遊戯王GX ―ウィンは俺の嫁!―   作:隕石メテオ

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デュエル中の表記を増やしました。
ターン終了時にターンプレイヤーだった方のフィールド状況を入れて、わかりやすくしたつもりです。
モンスターの見方は
モンスター名・表示形式(A=攻撃表示 D=守備表示)攻撃力
です。
例)テストデュエルの主人公の最後のフィールド

遊斗
LP3500
手札1枚

憑依装着-ウィンA4250(団結の力)
ドラゴンフライA1400
風霊使いウィンA500(リビングデッドの呼び声)
伏せ0

こんな感じですね。
こうした方がいい等の意見があれば、検討次第採用したいと思います。




TURN-2

 

 部屋を出た俺たちは、何処へあてもなく校舎周りをブラついていた。

 尤も、何処に何があるのか判ってないから、それも当たり前か。

 一応、それを把握しておくために寮を出たんだが。

 林道を抜けると、そこは校舎の正面。

 タイルが正面玄関へと続いていて、タイルを辿った先にある校舎は中央にある大きな円柱を中心に複数の円柱を組み合わせたような校舎本館を、四隅に配された石柱(オベリスク)に囲まれている。

 火山島に建てられた校舎はその火山を背にしていて、巨大な校舎よりも更に大きな火山が一体となって異様な迫力を醸しだしていた。

 

「やっぱデカイな、校舎の中移動するだけでも一苦労だったから予想はついてたけどな」

 

「正直、私達の(さが)には合ってないように思います」

 

「それ言ったら、学校ってもの自体が合ってないよ。俺もお前も、規則とかで縛られるのは嫌いだろ」

 

 とある事情――主に俺の事情だが、それで俺はこのアカデミアに居る。

 ウィンはウィンで精霊界――デュエルモンスターズのカードたちの世界――から出てこっちの世界に常駐してる理由があるが、それでもこんな場所にまでついて来てくれたことには感謝してる。

 

「まぁ、なんだ、悪いな。これから3年は付き合わせることになる」

 

「いえ、私も好きでやってますから」

 

 そんな風に言ってもらえると、俺も気が楽だ。

 校舎に向けていた視線を横のウィンに向けると、丁度こっちに目を向けていたウィンと目が合った。

 澄んだ翡翠色の光を満たした宝石のような瞳。

 ああ――いつ見ても綺麗だ。

 こうして見ることが出来るのが嬉しい。多分いまの俺は笑っているだろう。

 俺の様子に気付いたのか、呆れたようなウィンにはそっぽを向かれた。

 

「ん、もうちょっと見せてくれてもいいだろ」

 

 少し我侭を口走ったら、体ごと背かれて背中を向けられてしまった。

 

「嫌です。それに誰か来ますよ。こんな場所で、何もないところに目を向けてニヤニヤしてる不審者認定されても私は知りません」

 

 あー……そういや外だったな、ここ。

 惜しいが入学早々に不審者認定されるのは勘弁願いたい。

 それでも誰かが近づいてきたことに気付いたのは、流石ウィンだな。

 

「了解。なら、また今度にしとく」

 

「今度も何も無いですが」

 

 繋いだ手に力を込められる、というか爪を立てられた。

 地味に痛いが、流石にちょっとやりすぎたかもしれない。反省反省。

 

「そんな風に浮ついてるから不安なんですよ。――方角は南、まっすぐこっちに向かってます」

 

「わかった。ったく、ちょっと位信用してくれたっていいだろうに」

 

 そういうところ意外は信用してます――そう言ってくれたウィンの気配が薄れていく。

 同時に俺の手のひらにあった温もりが消えて、ウィンはその身を完全にカードに納めた。

 別に戻る必要は無かっただろうに、どうして戻ったのか。

 気になって俺がデッキケースに視線を落とすよりも先に、ウィンの示した方角から2人走ってきた。

 あの海産物(クラゲ)茶髪は……遊城十代? 一緒に居る身長の低い水色髪は知らないな。

 

「あれ? ――お前は確か、遊斗だっけ?」

 

