とある無力の幻想郷~紅魔館の佐天さん~   作:王・オブ・王

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25,家族

 あれから三日、パチュリーさんに治療の魔法をしきりにかけてもらったおかげで私佐天涙子は快調である。

 これでようやく私も動けるってもんだよね。さて、とりあえずレミリア様にしっかり話をしとかないと。

 なんてことを私は窓ふきをしながら考えた。

 ささっと仕事を終えた後に私はレミリア様の部屋へと行く。

 

「レミリア様ー」

 

 二度ノックすると、扉の向こうから『良いぞ』との声がかかるので扉を開けて中に入る。

 少し驚いた。そこには咲夜さんとチルノと大ちゃんがいたから……。

 もちろんレミリア様もいたんだけれど、四人でお茶をしている。

 私がテーブルの近くへと行くと、レミリア様は少しだけ溜息をつく。

 

「……私は反対したい」

 

 言うまでもなく返事をもらった。

 多分未来を見てこれを察することができたんだと思う。

 

「わざわざ、またボロボロになる必要は無いだろう」

 

「それでもっ」

 

「次の魔術でまたこうして大丈夫だという保証もないだろう、次は手や足がダメになったらどうするつもりだ? また私たちがやることだって構わないが、それでもこれ以上お前の体が変化することは私にとってもお前にとっても喜ばしいことじゃないぞ?」

 

 そんな言葉に、私はぐうの音も出せなかった。

 レミリア様の言うことはごもっともだけれど、それでも私は……。

 

「全員頭が固いわね」

 

 そう言ったのは、チルノだった。

 咲夜さんもわずかばかりにチルノに鋭い目を向けた。咲夜さんも反対のようだ。

 まぁそうだよね、危険だしみんなに迷惑かけちゃうし。

 

「良いじゃない、レミリアが見た未来では『最悪の状況』になることは無いんだし、手も足も無くなったらいくらでもあるあたいがあげるってのよ。少しは(バカ)になって考えてみるのが一番イイってのよさ、力が欲しいってあの苦痛を味わってなお言うんだからあたいたちがやってやるのは佐天がどうなっても助けてあげるってことだけってね」

 

 そう言いながらチルノはずずっ、と冷えた紅茶をすする。

 レミリア様と咲夜さんは苦い顔をしていた。

 大ちゃんは私を見て軽くウインク。

 一息ついてから、私は気持ちを落ち着かせてレミリア様と咲夜さんを見る。

 

「二人共、多分迷惑とかかけちゃうと思います。また怪我をします! けれどお願いします。私はみんなを守る力が欲しいんです!」

 

 月並みの言葉だと思う。ありがちな言葉だと思う。

 けれど私にはこうしてありのままを言葉にすることしかできないし、これ以上どう言っていいのかもわからない。

 だからこうして頭を下げることしかできない。迷惑を沢山かけるけれど、それでも力がほしい。

 申し訳ないとも思うけれど、それでもっ。

 

「はぁ、そんな頭を下げられて断れるわけないだろ。ただパチェにも許可をしっかりもらうことだな。あと咲夜はどう思う?」

 

「私も賛成です」

 

「ありがとうございます!」

 

 私はしっかりと頭を下げてお礼を言う。

 これで私は魔術を覚えることができるということだ。

 失礼しました。と言葉を残して私はレミリア様の部屋を出て図書館へと向かう。

 とりあえずさっさと庭掃除とかやっちゃわないとね!

 庭に出た私は箒をもって素早く掃いていく。

 

「涙子ずいぶん気合入ってるんだね」

 

 そう言って現れたのは美鈴さんだった。

 

「寝てないなんて珍しいですね」

 

「言うね~」

 

 苦笑して後頭部を掻く美鈴さんが、軽くテラスに目を向けて手を振る。

 そこにはレミリア様と大ちゃんが居て、あれチルノはどうしたんだろう?

 まぁいっかと私は掃除を再開することにした。掃除をしながらだって本題は切り出せる。

 

「私、また魔術を使おうと思うんです」

 

 そう言うと、美鈴さんの表情が少しだけ変わった。

 

「涙子は、それで良いのね?」

 

「はい」

 

 私は静かに頷く。

 

「レミリア様と咲夜さんが了承したなら私が何か言う必要なんてないけど、学園都市に帰ってその力は必要?」

 

 そう言われれば確かに使うかはわからない。

 けれど使えれば誰かのためになるかもしれないのは確かだった。

 上条さんがこれから何かに巻き込まれないとも限らない、魔術やインデックスと関わっているのだから当然だって思う。

 でも上条さんだけじゃない、色々な人たちを守るために必要になるかもしれない力は持っておきたいんだ。

 

「……涙子が決めたならそれで良いと思うよ私は」

 

 そう言うと、美鈴さんは門の方へと歩いていく。

 私は急いで掃除を再開した。

 

 

 

 そして掃除を終えると私は紅魔館の中を走る。

 後はパチュリーさんと小悪魔さんの二人だ!

