とある無力の幻想郷~紅魔館の佐天さん~   作:王・オブ・王

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27,欠けた月

 私、佐天涙子は現在射命丸さんとチルノを連れて人里を歩いている。

 さっきまでぷりぷりと怒っていたチルノだけれど飴を買ってあげたら落ち着いた。

 ニコニコ嬉しそうにしながら、飴を口の中で転がしているチルノを激写しまくるド変態こと射命丸さん。

 私はそんな二人を後ろに買い物を一通り終えて歩く。

 

「佐天、飴もうないの?」

 

「無くなったらあげるから」

 

 私は買い物袋を両手に抱えてチルノに言う。

 射命丸さんは相変わらずチルノをローアングルから撮ったりしてるみたいだけど、私の取材なんだよね?

 仕方がないので後方の二人を放っておいて、私は少しながら学園都市のことを思い出してみた。

 

 

 

 思えば色々あったなぁと思う。

 幻想郷から帰ってからはLevel5である御坂さんとその友達である風紀委員(ジャッジメント)でありLevel4の白井さんと出会った。

 それから銀行強盗を倒して、初めてそこで黄泉川先生とも会ったんだっけ。

 次は固法先輩と『連続まゆげ落書き事件』を追って、それで重福さんを見つけて……そこで変なのに絡まれたりした。

 それから、木山先生に出会ったんだよね。車の鍵を無くしてたあの人の鍵を探して、そこから木山先生と仲良くなったんだ。

 その後にセブンスミストで虚空爆破(グラビトン)事件に巻き込まれて、そこで私は―――上条さんと出会った。

 

 それから幻想御手(レベルアッパー)のことに関わって、同時に魔術とも関わるようになった。

 今思えばすごく忙しい日々ではあったと思う、姉御さんと遭遇のもあの時だったよね。

 インデックスと出会って、ステイルと戦って、幻想御手を使って神裂とも戦った。

 それから幻想猛獣(AIMバースト)と戦ったり特別講習をこなしたり……。

 

 それが終ったかと思ったら次はインデックスと魔術師のことに戻ったんだった。

 上条さんから話を聞いて、神裂とステイルが嘘をつかれていたことを話して、上条さんに告白された……。

 なんか思い返すと恥ずかしいこと言ってたなぁ。

 そして自動書記(ヨハネのペン)と戦って私をかばい“あの上条さん”は死んだ。

 けれどいつまでもメソメソしていられない、そんなの上条さんは望んでないと思うから……。

 

 

 

「佐天さん?」

 

 射命丸さんの声に私は思考を止めて現状を確認する。

 いつの間にやら紅魔館の前、無心で帰ってきたのか私、完全に歩きなれた道だもんね。

 ボォッとしていたことを射命丸さんとチルノに軽く謝って私は紅魔館へと入る。

 ……なんで門番寝てるんですか。

 

「ただいま」

 

 そう言って両手の荷物を降ろした瞬間、荷物は消える。

 消えたと同時に現れるのはその荷物を気づかぬうちに持っていきしまったであろう咲夜さんだ。

 

「おつかれ、三人とも上でお嬢様が待っているわ」

 

 そういうと再び消えてしまう咲夜さん、どんだけ便利なんですかその能力。

 正直敵なしだと思うし……。

 

「行こっか二人とも」

 

「了解です!」

 

 頷くチルノと返事をする射命丸さん。

 ほんと射命丸さんって元気だよねぇ。

 階段を上ってテラスへと行くとそこにはテーブル、レミリア様とフランの二人がそこで紅茶を飲んでいた。

 用意されている椅子に私と射命丸さんとチルノの三人が座る。

 瞬間、目の前に紅茶が並べられて咲夜さんが立っていた。

 

「おかえり、ところでチルノが追ってった理由って結局なんだったの?」

 

「人里でね、阿求に用があったのよ」

 

 そういえば途中でチルノが別行動するって言ってたなぁ。

 その間にその阿求さんって人に会いに行ったのかな?

