真剣で武神の姉に恋しなさい!   作:炎狼

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クリスがやっちまう回です

ではどうぞー


波乱

 金曜日の昼休み千李は2-Fの教室にやってきて大和たちと食卓を囲んでいた。

 

「そういや今日だっけねクリスたちを秘密基地に招くのは」

 

「うん。まぁこれでどうなるか決まるわけだけどね」

 

 千李の問いに大和はパンをかじりながら答える。当のクリスはお手洗いに行っており現在はいない。いるのは千李、大和、京、一子、そして翔一の5人だ。

 

 大和の答えに翔一は楽観的に答える。

 

「だーいじょぶだって!!クリスは多分仲良くなれるさ」

 

「ちょっと楽観視しすぎだと思うけどねキャップは」

 

 京が静かに告げるが、千李も瑠奈に作ってもらったおにぎりを租借しながら京の頭を撫でる。

 

「まぁなるようになるわよ。だけど最終決定権は翔一にあるわけだからそのときは翔一の判断に任せましょう」

 

 千李がなでていると隣にいた一子が物欲しげな目で千李を見つめていた。その様子にため息をつきながらも千李は一子の頭を撫でる。

 

 なでてもらうと一子は目を細め気持よさそうな声を上げ始める。

 

「ふなー……。やっぱりいいわー千姉様のなでなで。家だと瑠奈に取られてるけど学校にいるときは私の特権よねー」

 

「6歳児の瑠奈と張り合ってどうすんのよ……。ああそうだ、翔一今日瑠奈を連れて行くから少し遅くなるわ」

 

「おう!まぁ俺もバイトがあるからな。じゃああれだな大和頼むわ」

 

 快活な笑みを浮かべながら翔一が言うと大和は無言で頷いた。

 

 その後お手洗いから帰って来たクリスを含めた6人でその日の昼休みは終了した。

 

 

 

「じゃあお前らさき行ってなさい。私は瑠奈連れてくるから」

 

「ああ。なるべく早くな姉さん」

 

 百代に言われながら千李はその場から姿を消した。その光景に周りにいた大和たちが「おお」と声を漏らす。

 

「毎度毎度思うけどどうやって移動してんだろうな千李姉さん」

 

「ほぼ瞬間移動だしね」

 

 大和の言葉に卓也が苦笑いを浮かべる。みんながあっけに取られていると百代が仕切る。

 

「ホラ姉さんの化け物じみたところに感心してないで。さっさと行くぞお前ら」

 

 百代を先頭に大和たちは歩き出した。

 

 

 

 川神院についた千李は瑠奈と共に部屋に行くと制服から普段着に着替え、瑠奈も道着から普段着に着替えさせた。瑠奈の服を着せているときに千李は唐突に瑠奈に聞いた。

 

「瑠奈は服ってこれぐらいしかないんだっけ?」

 

「うん。これだけだよ」

 

「そっか。よし」

 

 そういうと千李は瑠奈を撫でながらにこやかに言う。

 

「じゃあ今度私とお洋服買いに行こうか?」

 

「いいの?」

 

「ええ。もちろんよ。瑠奈ももっと服がほしいでしょ?」

 

 千李が聞くと瑠奈も笑顔で大きく頷いた。そして二人は川神院を出た。

 

 川神院を出て少しすると千李は思い立ったように立ち止まる。急に立ち止まった千李に瑠奈が疑問を孕んだ視線を送ると千李は瑠奈を抱き上げ、肩車まで持っていく。

 

「ケーキでも買っていこうかしらね。瑠奈も食べたいでしょ?」

 

「うん!ケーキだいすきー!」

 

 瑠奈は相当嬉しいのか千李の頭の上で手を離し危うく落ちそうになるが千李がそれを支える。

 

「ほら。手を離したら危ないわよ?しっかりつかまってなさいね」

 

「ごめんなさーい……」

 

