遊戯王GX ―ウィンは俺の嫁!―   作:隕石メテオ

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デュエル描写ありますがプレミ等を見つけてもご容赦ください……


すこし昔のお噺 2

 結果から言って、あの場所から抜け出して俺の家にたどり着くことには成功した。

 空にいたあの鳥のせいで危うい場面こそ何度もあったが、なんとか切り抜けて。

 玄関に飛び込んで、安心したと大きく息を吐く。

 

「はぁ、はぁ、大丈夫か?」

 

「ええ、はぁ、なんとか」

 

 家に入るには隠れる場所の少ない住宅街に入ることになるので、最後はダッシュで駆け抜けたおかげでそれまでの移動もありお互い息が荒い。

 それを整えながらリビングに彼女を連れて入る。

 

「ただいま、っても誰もいないけどな。お茶出すから座っててくれ」

 

「わかりました。ただ……」

 

「ん?」

 

 彼女の視線が下の方を見ているのでそれに倣うと、あの林道から抜け出す時からずっと彼女の手を握ったままな自分の手が見えた。

 

「あ、わ、悪い。すぐ用意するから待っててくれ」

 

 スッと頬に熱気が集まるのを感じて、サッと手を離す。それでも汗ばんだ手のひらに彼女の手のひらの温度が残っていて、俺は逃げるようにキッチンに向かった。

 異性の手を握ったのなんていつ以来か……なんて考えてしまう位には、異性とそういう繋がりはない。だからといって同性に興味があるわけではないと強く言っておきたいが。

 コップを用意して、冷蔵庫から麦茶を出して――と作業しながら改めて考える。

 その内容はもちろん彼女のことで、かといってさっきの手のひらの女子特有のやわらかな感触を思い出すとかそういうわけじゃない。

 純粋に本心から、彼女のことを心配に思っている俺がいた。逃避行していると言っていたがどの位経っているのか、その間生活はどうしていたのか、体調を崩したりはしていないか――寂しくはなかったのか。そういう考えが俺の頭の中を巡る。

 お茶をいれる程度の動作に大して時間が掛かる訳もなくすぐ思考を中断することになったが、まぁいい。彼女と話すのはこれからだ。

 

「お待たせ」

 

「ありがとうございます」

 

 彼女の前にコップを置いて、テーブルを挟んだ向かいに座る。さっきから変わらずクールというかなんというか、表情が固い。

 さて取り合えずは……そういえば俺は彼女の名前をまだ聞いていなかった。見覚えのある容姿だしヒントも多いから予想できているが、こういうのはキチンとしておくべきだろう。

 

「改めて自己紹介するよ。俺は天風遊斗。しがない中学生だ」

 

「私はウィン。デュエルモンスターズのカード《風霊使いウィン》の精霊です」

 

 やっぱり、と納得する。

 リバースすることで自分と同じ属性の相手モンスターを奪取する効果持ちの魔法使い族モンスター。

 確かにカードの効果だとそれだけだが、魔法使いだしいろんなことができても不思議じゃない。

 さっきのガルドと呼ばれていた鳥が追っ手の使い魔ということと彼女自身のカード能力を合わせて考えると、彼女の一族は使い魔だとかそういった方向に特化しているのかもしれない。

 

「とりあえず怪我とかはないか? あれば簡単な手当てくらいならするけど……」

 

「問題ありません。怪我と言えるほどの傷は無いので」

 

 よかった、少し無理に引っ張ってきた感があったから怪我でもしてたらどうしようかと。

 それに会う前からの怪我とかも見る限りなさそうだ。

 

「そっか。よかった」

 

「お気遣い感謝します」

 

「…………」

 

「…………」

 

 と、そこまでで会話が途切れてしまった。

 会って1時間程度の子とするような軽い話題もないし、なによりそんな他愛のないことを話す空気でもない。

 彼女は見るからに大人しい雰囲気だし、向こうから話題を提供してくれることは期待できなさそうだ。

 しばらく距離感を測りかねてお互いチラチラと視線を交わすだけで、徐々にいたたまれなくなりなにか話題を――と思考を巡らせてみる。

 聞いておくべきと思っていることを先に聞くべきか、それを話す前にもう少し何か話をしてみるべきか。

 とはいえ適切な話題が思いつかない以上こちらから振れる話題は堅苦しいが前者に限られてしまうし、いつまでも黙ったままではいられない。

 まぁ、そういう状況になっている今が話をする機だと考えたほうがいいかもしれないな。

 

「えーと……聞きたいことがあるんだけど」

 

「どうぞ」

 

「このあと、どうするつもりなのか聞かせてもらってもいいか?」

 