 オシリス・レッドの制服に身を包んだ遊城十代は俺の前で止まる。ほとんどタイミングを置かず、その背中に水色が突っ込んだ。

 

「おわぁっ、気をつけろよな翔」

 

「突然止まるアニキが悪いッスよ~」

 

「なにやってるんだ……」

 

 目の前でコントを繰り広げられても正直困るだけなんだが。

 それに、このままじゃ話が進まない。

 

「なぁ。それで遊城、どうした」

 

「俺のことは十代でいいぜ。俺も遊斗って呼ばせてもらうからな! っと、そんなことはどっちでもいいんだ。いま暇か!?」

 

「お、おう。暇だけど?」

 

 クワッ、と目をキラめかせて顔を近づけてくる遊城……いや、十代。

 ちょ、そういう趣味は無いからこっち寄って来るな!

 仰け反りながらも俺が一歩下がると一歩近づいてくる、ってだから近い! ウィンなら嬉しいけど男とかぜんぜん嬉しくない!

 

「っし、ならデュエルだ!」

 

「っ――わかったわかった。デュエルは受けるから早く離れろ!」

 

 よっしゃ! と声を上げた十代は早速デュエルディスクを構え、腰のケースからデッキを出した。――可動域的に無理をした俺の腰が若干の悲鳴を上げてるのもお構いなしに。

 

「ったく、突然なんだよ」

 

「折角デュエルの学校に来たってのに相手が見つからなくて困ってたんだ。それにさっき言ったろ? “今度デュエルしようぜ”って。こんな早くチャンスが来るなんてラッキー!」

 

 さっきって1時間も経ってねぇぞこのデュエル馬鹿。

 心の中だけでそうつぶやいて俺もデッキを出す、が。

 そういえばディスクを持ってきてない。散歩のつもりだったのにまさかこんな展開でデュエルに発展するなんて考えても無かったからしょうがないか。

 

「悪い、俺いまディスク持ってないんだけど……」

 

「じゃあ、僕のを貸してあげるよ」

 

 十代についてきた水色が腕からディスクを外して投げ渡してくれたので、有り難く受け取っておく。

 

「お、サンクス。えっと……」

 

「僕は丸藤翔。翔で良いよ。アニキもデュエルおあずけなんて可哀想だし」

 

「――アニキ? 兄弟なのか?」

 

 兄弟にしては顔つきも体格も似てない。

 

「ああ、うん。本当のお兄さんも居るんだけど、本当の兄弟ってわけじゃなくて舎弟っていうか、十代くんは心のアニキっていうか」

 

 俺はそういうことか、と納得しながらデュエルディスクを展開させる。

 当人がそう思ってそう呼んでるならそれで良いだろうし、困るわけでもない。

 

「悪いな翔! さぁ、いくぜ!」

 

 ディスクはデザインが違えど基本の規格は同じだ。

 いつも俺が使っているディスクは専用の一点ものとはいえ、そこに変わりは無い。

 そうでなければKC社のシステムは使えず、ソリッドビジョンはおろか対戦すらできない。

 借りた着け心地に違和感のあるデュエルディスクを展開。

 それぞれ五ヶ所の長方形の窪みとスリットを持つブレードのような部分が伸張し、基部の赤いクリスタルに光が灯る。

 シャッフルしたデッキをディスクに収め、五枚のカードを抜き取った。

 

「「――デュエル!!」」

 

 俺のディスクに表示されたのは後攻の表示。

 つまり、先行は十代。

 生憎と俺は試験のとき、自分の番が終わり次第帰ったおかげで十代のデッキを知らない。

 対応もなにもカードはデッキしか持っていない今は調整すらも出来ないが、情報ってものはかなり大きいアドバンテージだ。それを逃しているのは痛いな。

 

「へへっ、先攻は貰ったぜ。俺のターンドロー! 俺は手札から《E・HERO(エレメンタルヒーロー)エアーマン》を召喚!」

 

