遊戯王GX ―ウィンは俺の嫁!―   作:隕石メテオ

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 左手に盾を右手に剣を……とはいったものだが、いま俺の手にあるものはそこまで丈夫なものじゃない。
 左手には白を基調にして、埋め込まれた翡翠色のクリスタルを中心に広がる扇状の半円盤。
 右手にはたった5枚の(カード)
 ――盾と剣にしては貧相すぎる。
 だが、この"戦い"において、それらは唯一無二の武器だ。

『デュエルモンスターズ』

 今更説明は不要だろう。
 この世界において最も有名なカードゲーム。
 むしろカードゲームと言われればこれのことを指していると考えて相違ない。
 プレイヤー――決闘者(デュエリスト)は、たった40枚から60枚の紙束(デッキ)に人生を賭け、たった4000のライフに文字通り命を賭けている。
 なにせ、デュエルが強ければそれだけでどうとでもなる世界だ。
 もしデュエルモンスターズの無い世界なんてものがあって、そこから見たときはさぞかし滑稽な光景だろうが……まぁ、考えるだけ無駄なことだろう。
 この世界に生きる一個人の俺にはこの世界こそが全てで、俺も自分が信じたカードに魅せられ、全てを賭けている馬鹿の一人。俺にとってはそれだけで十分だから。
 ドローと宣言して、左腕につけた半円盤(デュエルディスク)にセットされたデッキからカードを1枚引き抜く。
 合計6枚の手札。悪くない手札だ。こいつらも今は悪い気分じゃないらしい。
 左手に持ち替えた六枚の手札からカードを1枚選び取る。
 そしてそのカードを裏向きのまま、ディスクの上にセット。さらにあと2枚、今度は側面に設けられたスリットに差し込む。
 現状において、先攻である俺の打てる最善手の筈だ。
 もしも突破されたらそれはそれで仕方が無い。その駆け引きを楽しむのがこのデュエルモンスターズというゲームなのだから。
 ターンエンドを宣言すると俺の正面、10メートルほど離れた場所に立ち、俺とほとんど同じものをつけたスーツ姿の男性が自らのデッキからカードを1枚引き抜いた。

 ――全てが始まる。

 デュエルアカデミア――デュエル専攻の高等学校の入学試験に臨む俺の耳元で、不意に流れた風が囁いた気がした。



ウィンは俺の嫁!

 

「私は手札より《サファイアドラゴン》を召喚!」

 

 対戦相手――試験官の目の前に、光の中から透き通った蒼いドラゴンが姿を現す。

 

 《サファイアドラゴン》

 星4 風属性 ドラゴン族 ATK1900/DEF1600

 通常モンスター

 

 下級通常モンスターとして高い攻撃力を誇り、守備力もリクルーター辺りならば超えられない数値を持つ優秀なカード。

 ドラゴン族だから幾つかのドラゴン専用サポートカードも使えるのも利点だろう。

 

「さらに手札からスタンピング・クラッシュを発動」

 

 《スタンピング・クラッシュ》

 通常魔法

 自分フィールド上にドラゴン族モンスターが

 表側表示で存在する場合のみ発動する事ができる。

 フィールド上に存在する魔法・罠カード1枚を選択して破壊し、

 そのコントローラーに500ポイントダメージを与える。

 

「向かって左側のカードを破壊させてもらう」

 

 言った傍からか……。

 スタンピング・クラッシュ、ドラゴン族主体のデッキなら採用されていてもおかしくはない。

 正直除去性能としては速攻魔法である《サイクロン》の方が上だろうが、対してこちらは500のバーンダメージを与えることが出来る。

 飛び上がったサファイアドラゴンが俺の魔法・罠ゾーンのセットカードを1枚踏み抜いて、その衝撃波を俺は受けた。

 

 LP4000→3500

 

 ディスクに表示されたライフを示す数値が減少して、踏み抜かれた方のカードがスリットから排出される。俺はそのカード、《攻撃の無力化》を墓地に送った。

 こっちを踏み抜いてくるとは……確立は2分の1とはいえ運が良いのか悪いのか。

 

「バトルフェイズ! セットモンスターを攻撃、サファイア・フレイム!」

 