 追われる身の彼女はこのあとどうするつもりなのか。流石に無策のまま放り出すなんて薄情なことはできない。

 

「まだあなたを完全に信用したわけではありませんが、そのくらいなら」

 

 言外に教えても何もできないでしょうから、と言われているようでアレだが……それは事実だしこの短時間で信用してもらえるなんて思っていないから問題はない。いやちょっと心が傷ついたけど。

 俺が彼女をどうこうしようとしたら、それこそ男女の身体的な力の差で押し倒すくらいしか方法はないのは確かなのだし。

 

「といっても、私としてはこれまで通りとしか。とりあえず外の追っ手がどこかへ行くまではどこかで大人しくしているしかないですが、そのあとはまた別の場所まで転移します。精霊世界の街に行けば術を使って路銀くらいは稼げますし、そのあとも転移を続けて放浪するだけです」

 

 彼女自身の望んだ道であろうと、まだ少女だろう彼女にとってそれは楽な旅路ではないはず。だから当人の前では言葉になんてできないが俺は少し、ほんの少し、楽しそうだと思ってしまった。見知らぬ地を渡り歩くということに対する恐怖は、全部は無理でも少しならわかる。だがそれよりも強く、そんな自由な旅路が羨ましいと思う自分がいた。体験したことがないからこその楽観視だというのはわかっているけれど。

 だがそれとは正反対な考えも浮かんでくる。その考えは案外するりと口にすることができた。

 

「寂しく、ないのか?」

 

「ッ……寂しくなんて、ありません。これまでもこれが普通だったんですから」

 

 一瞬、驚いたような感情が伝わってくる。そして強がっているということが、目を逸らした彼女の表情や動作から読み取れた。

 まぁそうだよな、と思う。こっちの世界で俺の歳ならまだ子供だ。事情がない限り親元を離れたりするようなことはないだろう。向こうの世界の事情は分からないが、少なくとも大人と呼ぶには彼女はまだ幼い。だがこれからの予定の口ぶりからするに彼女が逃避行を始めたのは最近の話では無さそうだ。

 帰る場所のない旅というのはどんな感覚なのだろう。帰る家のある俺には理解できないであろう感覚。当たり前のものがないというのは、どんな辛さなのか。

 

「そっか」

 

 ――だが、俺に彼女を止める言葉を言う資格はない。

 彼女の思いは、決意は、ポッと出の俺が口を挟んでいいものではないと思うから。

 逃避行の理由はもう聞いている。そこに彼女の非は無い。あるとすれば彼女に役割を押し付けた周囲にあるんだろう。

 それを材料に使っても、俺が彼女を家に帰ればいいと諭すことはできない。俺では、漫画の主人公のようにちょっと出張って解決してハッピーエンドなんてことはできやしない。

 なにより、第三者からのそれは彼女への侮辱だろう。彼女が自分で決めた、自分で行動した。求められてもいないのに俺が手を出すことはできないししちゃいけないと思う。あくまで彼女が自分で考えて、動いて、その上で納得するような解決でなきゃならない。それが道理だろうと思った。

 同時に、彼女から助けを求められたのなら手を貸してあげたいとも。

 

「やっぱり君は強いよ」

 

 ――そして、脆い。

 でも、それを意志の強さで繋ぎ留める強さが彼女にはあるんだと思う。

 だから俺の目には、彼女がとても“魅力的”な女の子に映るんだろう。俺には持てないものを持っているから。

 

 ――ああ、やられた。認めよう。認めるしかない。俺は彼女に、ウィンに惚れている。たぶん、初めて言葉を交わした瞬間には落ちていたんだと思う。ウィンという存在に心奪われていた。

 

 理解したとたん、ギアが一段上がったように心臓がドクドクと脈打つ。顔に血が上る。テーブルを挟んで座る彼女を抱きしめてしまいたくなる。

 でも、それはできない。俺には彼女をここに引き止める権利も資格もないのだから。そう再確認する。

 

「どうかしましたか?」

 

 突然不自然な状態になった俺に、彼女の声が掛けられる。それだけで心臓が高鳴った。……ああ、重症だ。

 恋患いが死に繋がっているのなら、俺は後一歩で死ねるだろう。

 

「いや、なんでもない」

 

 極めて平然を装って、なんでもない風に振舞う。

 自分の気持ちを確認した、できてしまった。だとしても俺が彼女にしてあげられることが増えるわけじゃない。

 それに、彼女の事情に今の俺が直接手を出すことはできないという考えに変化はない。

 でも、それでも、支えになってあげたいと強く思う。そのための提案を。

 

「とりあえず、今夜はここに泊まっていけばいいと思う。たぶんまだ、近くにいるだろ」

 

