あれから、一日。
私と紫さんと御坂さんと白井さんの四人で道を歩いていた。
その理由というのが、今日は私たち柵川中学の転校生が正式に編入する日であり、寮で同室になる初春が初めて会う日、つまりは私の新しい友達候補……落ち着かない!
朝っぱらから紫さんにも『やけにそわそわしてない?』なんて言われちゃうし!
「佐天さん、やけにそわそわしてませんこと?」
「そ、そうですか!?」
「朝からよ」
紫さん、余計なことは言わないでおいて!
「佐天さーん!」
私を呼ぶ声が聞こえて、正面の方を見ると、初春の住んでいる寮の前に初春と女の子が一人。
なるほど、あの子が例の転校生……悪い子じゃ無いっぽいけど、眼帯の下の眼はもっと仲良くなってから見せよう、うん!
それから、私たちは上へと登ってマンションの廊下で止まる。
私たちの方を向いた初春が隣の子に手を向ける
「春上
次に初春が手を向けるのは私たちの方。
「それで、こちらが常盤台高校の白井黒子さん、そして先輩の御坂美琴さん、それから私たちと同じクラスになる佐天涙子さん、とその親戚でこちらにしばらくいるらしい八雲紫さん」
「よろしく!」
とりあえず第一印象が大事だと、私は笑顔で挨拶をする……まぁ、そんなことはともかく。
「なにこれ?」
私たちの目の前、つまり初春の部屋の前に大量につまれた段ボールの山……初春曰く、春上さんを駅まで迎えに行ってる時に引っ越し屋さんが到着したって連絡が来て、ということらしい。
なんて雑な仕事してんのよ! 部屋にも入れないっての!
「引っ越し屋ももうちょっと考えればいいのにね!」
「御坂さんに全面同意ですが、とりあえずどうするかですねー」
「……スキマ、使えるかしら」
「いやダメですよ」
「わかってるわよ」
ていうか使えたらとっくに帰ってるでしょう!
なんて私が思っていたら、白井さんが『仕方ありませんわね』という一言と共に段ボール一塊を部屋の中へとテレポートさせた。さすがレベル4のテレポーターとしか言いようがないわ、こりゃ。
学園都市でもテレポーターは少ないらしいからね、ほんと羨ましい能力だなー。
それから私たちは部屋の中に入って大量に積まれた段ボールを見上げる。
「はいはい!ちゃっちゃと片付けちゃおう!」
御坂さんが年上っぽいこと言ってる!? なんて驚愕しながらもとりあえず私たちはやることをやることにした。
この紅魔館メイド、佐天涙子さんの実力発揮と言ったところでしょう!
紫さんがメチャメチャ面倒そうな顔をしてるけど、まぁこの状況で手伝わないなんてこともないだろうし、まぁ七割は私が片付けてみせますよ。
そして、それからあまり時間も経たず、部屋の中は整理され、平べったくなった段ボールが部屋の隅に積まれる。
「さて、こんなもんかね!」
「さすが佐天さん!」
「あら、さすがメイド」
「あらやだ八雲さん、佐天さんは普通の中学生でしょう」
フフフッ、と笑う白井さん。
―――いやいや紫さんも余計なこと言わないで下さいよ、危ない!
紫さんの方を見たら楽しそうに笑っているので、たぶん私が焦るのが楽しいんでしょう、はい、佐天さんはメイドですからね。
なんて思っていると、春上さんが私たちに軽くお辞儀をする。
「みなさんありがとうございましたなの!」
「それより、思ったより早く終わったしどこか遊びに行こうか!」
「賛成賛成!」
初春が嬉しそうに言うけれど、白井さんが訝しげな表情で初春のことを見た。
あちゃぁ、こりゃなんかあるなぁ、なんて思ってると……。
「初春と私はこれから合同会議」
絶望的な表情になる初春。
「合同って?」
「ああ!」
いや、なんの同意ですか御坂さん。
「ジャッジメントとアンチスキルのですわ。なんでも、ここのところ起きてる地震に関する話とか」
「地震で会議ぃ?」
まったくの同意ですよ御坂さん。
「あーそうでしたー」
目が死んでいる初春の頭をワシャワシャっと撫でる。
「じゃあ、御坂さんとあたしと紫さんと、四人で行こっか!」
「え、私も行くの?」
「せっかくですし八雲さんもどうです?」
「……そうね、行こうかしら」
御坂さんに言われて紫さんがうなずくことにより、決定かな?