 

「パチュリーさん!」

 

 私は図書館の扉を勢いよく開いた。

 ビクッとなったパチュリーさんが私の方を見て少しジト目をする。

 驚かせたことに少しご立腹のようだけれど、今の佐天さんはそんなことで止められるほどじゃないのだ!

 

「魔術の本を貸してください!」

 

「嫌よ」

 

 パチュリーさんは凄まじいスピードで断った。

 なぜだか問いただすことも忘れて私はポカン、としてしまう。

 よもやここで断られるのは予想外というかなんというか、ここ最近魔術の話題も出してないから余計にびっくりした。

 なんでだろ……なんて考えてもらちがあかない。

 

「そ、そこをなんとか」

 

「嫌なの」

 

 パチュリーさんにしては珍しく、子供がいうような幼さを感じさせるような声音でそう言った。

 少し混乱気味の私、だから私は理由がわからないからこそパチュリーさんから離れて図書館の奥へと入っていく。

 軽く駆けるようにして探しているのは小悪魔さんだ。

 あの人ならわかるかもしれない、あの人なら私に何かを言ってくれるかもしれないと期待している。

 

「あっ」

 

 けれど探していて見つかったのは小悪魔さんではなく、チルノだった。

 なんで活字嫌いのお馬鹿()がこんなところにいるのか、チルノはカーペットの敷かれた床に座り込んで周囲に本を積んで本のページをめくっていた。

 なんの本を読んでいるのか気になり、私は近づく。

 

「どうしたの?」

 

「佐天、あたいにはすべて理解できないわ」

 

 あっ、うん―――だろうね。

 

「なんとなく感覚ではわかるんだけどねぇ、どうにも……ってそんなことはどうでも良いのよね。それより探しものよ」

 

「何を探してるの?」

 

 そう聞くとチルノは自分の前においている小さな紙を私に渡す。

 紙というより小さなメモの切れ端で、その字は女性らしく綺麗で気品が漂っている。

 そしてそのメモの切れ端に書いてある単語『博麗大結界』という一つの単語。

 文字を覚えることをしないチルノだけれど、メモを渡して書いた単語が載っている本を探させようと言うのだ。まさに妖精電子辞書、チルノを使っているのは誰だろう?

 なんて考えても仕方ないことだった。

 

「まったく、紫も面倒なこと頼むわ」

 

「あぁ、あの紫さんからなんだ」

 

 前回幻想郷に来たときに一度だけ会ったあの妖怪だろう。

 あまりいい印象は持っていない。殺されそうになったしね。

 

「あたいにはわかることしかわからないから、わかることはわかる奴だけやれば良いのよ」

 

 いっそそういう考え方もありなんだろうとは思う。

 でも知ってしまったら、少しでもそれを知って自分のわからないことでも困ってる人がいればそれを知ってでも助けたい。

 わからないことを放棄して、そしてそれで困って、助けを求めてる人も放棄する。わかることだけを他人に任せるなんて私には……。

 

「もっと柔軟にならないと、佐天がつぶれるわよ?」

 

 なぜだか知らないけれど私の方を見ていたずらが成功した子供のような笑みを浮かべるチルノ。

 まぁ確かに意表をつかれたという意味では間違いではない、チルノにそんなこと言われるなんて思ってなかった。

 チルノはすぐに本へと目を移す、メモの文字を覚えて本を見るを繰り返す。

 そのままに、チルノは言葉を続ける。

 

「あたいだって流石に“紅魔館”のことに口を出す気は無かったけど、佐天ってほんと馬鹿なんだもの」

 

馬鹿()に馬鹿って言われた」

 

 少しだけ落ち込む。

 

「馬鹿じゃないってなら小悪魔に聞いてみなさい、あいつも絶対佐天は馬鹿だって言うわよ」

 

 気持ち悪いって言ってた人に近づくのって結構勇気いるけど、まぁ最初から小悪魔さんとこに向かってたんだし良いか……。

 

「そこにいるんじゃない?」

 

 チルノが指差した方向に私は歩いていく、本棚を二つほど通り過ぎてから私が見たのは本棚に本を入れている小悪魔さんだった。

 本棚の影に隠れてから、私は深く呼吸をする。

 大丈夫、ちょっと怖いけど……人間讃歌は勇気の讃歌だって誰かが言ってた。

 ―――よし!