 何が、とは言わずともお互い分かっている話だ。

 それに外はもう夜の帳に包まれている。そんな中に行くアテもない少女を放り出すなんて、自分の感情を抜きにしても非情すぎるだろう。

 

「その提案は嬉しく思います。ですが、あなたのご家族は……」

 

「それは気にしなくていい。忙しいからって両親とも職場に泊まり込みでさ。このところは俺ひとりなんだ」

 

 普段なら俺に家のことが全て任されてしまい面倒だと思う状況が、今だけはとても好都合だった。

 やることが減るわけじゃないにしても、状況が状況だけに気が軽い。

 

「でしたら、お言葉に甘えさせていただきます」

 

 提案を受け入れてもらえたことに安心する。

 そしてその程度には信用してもらえたのかと嬉しくも思う。

 

「正直、いろいろ疑われるんじゃないかと思ってたよ。手を出さないかとか」

 

「そのつもりなら、私を招き入れたときにそうなっていたでしょう? それに、あなたからは邪なものをあまり感じません」

 

「あー、ありがとう?」

 

 俺は苦笑いでそう返す。

 まぁ、彼女を傷つけるようなことはいまの自分だと自分を許せそうにない。

 さて、そうと決まればすることをしないと。

 

「風呂がもう沸いてるから、お先にどうぞ。着替えは持ってる?」

 

 もともとランニングから帰ってきた後に汗を流すつもりで出かける前に用意していたのだが、ちょうど良かった。

 

「大丈夫です、かさばるものは魔術的な空間にしまってありますから」

 

 それは便利だなぁと思いつつ、風呂場の場所を教えて彼女を向かわせる。

 さ、俺は夕飯の用意をしないと。

 

 

 ◆

 

 

 彼女が風呂から上がってきたあとで食事を振る舞い俺も風呂で汗を流した後、俺たちはまたリビングのソファで向かい合っていた。

 食事の前のように堅苦しい話をするわけではなく、ただゆったりとした時間が流れている。

 振り返ると少し……いやかなり濃い一日だった。

 夕方にウィンと出会い、木漏れ日の中で言葉を交わし、俺の家まで2人で逃げ帰り、そして今に至る。

 こう表すとそうでもないように思えるが、その中身がかなり濃い。

 デュエルモンスターズの精霊という存在を知ったり、その精霊の世界があると知ったり、出会ったウィンは追われていて、俺のちょっと人とは違う程度に思っていた感覚の理由を知ったり。

 人生変わるレベルの出来事を連打されたような気がする。

 

 それになにより――俺はウィンに惚れてしまった。

 

 正直言って、今日初めて知ったいくつかのことよりも重大なことだ。俺の能力? そんなことその辺に置いとけ。

 一目惚れってそんなものホントにあるのかと疑っていたが、実体験として体験してしまえば否定する要素がない。

 とはいうものの、彼女はすぐ……早ければ明日にでもここを離れるだろう。諦めたくはないがどうしようもないことだし、事情を知ってしまった以上引き止めることはできない。

 マジで未練タラタラになるだろうがどうしようもなく、もうなるようになれといった感じだ。

 思い出のひとつくらい追加しておきたいところではあるが、お互いそれなりに疲れているので寝るまでそんなに時間もない。

 俺があーでもないこーでもないと考えていると、まさかの助け舟が彼女の方から出された。

 

「ユートさん、ひとつお願いを聞いてもらっていいでしょうか」

 

「あ、え、うん。なにを?」

 

 突然のことで完全にどもってしまった。

 恥ずかしいと思いながらも、声をかけてもらえただけで恥ずかしさとは関係なく強く拍動する心臓は正直だ。

 なんだろうかと期待しながら彼女の言葉を待っていると、続けて向けられたのは言葉ではなく――カード。

 見覚えのないほうがおかしい、茶色の背をしたカードの束。それが意味するところはつまり。

 

決闘(デュエル)を、しましょう」

 

 彼女は真っ直ぐに俺の瞳を見つめて、そう言った。

 そう言われてしまえば俺も一介の決闘者(デュエリスト)だ、頭のスイッチを切り替える。

 浮ついた気持ちで決闘はできない。

 

「挑まれたら受けなきゃ、デュエリストじゃないな」

 

 デッキを取ってくると言い残して、リビングから自室に向かう。

 なぜ彼女が突然デュエルをしようと言い出したのかはわからないが、相手をするなら真剣に全力でいかせてもらう。

 なによりデュエルモンスターズの精霊とデュエルなんて、そうそうできることじゃない。その点はかなり楽しみだ。

 机の上に置いておいたデッキケースを手にリビングへ戻る。

 

「さあ、やろうか」

 

「お願いします」

 