 《E・HEROエアーマン》

 星4 風属性 戦士族 ATK1800/DEF300

 このカードが召喚・特殊召喚に成功した時、以下の効果から1つを選択して発動できる。

 ●このカード以外の自分フィールド上の「HERO」と名のついたモンスターの数まで、フィールド上の魔法・罠カードを選んで破壊できる。

 ●デッキから「HERO」と名のついたモンスター1体を手札に加える。

 

 十代の場に現れたのは一対のファンを翼のように背負い、風を纏ったHERO。

 ならば恐らく、デッキはE・HERO。多彩な融合モンスターや多数の専用サポートカードで様々な戦術を取れるカテゴリだ。

 

「エアーマンの特殊効果を発動! 召喚に成功したとき、デッキから《HERO》と名のついたモンスター1体を手札に加える! 俺が選ぶのは《E・HEROバーストレディ》!」

 

 《E・HEROバーストレディ》

 星3 炎属性 戦士族 ATK1200/DEF800

 通常モンスター

 

 そしてエアーマンはHEROのイグニッションキー的存在。

 HEROをサーチする効果はエンジン(デッキ)を回し始める起点となり、下級としては単体でのステータスも高い優秀なカードだ。その強力な効果故にE・HERO唯一の制限カードに指定されている。

 そして通常モンスターを手札に持ってきた、ということは早速来るか。

 

「さらに手札から魔法カード《融合》を発動!」

 

 《融合》

 通常魔法

 手札・自分フィールド上から、融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを墓地へ送り、その融合モンスター1体を融合デッキから特殊召喚する。

 

「手札のE・HERO2枚、バーストレディとフェザーマンを融合! 来い! マイフェイバリットカード《E・HEROフレイム・ウィングマン》!」

 

 《E・HEROフレイム・ウィングマン》

 融合

 星6 風属性 戦士族 ATK2100/DEF1200

「E・HERO フェザーマン」+「E・HERO バーストレディ」

 このカードは融合召喚でしか融合デッキから特殊召喚できない。

 このカードが戦闘によってモンスターを破壊し墓地へ送った時、破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを相手ライフに与える。

 

 緑の体躯に左側だけの白い翼。右腕は紅く、その手首から先は龍の(アギト)

 その効果は相手の攻撃表示モンスターを戦闘破壊した場合、ダイレクトアタックと同じダメージを叩き出す。

 まぁ、正直なところ、HEROっていうより魔人に見えるけどな。

 

「俺はカードを1枚伏せてターンエンドだ!」

 

 十代

 LP4000

 手札2

 場

 エアーマンA1800

 フレイム・ウィングマンA2100

 伏せ1

 

 ったく、1ターン目から頑張りすぎだろ。

 制限カードが初手にあるといい、融合と素材の片方も握ってるなんてどうかしてる。

 俺の手札は悪くは無いが、この形勢をひっくり返せるほどの札じゃない。

 俺のデッキは元々高打点を連打できる構成のデッキじゃないし、地道にアドバンテージを稼いでいくスタイルだ。程度を超えた力押しは大の苦手とも言える。

 

「飛ばしすぎじゃないのか? 俺のターン、ドロー」

 

 ドローカードは《ドラゴンフライ》。

 よし、これなら次のターンは効果除去されない限り耐えられる筈だ。

 

「俺はドラゴンフライを守備表示で召喚。さらにカードを2枚セットしてターンエンド」

 

 俺の場にかなりゴツいトンボが現れ、羽と足を畳んで防御姿勢を取る。

 十代と比べるとかなり地味な動きになってしまったが仕方が無い。

 ドラゴンフライのリクルート効果に頑張ってもらう。

 

 遊斗

 LP4000

 手札3

 場

 ドラゴンフライD900

 伏せ2

 

「あんま動かないんだな」

 

「お前が動きすぎなんだよ。どんな手札してんだか」

 

「信じればデッキは応えてくれるんだ。いくぜ俺のターン、ドロー! バトルだ!」

 

 勢いよくデッキトップを引き抜いた十代は、そのままHEROに攻撃を命じる。

 

「エアーマンでドラゴンフライを攻撃! エア・インパルス!」

 

