起き上がったインデックスは私たち四人をその無機質な目で見据える。
上条さんが私の前に出て、右手を構えた。
私も私ができることを、最大限やらなきゃいけない。
目の前にいるのは、いつだか見たインデックス、
「術式の構成を暴き、対侵入者用のローカルウェポンを組み上げます。侵入者個人に対して、最も有効な魔術の組み合わせに成功しました」
紅の巨大な魔法陣がインデックスの前に展開される。
「これより特定魔術『聖ジョージの聖域』を発動。侵入者を破壊します」
黒い何かがインデックスの前に展開された。
危険だと頭の中で本能が叫んでいるけれど今、ここを引くわけにはいかない。
「そういや、一つだけ聞いてなかったっけか……超能力者でもないテメェが、どうして魔術を使えないのかってわけ」
そんな言葉にもインデックス、いや
インデックスが顔を少し曲げると、上条さんの方に視線を向けて光線を放つ。
弾幕ごっこの時にみるようなそれに似ている気もするが、こちらの危険度は比じゃない。
「ぐぅっ!」
上条さんはその右手で光線を防ぐ。そう、壊すことはできないのはたぶん放出し続けているからだ。
右手の異能殺しが、処理負けしてる。
後ろの動けていない二人、私は上条さんの体を後ろから支えた。
じゃなきゃ後ろに吹き飛ばされそうだから。
「まさか……」
「なんであの子が、魔術を……」
「決まってんだろ! 教会が嘘ついてたってだけだろうが!」
上条さんの叫びに、わかってはいてもわからないとしていた二人は驚愕した。
自分たちのいる組織が自分たちを裏切っているなんて考えたくないものだと思う。
私も紅魔館が私を裏切っていたら……いや、自殺ものだわマジで。
「上条さんがインデックスの頭の中の魔術を破壊すれば、インデックスはもう記憶を失う必要はないんです!」
「聖ジョージの聖域は侵入者に対して効果が見られません。ほかの術式に切り替え侵入者の破壊を継続します」
瞬間、放たれる光線の音が変わった。
放たれる光線の出力はさらにあがり、私と上条さんは徐々に押されていく。
上条さんも右手が殺しきれずに血が吹き出す。
こんなのっ、どうしようもないっ!
「Fortis931!」
叫びと共に私のさらに後ろから手が伸びてきて、上条さんの背中に手を当てる。
それはステイル・マグヌスで、部屋中にルーンの描かれた札が貼られていた。
「曖昧な可能性なんていらない、あの子の記憶を消せばとりあえず命を助けることができる。ボクはそのためなら誰でも殺す、いくらでも壊す、そう決めたんだ。ずっと前に」
上条さんはそんなステイルの言葉を聞いて、インデックスの方を向きながら言う。
「とりあえず、だぁ?ふざけやがって、そんなつまんねえ事はどうでも良い!理屈も理論もいらねえ、たった一つだけ答えろ魔術師!!」
「―――テメェは、インデックスを助けたくないのかよ! テメェら、ずっと待ってたんだろ!? インデックスの記憶を奪わなくて済む、そんな誰もが笑って誰もが望む最っ高に最っ高な
上条さんの手からまた血が出る。
「今までずっと待ち焦がれてたんだろ、こんな展開を!
だが上条さんの手がブレていき光線が私たちを襲うかと思ったとき―――。
「Saivere000!!」
背後から声がしたと同時にワイヤーで畳を返してインデックスの体を動かす。
私はその瞬間、上条さんから離れて走る。そして走りながら眼帯を外して投げ捨てた。
あの光線のぶつかる部分がずれて上条さんも楽になっているから、この隙に私は!
目的は上条さんがインデックスの頭に触れること、なら私がやるべきことはこの手でそれを全力でサポートすることだ。
「数日前までは殺し合いをしていたこの場のみんなが今一緒になって、
私は全力で走ってインデックスのそばまで寄ると拳にてインデックスの顎を打つ。
―――ごめんっ!