 流石に一般家庭のリビングでデュエルディスクを使うわけにもいかないため、今回はテーブルデュエルだ。

 立体映像(ソリッドビジョン)の迫力や若干の衝撃発生などの演出も、デュエルの楽しさを高めてくれるものであるとは思うし実際その通りなのは事実なのだが、個人的には正面で向き合ってするテーブルデュエルを気に入っている。

 何より今は、彼女と向き合っていられるというのがなによりいい。

 先攻後攻はダイスで決めることにして、俺が勝ったので先攻をもらう。

 テーブルを挟んで向き合い、お互いに聞こえる声で宣言する。

 

「「デュエル」」

 

 初手5枚は、まぁ、結構微妙だなこれ。大事なサーチがない。

 

「ドロー……んー、永続魔法《魔導書廊エトワール》を発動」

 

 《魔導書廊エトワール》

 永続魔法

 このカードがフィールド上に存在する限り、自分または相手が「魔導書」と名のついた魔法カードを発動する度に、このカードに魔力カウンターを1つ置く。

 自分フィールド上の魔法使い族モンスターの攻撃力は、このカードに乗っている魔力カウンターの数×100ポイントアップする。

 また、魔力カウンターが乗っているこのカードが破壊され墓地へ送られた時、このカードに乗っていた魔力カウンターの数以下のレベルを持つ魔法使い族モンスター1体をデッキから手札に加える事ができる。

 

「それから《魔導戦士フォルス》を召喚」

 

 《魔導戦士フォルス》

 効果モンスター

 星4/炎属性/魔法使い族/A1500/D1400

 1ターンに1度、自分の墓地の「魔導書」と名のついた魔法カード1枚をデッキに戻し、フィールド上の魔法使い族モンスター1体を選択して発動できる。

 選択したモンスターのレベルを1つ上げ、攻撃力を500ポイントアップする

 

「カードを1枚伏せてターンエンド」

 

 LP4000

 手札3

 場

 フォルス A1500

 伏せ1

 エトワール(0)

 

 もうデッキがバレたといってもいい。

 俺のデッキは魔法使いを魔導書という魔法でサポートしながら動く《魔導書》デッキ。

 もしも……まぁないとは思うが、彼女のデッキに魔のデッキ破壊ウィルスとか入ってたら魔法宣言されて死ぬ。

 

「ドロー。モンスターをセットしてターンエンド、です」

 

 LP4000

 手札5

 場

 セットモンスター1

 伏せ0

 

 お互い動きの少ない滑り出し。

 あちらのデッキの情報がまるでないため、初手の良し悪しを読み取れない。もしスロースターターだったら早く動けないと負けるな。

 

「ドロー。手札から《ヒュグロの魔導書》を発動。フォルスの攻撃力を1000ポイントアップ。さらに魔導書が発動されたことでエトワールにカウンターが1つ乗ってさらに100ポイントの攻撃力アップだ」

 

 《ヒュグロの魔導書》

 通常魔法

 自分フィールド上の魔法使い族モンスター1体を選択して発動できる。

 このターンのエンドフェイズ時まで、選択したモンスターの攻撃力は1000ポイントアップし、戦闘によって相手モンスターを破壊した場合、デッキから「魔導書」と名のついた魔法カード1枚を手札に加える事ができる。

「ヒュグロの魔導書」は1ターンに1枚しか発動できない。

 

 魔導戦士フォルス A1500→2500→2600

 

 守備力警戒というよりも後半の効果を目的としたエンハンス。

 あのブラック・マジシャンよりも高い打点を得たフォルスで、セットモンスターを攻撃する。

 

「セットモンスターはドラゴンフライ。効果でデッキから風属性で攻撃力1500以下のモンスターを攻撃表示で特殊召喚。私はデッキから《九蛇孔雀》を特殊召喚する」

 

 セットはリクルーターだったか。

 出てきた九蛇孔雀はリリースされることでサーチを行うモンスター、ってことは手札に場のモンスターをリリースするカードがあるって考えていいかもしれない。

 

「こっちもヒュグロの効果。相手を戦闘破壊したことをトリガーにサーチ効果を発動。《グリモの魔導書》を手札に」

 

 このデッキのエンジンともいえるグリモを手札に持ってこれた。

 まだ必要なカードが手札にないからなんともいないが、これでマシになっただろう。

 

「メインフェイズ2、《グリモの魔導書》を発動。デッキから《セフェルの魔導書》を手札に加える。手札の《ネクロの魔導書》を見せて墓地のグリモを選択してセフェル発動。グリモの効果をコピー。デッキから《ゲーテの魔導書》を手札に」

 