 飛び上がったエアーマンが巻き起こした突風が技名通り衝撃となり、直撃された防御姿勢のドラゴンフライが粉々に砕け散る。だがドラゴンフライが身を挺して壁になってくれたため、俺への戦闘ダメージは無い。

 そして効果により、砕けたドラゴンフライのポリゴン片が新たなモンスターを形成する。

 

「ドラゴンフライの効果発動! このカードが戦闘破壊された場合、デッキから攻撃力1500以下の風属性モンスターを攻撃表示で特殊召喚する。俺は《九蛇孔雀》を特殊召喚!」

 

 《九蛇孔雀》

 星3 風属性 鳥獣族 ATK1200/DEF900

 フィールド上のこのカードが生け贄に捧げられ墓地へ送られた場合、自分のデッキ・墓地から「九蛇孔雀」以外のレベル4以下の風属性モンスター1体を選んで手札に加える事ができる。

「九蛇孔雀」の効果は1ターンに1度しか使用できない。

 

「それじゃフレイム・ウィングマンは止められない! フレイム・ウィングマンで攻撃、フレイム・シュート!」

 

「だが止める。リバースカードオープン《ゴッドバードアタック》!」

 

 《ゴッドバードアタック》

 通常罠

 自分フィールド上の鳥獣族モンスター1体を生贄に捧げ、フィールド上のカード2枚を選択して発動できる。

 選択したカードを破壊する。

 

「俺は九蛇孔雀を生け贄に捧げ、フレイム・ウィングマンとセットカードを破壊する。神風特攻(ゴッドバードアタック)!」

 

「なんだって!?」

 

 ひと啼きした九蛇孔雀がフレイム・シュートの焔弾に飛び込み、その身体を燃え上がらせながらも焔を切り裂いて無力化する。

 そしてそのまま自身が燃え尽きるよりも疾く、火の鳥となり焔を纏った身がフレイム・ウィングマンの胸を貫き、セットカードを燃え上がらせた。そしてそこまでで九蛇孔雀は燃え尽き、光の破片になって消えていく。

 

「フレイム・ウィングマン!?」

 

「さらに生贄に捧げられた九蛇孔雀の効果発動。このカードが生贄に捧げられ墓地へ送られた場合、デッキまたは墓地から九蛇孔雀以外のレベル4以下風属性モンスターを手札に加えることができる。俺はデッキから《ハーピィ・ダンサー》を手札に加える」

 

 《ハーピィ・ダンサー》

 星4 風属性 鳥獣族 ATK1200/DEF1000

 自分のメインフェイズ時、

 自分フィールド上の風属性モンスター1体を選択して発動できる。

 選択したモンスターを持ち主の手札に戻し、その後、風属性モンスター1体を召喚できる。

「ハーピィ・ダンサー」のこの効果は1ターンに1度しか使用できない。

 このカードのカード名は、フィールド上・墓地に存在する限り「ハーピィ・レディ」として扱う。

 

 残された九蛇孔雀の尾羽の残骸。そこに宿った蛇がカードを俺の手札に加えてくれる。

 サンクス、九蛇孔雀。また頼む。

 

「――くぅ、やるな遊斗。じゃあ、俺は《フレンドッグ》を守備表示で召喚してターンエンドだぜ」

 

 《フレンドッグ》

 星3 地属性 機械族 ATK800/DEF1200

 このカードが戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、

 自分の墓地から「E・HERO」と名のついたカード1枚と

「融合」魔法カード1枚を手札に加える。

 

 十代

 LP4000

 手札2

 場

 エアーマンA1800

 フレンドッグD1200

 伏せ0

 

 とりあえず厄介なフレイム・ウィングマンは潰した。

 十代の場に伏せカードは無い。いまなら多少の無理も通る筈だ。

 

「俺のターン、ドロー。俺は手札よりフィールド魔法《霧の谷(ミストバレー)の神風》を発動!」

 

 《霧の谷の神風》

 フィールド魔法

 自分フィールド上に表側表示で存在する風属性モンスターが手札に戻った場合、自分のデッキからレベル4以下の風属性モンスター1体を特殊召喚する事ができる。

 この効果は1ターンに1度しか使用できない。

 

