 

 未だに笑みを戻さずに言う鉄心に対し、千李は溜息交じりに問う。

 

「そんなこと言うためにわざわざ来たわけじゃないんでしょ?」

 

 彼女の問いに、鉄心は神妙な面持ちになると静かに告げる。

 

「やはりバレてしもうたのう……一ヶ月のことわかっておるな?」

 

「ええもちろん。ジジイと戦う日でしょう?」

 

 片手を腰に当てながら嘆息交じりに千李は答える。口ぶりからは、何を今更、といった雰囲気が滲み出ている。

 

「うむ。まぁそれだけなんじゃが、心配はなさそうじゃのう」

 

「あったりまえでしょうが、それぐらいはちゃんと覚えてるっての。んで、それがどうかした?」

 

「どうかしたわけではない、予定どうりやることは確かじゃが。一応確認でな……ワシに勝ってもすぐに総代は継がなくて本当に良いのか?」

 

 鉄心は千李を見据える。

 

 千李はある約束を交わしていた、それは千李が十代で鉄心を越えてしまった時は千李が二十歳を迎えるまで総代は代わらないというものだった。

 

 実際のところ、鉄心自身まだまだ現役なので代わる必要もないかと思うのだが鉄心が、代われと言うので代わることとなったのだ。

 

 だが二十歳前は色々と遊びたいこともあると千李が述べたところ、本格的に世代交代するのは千李の二十歳の誕生日の時となった。

 

 ……そういやそんな約束してたっけ。

 

 忘れかけていた記憶を呼び覚ましながら、千李は鉄心に向き直り言い切った。

 

「ええ、もちろん。私が二十歳になるまでは交代しない、というか交代したくない」

 

「まぁそれもどうかとは思うが……。いいじゃろう、ではそういうことでな。じきに朝食じゃシャワーでも浴びて汗を流して来い」

 

 鉄心はそれだけ告げると踵を返し、本堂のほうに姿を消した。一方残された千李は、

 

「ふむ、とりあえずあと少し体を動かしたら瑠奈を起こしに行きますか」

 

 鉄心と戦う時が迫っていると言うのに、緊張した様子は微塵も感じられなかった。

 

 

 

 時間は経って昼休み。

 

 千李は大和たちのいる2-Fで昼食をとっていた。

 

「ところで千李姉さん。前から聞きたかったけどさ、瑠奈は川神院でどんな鍛錬してるの?」

 

「午前は精神修行が主で、午後からは型の鍛錬とか体力づくりが中心ね」

 

「精神修行って?」

 

「ようは気の使い方とかを勉強したり、瞑想とかね。でもまぁ前いた所で大体のことは理解してるみたいだから、今のところ順調に進んでるわね」

 

 千李はおにぎりを咀嚼しながら満足げに答える。

 

 すると大和も満足したように頷くと若干苦笑い気味に千李に聞きなおした。

 

「精神修行ってようはアレだよね?」

 

「そう、瑠奈がガキの頃の私や今現在の百代みたいにならないようにするための修業。でも毎日毎日勉強漬けじゃなくて、基本的には遊び混じりにやってるわ」

 

「あたしも見たことあるけど結構楽しそうに修行してるわよね瑠奈」

 

 話を聞いていた一子が瑠奈の現状を大和に教えると大和が茶化すように相槌を打った。

 

「ワン子もどっちかって言うと瑠奈と同じ修行の方がいいんじゃないか?」

 

「ぶっとばすわよ!」

 

「どうどーう。ワン子落ち着いて」

 

 大和のあおりに一子が声を荒げるものの、隣にいた京がそれを制する。

 

 その様子を眺めながら千李はカラカラと笑っていた。

 

 

 

 大和たちと別れ自分の教室に戻るため、廊下を歩いていると千李の携帯に着信が入った。

 

「もしもし?」

 

 知らない番号だったので他人行儀で応答すると、

 

『久しいな! 千李!!』

 

「……揚羽さん。なーんで教えてもいない私の番号知ってるんですか?」

 

 電話の主は千李や百代が良く知る人物。九鬼家の長女であり、現在の武道四天王の一人九鬼揚羽だった。

 

 千李はいきなり電話をかけられ少しげんなりしているものの、揚羽の声はそんなことを気にもしないトーンだった。

 

『まぁそんな些末なことは気にするな。ところで今日はお前に少し話があってな、学校が終わった後なるべく早く九鬼極東本部に来てはくれんだろうか?』

 

「別にいいですけど……死合いはしませんからね? めんどくさいので」

 