 《グリモの魔導書》

 通常魔法

 デッキから「グリモの魔導書」以外の「魔導書」と名のついたカード1枚を手札に加える。

「グリモの魔導書」は1ターンに1枚しか発動できない。

 

 《セフェルの魔導書》

 通常魔法

 自分フィールド上に魔法使い族モンスターが存在する場合、このカード以外の手札の「魔導書」と名のついたカード1枚を相手に見せ、「セフェルの魔導書」以外の自分の墓地の「魔導書」と名のついた通常魔法カード1枚を選択して発動できる。

 このカードの効果は、選択した通常魔法カードの効果と同じになる。

「セフェルの魔導書」は1ターンに1枚しか発動できない。

 

「魔道書を2枚使ったためエトワールにカウンターを2つ乗せて、1枚伏せてターンエンド」

 

 LP4000

 手札2

 場

 フォルス A1800

 伏せ2

 エトワール(3)

 

 グリモのおかげでデッキを圧縮できた。

 できれば初ターンからこうやって回したいところだったが、無いものねだりはしてもしょうがない。

 

「私のターンドロー。モンスターをセット、九蛇孔雀を守備表示に変更。カードを1枚伏せてターンエンド」

 

「おっとそのエンドフェイズ、リバースカード発動《ゲーテの魔導書》。墓地の魔導書1枚を除外して効果発動。《セフェルの魔導書》を除外してセットされた魔法罠を手札に戻す。そして魔導書が発動されたためエトワールにカウンターが乗る」

 

 しぶしぶといった風でいま伏せたセットカードを手札に戻すウィン。

 これで次ターン動きやすくなった。でも怖いくらい静かな動き方だ。

 

 LP4000

 手札5

 場

 九蛇孔雀 D900

 セットモンスター1

 伏せ0

 

「俺のターンドロー」

 

 引いたカードはいま使えない。そして手札に通常召喚できるモンスターはいない。仕方ないか。

 

「バトル。九蛇孔雀を攻撃。そしてターンエンド」

 

 LP4000

 手札3

 場

 フォルス A1900

 伏せ1

 エトワール(4)

 

 何事もなく孔雀を破壊してターン終了。むぅ、なかなか引きたいカードが引けない。

 それにお互い、ライフには手が付いていない状態だ。ボードアドはこっちが取っているが勝負はまだわからない。

 

「ドロー……モンスターをセット、カードを2枚伏せてターンエンド」

 

 LP4000

 手札3

 場

 セットモンスター2

 伏せ2

 

 怪訝そうな表情を少し見せた彼女がエンド宣言する。

 手札が宜しくないみたいだが、加減するのはデュエリスト的によろしくないから攻めるのみ。

 

「俺のターンドロー。手札から《魔導召喚士テンペル》を召喚。そして伏せていた《トーラの魔導書》を発動。テンペルを対象に罠カードの効果を受けなくする。エトワールにカウンター追加」

 

 《魔導召喚士テンペル》

 効果モンスター

 星3/地属性/魔法使い族/A1000/A1000

 自分が「魔導書」と名のついた魔法カードを発動した自分のターンのメインフェイズ時、このカードをリリースして発動できる。

 デッキから光属性または闇属性の魔法使い族・レベル5以上のモンスター1体を特殊召喚する。

 この効果を発動するターン、自分は他のレベル5以上のモンスターを特殊召喚できない。

 

 《トーラの魔導書》

 速攻魔法

 フィールド上の魔法使い族モンスター1体を選択し、以下の効果から1つを選択して発動できる。

 ●このターン、選択したモンスターはこのカード以外の魔法カードの効果を受けない。

 ●このターン、選択したモンスターは罠カードの効果を受けない。

 

「テンペルの効果発動。魔導書を使ったメインフェイズ時にこのカードを生け贄にデッキから光または闇でレベル5以上の魔法使いを1体特殊召喚する。俺はテンペルを生け贄にデッキから《魔導法士ジュノン》を特殊召喚」

 

 《魔導法士ジュノン》

 効果モンスター

 星7/光属性/魔法使い族/A2500/D2100

 手札の「魔導書」と名のついた魔法カード3枚を相手に見せて発動できる。

 このカードを手札から特殊召喚する。

 また、1ターンに1度、自分の手札・墓地の「魔導書」と名のついた魔法カード1枚をゲームから除外して発動できる。

 フィールド上のカード1枚を選択して破壊する。

 

 このデッキの主力の片割れ、ジュノンをデッキから取り出して場に置く。

 手札が必要とはいえ最上級を特殊召喚できる効果と、単体除去を持つ優秀なカードだ。

 