 デュエルディスクのブレード部分、その前端がスライドして出てきたスペースにカードを収める。

 途端、空気の流れが変わり、フィールドの上空に美しい虹色をした風が流れ始めた。

 いつ見ても、無色透明な空気の流れである風に色が付いてるのは不思議以外の何でもない。

 

「さらに俺は手札からハーピィ・ダンサーを召喚」

 

 風に乗って現れたのは豪奢な金髪を靡かせた妖艶で美しい女性。

 だがその手足は鳥の鍵爪のようで鋭く、腕から純白の翼が生えていることが人間ではないことを主張していた。

 

「ハーピィ・ダンサーの効果発動。1ターンに一度、自分フィールド上の風属性モンスターを手札に戻し、手札の風属性モンスターを召喚できる。俺はハーピィ・ダンサー自身を戻す」

 

 飛び立ったハーピィ・ダンサーがカードに戻って手札に帰ってくる。そして俺は代わりに別のカードを手札から引き抜いた。

 

「そして《憑依装着-ウィン》を召喚!」

 

 フィールドに現れる、ついさっきまで俺の隣に居た少女。

 ちなみに通常召喚なので、貫通効果は持っていない。

 ウィンは場に出るやいなや一瞬ジト目で俺のほうを見てきたが、すぐに視線を相手のモンスターに移した。

 さっさとカードに戻ったことといい、何か機嫌を損ねるようなことしたっけなぁ……。

 個人的にはそっちのほうが重要だが、デュエルをほったらかしたらそれこそウィンに怒られる。

 

「さらに霧の谷の神風の効果発動! フィールドの風属性モンスターが手札に戻った場合、デッキからレベル4以下の風属性モンスターを特殊召喚できる。俺は2枚目の九蛇孔雀を特殊召喚」

 

 上空に流れる虹色の風から1羽の鳥が降りてくる。

 ウィンの隣に舞い降りた尾羽に9匹の蛇を宿した孔雀。

 場所代われ――じゃなくて、

 

「バトル! ウィンでエアーマンを攻撃、風霊術-『乱風(らんぷう)』!」

 

 ウィンが杖を一振りすると、それだけで乱れ狂った風がエアーマンに押し寄せる。

 エアーマンも風のHEROとして巻き起こした風で対抗するが、若干の拮抗も虚しく荒れた風に呑まれて吹き飛ばされた。

 

「くっ、エアーマン!」

 

 十代LP4000→3950

 

 ウィンの攻撃力1850は以外と使いやすい。

 エアーマンにしても差はたった50ポイントだが、それだけで戦闘破壊できるモンスターはかなり増えるからな。

 フレンドッグはなるべく戦闘破壊したくないし、九蛇孔雀の攻撃力とフレンドッグの守備力は同じ。攻撃する意味は無い。やるなら一気に決められる札が揃った時だ。

 

「俺はそのままターンエンド」

 

 遊斗

 LP4000

 手札3枚

 場

 憑依装着ウィンA1850

 九蛇孔雀A1200

 伏せ1

 

「俺のターンドロー! へへっ、俺は手札から《強欲な壺》を発動!」

 

 《強欲な壺》

 通常魔法

 自分のデッキからカードを2枚ドローする。

 

 単純すぎる効果テキスト。

 だが故に最強とも言える手札補強。

 2枚から4枚まで手札を増やした十代はその顔に笑みを浮かべていた。

 

「俺は魔法カード《E-エマージェンシーコール》を発動!」

 

 《E-エマージェンシーコール》

 通常魔法

 自分のデッキから「E・HERO」と名のついたモンスター1体を手札に加える。

 

「俺は《E・HEROクレイマン》を手札に加えるぜ!」

 

 《E・HEROクレイマン》

 星4 地属性 戦士族 ATK800/DEF2000

 

 緊急要請を受けたクレイマンが十代の手札に加わる。

 E・HERO専用の増援。九蛇孔雀を使っていて思うが、サーチカードの類は純粋に強い。

 