 (アギト)の内に溜め込んだ見惚れるほど綺麗な蒼い炎を俺に――正しくは俺の場にセットされたモンスターカードに吐きかけるサファイアドラゴン。

 まぁ、そのまま通しはしないが。

 俺の指が残された1枚のセットカード、その発動スイッチを押し込む。

 

「リバースカードオープン《和睦の使者》。このターン、俺のモンスターは戦闘破壊されない!」

 

 《和睦の使者》

 通常罠

 このカードを発動したターン、相手モンスターから受ける全ての戦闘ダメージは0になる。

 このターン自分のモンスターは戦闘では破壊されない。

 

 フリーチェーンの防御カードとしては最もポピュラーな部類に入るだろう1枚のカード。

 モンスターの戦闘破壊を防ぐだけでなく戦闘ダメージも防いでくれると、俺のデッキではなにかとお世話になるカードだ。

 

「だが戦闘は行われる。そのカードの正体を見せてもらおうか」

 

 蒼炎に煽られ、俺の場のカードが表になる。

 

「俺のセットモンスターは――《風霊使いウィン》!」

 

 星3 風属性 魔法使い族 ATK500/DEF1500

 リバース:このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、相手フィールド上の風属性モンスター1体のコントロールを得る。

 

 セットカードから現れたのは、10代前半ほどに見える少女。

 明るい緑色の髪に、翡翠色の瞳。フード付きのローブを纏い、その手にはエメラルドを風を模した装飾で囲んだ身の丈ほどもある杖を持っている。

 サファイアドラゴンの顎から迸る蒼炎は少女を守るように展開された不可視の壁に遮られ、その威力を発揮することなく消えていった。

 

「そしてこの瞬間、風霊使いウィンのリバース効果を発動。このカードが表側表示で存在する限り、相手フィールドの風属性モンスターのコントロールを奪う。――風霊術『縛風(ばくふう)』!」

 

 少女――ウィンがなにかを唱えて杖を振ると風が舞い、それが一度サファイアドラゴンを包みこんで首元に集約する。

 出来上がったのは風で出来た首輪。それを嵌められたサファイアドラゴンは何かに強制されるように本来の主の下を離れ、ウィンに頭を垂れた。

 その宝石龍の頭をウィンが優しく撫でると、サファイアドラゴンは今度こそ明確に元の主へ牙を向ける。

 

「む……私はカードを2枚伏せてターンを終了する」

 

 相手の場にカードが2枚伏せられ、ターンが俺に回ってきた。

 

「俺のターン、ドロー」

 

 引き当てたカードは緑の枠――魔法。

 それを手札に入れ、俺の手札は4枚。場には風霊使いウィンとサファイアドラゴン。

 サファイアドラゴンは早いうちに生け贄にするなりして処理したいが、伏せカードに《リビングデッドの呼び声》等の蘇生カードがあれば蘇生させられてしまう。

 場に居させるのが良いのは確かだが、その場合はお世辞にもステータスに恵まれているとは言い難いウィンを守る必要がある。

 守備力1500はリクルーターに破壊されない一歩上のラインだがサファイアドラゴンが出てきた相手のデッキからすれば、別の良ステータス通常モンスターを召喚してくるのは確かだ。ウィンが撃破されてしまえば奪ったコントロールは戻るし。

 とりあえず打つ手は、

 

「バトルフェイズ、サファイアドラゴンで直接攻撃(ダイレクトアタック)。サファイア・フレイム!」

 

 今度は俺の号令で蒼い宝石龍は炎を吐く。

 

「リバースカード《炸裂装甲(リアクティブアーマー)》! 攻撃宣言したモンスター1体を破壊する。サファイアドラゴンを破壊!」

 

 《炸裂装甲》

 通常罠

 相手モンスターの攻撃宣言時に発動できる。

 その攻撃モンスター1体を破壊する。

 

 サファイアドラゴンの蒼炎を遮るように人型の人形のようなものが出現する。

 その人形は試験官に向かう炎を全て受けきっても倒れず、炎を吐き終えたサファイアドラゴンがその硬い体を生かして殴りかかったのを切欠に木っ端微塵に吹き飛んだ。サファイアドラゴンごと。

 ポリゴン片になって消えるサファイアドラゴンをウィンが若干沈痛な面持ちで見送り、フィールドから蒼い宝石龍は姿を消した。

 

