真剣で武神の姉に恋しなさい!   作:炎狼

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過去編後半です
ではどうぞ


力とは

 千李が極楽院で暮らすようになり約一年が経過した。しかし千李は友達を作ることをせずいつも1人、縁側に座り庭を眺めているか、眠っているぐらいだった。

 

 極楽院で暮らしている子供達の幼心でも、千李のことが異常な人物だとわかってしまったのだろう。彼らも千李に声をかけるわけでなく千李とは別に遊ぶ姿が見られる。

 

 だが千李自身そんなことはまったく気にしていなかった。なにぶん川神ですごしていた時も千李は子供らしく遊ぶことはせず、毎日毎日武術の練習にはげんでいたからだ。たまに遊ぶとしても千李と遊べるのは百代ただ1人だけだった。

 

 そして今日も千李はただ1人ぼんやりと虚空を見上げるだけだった。

 

「まだ友達はできないかいセンちゃん?」

 

「……どうだっていいだろそんなこと」

 

 三大が声をかけてくるが千李はぼんやりとしたまま答えるだけだった。

 

「はぁー。まったくそんなに人をよせつけないような空気をかもし出してれば近づいてくる子もいないさね」

 

 どっこらせ、と千李の隣に腰を下ろす三大を千李は睨むが、三大はそれを気にした風もなく千李に告げる。

 

「つまらなくはないのかい?毎日毎日ここでぼんやりしていて」

 

「つまらなくはないか、だ?ふざけんなつまらねーに決まってるだろ!戦うこともできないこんな状態なんて……生き地獄にもほどがある」

 

 声を荒げるがその声には怒りのほかに、もう一つの感情が見受けられた。

 

「焦っているかいセンちゃん?」

 

「っ!?」

 

 怒りに隠した感情を見破られ千李は苦悶とも取れる表情をするが、すぐに三大から視線をそらした。これ以上醜態をさらしたくなかったのだろう。

 

「焦っているのは……封印の解き方についてだね?」

 

「……ああ。そうだよ」

 

 目をそらしながらも千李は答える。その姿に見かねたのかため息をつきながらも三大が人差し指を立て告げる。

 

「ヒントをあげようか……一番の近道は友達とか仲間を作ることだよ」

 

「は?」

 

「まぁそれ以外は教えられないねぇ……あとは自分で考えな」

 

 千李の疑問の声を無視し三大は立ち上がると奥の部屋に姿を消す。残された千李は疑問の表情を浮かべるのみだった。

 

 

 

 三大にヒントを出されてからしばらく経っても千李の周りに大きな変化はなく、今日もまたいつものように1人でぼんやりとしているだけだった。

 

 だが千李は不意に後ろから声をかけられた。三大ではなく子供、しかも女の子の声だった。

 

「あの……となりすわってもいい?」

 

 弱弱しく言う少女を千李は一瞥すると冷徹に言い放つ。

 

「なんで?私のとなり以外にもすわれるところなんていくらでもあるだろ?」

 

 少女は一瞬何を言われたかわからないような顔をしたものの、すぐに理解したのか顔を悲痛に歪ませ目じりに涙を溜め始めた。

 

 その様子に気付いた千李はぎょっとした表情で立ち上がり、少女の隣に行くと溜息交じりに告げた。

 

「わかったよ……お前の好きにしろ」

 

「……うん。ありがとう」

 

 千李折れる先ほど座っていたところに座り直すと、少女も千李にぴったりとくっついて座る。しばらく2人は無言でいたが不意に千李が少女に聞いた。

 

「お前……名前は?」

 

 少女は急に話しかけられ戸惑ったような顔をしたものの、静かに答えた。

 

「……マキ」

 

「マキね……じゃあマキはなんで私に話しかけたんだ?他に話しかけられそうな連中なんていっぱいいただろうに」

 

 小首をかしげながら言う千李にマキはたどたどしく答えた。

 

「……あなたもずっと1人だったから……仲良くなれるかもって思ったんだ」

 

「ふーん」

 

 それだけ答えると2人はまた黙っていたがマキが千李の下を離れることも、はたまた千李がマキを離れることもなかった。

 

 三大はそれを遠目にみると少し嬉しそうな顔を浮かべていた。

 

 

 

 千李とマキが一緒にいる様になってからというもの、千李はだんだんと子供達と遊ぶ機会が多くなった。最初は千李とマキを遠巻きに眺めていただけだったのだが、子供たちも千李がマキと一緒にいるから安全だと判断したのか千李たちを誘うようになったのだ。

 

 最初は2人ともぎこちない雰囲気だったが数をこなすにつれ、千李やマキにも笑顔が増えていくようになった。

 