 私とフラン以外の全員が知ってるって顔してるけどたぶんすごい人だよね。

 

「今度会いに行ってみませんか!? 良い記事、もとい良い経験になると思いますよあの方とお会いになるのは!」

 

 思いっきり私情だよね、まぁ良いんだけど。

 みんなが知ってるなら私も気になるし、今度曇りの日にでもフランを連れて行ってみよう。

 あぁそういえばフランとどこも言ってないなぁ、まぁ吸血鬼ともなると行ける場所って限られてるんだけど……。

 

「そういえばレミリア様、天狗ってみんな射命丸さんみたいのなんですか?」

 

「みたいのって」

 

 射命丸さんが落ち込んでる風にするけど、いやどうでも良いか。

 

「天狗が全員この変態ロリコン天狗と一緒だと思ったら大間違いよ」

 

 ですよね、天狗みんなが射命丸さんみたいだったらもう幻想郷は大惨事ですよね。

 確か少し離れたところにある妖怪の山ってところに天狗たちが住んでるって言ってたっけ、幻想郷は小さな子が多いから心配だなぁ。

 ていうかやっぱり射命丸さんってロリコンだったんだ。

 

「ロリに痛烈な言葉とはっ、効きますね……でも訂正させてください。私はロリだけが好きなんじゃありません、美少女でも美女でもっ」

 

「あや、息が荒いわよ気持ち悪い」

 

「チルノさんまでっ、これはたまらないっ!」

 

 良いんですか天狗がそれで!

 とは思うもここは幻想郷だし、と思うとどうでも良くなってくるふしはあった。

 吸血鬼も拍子抜けするほどカリスマブレイクするし、魔法使いはひきこもりだし、妖精は純粋じゃないし。

 あぁ普通だ。なんだか妙なところで幻想郷っていうのを垣間見た気がする。

 

「ふぅ……佐天さん、ところで普通に戦ってるとこなども見たいのですが修行とかは?」

 

 なんで突然真面目に!?

 

「今日はないですね、明日あたり霊夢さんがやろうって言ってましたけど……はぁ」

 

 憂鬱だっ、だって殺されかけるし、手加減上手な美鈴さんや魔理沙さんと違って霊夢さんって冷徹というかなんというか……。

 まぁ嫌いじゃないんだけど敵に回したらヤバいというか。

 ていうかレミリア様が負けた人に私が勝てと!?

 よくよく考えるとすごい人と訓練するんじゃなかろうか……。

 

「前回の異変でも霊夢さんは大活躍でしたからねぇ」

 

 私が居ない間の『春雪異変』だっけ?

 確か西行寺幽々子って人が春を集めてそのせいで春が来なかったとか……って私なにを普通に春を集めてとか理解してるんだろう。完全に幻想郷に染まってるよ。

 咲夜さんと霊夢さんと魔理沙さんがその異変解決にあたって八雲紫さんとも戦ったんだよね確か。

 その後になんだったか三日おきに宴会を開いてたとかいう平和っぷりの中、異変が起こったとか……鬼がどうたらって話を聞いたけど、まぁよくわからない。

 

「三人とも私の知り合いって、なんか良いですね!」

 

「幻想郷は狭いんだから大概知り合いになる。というより咲夜に関しては身内だろう」

 

 そんなレミリア様の突っ込みに私は笑って返す。

 そうだよねぇ、私の周りってすごいよねほんと、御坂さんとかもだけど!

 幻想郷にいるっていう原石の人たちとも仲良くやりたいな!

 

「でもパチュリーが動き出したときはまた雪が降るかと思ったわよ」

 

 なんて言ったのはフランで、それに同調して首を縦に振る五人。

 いや本当にパチュリーさんが動くなんてよっぽどのことだと思う。

 大抵の場合動かないんだから。

 驚いている状況じゃなかったけどフランが暴走した時もパチュリー様が動いてたっていうのはもっと驚くべきだった。

 チルノが言葉を続ける。

 

「ほんとにね、あのパチュリーがでかい尻を上げるなんて」

 

「重い腰でしょ、おしいようで掠りもしてないわよチルノ」

 

 レミリア様の流れるようなツッコミ、二人が結構仲がいいとわかることだ。

 馬鹿の相手とか一見しなさそうに見えるけどレミリア様は一度友人と認めたら大概なんでもするし……。

 友達少ないからね、しょうがないね。

 この間、射命丸さんが記事に書こうとしてて怒られてたなぁ確か。

 

「でもひきこもってますからねぇ、パチュリーさんって案外ムッチムチかもしれませんよ! 良いですね、性的で!」

 

 もうこの天狗はだめだ。

 私は冷たい目で射命丸さんを見た。

 

「あぁ、佐天さんそんな冷たい目でっ!」

 

 どうあってもこれか!