 

「こ、小悪魔さん!」

 

 私が声をかけると、驚いたように私の方を見る小悪魔さん。

 本をまとめると、彼女は少し気まずそうに私の方を見てくる。

 お互い気にしてるって感じになっちゃった……とりあえず私から切り出さないとね。

 

「その、少しお話しませんか?」

 

 気恥かしさから私は後頭部を掻きながら視線を逸らしてそういう。

 小悪魔さんは少し驚いてから、静かに頷いた。

 二人でとりあえず近くの椅子に座る。

 

「……」

 

「……」

 

 会話がまったくない。私から切り出さないといけないんだけど、うまく言葉が見つからない。

 焦って焦って、結果出たのはさっきチルノが言ってた言葉だけだ。

 

「わ、私ってそんな馬鹿ですかね!?」

 

 ついそんなことを言ってしまった。

 私の中で小悪魔さんが言いそうなことを色々予想してみる。

 辛辣な言葉も来るかもしれないのでそれもまた予想、『気持ち悪い』なんてまた言われたらショックだ。

 小悪魔さんはキョトンとしてから、口に手を当てて唇の形を変えた。

 

「ぷっ、フフフッ……ハハハハっ」

 

 突然笑いだす小悪魔さん。

 

「えっと、こ、小悪魔さん?」

 

 私はどうしたんだろうと心配してみる。

 けれど小悪魔さんは私に『待った』と手を差し出して笑うのみだ。

 一分近く笑っていただろう、その間私はただわけがわからなかっただけ。

 

「すみません、あまりに突拍子の無い事でしたから……そうですね佐天さんは相当のおバカです」

 

 ガーン! 正直ショック!

 でもなんでそんな馬鹿馬鹿言われてるんだろう、あたし。

 

「真面目な話になります……物事を知ろうとするのは悪いことじゃありません、そもそも人間に知恵というものを“与えた”のは悪魔なわけですからね。まぁ物事を知るのが悪だなんて今時絶対にありませんから特にこの点で文句を言う必要はありません、強すぎる好奇心は猫を殺すとも言いますが」

 

 そう言って苦笑する小悪魔さん。

 人間に知恵を与えたのは悪魔、そう言えば聞いたことがある気がする。

 あれだよね、聖書ってやつだよね、詳しく読んだことはないけど。

 

「ただ私が言いたいのは、涙子さんって責任を感じすぎなんです。まだわかってないようなのでしっかり言っておきますけどあの魔術を使った事件は誰のせいでもありませんよ、言うなれば責任はパチュリー様にあるでしょう。目上であり魔術を佐天さんより知っているんですから」

 

「それはおかしいです」

 

「おかしくなんてありません」

 

 凛とした声で、私の反論に反論する小悪魔さん。

 

「悪魔のように醜いヒトは誰かのせいにするでしょう、天使のようなヒトはすべてなかったことにするでしょう、普通のヒトは相手も自分も傷つけないようにフォローするでしょう。でも貴女はどれも選ばなかった。ただ自分のせいと言った。それがおかしくなくてなんなんです?」

 

 小悪魔さんの言葉に、私は何も言えなかった。

 彼女はさみしそうな悲しそうな顔をして私にちらっと視線を送るのみ。

 言葉が出ない、なんて言えばいいの?

 

「あの、その……」

 

「自己責任が強いなんてものじゃありません、理解できましたか? 自分の異常性が……」

 

 確かに理解できたけれど、私が責任を負うことで誰も傷つかないならそういたい。

 誰かのために自分が傷つくことなんて厭わないから誰にも傷つかないでほしい。

 紅魔館のみんなには特にそう思う。

 

「貴女はその性格でパチュリー様を傷つけました。全てを自分のせいにするということで……いえ、パチュリー様だけじゃなく、色々な人が心のどこかで少しばかり傷つきました。それはなぜかわかりますか?」

 

 まったくわからなかった。私がみんなを傷つけた?

 でも私はいつもみんなに迷惑をかけて、上条さんだって私のせいでっ……。

 結局、私は迷惑をかけるだけの存在なんじゃないの?