 そしてさらに1年後子供たちと遊ぶうちに千李は皆のリーダー的存在になっていた。千李もまんざらでもなさそうでしっかりとみんなの面倒を見ていた。だが1人千李には気になる存在がいた。その子は男の子で、その子を一言で表すなら自分の殻に閉じこもり外界と接触することをしない子だった。

 

 千李はその子を見て思っていたのだ。

 

 まるで過去の自分を見ているようだ、と。千李自身極楽院にやってきた時はいつも回りの子供たちを寄せ付けないようにしていた。その子もまた千李と同じだったのだ。

 

 どうしてもそのこの子とが気になった千李は意を決してその子に話しかけてみた。

 

「よう。何でお前はいつも1人なんだ?」

 

「……べつに。ただ気が向かないだけだよ」

 

 ……この反応私の初期とおなじ。

 

 少年を見ながら千李は思い返す。千李自身今思うととても恥ずかしいのか、多少バツが悪そうな顔をする。

 

「そっか。んじゃまぁ少し私と遊んでみようじゃないか。すこしは楽しいかもしれないぜ?」

 

「……わかったいいよ」

 

「よし。じゃあ名前教えてくれるか?」

 

「大だよ」

 

 大の返答に頷くと千李は大の手を引きみんなの下へ駆けて行った。大は結局最後の方まで満面の笑顔で笑うということはなかったが、1人でいるときよりはまだマシな顔をしていた。

 

 

 

 だがある日千李たちに大きな問題が起きた。それは極楽院にはもう一つの派閥があるということだ。千李を筆頭としたグループともう1人長谷冴子という少女を筆頭にしたグループだ。

 

 この冴子という少女は腕っ節も強く千李よりも歳が幾分か上なのだ、なおかつ子分たちをいくらか連れている。仲良しグループという感じの千李たちとは真逆のガキ大将統率グループといった感じだ。

 

「アンタだよね最近結構生意気なことやってるのは」

 

「いきなり因縁つけられても困るんだけど?」

 

「うっさい!私の子分だった子達もなんかアンタの方に行っちゃう子もいるし、なんなのよまったく」

 

 かんしゃくを起こす冴子に千李は軽く流しながら答える。

 

「それはお前の管理がなってないか、またはそっち側にいるのが嫌になったんだろう」

 

「むー!!もういいわ!じゃあ今から決闘よ!勝った方がここのリーダーってことでいいわね!?」

 

 ビシッと指を刺しながら宣言する冴子に千李はげんなりとするものの、その勝負を受けることにした。

 

 勝負といっても千李が川神院でやっていたような武術ではなく、子供同士でよくある喧嘩である。ようは殴り合いということだ。

 

 2人とも一歩も引かない攻防だったものの、最後は実力差で千李が勝利をおさめることとなった。

 

 ちなみに三大はというとぼろぼろで帰って来た2人を見て心底楽しそうに笑っていた。

 

 その後2人は互いに意気投合し二つの派閥に分かれていたグループは一つになり。極楽院はよりいっそうにぎやかになった。

 

 

 

 そしてさらに時は流れ千李が極楽院にやってきて6年目の夏。千李は来た時より随分と丸くなった。口調も乱暴な男言葉からだんだんと女の子らしいものに変わったし、笑顔を絶やさないとてもいい子になっていた。

 

 しかし未だに千李の封印は解けていない。

 

 三大はそのことを話すべく千李を本堂に呼び出した。

 

「センちゃん。いよいよ最後の歳になってしまったけど……封印を解く気はあるかい?」

 

「封印ねー……なんかもうどうでもよくなっちゃたのよねー。だって今私はみんなと一緒にいて楽しいし」

 

 屈託のない笑顔で言う千李に三大は多少あきれながらも告げる。

 

「封印が解けなければセンちゃんはもう二度と戦うことができなくなるんだよ?」

 

「まぁそれでもいいかな。実際そっちの方がジジイも望んでるんじゃない?っとごめんね三大ばあちゃん。これからみんなと海に行く約束してたのよ行っていい?」

 

「夕飯までには帰ってきなさいね」

 

 三大の許しを得た千李は皆を誘い海へと繰り出した。

 

 その後姿を見送る三大はなんとも複雑な表情をしていた。

 

 

 

 海に着いた千李たちは皆水着に着替えると次々に海に入っていった。本来、夏の湘南は多くの海水浴客で賑わうのが常だが、今回千李たちが着ているのは地元民しかしらない、いわば穴場スポットというところに来ていた。

 

 千李たち以外の海水浴客の姿はなくまさに貸切といった感じだ。

 

 その中で皆思い思いの遊びをして海を満喫していた。

 

 ビーチボールで遊んだり、どちらが先に沖まで出られるか競ったりなど子供らしい遊びをして皆ひと夏の思い出を作っていった。

 