「リバースカード《風霊術-「雅」》。風属性を生け贄に場のカード1枚をデッキの1番下に戻す。私はセットしてある《風霊使いウィン()》を生け贄にジュノンをデッキの1番下へ」

 

 おうふ。マジか。

 せっかく場に出したジュノンを裏にしてデッキゾーンにおいて、その上に残っているデッキを置く。これでサーチするかシャッフルしないと手札にはもう来ないような状態になってしまった。

 というか自分を生け贄にするって複雑な気分じゃないんだろうか。

 

「しょうがないからバトル。フォルスでセットモンスターを攻撃」

 

 エトワールのカウンターが5つになったことで攻撃力が2000になったフォルス。現状お前だけが頼りだッ。

 

「セットモンスターは《ドラゴンフライ》。もう一度《九蛇孔雀》を特殊召喚」

 

 やっぱりというかなんというか、ただで墓地に送られるヤツじゃなかった。

 再び孔雀が彼女の場に置かれる。

 

「じゃあこのままターンエンドだ」

 

「そのエンドフェイズにリバースカード発動《ゴッドバードアタック》。場の九蛇孔雀を生け贄にそちらのフォルスとエトワールを破壊します」

 

 LP4000

 手札4

 場0

 伏せ0

 

 やば、場がガラ空きだしせっかく貯めたエトワールのカウンターが。

 

「私のターンドロー。手札から《デブリ・ドラゴン》を召喚。効果により墓地の攻撃力500以下のモンスターを攻撃表示で特殊召喚します。《風霊使いウィン》を特殊召喚」

 

 あまり見覚えのないカードだ、デブリ・ドラゴン。

 しかしその属性といい効果といい、ウィンを特殊召喚するために用意されているようなカードだな。

 

「憑依装着。場の《風霊使いウィン》と風属性モンスターを墓地に送ることでデッキから《憑依装着-ウィン》を特殊召喚します。さらに団結の力を装備」

 

 憑依装着-ウィン A1850→2650

 

 目の前の彼女そのもののカードがドラゴンと墓地に送られ、その成長したような姿のカードが場に置かれた。

 でもどちらかといえば、憑依装着の方がいまの彼女に似ている気がするな……。

 

「カードの精霊だって成長するんです。特に人型は。モンスターは成長してもそこまで変化することはないですが」

 

「へぇ、そうなのか」

 

 って思考を読まれた? いや、カードとウィン本人を交互に見てたらそりゃ気づくか。

 

「バトル。ウィンでダイレクトアタック」

 

 遊斗

 LP4000-2650→1350

 

 ライフを一気に半分以上持って行かれてしまった。

 しかも貫通ついてるし団結の力装備だし、壁が意味をなさない怖さだな。

 

「1枚伏せてターンエンドです」

 

 LP4000

 手札2

 場

 ウィン(団結の力) A2650

 伏せ1

 

「俺のターンドロー……! 手札からフィールド魔法《魔法都市エンディミオン》を発動、これは魔法が発動する度にカウンターが乗る。さらに《魔導書士バテル》を召喚。バテルの効果でデッキから魔導書と名のついたカード1枚を手札に。デッキからグリモを手札に加えてそのまま発動。グリモ効果で《アルマの魔導書》を手札に。そのままアルマ発動、除外されてるセフェルを手札に。手札のネクロを見せて墓地のグリモ選択してセフェル発動、ゲーテを手札に」

 

 《魔法都市エンディミオン》

 フィールド魔法

 自分または相手が魔法カードを発動する度に、このカードに魔力カウンターを1つ置く。

 魔力カウンターが乗っているカードが破壊された場合、破壊されたカードに乗っていた魔力カウンターと同じ数の魔力カウンターをこのカードに置く。

 1ターンに1度、自分フィールド上に存在する魔力カウンターを取り除いて自分のカードの効果を発動する場合、代わりにこのカードに乗っている魔力カウンターを取り除く事ができる。

 このカードが破壊される場合、代わりにこのカードに乗っている魔力カウンターを1つ取り除く事ができる。

 

 

 《魔導書士バテル》

 効果モンスター

 星2/水属性/魔法使い族/A500/D400

 このカードが召喚・リバースした時、デッキから「魔導書」と名のついた魔法カード1枚を手札に加える。

 

 《アルマの魔導書》

 通常魔法

「アルマの魔導書」以外のゲームから除外されている自分の「魔導書」と名のついた魔法カード1枚を選択して手札に加える。

「アルマの魔導書」は1ターンに1枚しか発動できない。

 

「さらに《死者蘇生》を発動。墓地のフォルスを蘇生。そしてゲーテ発動。墓地の魔導書3枚、グリモとエトワールとゲーテを除外して場のカード1枚を除外する。憑依装着ウィンを選択」

