とある無力の幻想郷~紅魔館の佐天さん~   作:王・オブ・王

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51,毒舌シスターと噛み付きシスター

 あれから二日、私こと佐天涙子は白井さんの様子がおかしいのが気になって……いや、実際に様子がおかしいのは御坂さんの方なんだけれど、ともかくそのせいもあって様子がおかしい白井さんと一緒に四葉のクローバーを探した。

 いやいや、別に私がおかしいわけじゃなくて、四葉のクローバーを探すことになったのはいろんな理由があるわけです。

 

 まぁその理由はと言えば白井さんがパトロール中に見つけた小学生が友達のために『ゾロ目のマネーカード』という希少な物をプレゼントしたいということ、曰く幸せになれるだとか……。

 いや、それはともかくとして白井さんはその子のために色々としたいというのが“顔に出ていた”ので、初春と共に協力して私は鼻を利かせてマネーカード探しをしていたんだけれど、すぐに固法先輩が四葉のクローバーを探すという妙案を出したというわけだ。

 結局、その後みんなで四葉のクローバーを探したというわけで……。

 

 現在は小学生のみのりちゃん、固法先輩と初春の三人と別れて私と白井さんは二人で歩いていた。

 

「ふぅ、少しすっきりしましたわ」

「なら良かったです。私も白井さんが元気ないといやですからねー」

「あらそれは嬉しいこと言って下さいますのね」

 

 ニコッと笑う白井さん、やっぱり元気になったという言葉は本当のようだ。

 

「佐天さんは、私のこと心配してくださるのは結構なのですけれどご自愛もしていただかないと困りますわよ」

「あ、あはは……」

 

 さすがに耳が痛い。

 初春をはじめとして御坂さんや白井さんにも結構迷惑をかけている自覚はあるしねぇ。

 とりあえず軽く謝ると白井さんはため息をついて笑う。

 

 お互い、そこで分かれて違う道を行く。

 

 とりあえず私が歩いていると、道の端に影が見えた。

 私を『見つけた』という目で見ているのはその顔に出ている。

 壁に隠れているつもりならばずいぶんとお粗末な隠れ方だとは思うけれど、まぁ見つけられるつもりで隠れているんだろう。

 うん、さもなくばちょっとおつむが残念な子になっちゃうもんねーと佐天さんは近づいていく。

 

「なにやってんのミーちゃん?」

「見つかってしまいましたと、ミサカは佐天の空気の読めなさにがっかりします」

「ひどい! ていうか、どうしたの?」

 

 ミーちゃんは少しだけ黙ると、視線を動かす。

 私がミーちゃんの視線の先を見ると、そこには前に行った喫茶店があった。

 あぁ、そういうこと……。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 ということで結果、佐天涙子とミサカ10031号ことミーちゃんは今日もケーキ屋へとやってきた。

 佐天涙子はその番号の意味を知らなければ番号自体も知らない。まぁ知ったからと言って涙子がどうするというわけでもないのだが、とりあえずミサカことミーちゃんと一緒にこの前と同じようなメニューを頼んで座って待つ涙子。

 どうやら今日は姉御はいないようだと思っていると、奥から頼んだ紅茶二つとパフェとショートケーキを持ってきたのは姉御だった。

 少し怒ったような表情をして、姉御は注文されたメニューを置く。

 

「また来やがって」

 

 ミサカの前にミルクティーとパフェを置き、涙子の前にストレートティーとショートケーキを置く。

 すると姉御はその席の三つ目の席に座った。

 無言の涙子は、そっと窓の外に顔を向けて頭を抱える。

 

「ど、どうしました?」

「ちょっとぐらい、ダメかよ?」

「違いますけど……」

 

 そう答えた涙子は心底、姉御が『ダメ』とは思っていない。

 だがそれでも、なんとなくだが嫌な予感がするのだ。理解できてはいないが、どこか第六感がいけないと警告音を鳴らしていた。

 理由はわからないのだが、なんとなくダメな気がするのだ。

 

「あのさ、黄泉川の姐さんに色々聞いたけど……お前って頭おかしいんじゃねぇの?」

「なんでですか!?」

「いや、前の事件の話とか聞いたんだけどお前って別に自分になんの得も無いのにあんなことしたんだろ?」

 

 そういわれるが、涙子としては不思議でならなかった。

 

「そんなことないですよ?」

「はぁ?」

「私が、みんなを助けたいって思ったんです。これじゃおかしいですか?」

「でもほとんど知らない奴らだったんだよな、出会って一週間も経ってないような奴とか」

 

 心底不思議そうに言う姉御だが、確かにその通りだと周囲は理解するだろう。

 出会って数日の少女のために、そこまでするなんていうことは通常であれば“ありえない”ことだ。

 だけれどそれをやってのけるのが佐天涙子であり、この学園都市には同じような人間がさらにいる。

 

「あたしにはまるでわかんねぇよ」

「でも、姉御さんはそんな私を助けてくれたじゃないですか、うれしかったです」

 

 ニッと爽やかに笑う涙子。

 そんな涙子を見てから、姉御は顔を赤くして慌てて立ち上がった。

 

「も、もう仕事に戻る!」

 

 さっさと裏へと引っ込んでしまった姉御を見て、涙子は『可愛いな』と笑う。

 からかったつもりでもないが、涙子は彼女が『褒められて照れた』と思い込んでいる。

 だがどうして姉御が引っ込んだかぐらいは、ミサカでもわかった。

 