「そしてそのままE・HEROクレイマンを守備表示で召喚!」

 

 十代の目の前に現れる、腕をクロスした防御体勢を取った土の戦士。

 

「さらにカードを2枚セットしてターンエンドだぜ!」

 

 十代

 手札1

 場

 フレンドッグD1200

 クレイマンD2000

 伏せ2

 

 一気に仕掛けてくると思ったんだが……防御を固めてきたか。

 セットカードは2枚。HEROサポートか、汎用か。

 どっちにしても、判断は俺のドローの後だ。

 

「俺のターン、ドロー」

 

 ドローカードは……ふはっ、お前が来るのか。

 

「俺はハーピィ・ダンサーを召喚、そして効果を発動。ダンサー自身を戻して手札から《風霊使いウィン》を召喚!」

 

 ドローカード。それはウィン。

 ステータスは心許ないし効果も現状では使えない。だが、これで貫通効果を持った憑依装着を出せる。

 

「さらに神風の効果、デッキからドラゴンフライを特殊召喚」

 

 これで俺の場にはウィンが2人、九蛇孔雀とドラゴンフライが1枚づつ。

 

「俺はウィン2枚を墓地に送り、デッキから憑依装着-ウィンを特殊召喚。もう一度来てくれ、ウィン!」

 

 2人のウィンが風に包まれ、その中からさっきまでよりも強い風を纏った憑依装着ウィンが現れる。

 場の2枚を代償に出すモンスターとしては効果も貫通だけで攻撃力も通常召喚時と変わらない。正直アドバンテージ的には損だ。だが、俺のデッキはこのカード――ウィンを出し、活かすためだけにある。

 

「さらに手札から《団結の力》をウィンに装備」

 

 不思議な力場で繋がる俺の場の3体。

 その力場はウィンに比類無き力を与える。

 

「団結の力の効果によりウィンの攻・守は俺の場のモンスター×800ポイント。つまり2400ポイントアップで攻撃力は4250ポイント」

 

 憑依装着-ウィンATK1850→4250

 

 力強いウィンの背中。

 それが見えるだけで、俺は限りない勇気を貰える。

 

「4000オーバー!?」

 

「バトル! ウィンでフレンドッグに攻撃、風霊術-『天嵐』!」

 

 ウィンの操る嵐という名の圧倒的な風の暴力は機械で出来た犬を飲み込み、まるでミキサーに掛けたかの如く粉々に粉砕した。

 そしてその一撃は守備表示だったフレンドッグでは止まらず、その後ろに居た十代にまでも牙を剥く。

 

「うぁぁぁぁっ!?」

 

 十代LP3950→900

 

「くっ、でもフレンドッグの効果で墓地の融合を手札に。それとフレイム・ウィングマンを融合デッキに戻すぜ。そしてリバースカードオープン《ヒーロー・シグナル》!」

 

 《ヒーロー・シグナル》

 通常罠

 自分フィールド上のモンスターが戦闘によって破壊され

 墓地へ送られた時に発動する事ができる。

 自分の手札またはデッキから「E・HERO」という名のついた

 レベル4以下のモンスター1体を特殊召喚する。

 

「俺はデッキから《E・HEROスパークマン》を特殊召喚!」

 

 《E・HEROスパークマン》

 星4 光属性 戦士族 ATK1600/DEF1400

 

 虹色の風に投影された、デフォルメされたHマーク。HEROの頭文字。そこで(いかずち)が弾け、雷のHEROが姿を見せる。

 HEROサポートの召喚系罠だったのか……俺の伏せは《風霊術-「雅」》。

 

 《風霊術-「雅」》

 通常罠

 自分フィールド上に存在する風属性モンスター1体を生け贄に捧げ、相手フィールド上に存在するカード1枚を選択して発動する。

 選択した相手のカードを持ち主のデッキの一番下に戻す。

 