 

 ウィンを除去するというのは心が痛むが、手を抜くほうが悪いだろう。

 そして、これで高い壁はいなくなった。

 

「フォルスの効果で墓地のグリモをデッキに戻してバテルの攻撃力を500ポイントアップ。バトル、2体でダイレクトアタックだ」

 

 バテル A500→1000

 

 ウィン

 LP4000-1500-1000→1500

 

「俺はこれでターンエンド」

 

 LP1350

 手札2

 場

 フォルス A1500

 バテル A1000

 伏せ0

 エンディミオン(5)

 

 ボードアドも返したし、ライフの差もほぼなくなった。なにより高攻撃力を持っていたウィンを処理できたことは大きい。

 

「私のターンドロー。手札から風霊使いウィンを召喚、さらに手札の《A・ジェネクス・バードマン》の効果発動。場のウィンを手札に戻してバードマンを特殊召喚します。このカードはこの効果で特殊召喚するときに戻したモンスターが風属性だった場合、攻撃力が500ポイントアップします」

 

 《A・ジェネクス・バードマン》

 チューナー・効果モンスター

 星3/闇属性/機械族/A1400/D400

(1):自分フィールドの表側表示モンスター1体を持ち主の手札に戻して発動できる。

 このカードを手札から特殊召喚する。

 この効果を発動するために風属性モンスターを手札に戻した場合、このカードの攻撃力は500アップする。

 この効果で特殊召喚したこのカードは、フィールドから離れた場合に除外される。

 

 なんでわざわざ攻撃力500のウィンを出したのかと思ったら、こういうことか。また面白い効果のモンスターだ。

 面白いが、これで俺のフォルスの打点を超えられた。

 

「バトル。バードマンでフォルスを攻撃。そしてターンエンドです」

 

 LP1500

 手札2

 場

 バードマン A1900

 伏せ1

 

 遊斗

 LP1350-400→950

 

 マズい。場には攻撃力1000のバテル、残されているネクロともう1枚の手札はこの場では使えない。

 頼む何かきてくれ――。

 

「俺のターンドロー。よし、バテルを生け贄に《闇紅の魔導師(ダークレッド・エンチャンター)》を召喚。召喚時このカードにカウンターが2つ乗り、カウンター1つにつき攻撃力が300ポイントアップ。バトルだ」

 

 《闇紅の魔導師》

 効果モンスター

 星6/闇属性/魔法使い族/A1700/D2200

 このカードが召喚に成功した時、このカードに魔力カウンターを2つ置く。

 このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、自分または相手が魔法カードを発動する度に、このカードに魔力カウンターを1つ置く。

 このカードに乗っている魔力カウンター1つにつき、このカードの攻撃力は300ポイントアップする。

 1ターンに1度、このカードに乗っている魔力カウンターを2つ取り除く事で、相手の手札をランダムに1枚捨てる。

 

「ではその攻撃宣言時、リバースカード《憑依解放》を発動します」

 

 闇紅の魔導師 A1700→2300

 

 ウィン

 LP1500―400→1100

 

「憑依解放の効果、自分フィールドのモンスターが戦闘破壊されたのでそのモンスターの元々の属性と異なる属性尚且つ守備力1500の魔法使いを特殊召喚します。私はデッキから憑依装着ウィンを特殊召喚」

 

 霊使いシリーズ用のサポート罠か。なかなか良い効果を持ってるな。

 でもとりあえず、攻撃力は超えられてないから大丈夫だと思いたい。

 だがバックのカードを用意できてないっていうのはちょっと辛い。何かされても守る札がない。

 

「俺はこれでターンエンド」

 

 LP

 

「私のターンドロー……!」

 

 ほんの少し、わずかに口角を釣り上げたウィンがいまドローしたカードを見せてくる。

 これまで完全なポーカーフェイスで動揺とかを全く悟らせなかったのに、よほどいいカードを引いたらしい。

 

「私は、団結の力を憑依装着ウィンに装備します」

 

 それは団結の力。ここで引くかそれを……なんてドロー運だ。

 でも魔法の発動により闇紅の魔導師にもカウンターが乗った。このままならまだライフが残る――そう信じたいが、モンスターを握ってないとは思えない。

 

「さらに、霊使いウィンを召喚。これにより憑依装着ウィンの攻撃力が3450までアップします」

 

 憑依装着ウィン A1850→3450

 

 闇紅の魔導師 A2300→2600

 

 ウィンが並び、攻撃力が闇紅の魔導師を超えた。

 それどころか憑依解放込みで4000オーバーなんて、あの伝説の神の一柱オベリスクすら倒せるレベルだ。

 

