私が起きた翌日。昨日のことで涙なんて枯れ果てて、私はただノートPCをいじっていた。
昨日の夜から記憶喪失について良く調べたつもりだけど、ダメだ。脳細胞が完全に死んだケースなんてどこにもない。
夜見回りに来た看護婦さんに怒られたけど、まぁそんなことを気にしているわけにもいかなかった。
私はブルーライト遮断眼鏡の位置を少しだけ整えてまたページを開く。
突然、ノックの音がした。
私はびっくりしながらも、どうぞと口にすると扉が開く。
「佐天さん!」
入ってきたのは初春で、私は驚いた。
だって誰にも伝えてないから、私が入院したってことは誰にも話したくなかったから。
それも全部、私にとってはただの恥だ。
私が居て、一体何がてきたって言うんだ。
「大丈夫ですか佐天さん!?」
私は意識をこちらに戻す。
初春のほかにも後ろには白井さんに御坂さんまで。
「あら佐天さん、眼鏡なんて珍しいじゃない?」
御坂さんの言葉に、私は確かに珍しいと思ったけど自宅でパソコンをやるときは最近はこうしてる。
調べ物が多いから余計にかけることも多いしね。
とりあえず私は『そうですね』とだけ答えた。
「案外お似合いになるのですね。まぁっ! まぁっ! お姉さまがかけたらもっとお似合いになると思っふっぎぃっ!」
電撃を浴びる白井さん。
「ごめんね佐天さん、騒がしくて」
「いえいえ大丈夫ですよ」
私は眼鏡をつけたままそう言って笑う。
「ああ、佐天さんこれをどうぞ」
即座に回復してきた白井さんは私のベッドの隣りのテーブルに小さな箱を置く。
中身はケーキかなにかだと思う。私は軽くお礼を言ってから三人を視界に入れる。
なんだか、羨ましくなった。
別に、魔術に関わったことに後悔してるわけじゃない。インデックスを助けることができたというのは確かだしね。
だけれど関わることなんて無かったらな、なんてことを少しだけ思ってみたりする。
きっと私はただただ普通に御坂さんたちと日々を過ごしているに違いない。
「佐天さん、大丈夫?」
御坂さんの言葉に、私は首をかしげた。
「何がですか?」
「いや、少し無理してるように見えるから」
さすがに敏感に気づいてくる。
少しばかり仮面の付け方が甘かったということもあるんだろう。
色々と心の中に溜まってもやもやしてるせいもあるのかな……。
だって仕方ないじゃんか、結局上条さんの病室にも一度も行けてないし、あぁダメだネガティブなことばっか考えちゃうや。
私はパソコンを閉じて眼鏡を外す。
「あれ、固法先輩も居たんですね」
「失礼ね、ケーキだって私のおごりなんだから」
そう言って笑う固法先輩。
四人で来てくれるなんて嬉しいなとも思う。
それでもやはり心の中にあるソレは取れないし、忘れることもできない。
「ありがとうございます。このあと食べさせてもらいますね」
別に食事制限とかもされてないし、問題ないはず。
「ところでどうして私が入院したってみんな知ってるんですか? 私、誰にも言ってないはすですけど……」
「月詠先生から聞いたんです」
小萌先生、なんで私の友達知ってたんだろう。
ともかく後で小萌先生にはお礼の電話でもしておこう。
「で、怪我のことですけど?」
「ノーコメントで」
即座に返すが四人が四人とも微妙な顔をして私を見てくる。
でも魔術だとかの話をこの四人にするわけにもいかないし、この四人を魔術のことに巻き込みたくもないしね。
私は怪我のことを伏せて三人と軽く雑談と洒落込むことにした。
少しだけだけど、気持ちも楽になりはしたのは確かだ。
「佐天さん、私たちとあったときから怪我してばっかな気がするんだけど、昔からこう?」
ついつい御坂さんが怪我の話題を掘り下げた。
少し驚きながらも、私は仕方がないので答えることにする。
「最近かなぁ、やっぱ私って不幸だ」
そう言うと御坂さんがピクっと反応した。なんかあったかな?
まぁ良いや、とりあえず私は軽く左腕を握る。
感覚はしっかりとあった。
「そう言えば佐天さん、昨日は寮にも帰ってなかったですよね」
「お泊り!? お泊りなの佐天さん!?」
うわっ、胸倉掴まないで固法先輩っ!