『フハハ! 構わんさ、今回は話をするだけだ』

 

「わかりました。んじゃまたあとで」

 

『うむ! ではな千李!!』

 

 満足げな揚羽の声が聞こえたかと思うと、すぐに通話が切れてしまった。

 

 ……まったく。揚羽さんは毎度毎度急に連絡して来るんだから。

 

「そこがおもしろくもあるんだけど」

 

 千李は口角を少し上げ笑みをこぼしていた。

 

 

 

 

 そして約束の放課後になると、千李はすばやく教室から出る。そして校外に出た瞬間足に気を溜めた状態で地面を蹴る。

 

 すると辺りに砂煙が巻き起こるが、砂煙が消えた頃には既に千李の姿は消えていた。

 

 既に千李は学校から離れた市街のほうまで来ていた。だが誰も千李の姿に気付くものはいない。速過ぎて見えないのだ。

 

 だが見えてはいないものの、千李の通過したあとには少なからず被害が出ていた。それは千李が走ることにより発生した風だ。千李は回りにある風を巻き込みながら走っているため、ほぼ風と一体化しており、千李の通過したあとには強い突風が発生しているのだ。

 

 そのため先ほどから千李の後ろの方では、スカートをはいた女性のパンツが丸見えになりそうになったり、ヅラをつけている中年男性のヅラが吹き飛んだりしている。

 

 ……やっぱりこれあんまり街中だと使わない方がいいわねー。後ろの方すごいことになってそう。

 

 などと反省しながらも千李は走ることをやめはしなかった。

 

 千李が市街を駆け抜けた数十秒後、千李は川神市の湾岸にある九鬼の極東本部の前に到着した。

 

「んー、一分三十秒か。それなりに早くついたわね」

 

 携帯を取り出して時間を確認していると、

 

「フハハハハハハ!! すさまじいまでの速さであったな千李!!」

 

 揚羽が高笑いをしながら現れた。

 

「まぁ速く来いって言われてたんで」

 

「む? そうかだったか? それは急がせてしまったな」

 

「いーえ、別に暇でしたし」

 

「そうか。では本題に入るとしよう」

 

 揚羽は千李を見据え、にやりと笑うと。

 

「千李。今度鉄心殿と死合いをするらしいではないか」

 

「……誰からそれを?」

 

 千李は驚いた表情で揚羽に返した。

 

 それもそのはず、鉄心と千李が戦うことを知っているのは川神院の者達だけだ。

 

 だが揚羽から飛んできたのはさらに驚きの答えだった。

 

「誰と言われてもな。勿論鉄心殿だが?」

 

「あのジジイ……騙しやがったわね」

 

「?」

 

 握りこぶしを作りながらギリギリと歯噛みする千李を揚羽は小首をかしげながら見つめている。おそらく鉄心に千李も知っていると、吹き込まれたのだろう。

 

「はぁ……いいわ。あとで倍返しにして返すし。……それでそれがどうかしました?」

 

「ん? ああ。実はなそれを我達も見に行っていいかと聞きたくてな。鉄心殿に教えてもらった時に伺っておけばよかったのだが……如何せん忘れてしまってな」

 

「そういうことですか。ご自由にどうぞ」

 

「うむ。おそらく死合いの時はヒュームも来るかもしれんがな」

 

 その瞬間千李の顔が引きつった。

 

「えっと……マジな感じでヒュームさん来ます?」

 

「確定したかどうかはわからんがな。その日父上の護衛をするのであれば来れないであろうな」

 

 揚羽の返答に千李は少し胸をなでおろす。

 

「なんだ? ヒュームが苦手だったか?」

 

「そうですねー……、あのじいさんは基本的に会いたくない人です」

 

「ほう。お前にも苦手なものがあるとわな」

 

 揚羽はそれを聞くと手を口元にあて、苦笑していた。

 

「いやー……雰囲気的に近寄りがたいと言うかなんというか……」

 

「なるほどな。っとそろそろ時間だ、ではな千李。百代にもよろしく伝えておいてくれ。ああ、あと娘ができたらしいな。今度紹介してくれ」

 

「はいはい。じゃっ仕事がんばってください」

 

 揚羽はそのまま振り返らずに、手だけを振ってその場から去っていった。

 

「さてと、私も帰りますかね」

 

 千李は踵を返しその場をあとにした。

 

 

 

 

 帰りは走ることはせず普通に帰っていた千李だがふと立ち止まった。

 

「ん? あれって……忠勝に宇佐美先生?」

 