でもこれで気絶でもしてくれれば、とも思うけれどそうはいかないだろう。
拳でインデックスの顎を打った結果、小萌先生の家の屋根を吹き飛ばすことになったけれどまぁ、頑張って謝る。
「ん? なにこれ……」
後ろの方で上条さんも口にしている。
「これは、
破壊された天井の残骸なんて降ってくることもない。
天井の破壊された破片などはすべて綺麗な羽へと変わっていた。
私はそれに魅入りそうになるも、自制してインデックスの方を向く。
しっかり羽へと気を配りながらインデックスの方を見れば、再びインデックスは上条さんへと光線を向ける。
やっぱり気絶はしてくれないかっ!
「イノケンティウス!」
現れた炎の巨人が、上条さんを守る。
私も私でもう一度インデックスの攻撃の射程をずらすために拳を構えた。
「行け! 能力者!」
走り出す上条さんだけれど、インデックスは少しずつ後ろに下がっていく。たぶん右腕から逃げるためだけれど……。
私はそんなインデックスを背後から羽交い絞めにした。
これで上条さんからは逃げられない。
「佐天涙子の接触を確認。現状最大の障害となる上条当麻接近を防ぐため佐天涙子を破壊するため、防御魔術を発動します」
瞬間、インデックスの体から雷が放たれる。
「ああああァァァっ!!」
まさかっ、これも十万三千冊の魔道書の一つの力。
だけどここでインデックスを離すわけにはいかない。ここで離せば全部ダメになってしまうっ!
イノケンティウスがインデックスの攻撃を防いでくれている。
まだだ、上条さんが今来てる。
「あぁぁっぁッ!」
電撃が私の体に流れるけれど、まだだ。まだ!
走ってくる上条さん、もう手が届く範囲っ!
「神様、この世界があんたの作ったシステムの通りに動いてるって言うんなら……まずはその幻想をぶち殺す!」
―――上条さんの手がインデックスの頭に触れた。
音が止み、すべての攻撃が止まり、私も電撃の拷問とも言える状態から解放される。
まったく白井さんじゃないんだからそんな趣味ないっていうのっ……。
インデックスから力が抜けて、私は悲鳴をあげる体を使ってインデックスを支えた。
ブツブツと何かを言った後、
「終わった……」
私はインデックスを上条さんに預ける。
膝が笑ってるのは、緊張の糸が途切れたのと、ダメージのせい。
降り注ぐ幻想的な羽……ッ!?
「早くそこから逃げて!」
神裂の声に、私は上条さんを蹴り飛ばす。
つまり抱えているインデックスも一緒に吹き飛ぶわけで、羽が降り注ぐ場所にいるのは私だけ。
危なかった、危うく上条さんの頭に羽が触れるとこだった。
ふぅ、力抜けちゃったなぁ~。もう“立てない”や……。
上条さんの叫び声が聞こえるけど、もう無理……。
私は横になって空から降り注ぐ羽を見る。
綺麗だなぁ……。
今から私を破壊するであろうそれを見ながら、私は目をつむった。
壊されるなら、最後に居眠りぐらい良いじゃない。安らかな顔で死にましたってねぇ。
フフッ、インデックスや上条さんとゆっくり過ごすのも夢見てたんだけど、相変わらず私ったら不幸だなぁ~。
でも、まぁいっか……そんな不幸も悪くないって思ってたし、ね?
◇◇◇◇◇◇
ん、ここはどこだろ?
私は目を覚まして周囲を見渡す。真っ白なこの部屋は病院に間違いない。
というより数日前に私はここに……あれ、私は生きてる。
体は……。
「痛ッ」
体中が痛む。
「無茶はしない方が良いと思うね、ボクは」
つい最近見たばかりのカエル顔の医者がそこには居た。
名前は知らないし、知る必要もない。なんで私が生きてるのかなんて聞かなくてもいい。
この人は神裂にぶった切られた私のお腹を傷一つなく治した化物医者だ。
「体のいたるところに火傷があったんだ。あと右肩が疲労骨折していたよ、傷一つなく元に戻したけど……それよりもその腕は他人のものだね?」
そんな言葉に、私は静かに頷く。
深くは聞くことはないのがありがたい。
そう言えば病院に運ばれてきたのは私だけ?