「ずるいですよー」
「終わったら合流すればいいじゃん、ねぇ春上さん?」
私が話かけると、どうしようという表情になる春上さん、まだまだ慣れてないって感じだねー、昔の初春を思い出すっていうかなんていうか……幻想郷でも無かったパターンの子だなぁ。
いや、ていうか幻想郷の人たちって人見知りって概念があるんだろうか?
春上さんを安心させようと初春が春上さんの方を向。
「大丈夫ですよ!佐天さんはともかく御坂さんと八雲さんは良い人ですから!私も終わったらすぐ行きますし……」
あんたねぇ、と言ってから私は親友との固い絆が薄れてきているんじゃないかと思うわけで、今度またスカートめくりという思いやりを見せてやろうと心に決める。
「佐天さん、冗談でも春上さんのスカートをめくったりしないでくださいね!」
「え、なんであたしがそんなことするの?」
そんなことは初春とチルノぐらいにしかしないし……?
「……えー」
その後、初春たちと別れた私たちだけれど……。
「もうだめ……私帰るわ」
「えっ!?」
「えー八雲さん帰っちゃうんですか?」
「ごめんね、そこの子もまた今度ね」
「は、はいなの!」
紫さんは結局帰ってしまい、どこに行くか行き先を決めるということで私の提案により私たちはさらに移動、辿り着いたのはいつぞやというか、約二週間前に御坂さんたちとはじめて来た公園。
いや、広場っていう方が正しいのかもしれないけど、そこでとりあえずクレープを買って三人で座って食べる。
「まぁお近づきの印と言えばここかなって、アハハ」
「そう言えば佐天さんたちと初めて来たのもここだったわよね!」
そうそう、あの頃は私がレベル5の御坂美琴さんと仲良くなれるなんて思いもしなかったけどねぇ。
私は御坂さんと話して、反対側に座っている春上さんの方を向く、おいしそうに頬張っているけれど、一応聞いておこう。
「美味しい?」
「んぐっ……うん!」
「口のまわりすごいことになってるよ?」
私はとりあえずそれをポケットティッシュでぬぐってあげた。
「それにしても、黒子達も大変ね。なんで地震なんかで
「本当ですねぇ……都市伝説とか調べてみますか」
「やめときなさいよ、どうせ根も葉もない噂ばかりでしょうし」
「その根も葉もないのが見たいんじゃないですか~」
なんでこれがわからないかな~。
「私にはわかんないわ」
「あれ、声に出てました?」
「ばっちり」
テヘ♪
それから、初春たちと合流してゲーセンに行きって感じで……まぁいつもと変わらないような違うような?
まぁなにが違うかって聞かれたら明らかに初春のテンションと体力なんだけどね、ありえないでしょ、誰かを連れまわしてゲーセン内のゲームをめぐる初春。
そして、それを遠巻きに眺める私と御坂さんと白井さん。
「初春ったら張り切っちゃって」
「お姉さまもずいぶんと」
御坂さんが大量のコインが入った小さなバケツを持っているのを見て、コインゲームやりこんでる人だなぁと正直びっくり。
「あれ、このコインって……?」
「うぇっ!?」
これ図星だわ、コインたちよ、南無三。
まぁその後もモグラ叩きのモグラを可哀そうなので叩けないという春上さん独特の価値観に若干とまどいもしたけれど、とりあえずプリクラを取って一旦休憩することとなった。
自動販売機でジュースを買う私と御坂さんと白井さんの三人とは、少し離れてベンチに座りながらメールアドレスを交換している二人。
「なんというか、不思議な子ですわね?」
「そう?可愛いじゃない」
「う~ん、なんだか昔の初春思い出しちゃった……」
私がそういうと、二人が反応してこちらを見る。
「昔?」
「あぁいや、入学したての頃に―――」
「あれ春上さん、危ない!」
突然歩き出した春上さんが、ガラスに気づかずぶつかって尻もちをつく。
そこまで痛そうな音はしなかったし平気だとは思うけど……。
「どうしたの?」
「うぅ、あれ……」
春上さんが指さしたのは、ガラスの向こう側の壁に貼ってあるチラシだった。
「花火大会のポスター? ……あ、そういえば今日だっけ?」
「ねぇ、みんなで行こっか!」
「良いですわね!」
なんかテンション上がって楽しそうなので放っておくことにする。
とりあえず、私は初春と春上さんの方を見てみると、二人とも笑いあってるので、行くってことでしょう!