 千李の視線の先には忠勝と川神学園の教師である宇佐美巨人の姿があった。二人はなにやら真剣に話しているようだ。

 

「あー……そういえば前忠勝が宇佐美先生のとこでバイトしてる的なことを聞いたわね。それに宇佐美先生って確か忠勝の保護者だっけ」

 

 千李は思い出したように手を叩くと、にやりと笑い。

 

「面白そうだから私も手伝ってみましょうかね」

 

 彼女はそのまま二人の下に歩いていった。

 

「ちょいちょいそこのお二人さん」

 

「あん?」「ん?」

 

 声をかけると二人が怪訝そうに千李のほうを見る。

 

 だが千李を確認すると忠勝の方は少し会釈をし、巨人の方は少しだけバツが悪そうな顔をする。

 

「なんかようかい? 川神長女」

 

「たまたま二人の姿が見えたんで少し声かけてみようかと思いまして」

 

「本当は?」

 

「なんか面白そうだから声かけてみた。なんか仕事するんでしょう? 私にやらせてくんない?」

 

 巨人の切り返しに千李は親指を立てていい笑顔で答えた。

 

 一方巨人は、やっぱりね、などといいながら眉間を押さえている。

 

「まぁなんだ……生徒はさっさとおうちに帰りなさいなって言いたいんだけど、忠勝につき合わせてる俺が言えたもんでもないか」

 

「そうですね。でも二人でやるよりは三人でやった方が早く終わりますよ?」

 

「そうかねぇ……でもいっかー。お前強いし、襲われるような心配もないだろう。でもホントにいいのか? 給料少しだぞ?」

 

「別に金がもらいたくて来た訳じゃないって」

 

 千李が鼻で笑いながら言い切ると、巨人も頷きながら仕事内容を告げた。

 

「仕事は簡単な見回りだ。危なげな連中見つけたらちょっとお灸を据えてやる感じだな。忠勝と川神長女は二人で行け、んで俺は一人で行く。二時間後またここでな」

 

「ああ」「りょーかい」

 

 千李と忠勝は了承するとそのまま親不孝通りのほうへ歩いていった。

 

「さてと……おじさんもそろそろ行くとしますかね」

 

 巨人の方も巡回を開始した。

 

 

 

 

「なんで来たんスか?」

 

「んー? 何が?」

 

 忠勝の問いに千李は小首をかしげながら聞き返す。

 

「いや何がじゃなくて……。家で娘さん待ってんでしょ? いいんスか、こんなとこで油売ってて」

 

「その辺は大丈夫よ。家には百代たちがいて面倒見てくれてるだろうし」

 

「そういう問題じゃないでしょうが、母親なんだから少しは近くにいたほうがいいんじゃないかって話っすよ」

 

 忠勝は少しだけ声を荒げながら千李に促す。

 

 彼は一子と同じで小さい頃孤児だったのだ。おそらくそのせいで千李の今の行動に疑問を持ってしまっているのだろう。

 

「そうねー。確かに母親だから近くにいた方がいいかもしれないわね。だけどね忠勝、時には離れることも必要なのよ。それに最近べったりなところもあったからね、少し離れてみるのも親の義務ってもんよ」

 

「そういうもんスか……」

 

「そういうもんよ。まぁでも結局べたつくんだけどねー」

 

 千李がクスクスと笑いながら頭を掻くと、忠勝は気が抜けたように笑っていた。その後二人は一通り親不孝通りを巡回すると、巨人との待ち合わせ場所に戻った。

 

 千李たちの到着から数分後、巨人がフラフラと戻ってきた。

 

「はいお疲れさん。んじゃこれ給料な」

 

 巨人は言いながら千李に茶封筒を渡す。

 

「今回は手伝ってもらったけど。次はなしってことにしような、さすがに女生徒を巻き込むわけにもいかんしな。いくらお前が強くてもさ」

 

 頭をガリガリと掻きながら巨人は溜息混じりに千李に告げた。

 

「そうですか、でも必要な時は呼んでくれてかまいませんから」

 

「ああ。その時はお願いするさ。じゃあな川神長女、遅刻すんなよ」

 

「わかってますよ。んじゃっまた明日、忠勝もね」

 

「うす」

 

 千李はそのまま二人に手を振り川神院に戻っていった。

 

 

 

 因みにその日の夜のニュースで川神市で瞬間的に激しい突風が吹き荒れたと言うニュースが流れたと言う。




以上です

次は一気に飛んで一ヵ月後の鉄心との死合いを書く予定です

なるべく早く更新したいと思います

感想などお待ちしております。

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