 ひとしきり遊んだ後に千李に言い知れぬ不安がよぎった。

 

 ――――何?この嫌な感じ。

 

 千李はあたりを見回す。皆は遊び疲れた者もいればまだ遊んでいるものもいる。

 

 しかし一人足りない。何度見回してみても確実に1人いない。

 

「マキ?」

 

 千李はいない人物の名前を口にする。

 

 そう、マキがいないのだ。なんど周りを見てもマキだけがいない。

 

 千李の様子に他の子達もあたりを見回す。

 

「あ!!」

 

 そして1人の子が声を上げる。千李もその方向を見ると波と波の間に微かにマキとの頭が見えた。手をバタバタとさせ、もがいているようだ。そう、マキはおぼれていたのだ。

 

「マキ!!!!!」

 

 千李は急いで海に飛び込み助けに行こうとするがそこで止まった。

 

 ――――今から泳いでもマキにたどり着く前にマキの体力がなくなっておぼれる。

 

 頭によぎるのは最悪の光景だった。

 

 ――――クソッ!!一体どうすれば!?

 

 考えている間にもマキは確実に体力を消耗していた。先ほどよりも動きが弱くなっている。

 

 だがその瞬間千李の脳裏に浮かぶものが合った。それは、

 

「……封印の解放……」

 

 千李は小さく呟いた。

 

 ここに来てから一年が過ぎた時に言われた仲間を作れということ。そして封印式によって封じられた千李の力。

 

 ――――友達、仲間。封印式。力。

 

「そういうことか……」

 

 千李の頭の中で全てが直結された。

 

「この力を発動させるには……仲間を、友達を守るっていう覚悟が必要だったのね」

 

 導き出された答えに千李は拳を握り締めると子供たちに告げた。

 

「みんなは三大ばあちゃんを連れてきて。ここは私が何とかするから」

 

「でも!!」

 

「いいから!早く行け!!」

 

 怒気を孕んだ声に子供達は一瞬すくみ上がるが少しすると、意を決したように皆極楽院のほうに駆けて行った。

 

 皆が行ったのを確認すると千李はマキのいる方を見据える。マキも既に限界に近かった。先ほどから浮き上がるペースが鈍くなっている。

 

「待っててマキ。今助けるから!」

 

 そういった千李の目には覚悟の光が宿っていた。

 

 ――――私は私の力を自らのために使うのではなく。友達を……仲間を……人を助けるために使う!!

 

 千李の決意に呼応するかのように体に刻まれた封印式が消えてゆく。

 

 そして千李の体からあふれんばかりの気が放出された。

 

 しかしその気は前のような重く不快なものではなく、とても神秘的なものに感じられた。

 

 千李は大きく足を振りかぶる。そしてその足に気を集中させる。

 

「割れろおおおおおおおおおお!!!!!!!!!」

 

 叫びとともに打ち放たれた気が海に触れた瞬間海が大きく二つに割れた。

 

 それを見逃さず千李は割れた海の間を駆ける。

 

 海は割れたあとも戻ることをしなかった。いや千李の力でさせていなかったのかもしれない。

 

 千李はマキのところまで行き気を失ったマキをキャッチすると、また全力で浜辺に引き返した。

 

 その間も海は戻ることをしなかった。

 

 千李とマキが浜辺に戻った瞬間海は元の姿を取り戻した。千李がマキを見るとマキは気を失っているようだったが、息をしていたため千李も安心したようだ。

 

 しかしその瞬間千李も糸が切れたかのようにその場に倒れ付した。薄れてゆく意識の中三大の声が聞こえたような気がしたが、千李はそのまま目を閉じた。

 

 

 

 

「はっ!!?」

 

 千李はガバっと起き上がった。周りを見ると海ではなかった。どうやら極楽院のようだ。

 

「気がついたかいセンちゃん?」

 

「三大ばあちゃん……ゴメン私がついてたのにマキを……」

 

「いいさ。幸い大したことなかったんだ……それもそうだがセンちゃん。アンタ封印が解けたね?」

 

 三大の言葉に千李は静かに頷く。それに対し三大は微笑で返した。

 

「よかったねぇセンちゃん。これでアンタは川神に帰れる。それにもう力の使い方を誤る事もないだろうさ」

 

「ええそうね。ありがとう三大ばあちゃん、私に大切なこと教えてくれて」

 

 千李が礼を言うと三大は小気味よく笑った。

 

「なぁにわしは大したことはしとらん。その力を自分で取り戻したのはセンちゃんじゃないか。胸を張りな」

 

 いいながら三大は千李の頭を撫でる。だが千李の目には大粒の涙が光っていた。

 

「ここを離れたくないかい?」

 