「佐天は一度脳を開いてもらった方が良いんじゃないでしょうかと、ミサカは佐天の頭を心配します」

「ひどい!」

 

 これは酷いと、涙子はため息をつきながら紅茶を飲む。

 だがしかし涙子としてはそういわれる理由もわからなければ、言われる言われもない。

 自分はただ友達と親しく話していただけだ。

 まぁ直球に言えば姉御は佐天涙子の“強さ”と“漢気”に惚れたのだ。

 

 だが、それでも佐天涙子という少女はノーマルであり、同性を好きになるような特殊な性癖を持ってるわけもない。

 だからこそ、相手が顔を赤くしようとも気づくことはなく、相手をソッチの世界に引き込むくせに自分はソッチの気が一ミリたりともない非常にたちが悪い存在になっている。

 つまり、姉御やら重福省帆やら木山春生は非常に残念な相手に惚れたということだろう。

 

 佐天涙子は、そんな姉御やらのことを気にする様子もなく紅茶を一口優雅に飲む。

 そしてティーカップを置くと一息ついて茜色の空に視線を向けた。

 

「それにしても、いろんな事件に首突っ込んだなぁ」

「先ほど言っていたような事件にですか、とミサカは興味津々で聞いてみます」

「まぁ色々ありすぎて……」

 

 ―――というより、話せない話が多いんだよねぇ。

 

「とりあえずさっき言ってた事件とか、ほかにもシスター助けたり」

「どっかから変な電波でも受信しましたか?」

「だから毒舌!? いや、マジな話なんだって、ちょっと強いまぁ能力者がいてそいつらと戦ったりしたんだよ」

「そのシスターさんも、あまり会ったことがない相手だったんですか?」

「そうだね、むしろ出会って一日目でそんなことになってさ、今じゃすっかり仲良しだけどね」

 

 笑う涙子を見て、ミサカは一つ頷くといつの間にやら最後の一口のパフェを口に放り込み、食すと紅茶を飲む。

 少しばかり、雰囲気が変わった気がした涙子だが、そこでミサカがあまりに無表情なのが気になってきた。

 どうすればもっと感情をガンガンあらわすようになるだろうと思いながらも、紅茶を飲み干す。

 

 

 

 それから、涙子とミサカはまた昨日と同じような場所で分かれることにする。

 

「では、これで」

「うん、気を付けてねミーちゃん」

「了解です。とミサカは相変わらずセンスのねぇあだ名だなオタンコナス、と思いながら別れを告げます」

「オタンコナス!?」

 

 レッツ貢献的な罵倒を受けた涙子はさっさと踵を返して帰路を行くミサカに驚愕した。

 よもや、ここまで毒舌な人間を相手にしたのは初めてだと思いながら、まぁ避けられもしないあたりあれはあれで本気で嫌っているわけではないのだろうと思う。

 いや、思わないと案外くじけそうなので思うことにする。

 とりあえずは帰る道を行こうと歩き出すと、正面から見知った白い何かが走ってくるのがわかった。

 

「るいこー!」

「イン……インポッシブル!」

「インデックスなんだよ! わざと間違えるのはひどいんだよー!」

 

 そう言いながらインデックスが頭にかじりつく。

 痛みに声を上げる涙子だが、すぐにインデックスは彼女の保護者が外す。

 

「助かりました上条さん」

「いやいや、佐天さんも悪いことするなぁなかなか」

「からかってやらないと割にあいません、私たちのお財布的な意味で」

「納得」

 

 深々と頷く上条当麻。

 

「なんで二人して私を見るのかな、しかもなんとも言えない目で」

 

 そりゃそうだろうと思いながらも、二人共何も言わないのは別にその程度の迷惑なら良いかなと思っている証拠だ。じゃなきゃインデックスを命がけで助けようなんて絶対に思わなかっただろう。

 だが一つだけ文句はある。自分たちにインデックスを任せているイギリス正教が世話代の一つもよこさないことだ。

 せめて少しぐらいくれても良いじゃないかと思わないでもないが、神裂もすっかり姿を見せない。

 

「とりあえずるいこも一緒に晩御飯食べるんだよ!」

「……素材は?」

「今から買うところなんだよ佐天さん」

「……割勘で」

「助かる佐天さん!」

 

 ちなみに上条当麻、いつもならというより涙子以外の少女相手であれば割勘なんてしてもらうことはまず無いのだろうし、金を出させたりもさせないのだろう。

 けれどインデックスのパートナー同士として、というより学園都市の中じゃトップクラスに気を許している涙子だからこそ払ってもらうことに申し訳なさを感じながらも頼む。

 ある意味では頼れる存在というとこだろう。

 涙子は涙子で、頼られることにはうれしさを感じるし、紫もいなくなったので余裕はある。そういう意味では紫が出て行ったのが悪いことだけじゃなかったと言えるだろう。

 

 まぁなにはともあれ、三人並んで晩御飯を買いに行くのだった。

 

 

 ―――そして静かに、彼女の運命の日は近づく。

 

 

 




あとがき↓  ※あまり物語の余韻を壊したくない方などは見ない方が良いです。















感想もたくさんいただいて、筆(?)も乗って更新、と思いきや文字数が少なく申し訳ないです
いやはや、もっとたくさん書ければよかったんですがここらが丁度いい具合だったので!
次回は佐天さん、ある人物と出会いますなぁ!

では、次回もお楽しみいただければまさに僥倖!

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