「俺はモンスターをセット、さらにカードを2枚伏せてターンエンド」

 

 俺の場に伏せられたカードが3枚現れ、ターンが試験官に移る。

 

「私のターン、ドロー」

 

 試験官は引いたカードに目を落とすと、それを手札に加え別のカードをディスクに置く。

 

「ふむ。ならば、《ジェネティック・ワーウルフ》を召喚!」

 

 《ジェネティック・ワーウルフ》

 星4 地属性 獣戦士族 ATK2000/DEF100

 通常モンスター

 

 四本の腕に梟のような面構えをした人型モンスターが出現する。

 正直、どこがワーウルフ……人狼なのか俺にはわからない。むしろ阿修羅像とか、そっち系の名前の方がしっくり来る気もする。

 ただ名前はともかく、そのステータスは攻撃力が2000と低級通常モンスターでは最高値。

 その攻撃力だけで低級モンスターへのメタとなる性能の持ち主だ。

 

「そしてバトルフェイズ、ジェネティック・ワーウルフでセットモンスターを攻撃! パワー・クラッシュ!」

 

 伏せカード2枚に対して無警戒――いや、これは入試のテストだからこっちがどんな対応をするのか見るために向こうはとにかく動いてきている。

 そしてウィンではなくセットモンスターを狙ってきた……まぁ、風霊使いウィンは一度効果を使ってしまえばもう一度裏になれない限り再び効果を使うことは出来ない。つまり、低ステータス通常モンスターと同じだ。薄い壁に構う必要は無いと判断されたらしい。

 四本の腕に殴り飛ばされたセットモンスターはリクルーターの《ドラゴンフライ》。

 

 《ドラゴンフライ》

 星4 風属性 昆虫族 攻1400/守900

 このカードが戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、自分のデッキから攻撃力1500以下の風属性モンスター1体を自分フィールド上に表側攻撃表示で特殊召喚する事ができる。

 

 トンボを模したドラゴンフライは殴られ、耐えられずその身をひしゃげさせてポリゴン片へと姿を変えた。

 だが、こういったリクルーターは主に戦闘破壊されてこそ効果を発揮する。

 飛び散ったポリゴン片が一陣の風となり、俺のデッキから一定の制限下でカードを呼ぶ。

 そして再び現れるのはドラゴンフライ。

 

「ドラゴンフライの効果発動! このカードが戦闘破壊された時、デッキから攻撃力1500以下の風属性モンスターを攻撃表示で特殊召喚する。俺は2枚目のドラゴンフライを特殊召喚」

 

「ならリバースカード《リビングデッドの呼び声》を発動! 墓地のモンスター1体を特殊召喚する。サファイアドラゴンを特殊召喚! 続けて攻撃表示のドラゴンフライに攻撃、サファイア・フレイム!」

 

 《リビングデッドの呼び声》

 永続罠

 自分の墓地のモンスター1体を選択し、表側攻撃表示で特殊召喚する。

 このカードがフィールド上から離れた時、そのモンスターを破壊する。

 そのモンスターが破壊された時、このカードを破壊する。

 

 このデュエル通算3度目の蒼炎が放たれる。一度目と比べてもその輝きに衰えは見えない。

 だが、伏せたのに使わないのは勿体無いか。

 

「リバースカードオープン《皆既日蝕の書》!」

 

 《皆既日蝕の書》

 速攻魔法

 フィールド上に表側表示で存在するモンスターを全て裏側守備表示にする。

 このターンのエンドフェイズ時に相手フィールド上に裏側守備表示で存在するモンスターを全て表側守備表示にし、相手はその枚数分だけデッキからカードをドローする。

 

 場に存在する全てのモンスターカード、ジェネティック・ワーウルフ、サファイアドラゴン、風霊使いウィン、ドラゴンフライが全て裏側守備表示に変更する。

 それに応じて攻撃を放とうとしていたサファイアドラゴンもブレスを中断させられ、その姿をカードの裏面へと変えた。

 

「これも止めますか。なら、私はこのままターンエンド。ですがエンドフェイズ時、あなたの皆既日蝕の書の効果で私の場のモンスターは表側守備表示に。さらにカードを2枚ドローさせてもらいます」

 

「どうぞ。そして俺のターンドロー」

 