「上条当麻って」
「いるよ、今はここから十部屋向こうの部屋だけど、もう少し時間を置いてからが良いんじゃないかな? 君も彼も怪我をしていたわけだからね」
そう言って、カエル顔の医者は病室から帰っていく。
私は部屋で一人少しだけ考えていたけれど、すぐに立ち上がった。
体が痛むけれど知ったことじゃない。
私は上条さんとインデックスに会いたいんだ。一刻も早く二人の笑った顔が見たいんだっ。
「はぁっ、っ……」
スリッパを履いて、壁に寄りかかりながら、体中の疲労感と戦いながら歩く。
病室から出て倒れそうになるもこんなところで倒れたらもれなく自室へ強制送還だ。
私は壁を伝って上条さんの部屋の前へとやってきた。
十部屋って遠すぎだってのっ!
ようやくもうすぐってとき、上条さんの病室から声が聞こえた。
「君、ほんとは何も覚えてないんだろう?」
私は止まった。呼吸すらも忘れそうになりながらも、私は扉の向こうの会話に耳を澄ます。
「確かに、あの事件のことは二人に聞いたままに伝えたけど……」
えっ、なにを言ってるんですか?
「俺、なんだかあの子に泣いて欲しくないなって思ったんです、そう思えたんですよ、この感情がどういうものかわからないし、きっと思い出すこともできないけど」
上条さん?
私は病室の前から動けないでいた。
「確かに、そう思うことができたんです。案外、俺はまだ“憶えてる”のかもしれないですね」
「君の思い出は脳細胞ごと死んでる。脳には情報が残っていないはずなんだけど……なら、一体どこに思い出が残ってるんだっていうんだい?」
カエル顔のお医者さんの言葉が聞こえる。
脳細胞ごと死んでるっていう上条さんの
「そりゃぁ、決まってますよ……心に、じゃないですか?」
その声が聞こえてから、会話が止まったのを感じて私はその場から先ほどよりも早く立ち去った。
自分でもなんでこんなスピードで動けるのかわからないような速度、だけれど病室までもう少しのところで体勢を崩して、私は近くのベンチに座ることにした。
やばい……うそ、そんなっ……。
「あっ、るいこ!」
聞き慣れた声にどこか安堵を感じながら私はそちらを見る。
「るいこの病室がわからなくて変なところに行っちゃったんだよ」
「と、遠いからね。そう言えば私……」
聞かなきゃ、私が聞かなきゃ。
「私はどうなったの?」
「私も聞いた話なんだけど、とうまが右手の“
インデックスの話が続くけれど、私にはそれに構っているほど余裕は無かった。
「ごめんインデックス、少し体調が悪いから病室にもどるね」
「あっ、うん。明日も来るね!」
「ありがと」
私は再び全速力で壁をつたい、病室へと入った。いや、倒れ込んだといった方が正しいかもしれない。
後ろで扉が閉まる音を聞いてから、私は口を押さえた。
「うっ……」
吐き気と共に、吐き出したのはただの胃液。
逆流して流れ出たそれなんて気にもならずに、私はベッドの方まで這う。
私のせいだ。ただ、私のせいだっ!
なにが守るだっ、私がっ、私が守られて、結局なにもできずに、結局被害を被ってるのは他人だけじゃんか!
「わたしはっ、役立たずの無能力者じゃんかっ、結局っ……」
私があそこにいようがいまいが結果は変わらなかったはずだ。
それぐらい私は役立たずで、何も出来ていない。
いっそのこと死ねれば良かったっ、なんで私なんかが生きて上条さんが“死ぬ”必要がある!?
「アアアァァッァッ!!」
大声で叫びながらベッドを何度も叩く。
「うっ、わ゛だじっ……はっ、なんでっ」
いつもこうだ。私が自分で良くやったって思ってても、私を助けて何かを失うのはみんなばかり。
レミリア様も、美鈴さんも、上条さんもだ。
なんで私なんかのためにみんな大事なものを投げ売ってまでそんなことするのか、私にはまったくわからない。
この一日、私はずっと泣いていた。誰もお見舞いに来なかったのが、唯一の救いかもしれない。
このちっぽけな腕で、一体なにが守れるっていうんだろう。
私は答えのない問題を考えながら、泣き疲れて眠ってしまった。
あとがき↓ ※あまり物語の余韻を壊したくない方などは見ない方が良いです。
よかったねインデックスが助かったよ!
まぁ今回はこんなかんじのあまりすっきりしないかんじで終わらせました。
話とかはおいおいとやっていくつもりです。
次回は第二部終了、ぐらいまで持っていけたらと思っていますよ!
では、次回もお楽しみいただけたらまさに僥倖!