さて、佐天さんは紫さんを誘うとしますか。
そしてみんなですぐに自宅へと帰って浴衣で集合ってことになったんだけど、紫さんの説得はなんだかんだで上手くいった。というより花火に興味があるようで行くつもりだったらしい。
とりあえず浴衣に着替えた紫さんは、すごく綺麗でした……小学生並みの感想とか言わない。
それから初春からの救援要請があって、すぐにそっちへと行くと浴衣に遊ばれてる二人がいて、とりあえず春上さんの着付けを終えてから次に、私は初春の方の着付けをする。
「はぁ~こんなことなら、最初から佐天さんに頼めば良かったです」
ため息交じりにそういう初春を見て私はクスッと笑いをこぼしてしまう。
「でも、初春頑張ってるじゃん」
「今度は私が力になる番ですから」
「ほら、私が
懐かしい話をする初春、まぁ今さっき私も思い出したんだけどさ。
「あの頃の初春って見てて放っとけない感じだったもんね」
「そんな私を、佐天さんたちはいつも励ましてくれたり、相談に乗ったりしてくれたじゃないですか」
「えぇ、そうだっけ?」
ちょっと気恥ずかしいから、ごまかしてみる。
「はい、そのおかげで私、ちゃんと合格できたんですよ?」
まぁそれは初春の実力だとは思うけど、私が何かをできたっていうんならそれはそれで嬉しいかな。
「だから今度は、私が春上さんの力になれたら良いなって……あっ」
そこに私たち以外がいるのに気付いて、気恥ずかしく思ったのか顔を赤くする初春。
「その、私だけじゃ頼りないでしょうけど」
「うぅん、初春さんがルームメイトで本当によかったの、便りにしてるの」
「……はい」
嬉しそうに頷く初春。
「まったく、いつの間にか立派になっちゃって!姉さん嬉しい!」
「むぅ、私の方が誕生日早いのに!」
「そこはそれ!」
私がそう言うと、初春がまた拗ねるけどとりあえず着付けを終えるまでは私の方が優勢よ!
なんだか、春上さんと紫さんが話をして、笑ってるのが見えるけどどうしたんだろう?
そして空も暗くなった頃に、土手で落ち合う私たち四人と御坂さんと白井さん。
お互い浴衣姿の初お披露目ってことで、色々と褒めあってから、出店を回る。
やっぱ祭りって言ったらこれだよねー!
「んーおいし」
「おいしいの、そっちも食べたいの」
「じゃあ一口どうぞ」
「ありがとうなのー」
「まったく、落ち着きを持ちなさい」
紫さん、たこ焼きとお好み焼きとフランクフルトと唐揚げと綿あめを持ってる貴女が言っても説得力は見込めませんよ、うん、可愛いけれど……ギャップ萌え?
白井さんと御坂さんも苦笑いしてるし、まぁ紫さんは気にせず綿あめをもふもふと食べてるみたいで安心って感じだね。
「先進救助隊、MARですかー」
「それにしても、あんな警備下で花火見物なんて風情もへったくれもありませんの……すばらくないですわ」
なんですか突然のその単語は、まぁとりあえずここは私が……。
「とっておきの場所がありますよ」
ご招待しましょう!