 少し俯きながら謝る瑠奈だったが千李が笑顔見せると瑠奈も落ち込んだ顔からすぐに笑みに戻った。二人はその後どんなケーキを買いに行くかということを仲良く話しながらケーキ屋までの道を歩いていった。

 

 

 

 ケーキを買い終わり瑠奈を肩車し話しながら秘密基地に到着した。階段を上りながら千李は瑠奈に聞いた。

 

「瑠奈はさ……双剣を持った時どんな感覚がするの?」

 

「んーとねー。よくわかんないんだけどね?あのそうけんとからだが一つになるっていうのかな?そんなかんじがするの」

 

 瑠奈が首をかしげながら告げるのを聞くと千李もあごに手を当てながら考え込む。

 

 ……龍眼のことについてもっと調べた方がいいかもね。場合によっては龍眼にもっとなれさせないといけないし。

 

 どうやらこれからの瑠奈の鍛錬メニューを考えていたようだ。そんなことを考えながら千李が上っていると大和たちがいる部屋に辿り着いた。

 

「さてケーキも買ってきたことだしあいつらも喜ぶでしょうねー」

 

「そうだねお母さん!」

 

 意気揚々と千李はドアを開けた。

 

「遅れてごめんねー。お詫びにケーキ買ってきた……って何ぞこの空気?」

 

 部屋に入った瞬間千李は異様な空気を感じ取る。それもそのはず何せ京が大和に抱き寄せられて泣いているし、他のメンバーもなぜかクリスを睨みつけている。

 

 当のクリスは困惑顔だし、クリスの隣にいる由紀江も既に泣きそうな顔をしている。

 

 部屋の異様な空気を感じ取ったのじか瑠奈も千李につかまる力を強める。

 

「千李姉さん……」

 

「……何があったのか説明しなさい。話はそれからクリス、まゆっちここに座ってなさい。瑠奈も降りて」

 

「はーい」

 

 瑠奈は千李の上から体を伝い床に下りるとマットレスに腰を下ろした。クリスと由紀江もそれに習い腰を下ろした。

 

「んじゃ大和説明プリーズ」

 

「……ああ。えっと最初は――――」

 

 大和が説明を始める。内容を要約すればこうだ。クリスと由紀江にここを紹介したまではいいがその後クリスはここが必要ないのではないかといったそうだ。それに京と卓也がキレたらしい。しかしそれでもクリスは自分の考えを曲げずにいたらしい。

 

 そこで由紀江が止めに入ったらしいが百代や岳人に腰が低すぎるといわれ怒られたとのことだ。

 

 話を聞いた千李は「なるほど」といいながら頷く。

 

「どっちが悪いかはわかったわ」

 

 千李の言葉を聞いたメンバーは少し顔が明るくなった。おそらく千李が味方になると思ったのだろう。

 

 しかし帰って来た言葉はメンバーの耳を疑うものだった。

 

「お前らが悪いなこれは」

 

「え?」

 

 声を上げたのは誰かは誰だったか。しかしメンバーであることは確実だった。その声が上がった後千李が補足する。

 

「もちろんお前らが全部悪いわけじゃないさ。クリスにも非はあるけどね」

 

「でも!何で私達が悪いことになる!!」

 

 千李の言葉に百代がテーブルを叩きながら立ち上がり千李を睨む。千李はその様子にビビることもなく続けた。

 

「まぁ座りなさいって百代。……私が気になったのは二つ。お前らクリスにここが大事な場所だってことを説明したの?」

 

 千李が言うと全員が言葉を詰まらせる。

 

「やっぱり言ってないわけね」

 

「でも普通はわかると思うよ千李姉さん」

 

 大和が千李に反論した。千李は大和を一瞥すると静かに告げた。

 

「その普通は誰の普通だ?全世界の人が思う普通か?それともお前達の普通か?」

 

「それは……」

 

 痛いところを突かれたのか大和が押し黙る。

 