 俯く千李の顔をのぞきこむように三大がみると、千李の涙はもう限界だった。次々に涙があふれ口からは嗚咽が漏れ出している。

 

 そんな千李を三大はそっと抱きしめる。

 

「大丈夫じゃよ。いくらアンタがここを離れるといっても、アンタはれっきとしたここ極楽院の子だ。さびしくなったらいつでもきなさい。わしはちゃーんとまっとるよ」

 

 千李は泣いた。声を張り上げて泣いた。

 

 三大はただそれを抱きしめる。きつくだが優しく抱きしめた。

 

 

 

 千李は泣き止むとすぐに川神に帰る準備を始めた。

 

「なにも今日帰らずとも……」

 

「いや、これ以上いるともう帰るに帰れなくなりそうだから帰るわ。よっと……じゃあね三大ばあちゃん。また来るわ」

 

「ああ。また来なさい」

 

 リュックを背負い踵を返したところで千李は振り返らずに三大に告げた。

 

「マキにも……よろしく言っといて」

 

 それだけ告げると千李は駆けてゆく。

 

 夕方の海の光はとても暖くみえたが、少しの寂しさも見えるような気がした。

 

 

 

 

 極楽院を出た千李は1人駅に向かって駆けていた。だがある角を曲がった時1人の女の子とぶつかってしまった。

 

「キャッ!?」

 

 ――――やば!?

 

 女の子は千李とぶつかったことで態勢を崩し倒れそうになるが、千李がそれをさせなかった。気を使って女の子の後ろに回るとしっかりと抱きとめた。

 

「ゴメン!大丈夫?」

 

「うん大丈夫だよ。ありがとう」

 

 謝罪する千李に対し女の子は抱きとめてくれたことの感謝を述べた。

 

「いやこっちも悪かったし。本当に大丈夫?」

 

「うん」

 

 女の子は大きく頷くと千李をしばらく千李を見つめていた。だが不意に声が聞こえた。

 

「愛ー?何やってるのはやくきなさーい」

 

「あ、まっておかあさん!ばいばいお姉ちゃん」

 

 どうやら母親と一緒だったようだ。愛と呼ばれた女の子は千李に別れを告げると、そのまま母親の元へ駆けていった。

 

「っとこっちもそろそろ電車がヤバイ!」

 

 千李は再度駅に向かい駆け出した。

 

 駅に着くと千李はすぐさま電車に飛び乗る。電車に揺られながら千李は内心で別れを告げた。

 

 ――――バイバイ湘南。またくるよ。

 

 千李の6年間の湘南での生活は幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 時は戻って現在風間ファミリー秘密基地にて。

 

「――――とまぁ私の過去の話はこんなもんかな?後は風間ファミリーに入った経緯とか色々あるけどもういい感じの時間だし、そろそろお開きにする?」

 

 千李の話を聞いていた皆が時計を見ると既に時刻は午後7時をさしていた。

 

「だな。じゃあみんな連休は箱根だからな?忘れんなよう!?」

 

 翔一が占めその日は解散となった。

 

 

 

 帰り道、千李はすっかり寝てしまった瑠奈をおんぶしながら百代たちと歩いていた。

 

「姉さん?本当に言ってよかったのか?」

 

「まっ減るもんじゃないしねー。あっそうだ一子、百代。明日あたり買い物に付き合ってくんない?」

 

「あ、悪い姉さん……明日は先約があるんだ」

 

「私もーちょっとはずせない用事があって」

 

 百代と一子はそれぞれ手を合わせて謝罪する。千李もそれを気にした風はなく軽く答える。

 

「そっかまぁいいや。……でもそうすると誰誘うかな」

 

「大和とかはどうだ?」

 

「あー……。じゃあ聞いてみるわ」

 

 百代の提案に千李は携帯を取り出すと大和に連絡を入れる。

 

「もしもし?千李姉さん?」

 

「おー大和。突然なんだけどさ、明日暇?」

 

「え?まぁ暇だけどなにな用事?」

 

「ちょっと買い物に付き合ってもらいたくてね。いい?」

 

 千李の言葉に電話越しで少し悩む声が聞こえたが数秒後。

 

「いいよ。そのかわりおごれとかはなしだからね?」

 

「はいはい。じゃあ明日午前十時に川神駅にね」

 

「了解」

 

 こうして千李は大和と出かけることになった。

 

 

 

 

 

 ちなみにそれを聞いた京は少しの間ご乱心だったようだ。




以上です
いやー疲れた。
飛ばし飛ばしですがスイマセン
だらだらと過去編をやってもしょうがないので手っ取り早く終わらせました

最後の方は何も言わないでください……

感想、ダメだし、アドバイスお待ちしております

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