 だからせめて責任ぐらい自分で取れるようにって―――。

 

「でも私は“みんなのため”にっ」

 

 小悪魔さんの表情が険しくなる。

 

「家族なのにっ、なんでそんなことするんですか!」

 

 そう言ってからうつむく小悪魔さん。

 まるで弾丸を受けたかのような衝撃だった。

 家族、その一言はそれだけの威力がある。

 

「涙子さんがそう思ってなくても、私たちは家族だと思ってますっ」

 

「わ、私だって」

 

 そう思ってる。第二の家族、この幻想郷でイレギュラーである私を受け入れてくれた大切な家族。

 だから傷つけたくない、泣かせたくない、悲しい思いをさせたくない。

 なのになんで私はっ、小悪魔さんを今泣かせている?

 

「ならなんで、自己犠牲を簡単に“みんなのため”だなんて言えるんですかっ、辛いんですよ……家族として信用されてないみたいで」

 

 そんなことはないと否定したいけれど、私は目の前で泣く小悪魔さんにわたわたしてしまって言葉が出ない。

 

「迷惑をかけられても良いって、責任なんて誰のせいでもないって、家族なんだから全部一人で背負い込む必要はないのにっ」

 

 理解できた。小悪魔さんが怒った理由はこれだったんだ。

 

「みんな不器用って感じで、誰も本当のことを言わないっ涙子さんみたいな人がそんなこと気づくわけないのにっ」

 

 はははっ、これは手厳しい。

 それにしても、なるほどね。みんな気づいてたわけだ。

 だけど私を信用して言わなかった。けど、小悪魔さんに言われなきゃ私はたぶんずっと同じことを繰り返してただけだと思う。

 はぁ、ほんととんでもない。

 

「ごめんなさい」

 

 私はそう言って小悪魔さんを胸に抱く。

 こんぐらいしか私にはできないし、仕方ないよね。

 

「涙子さんは家族なんですっ、もう紅魔館の一員でかけがえのない人なんですよぉ……」

 

「ごめんなさい」

 

 私はようやく意味がわかって、どれだけ自分が馬鹿だったかわかって謝ることしかできなかった。

 小悪魔さんを抱きしめながら私は本棚の方へと視線を向ける。

 そこにはチルノがいて、私たちを見ていた。

 ちょっと恥ずかしいかも。

 

「……フッ」

 

 チルノは軽く笑うと踵を返して姿を消した。

 あぁ~、なんか今回は完全にチルノにしてやられて感じだなぁ。

 まぁ結果的には言うことなしだけど……今回はありがとうって素直に思っとく。

 

 

 

 10分ぐらいしてから、小悪魔さんが完全に落ち着いたのを見計らってパチュリーさんの元へと行った。

 少しだけれど意外そうな顔をしたパチュリーさんだが、すぐに視線を本へと戻す。

 いやはや私のこと怒ってるのも当然かぁ。

 

「ごめんなさいパチュリーさん、それでも私には魔術が必要なんです。私は沢山迷惑をかけるかもしれません、“誰のせいでもなく”魔術の副作用が出てまたみんなを心配させるかもしれません、それでも私は……紅魔館のみんなを、家族を守る力がほしいんです」

 

「……ほんと馬鹿なんだから、小悪魔に言われてようやく気づいたんでしょ?」

 

 こちらにジト目を向けるパチュリーさん相手に、私は『はい』としか返事はできない。

 今回ばかりはなんと言われても反論のしようがないというものだ。これで当分小悪魔さんにも頭は上がんないなぁ。

 それにしても私や紅魔館のみんなのためにあそこまで怒ってくれる、なんて優しい。

 小悪魔さんマジ天使。いや悪魔だけど。

 

「とりあえず使ってみたい魔術を本を見て選びなさい。そしたらみんなを集めてやってみましょう……家族として全力でカバーしてあげるから」

 

 そう言うとパチュリーさんは私たちから顔を背けて本を読むばかり。

 だけれどこういう台詞はパチュリーさん自体あまり言うこともないからか、耳まで真っ赤になっている。

 そんな可愛らしい私の家族を見て、私はパチュリーさんが事前に用意してくれていたんであろう積んである魔術関連の本に目を通すのだった。

 絶対魔術をものにしてみんなを守るんだ!

 今度は間違わずに、絶対!

 

 

 

 

 

 

 




あとがき↓  ※あまり物語の余韻を壊したくない方などは見ない方が良いです。















はい、佐天さん暗黒期が若干抜けてるでござるな。
まぁこれからも色々あるのでござるがとりあえず佐天さんと小悪魔とのわだかまりもさっぱり。
やっぱりキーキャラはチルノになってるでござるがまぁ、チルノは最初に佐天さんが出会ったキャラクターであり紅魔郷の一員でござるからほかのキャラより出番は多いでござる。
幻想郷での親友でもあるでござるしな!

そろそろ戦闘も入るでござるよ!
お楽しみいただければ、まさに僥倖!


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