「確かに私はお前達が変わってなくてよかったと思ったわ。だけどね、せめてここだけは変わっていてほしかったわね」

 

 千李は腕を組みながら話し始める。

 

「いい?お前達は完全に世間のことを自分の物差しで見てるわ。確かに仲間内でいるときはそれでいいかもしれない。だけどこんな関係がいつまでも続くわけじゃないわ。そんな時にお前達は自分達の物差しを人に押し付けるの?今回の問題はそういうことが招いたのよ」

 

 一つ一つの言葉に思うところがあるのか大和たちが顔を伏せる。

 

「クリスの言ったことは世間一般的というよりもどちらかというよりクリスなりの解釈が入ってたけど、多くの人は高校生がここを管理していると知ったら危険だと思うでしょうね。そんな時もお前らは今回みたいに自分の考えを否定されたら今みたいにキレるの?……まるで子供ね」

 

「……」

 

 千李の言葉に大和のもとで泣いていた京が千李に怒気を孕んだ視線を送る。

 

「なに京?意見があるなら話してみなさい」

 

 千李もそれに気付き京に話しかける。

 

「確かに千李先輩の言うことはわかるけど!!それでも……」

 

「それでも普通の人ならここが自分達の大切な場所だってわかるはずってか?甘えるのもいい加減にしろよ京。それが世間を自分達の物差しで見てるって言ってんの」

 

 先ほどまでの優しさのこもっていた言葉とは違い千李は語気を荒げ始めた。

 

「今回の一件はクリスだけが悪いわけじゃない。自分達の説明不足もあったということを忘れないように。……悪かったわねクリス。こんなことになっちゃって」

 

 千李は立ち上がるとクリスに頭を下げる。だがクリスも立ち上がり千李を含めそこにいた全員に頭を下げると謝罪の言葉を述べた。

 

「自分こそすまなかった。ここをみなの大切な場所だということを理解もせずに取り壊すべきなどといってしまって……本当に申し訳ない」

 

「ほらクリスもこうやって謝ってんだから許してあげたら?」

 

 皆を見ながら千李が言うと大和たちもそれぞれ顔を見合わせながら頷くとクリスに謝罪の言葉を述べた。

 

「さて後一つね……私は何でまゆっちが怒られなければいけないのかまったくその理由がわからないんだけど?そこんとこ説明してもらえるガクトに百代?」

 

 千李はにっこりと笑いながら二人に目を向ける。すると二人は蛇に睨まれた蛙のように竦み上がった。だが百代がおずおずと答え始めた。

 

「いや、それはその……あまりに他人行儀過ぎてって言うかその自分を下に見すぎてるというか……」

 

「ほー。じゃあお前は今まで友達ができなくてずっと1人だったまゆっちに、いきなりこんな風に友達がしかも全員が先輩のなかで腰を低くするなとそういいたいわけ?」

 

 千李の言葉に百代と岳人がこくんと頷く。その様子に千李は大きくため息をつく。

 

「ごめんどう考えても私は理解できないわ。仲間になったからっていきなり性格を変えられるわけないじゃない。しかもまゆっちはただでさえ礼儀正しい。そんな子が普通……さっきも言ったと思うけど……先輩の中で腰を低くせずに接しろって言う方が無理だと私は思うんだけど?それに例えそう思ったとしても言ってやらずに見守ってやるのも仲間としてのあり方じゃないかと思うけどね」

 

 言い終えると千李は一息つくように腰を下ろす。しかし「でもまぁ」と言葉をつなげる。

 

「さっきのクリスのこともそうだけど、これは全部私の考えだから一概に私の言っていることが正論とは言えないわ」

 

 ケラケラと笑いながら言う千李を見てその場にいた全員が力が抜けたようにげんなりとなってしまった。そこに前と同じであまりの寿司をもらってきた翔一が飛び込んできた。

 

「あり?なんでみんなそんなにげんなりしてんだ?」

 