 残ったクレイマンをデッキボトムに戻してダイレクトアタックするつもりだったんだが、これじゃ無理だ。

 さっき笑ったのはこういうことか。このターンで決めきれないのは厳しい。フレンドッグの効果も使わせちまったし。

 リクルーターのドラゴンフライを残しておいたのが不幸中の幸いか。攻撃力がアテで残しておいたんだが。

 

「チッ、駄目か……俺はカードを1枚セットしてターンエンド」

 

 遊斗

 LP4000

 手札1

 場

 ウィン(団結の力)A4250

 ドラゴンフライA1400

 九蛇孔雀A1200

 伏せ1

 

「うぉぉ、危ねぇな。でも、HEROは負けないぜ! 俺のターン! ドロー!」

 

 このデュエル、このターン次第で全て決まる。

 俺はこのモンスターたちと2枚の伏せで耐えられるかどうか。十代はこの布陣を突破できるか。

 

「俺はカードを1枚セットして手札から魔法発動! 《天よりの宝札》!」

 

 《天よりの宝札》

 通常魔法

 互いのプレイヤーは手札が6枚になるようにカードを引く。

 

 このタイミングでそんなカードを引きやがるか!

 俺と十代、互いに手札が6枚になるように――十代は6枚、俺は5枚引く。

 

「よし、俺は装備魔法《クレイラップ》をクレイマンに装備」

 

 《クレイラップ》

 装備魔法

 このカードは「E・HERO クレイマン」のみ装備可能。

 装備されたこのカードが墓地に送られた時、相手フィールド上の魔法・罠カード1枚を墓地に送る。

 

 クレイマンが上から掛かった透明な膜に包まれていく。

 見ている感じ、そのまんまキッチンにあるラップだ。

 

「そしていまセットした魔法カード、融合を発動! 場のクレイマンとスパークマンを融合して――現れろ! 《E・HEROサンダー・ジャイアント》!」

 

 《E・HEROサンダー・ジャイアント》

 星6 光属性 戦士族 ATK2400/DEF1500

「E・HERO スパークマン」+「E・HERO クレイマン」

 このモンスターは融合召喚でしか融合デッキから特殊召喚できない。

 自分の手札を1枚捨てる事で、フィールド上に表側表示で存在する元々の攻撃力がこのカードの攻撃力よりも低いモンスター1体を選択して破壊する。

 この効果は1ターンに1度だけ自分のメインフェイズに使用する事ができる。

 

 交わることの無い土と雷。だがそのHEROであるクレイマンとスパークマンが溶け、混ざり合い、雷の巨人が姿を見せる。

 俺の場のモンスターは全てその破壊効果の効果圏内だ。

 そしてこの召喚に続く一連の流れは終わってない。

 

「そして装備されていたクレイラップが墓地に送られたことで効果が発動。相手フィールドの魔法・罠を1枚墓地に送るぜ。俺が選ぶのはもちろん団結の力!」

 

 ウィンに集まっていた力場が消失して、ウィンの纏う風も勢いを弱める。

 正直不味い。この状況だと超攻撃力のウィンだけが頼りだった。

 

 ウィンATK4250→1850

 

「チッ、だがサンダー・ジャイアントの効果は使わせない。リバースカードオープン、風霊術-「雅」! 俺の場の九蛇孔雀を生け贄に捧げ、サンダー・ジャイアントをデッキに戻す!」

 

 ウィンが術を唱え、九蛇孔雀の身を風に変える。

 風と化した九蛇孔雀がサンダー・ジャイアントに飛び込んでいき、風に巻き込むことでフィールドから共に消えようとする。が、

 

「させるか! 手札から速攻魔法発動! 《融合解除》!」

 

 《融合解除》

 速攻魔法

 フィールド上に表側表示で存在する融合モンスター1体を選択してエクストラデッキに戻す。

 さらに、エクストラデッキに戻したそのモンスターの融合召喚に使用した融合素材モンスター一組が自分の墓地に揃っていれば、

 その一組を自分フィールド上に特殊召喚する事ができる。

 