 私は深い深いため息をついて紅茶を一気に飲んだ。

 そして美鈴さんが居眠りしていることも伝えた。

 今日も、紅魔館は平和だ!

 

 だけれど、その日は私が初めて“ソレ”と出会う日だった。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 夜、私は晩御飯を食べた後レミリア様たちとテラスに出ていた。

 おかれたテーブルの上には相変わらずの紅茶、お腹たぷたぷになりますってと思いながらもおいしいので文句は言わない。

 射命丸さんも夜まで密着する気はないようで今はいない。

 テーブルを囲むように座る私、レミリア様、美鈴さんとパチュリーさん。

 そしてそれぞれの主人の後ろで立っている咲夜さんと小悪魔さん……いや、私も立つべきだとは思うんだけど、ゆっくりしたい!

 フランに関してはもう寝てしまった。早寝早起きがいいね、吸血鬼的には微妙だけど。

 

「……ん?」

 

 レミリア様が突然目を細めた。

 

「どうしたんですか?」

 

「今日は満月だ」

 

 そんな言葉に私が空を見上げるけれど、そこには少し欠けた月。

 でも月って欠けてるかどうかって見極めにくいんだよね。

 満月を意識したのもこっちに来てからだし……。

 

「欠けてますよ?」

 

「お嬢様の言うとおり今日は満月のはずだけど、あれ?」

 

 美鈴さんは首をかしげた。

 やっぱり欠けてる。

 

「満月のはずなんだがな……これは」

 

「異変、ですね」

 

 レミリア様の言葉に続いて咲夜さんがそう言った。

 これが異変……月が欠けてるなんて意外とたいしたことないんだなとか思ってしまう。

 

「完全な満月じゃないと妖怪にとっては死活問題な者もいるんですよ」

 

 小悪魔さんが耳元でボソッと教えてくれる。

 なるほど! さすが小悪魔さん、天使です!

 とりあえずこれが異変かと思いながら月を見上げてみる。

 見てれば確かに欠けてる。

 

「涙子、異変解決だけど今回は貴女に任せるわ」

 

「はい……って、えぇっ!?」

 

 私が異変解決ですか!?

 それは少し難しい気もするんだけど……。

 

「咲夜もつけるから安心なさい」

 

 それなら安心、とも言い切れない。

 妖怪の相手って紅魔館のヒトたちとしかやったことしかないし。

 正直霊夢さんと魔理沙さんには勝てないし、チルノに勝ててもそれで並みの妖怪に勝てるかどうか。

 

「女は度胸、なんでもやってみるものよ。後魔術はまだ試験段階なんだから使ってはダメよ?」

 

「……わかりました。行ってきます!」

 

 パチュリーさんからの言葉に私は頷く。

 魔術はともかく、色々試行錯誤してやってみるのも悪くはないかなと思う。

 確かに度胸が足りなかった気もするし、せっかく佐天さん大復活なんだから頑張っちゃいますよ!

 頷くと突然、レミリア様とパチュリーさんが立ち上がった。

 

「涙子、あなたにプレゼントがあるから来なさい!」

 

 楽しそうにいうレミリア様に私はついていくために立ち上がる。

 

「それと、大切な話がある。今回の異変を解決するのに必要になること……今の涙子になら教えてやろう」

 

 レミリア様の表情は今しがたしていた楽しそうな笑みではなかった。

 どこか嬉しそうだけれど、どこか不敵な、そんな吸血鬼の笑みがそこにはある。

 私は生唾を飲んでからその瞳にさらされながらも静かにうなずいた。

 

 そしてこの日、今このときより―――。

 

 

 

 ―――私たちの“永夜異変”が始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 




あとがき↓  ※あまり物語の余韻を壊したくない方などは見ない方が良いです。















さてさて、今回は短くなっているでござるがプロローグなので!
なにがって? まぁそりゃぁ異変の!
とりあえず今までのは前座でこれからが本番、とうとう初異変でござるよ。
今回の異変は東方永夜抄のものとなっていてボスはもちろん、そして道中なども色々と……。

では、次回もお楽しみにしていただければ僥倖にて候!



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