「ち、違いますよ! 昨日の夜に私は病院に運び込まれたんですから!」
「夜遊び!? 私は許さないわよ佐天さん!」
「なにこれ鬱陶しい!?」
怪我してるんだからそっとしといてよって思うけど、こうしていると忘れることができるし悪くない。
私の肩を掴んで私を思いっきり揺らす固法先輩を止めようとする御坂さんと初春。
なんか白井さんは怪しんでるし~。
はぁ~不幸だぁ。
なんだか良くわからないけど暴走する固法先輩を連れて帰った御坂さんと初春と白井さん。
私は気崩れた服を整えてからまたパソコンで調べようと思ったけれど……やめた。
やっぱりどうしようもないと頭で整理がついてるんだ。
「るいこ~!」
大きな声と共に扉を勢いよく開けて入ってくるのは、もちろん彼女だ。
「病院内ではお静かに、じゃなけりゃインなんとかさんとか呼ばれちゃうよ」
「むぅ、私の名前はインデックスなんだよ!」
「わかってるから、病院内ではお静かに」
そう言うと、インデックスは笑顔で頷いた。
私はそっとインデックスの頭を撫でてから、どうしたのかという疑問を口にしようと思った。
けれどそうはいかずに、その前に私の声が出なくなる方が早い。
「よぉ」
そこに居たのは姉御さんと重福さんの二人だ。
あぁなんていうかめんどくさいことになりそうな予感。
「どうしたどうした、お前がなんでそんなことになってんだ?」
姉御さんはニヤニヤしながら私のベッドの横に立つ。
正反対に重福さんは心配そうに私を見てくれる。
なんなんですか姉御さん。
「変なことに首突っ込んでやられたんだろ」
くしくも姉御さんの言葉通りだ。
「佐天さん、大丈夫ですか? お怪我はありませんか? もし佐天さんの身に何かがあったら私はっ、私はっ」
うん、友情が重い。
「なんでこの二人が?」
「涙子の寮の部屋前に居たんだよ!」
なんで私の家に行ったのさ。
「かおりからの手紙を入れたんだよ」
なるほど、神裂から手紙とはていうか私に渡せば良かったんじゃ、なんて言うのも野暮か。
きっと私の家で読まなければならないこともあったんだと思う。
とりあえず私は二人にありがとうとお礼を言う。
そもそも私の家の前にいたのはなぜかというのもなんか怖いからやめとく。
「その、あんま無理すんなよ。
その言葉に、当然のようなその言葉に、私の穏やかだった心が陰る。
「わかってるよ!」
つい、怒鳴るように言ってしまった。
数秒してすぐに、私は自分が何を言ったのか理解して口を塞ぐ。
驚いてる三人、そしてすぐに姉御さんは涙目になる……え?
「お前なんかもっとボロボロになれば良かったんだ! ばーか!」
それだけ言うと姉御さんが走り去ってしまった。
「わ、私もこれで失礼します。また来ますね佐天さん」
重福さんもそそくさと帰っていった。
せっかく来てくれた二人に対してなにやってんだろ私。
ため息すら出てくるけれど、今はインデックスの方を見ることにした。
驚いていた表情は一転、心配するような表情だ。
さすがシスターだと、私はインデックスのシスターたる片鱗を見た。
「今は下手なことは言わない方が良いって、私は思うんだよ」
うん、そうだね。
「また明日来るね、あの二人にも今度謝ろう?」
うん。
「じゃあまた明日」
インデックスはそれだけ言うと部屋を出て行った。
私ってやつは一体なにしてんだかぁ~。完全に八つ当たっちゃったよ!
ごめんね姉御さん。
もぉ……なんていうか不幸というより今回は自業自得だなぁ。
私はとりあえず今度会ったときになんて謝ろうと考えたり、上条さんへの罪滅ぼしのことを考えたりしながら眠りについた。
◇◇◇◇◇◇
少し明るい光のせいで、私は自然と眼を覚ました。
見慣れた天井を見ながら起き上がって、私は怪我をしているのを思い出して痛む体に気を使いながら起き上がる。
痛まない部分の体を伸ばして、窓を開く。
整えられた庭は私のお気に入りでもある。
「さて……あれ?」
バッ、と私は周囲を見渡す。
髪のセットぐらいにしか使わない化粧台。
私の制服を入れていたクローゼット。
スタンドライトの乗ったテーブル。
「ここは……」
「あぁぁぁぁっ!!?」
叫び声に、私はそっちに視線を向ける。
そこには真っ赤な瞳をした金髪の
見慣れた少女を見て私は嬉しくなる半分、驚き半分だ。
「涙子~!」
「げふぅっ!」
思い切り抱きついてきた“フラン”を受け止めそこなった私。
腹部に直撃したフランにダメージを受けて、さらに倒れた反動で壁に頭をぶつけてダメージ。
合計のダメージは私の最大HPを突破して……
―――まったく、最初から不幸だ。
あとがき↓ ※あまり物語の余韻を壊したくない方などは見ない方が良いです。
はい、今回はあまり暗い部分が出なかったでござるな。
気にしてないわけではないでござるよ。ただ今回出なかっただけでござる。
第二章の終了って感じでござるのでパッと終わらせる+せめて少しは明るく閉めたかったんでござるよ!
あくまでもハートフルな感じに行きたいでござるのでなぁ。
では、次回からは皆さんお待ちかねの幻想郷編にて候!
次回をお楽しみにしてくださればまさに僥倖!