 そんなカードまで引いてたのか……。

 風となった九蛇孔雀の特攻は、サンダー・ジャイアントが融合素材であるスパークマンとクレイマンに分裂することで不発に終わった。

 だが風として吹き去っていった九蛇孔雀の効果は生きている。俺は2枚目の風霊使いウィンを手札に加えた。

 

「そう何度も思い通りにはさせないぜ。さらに《ミラクル・フュージョン》発動! 墓地のフェザーマンとバーストレディを除外して、再び現れろ! E・HEROフレイム・ウィングマン!」

 

 再び十代の場に現れた魔人のようなHERO。

 これで十代の場にモンスターは3体。

 これ以上何も無ければ、まだこのターン耐えられる。そして神風があればもう一度展開し直すことも可能だ。十代のおかげで手札は潤ってるからな。

 

「よし、バトルだ! スパークマンでドラゴンフライを攻撃、スパークフラッシュ!」

 

 スパークマンの放った電撃がドラゴンフライを襲う。

 大きな電気は熱さえ伴う。電撃で焼き尽くされたドラゴンフライが砕け、その余波の熱波が俺のLPを削っていった。

 

 遊斗LP4000→3800

 

 そういえばダメージを食らっていなかったと今更ながらに思う。

 だがいくらライフで差をつけていようと、フィールドのアドバンテージは完全に持っていかれてる。

 

「ドラゴンフライの効果。俺はデッキからハーピィ・ダンサーを攻撃表示で特殊召喚!」

 

 ハーピィ・ダンサーの攻撃力は1000。これで攻撃力800のクレイマンの攻撃は止めた。

 

「これで決める! フレイム・ウィングマンで憑依装着-ウィンを攻撃!!」

 

「だが、まだライフは残る!」

 

 フレイム・ウィングマンの破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを与える効果、それはダイレクトアタックを通す事とダメージ的には同じだ。

 つまり、俺のライフは1700残る――

 

「それはどうかな。俺は手札から速攻魔法《決闘融合-バトル・フュージョン》を発動! フレイム・ウィングマンの攻撃力に憑依装着-ウィンの攻撃力を上乗せする!」

 

 《決闘融合-バトル・フュージョン》

 速攻魔法

 自分フィールド上に存在する融合モンスターが戦闘を行う場合、そのダメージステップ時に発動する事ができる。

 その自分のモンスターの攻撃力は、ダメージステップ終了時まで戦闘を行う相手モンスターの攻撃力の数値分アップする。

 

 ――筈だった。

 

 フレイム・ウィングマンの右腕の顎に溜め込まれた焔弾の激しさが格段に増す。

 

 フレイム・ウィングマンATK2100→3950

 

「いっけぇ、フレイム・ウィングマン! フレイム・シュート!!」

 

 獄焔の焔弾が虹色の風をも吹き払いながら、ウィンに向かって放たれる。

 それを俺に止める術は無く、ウィンの張った風の防壁はいとも容易く食い破られた。

 

「――ごめん、ウィン。勝てなかった」

 

 俺の口から漏れた呟きは、いまにも焔に飲まれそうになっている状況で「仕方ないですね」とでも言っていそうな表情を見せたウィンに届いていたと信じたい。

 

 LP3800→0

 

 デュエルの終了でソリッドビジョンが消えていく。

 構えを解いた俺に向かって十代がピッと指を向けてポーズを取った。

 

「ガッチャ! 楽しいデュエルだったぜ!」

 

 楽しい、か。

 確かにこんなデュエルは久々だった。

 これは、アカデミアでの楽しみができたかな。

 

「俺もだ。サンクス、十代。でも、次は勝つ」

 

 ――当面の目標は目の前のデュエル馬鹿に勝つことになりそうだ。





おかしい、もっとウィンちゃん書きたかったのに。

ということでガッチャさんとデュエッ!な話でした。

ラストはウィンちゃんとフレイム・ウィングマンにしようと最初から決めてた。
お互いのフェイバリットカードでね。
でもやっぱりステータスの差を埋める手段もっと増やさないとウィンちゃん今後辛いな……。

しかし十代、奴にはどんな引きをさせても違和感が無いから困る。

では、ありがとうございました。

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