「バトルです。憑依装着ウィンで闇紅の魔導師を攻撃。さらに攻撃時、憑依開放で800ポイント攻撃力アップです」

 

 憑依装着ウィン A3450→4250

 

 遊斗

 LP950―1650→0

 

「ふぅ――参りました」

 

 一気に脱力して、ソファの背もたれに全体重を預ける。

 あー、負けた負けた。これでもそれなりに自信はあったのになぁ。

 それに結局、彼女がデュエルを挑んできた意味もわからなかった……が、まぁそれはどうでもいい。デュエリストがデュエルをすることに疑問なんてないのだから。

 

「あー悔しい。でも楽しかった……次は負けないからな」

 

「私も楽しかったです、ありがとうございました」

 

 ふわりとした、自然な笑みを見せてくれる彼女。

 息が詰まりそうになり、顔が赤くなるのがわかる。そんな顔を見せてくれたのは今日の中で初めてだ。

 というか、これまで表情での表現が乏しかったのに突然のそれは反則だろって。

 彼女のことを直視出来なくなって視線を逸らしながら、俺は言う。

 

「お互い疲れてるだろうし、もうそろそろ休もう。君は悪いんだけど俺の部屋にあるベッドを使ってくれ。俺はここで寝る」

 

「私は構いませんが……良いのですか? 私がここで寝ても構いませんよ」

 

「流石に女の子にソファで寝てくれって言って、自分だけベッドで寝るなんてできねーよ」

 

 そのくらい格好つけさせてくれ。

 

「じゃ、部屋に案内するから」

 

 両親の部屋でもいいかと思ったが、仕事のものが置いてある部屋にその部屋の主たちがいない時に入って弄るのは肉親とはいえ気が引けた。

 家の2階にある自室に彼女を案内して、俺はそのままベランダに出る。春先とは言え寒々しい風が体を撫ぜて、つい首をすくめた。

 

「まだ来ないほうがいい」

 

 そう彼女に言って、空に目を向ける。

 精霊とはいっても鳥は鳥なのか、あのガルドとかいうのも含めて空に生命の気配はしない。

 どうも俺を好いてくれている風の精霊とやらは俺の意思も汲み取ってくれるらしく、なんとなくだがこの周囲一帯にそういった生物がいないことも把握できた。なんで好かれているのか、全く覚えがないというかそれに関してはホント意味わからん。

 

「ん、とりあえずいまこの辺りで探してはないっぽい」

 

「そうですか、ありがとうございます」

 

 俺の言葉をOKの合図だと捉えたらしい彼女が、部屋からベランダに出てきた。

 風に髪を靡かせる彼女を、月明かりが照らし出す。

 

「明日にでも、出て行っちゃうのか?」

 

「あまり長居してしまうとよくないです、この辺りにいるということはバレていますから。――ユートさん、今日は助かりました。お返しもできずにすいません」

 

「そんなのはいいよ、俺がやりたくてやったことだ。今日みたいに家に俺しかいないってこと結構多いから、誰かが居てくれるっていうのはそれだけで少し嬉しいし」

 

 両親が忙しいのもわかっているし、そのおかげで今の暮らしがあるのも理解している。

 でもそれでも、少しの寂しさを感じてしまうのは我が儘なんだろうか。

 

「――だから、さ。君さえよければ、たまにうちに来なよ。旅の途中で思い出したときにでもいい、俺でよければ歓迎するからさ」

 

 ついそんなことを言ってしまったのはその寂しさからなのか、彼女への感情からなのか。おそらくは両方だろう。

 俺も自身がかなり自由な、それこそ奔放といっていいかもしれない性格をしていると思う。でもそれは“帰る家”があるから、フラフラと流れることができる。彼女にとって仮でもいいから、そんな場所があってもいいんじゃないかと思った。

 

「……いいんですか? またご迷惑をお掛けすることになります」

 

「いいさ、待ってるよ」

 

 彼女の方に向き直り、右手を差し出す。

 握手だと悟ってくれたようで、すぐに握り返してくれた。

 

「俺のこと、信じてくれてありがとうな」

 

「風が言っていました、あなたは悪い人ではないと。私自身も実際にあなたと話をして、そう思っています」

 

「それは光栄だ」

 

 名残惜しくも手を離して、俺は部屋のドアに向けて歩き出す。

 

「じゃ、おやすみ。ウィン」

 

 部屋を出る際にそう言い、扉を閉じる直前に背中に返ってきたおやすみなさいという返事を聞いて、なんだか今日はとてもよく眠れそうな気がした。

 

 

 ――翌朝、夜明け直後ほどの時間に彼女は家を出ていった。ただ一言「また会いましょう」と言い残して。





もうちっとだけ続くんじゃ

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