 良いカードを引いたが、今回使うことは無いだろう。

 

「俺は風霊使いウィンを反転召喚! 効果により、再びサファイアドラゴンのコントロールを奪います。風霊術『縛風』!」

 

 表側攻撃表示となり姿を現したウィンが、再び蒼い宝石龍に風の首輪を掛ける。

 再び俺の場へと身を移したサファイアドラゴンが若干疲れて見えるのは気のせいではないだろう。今回のデュエルでは働きすぎだろうし。

 とはいえこれで最後だ。ゆっくり休んでくれ。

 

「俺は場の風霊使いウィンとサファイアドラゴンを墓地へ送り、デッキから《憑依装着-ウィン》を特殊召喚! ――来てくれ、俺の嫁(マイ・フェイバリット)!」

 

 《憑依装着-ウィン》

 星4 風属性 魔法使い族 ATK1850/DEF1500

 自分フィールド上の「風霊使いウィン」1体と風属性モンスター1体を墓地に送る事で、手札またはデッキから特殊召喚する事ができる。

 この方法で特殊召喚に成功した場合、以下の効果を得る。

 このカードが守備表示モンスターを攻撃した時、その守備力を攻撃力が越えていれば、その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。

 

 フィールドのウィンが杖を掲げ、そこから巻き起こった竜巻がウィンとサファイアドラゴンを包む。

 だが包まれていたのも一瞬で、竜巻は内側から押し破られるように散り、中から1人の少女が髪を風に揺らしながら姿を現した。

 その姿はウィンの特徴を強く残し、彼女であるということは見ればすぐにわかる。

 風属性モンスターの力を取り込み、自らの力へと変えたウィンの成長した姿。

 俺がその頼もしい背中を見て頬を緩ませると、体半分こちらを向いたウィンがほんの僅かに微笑み返してくれた。

 流石俺の嫁。この気持ちは最早言葉では表せない。

 ――おっと、デュエルを続けないと。

 

「手札から装備魔法《団結の力》をウィンに装備。そしてセットされているドラゴンフライを反転召喚、これによりウィンの攻撃力は1600ポイントアップ!」

 

 ATK1850→3450

 ドラゴンフライと一度手を繋ぎ、離しても作られた風のラインがウィンの力に転化する。

 

「更にリバースカードオープン、リビングデッドの呼び声。俺の墓地の風霊使いウィンを表側攻撃表示で蘇生! 俺の場の表側表示モンスターが増えたことで、憑依装着-ウィンの攻撃力は更に800ポイント上昇!」

 

 ATK3450→4250

 ドラゴンフライは飛んでいる関係上手を繋いだのは1回だけだったが、2人のウィンは確りと手を繋いで離さない。

 その手を通して流れ込んだ力が、ウィンを攻撃力4000の大台へと押し上げた。

 

「バトルフェイズ! 憑依装着-ウィンでジェネティック・ワーウルフを攻撃!」

 

「皆既日蝕の書で守備表示にしたのは、単なる攻撃封じというだけではなかったということですか。巧いタクティクスです」

 

「その通り。自身の効果で特殊召喚されたウィンは、その攻撃力が相手の守備モンスターの守備力を上回っていればその数値分の戦闘ダメージを与えることの出来る貫通効果を持つ――――」

 

 2人のウィンが掲げた杖の上に風が集まり、それはほど経たずして嵐の如く荒れ狂う。

 

「――風霊術『天嵐(てんらん)』!!」

 

 解き放たれた嵐が試験官を飲み込み、そのライフを一撃の下に0にすることで決着が着いた。

 




やってしまった感が凄いネ!orz

はい、自分の中で再燃した遊戯王熱の勢いで書きました。
反省はしています。でも後悔はしていません←
今回は活動報告に上げたものを改稿して出しました。

ちなみにデッキは作者のウィンちゃんデッキを適宜改造して動かしてます。
リアルの構築だと電光千鳥連打可能。挙句には星態龍も出ます。トーテムバードが意外と使える。
でも結局戦い方は団結つけたウィンちゃんで殴る(ヲィ

デュエル書くのは初めてだったので、状況的に相手の動き方を抑制した部分は有れども、次からはもうちょっとデュエル構成がんばります。
ありがとうございました。

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