そして、土手からそこそこ離れた高台で私たちは花火を見ることになりましたとさ。
ネットで書いてあった穴場だから間違いないとは言い切れなかったけど、人もちらほらぐらいでほとんど居ないから丁度良かったー。
「佐天さん、すばらですの!」
だからなんですかそれは、ともかく音も大きく響くし花火も全体が見れる。
良い場所だなーって思いながらも、横の紫さんを見てみる。穏やかな表情で笑ってるから、きっと楽しんでくれてはいるんだろう。
これで私も安心ですよ。
「ふふっ」
「ん、どうしたの春上さん?」
「思い出してたの、私にも昔、初春さんと佐天さんみたいな……」
なんだか、春上さんの表情が変わって踵を返すと歩きだした。
「春上さん?」
歩いて行ってしまう春上さんを追いかけることにした初春に、着いて行く私。
御坂さんたちからも離れて、初春たちからも離れた私と紫さんの二人。
突然、紫さんが私の袖を引いた。
「ゆか、八雲さん?」
「貴女のことを、信用してしまってる。きっとなにもしらない貴女は信用して良いんでしょうね、でも……私はどうすれば良いかわからないっ、私の大事な、愛した幻想郷が今どうなってるのかっ……私はスキマを開いてこちら側に無理やり来た結果、今の現状に至った……なら、貴女はなに!?」
どうしたっていうんだろう?
「ごめんなさい、こんな時に……でも花火を見て、屋台を見て楽しいって、こうしていたいって思ってしまう私がいるわ……だから、そんなことを思ってしまったから、だから貴女が何かなのか知りたい。どうしてなんでもなく幻想郷に来ることができるのか、なんでもなくこちらとあちらで過ごしていけるのかっ」
「……紫さん、貴女は混乱してるんです。数万年も生きた貴女がいつぶりかに体験した自分を襲う未知のなにかに、だから一旦落ち着きましょう、ね?」
幻想郷を、あの場所を、神々や妖怪や妖精が愛したたった一つ残された場所を愛する紫さん、その愛がどれほど大きいものかなんてわからないし、どれだけ紫さんにとって大事なものなのかはわからないけれど、とりあえず私にできるのは紫さんを安心させてやれることだけだろうって思って、そっと紫さんの手を取る。
紫さんは三分もしないうちに落ち着いた。
「……ごめんなさい、らしくなかったわ」
「別に、ほら紫さんのそういうとこ見えて嬉しいと言いますかなんと言いますか……なんか女の子って感じでしたよ」
グッ! っと音を立てる勢いで行ってみたけれど、紫さんは怒ったのかそっぽを向いた。
基本的に余裕がある紫さんにしては珍しい拗ね方だなー、なんて思っていたら、突如辺りが振動を始める。
「地震!?」
「いえ、この現象は……ポルターガイスト!」
凄まじい揺れに私と紫さんが足がおぼつかなくなる。
「紫さんあぶない!」
倒れてくる街灯を避けるために私は紫さんを抱いて跳んだ。
なんとか避けたけれど、頭を強く打ったせいで……正直、かなり痛む
「痛っ~」
「ちょっと、怪我してるわよ」
「あはは、大した傷じゃありませんから、ていうか揺れおさまりましたね。初春たちのところに行きましょ!」
私はハンカチで額あたりから出る血を拭って紫さんと走り出す。
「初春……って?」
初春と春上さんに倒れてきそうになっている街灯を押さえているのは、大きな人型兵器……?
そして顔部分が透けると、中に入って動かしているのが女性だということに気づいて、いつの間にか来ていた白井さんが驚く。いや、反応からして中の乗っている人を知っているのかな?
なるほど、とりあえずポルターガイスト……魔術師の仕業じゃないことだけを願うとしよ……あれ?
「佐天さん!」
御坂さんの叫ぶ声が聞こえるけど、私は膝をついてなんとか地面と勢いをつけたキスを防ぐ。
それにしても、私の頭からボタボタと流れてくる血、これはさっきの傷が思いのほか深かったってことなのかなぁ……まぁ地面があちらこちら崩れてたし、尖ってた場所にぶつけでもしたのかな?
紫さんもなんか私に呼びかけてくれてるし、いやぁこんな美人相手になんて佐天さん、女冥利に尽きますわ、ハハハ。
まぁ、あのお医者さんが治してくれるでしょ……なぁんてことを言ってみたり、佐天さんはするのでした
あとがき↓ ※あまり物語の余韻を壊したくない方などは見ない方が良いです。
さて、申し訳ありません、またずいぶんと間が空いてしまいましたなぁ
今回でゆかりんも心を許してくれたか?って感じでござりまする
まぁこっからは仲良くとやっていきたい、ところで佐天さんダウン、すぐ流血沙汰を起こすことに定評がある佐天さんです
こんな作者と作品ですが、楽しみにまってくださっているみなさんありがとうございます!
また、応援よろしくお願いしますで候!