 不思議そうにきく翔一に千李が事の顛末を話すと翔一も納得したように頷いた。

 

「じゃあもう千李先輩の言ったことで完結してんだろ?だったらいいじゃねぇか!寿司くってみんなで仲直りしようぜ?」

 

「あ、そうだ私もケーキ買ってきたんだった。瑠奈持ってきて」

 

「はーい」

 

 瑠奈がもて来た箱を開けると中には結構な大きさのケーキが入っていた。

 

「んじゃ!いっただきまーす!!」

 

 翔一の号令と共に皆がいっせいに食べ始めた。その中には先ほどのようなピリピリとしたわだかまりは感じられなかった。すると瑠奈が千李の袖を引っ張る。

 

「どうしたの?」

 

「お母さん。みんななかよし?もうけんかしない?」

 

 瑠奈が首をかしげながら言うと千李は優しい笑みを浮かべながら瑠奈の頭を撫でる。

 

「ええ。もうしないわ。それじゃあ食べましょうか?」

 

「うん!!」

 

 二人も食卓に加わった。

 

 

 

「おっといけねー。忘れるところだったぜ。実はなさっき商店街の抽選で箱根の団体様招待券を当ててな!つーわけで今度の連休みんなでいかねーか?」

 

 翔一が聞くとそれぞれが反応する中一子が静かに言った。

 

「ほんと、絶対守護霊ついてるわよねキャップ」

 

「霊の話はそこまでだ。ワン子」

 

 一子の守護霊という言葉を聞いて百代が青ざめた顔をする。それを見ていた瑠奈が百代に聞いた。

 

「百代お姉ちゃんおばけこわいの?」

 

「そそそ、そんなわけないだろ!?ゼンゼン大丈夫だぞ私は!?」

 

「落ち着きなさいっての……。声裏返ってるし」

 

 百代に突っ込みを入れながら千李は翔一に聞き返した。

 

「それって瑠奈もついて行っていいのよね?」

 

「ああ!もちろんだぜ!瑠奈も立派な風間ファミリーのメンバーだからな!」

 

 高らかに宣言したあと翔一は瑠奈の頭を撫でた。

 

「わたしもついて行っていいの?」

 

 瑠奈が千李に振り向きながら聞くと千李はただ静かに頷いた。瑠奈もそれを見ると顔が明るくなりぴょんぴょんと跳ね回りながら喜びを表していた。

 

 その話が終わると由紀江が棚にある写真を見て話を振った。

 

「この写真、皆さんの小さいころですか?」

 

「あ、いやそれは」

 

 大和が止めに入ろうとしたが既に遅かった。

 

「あれでもこれ……」

 

「千李先輩がいないな」

 

 クリスのその言葉にその場にいた全員があちゃー、という顔をした。そして誰もが千李の顔色をうかがう中。千李は小さく笑いながら話しはじめた。

 

「その写真に私がいない理由はね……。私が風間ファミリーに入ったのは6年の終わりだったのよ」

 

 そういった千李の目には少し悲しげな光が灯っていた。千李は膝の上で眠ってしまった瑠奈を撫でながら言葉をつむいだ。

 

「ちょっと昔の話になるけどいい?」

 

「姉さんそれは……!!」

 

 百代が止めに入ろうとするが千李は微笑を浮かべながら百代を制止させる。

 

「大丈夫よ百代。どうせ話さなくちゃならないことだし。……ちょっと長くなるかもしれないけど聞いてくれる?」

 

 二人が頷くと千李は淡々と語りだした。

 

「私は6歳から12歳になるまで川神にはいなかったのよ……」

 

 そして千李の過去の話が始まった。




以上です

千李姉さんよくしゃべりますねー

まぁそれは置いといて……
次の一話は過去編です幼少のころの千李は一体どんな少女だったのかそれがわかります

感想、アドバイス、ダメだしなどなどお待ちしております

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