新機動戦記ガンダムSEED DESTINY  -白き翼‐   作:マッハパソチ

9 / 13


何故戦うのか、力を欲した理由を見失ってはいけない。





第七話   大地に聳え立つ扉(前編)

コニールの目の前に突如として現れたモビルスーツは

先ほどまで追いかけて来ていたダガーLを一刀の元に斬り伏せると

そのまま飛び立とうとする。

 

「ま、待って!」

 

コニールの声に呼応するかの様に

モビルスーツが動きを止め、頭部が彼女の方へと向く。

 

「え、えっと………く、車が……そう、車が壊れて動けないんだ!」

 

まさか自分の言葉にその機体が反応してくれるとは思わなかったコニールは

咄嗟に現状を理由に言葉を紡いでいく。

 

すると、そのモビルスーツのコックピットが開き中から人が降りてきた。

 

「……え? こ、子供?」

 

てっきり、自分より年上の人間が降りて来るのかと思ったが

実際に降りてきたのが自分とあまり歳の変わらない少年であった事に

コニールは驚きを隠せない。

 

少年はコニールの傍へと近づいて来る。

 

「……えっと……」

 

コニールはその少年に何か声を掛けようとするが

驚きと戸惑いとで上手く言葉が出てこない。

 

逆に、

 

「……退け」

 

「え? え?」

 

少年から声が掛けられるが、初対面の少年からいきなり「退け」と言われて

コニールはさらに困惑してしまう。

 

「車、壊れているんだろ? 視てやるから車から降りろ」

 

「え、あ、うん……」

 

ようやく少年から言われたことを理解し、言われた通りに車から降りる。

交代で少年が車へと乗り込むと、すぐに車を操作し始める。

 

(……何だよ……こいつ)

 

自分を助けてくれた事には感謝するが

少年の初対面の人間相手への対応に少しムッとしてしまう。

 

「………」

 

「………」

 

二人の間に沈黙が漂う。そんな中、少年は黙々と作業を行っている。

沈黙に耐えきれず、痺れを切らせたコニールは少年に声を掛けていく。

 

「……あ、あのさ……」

 

「…………」

 

「その………そ、そうだ、アンタ、名前は?」

 

「……………」

 

「えーと、その……」

 

「……ヒイロ」

 

「えっ?」

 

「………」

 

少年は自分の名を告げると再び作業へと戻っていく。

 

「そ、そうなんだ……えっと、私はコニール。

 ……ひ、ヒイロはさ、こんなとこで何してたの?」

 

「……答える義務は無い」

 

コニールを一瞥し、彼女の質問に対して、

ヒイロと名乗った少年は素っ気のない返事を返してくる。

 

(ま、間が持たない………)

 

会話が続かず、またしても手持ち無沙汰となったコニールは

ヒイロのことを黙って観察する。

 

茶髪、身長は150cm後半ぐらい、服装はタンクトップにハーフパンツと

ガルナハンの外に出てるというのに防塵対策が全くと言っていいほど成されていない。

それに、連合でもザフトの人間でも無さそうで

特にダガーLを躊躇もなく破壊していたことから連合の人間ではないというのは間違い無いはず、

であるならば

 

(……ジャンク屋か、傭兵?)

 

コニール自身も14という若さでレジスタンスなどという非正規の活動を行っている。

世界というのは年齢とは無関係、無作為にまるで獣のように人々に牙を向く。

このヒイロという少年にも何らかの理由があって、モビルスーツに乗っているのだとわかる。

 

(……こいつも……)

 

そんな同情にも似た想像をコニールが膨らませヒイロを眺めていると、

 

「……無理だな」

 

「……え?」

 

「この車は動かない……おそらく中で―――」

 

「ち、ちょっと待って……嘘、でしょ?」

 

「…………」

 

「ほ、本当に動かないの?……」

 

「そう言ったはずだ」

 

言うとヒイロは車から降りてくる。

そして、自分のモビルスーツの方へと歩き出して行く。

 

連合軍に追われ、レジスタンスのベースから大分離れてしまい、

戻るためにも車無しでは厳しい。

 

元々勝手に夜間の偵察に出ていたため自業自得ではあるが

こんな砂だらけの荒野に、それも夜に一人きりになるのは気が引ける。

例え、一晩無事に過ごしたとしても、先の通り歩いて帰るのにはほぼ不可能。

仲間が救助を待つにしても、コニールは今食料や飲み水を持っていない

ガルナハンは熱帯地域であり、昼間に飲み水も持たず荒野の真っ只中で突っ立っているなど

自殺行為にも等しい行いである。

そして何より、撃墜され、いきなり居なくなった連合のパイロットを探して

新手がやってくる可能性がある。そうなれば生きてベースへ戻る事など絶望的である。

 

「……ハァ、どうしよう……」

 

様々なネガティブな要素が重なりコニールは途方に暮れ、思わず溜息が漏れる。

 

「こんなことなら一人で偵察に何て来なきゃよかった……」

 

今更、後悔しても後の祭りであるが

コニールは近日行われる予定のザフトとの共同作戦のために

ガルナハンの連合軍基地に関する様々な情報を手に入れていた。

しかし、最近になって連合軍が『見たことも無い兵器』を投入するという話を

仲間から聞き、居ても立ってもいられずに単独での偵察に出てしまったという次第であった。

そして結果は情報は何も手に入らず、逆に自らの命を危険に晒すという最悪なものとなり

ヒイロが助けてくれなければ間違いなく命を落としていた。

 

「……ハァ……」

 

再度コニールが溜息を吐いたその時

 

「―――っ、……え?」

 

彼女の目の前に大きな手が差し出される。

見ると、ヒイロの乗ったモビルスーツが片膝をつき

コニールに向け右手を差し伸ばしている。

 

『乗れ』

 

モビルスーツの中からヒイロの声が掛かる。

 

『目的地まで案内しろ……連れて行ってやる』

 

「……いいの?」

 

『構わん……それともここに一人で―――』

 

「の、乗る! 乗ります!」

 

思わず敬語を使いながらモビルスーツの手に飛び乗る。

 

コニールが乗ったところでモビルスーツが立ち上がり

左手に壊れた車を持つ。

 

『どっちだ?』

 

「あ、あっち」

 

『……了解した』

 

ベースのある方向を示すとモビルスーツは歩き出す。

 

「? 何で飛ばないの……」

 

『……死にたいのか?』

 

コニールは知らない。このモビルスーツが殺人的な速さを持っていう事を……。

 

 

兎にも角にもコニールはヒイロと共にレジスタンスのベースへと向かうのだった。

 

 

 

 

コニールがベースに到着すると

 

「いっ、たーい!!」

 

レジスタンスのリーダーらしき男が

コニールの頭に拳骨を叩きこむという

問答無用の鉄拳制裁が下された。

 

「てめぇ、コニール!! こんな時間までどこほっつき歩いてやがった!!!」

 

コニールの数倍の声量で叱りつける。

 

「女子供がこんな夜遅くまで出歩いてんじゃねぇ!!」

 

「……うるさいなぁ」

 

痛む頭を押さえながら聞こえないように呟くと

 

「ああっ!」

 

「ご、ごめんなさいっ」

 

どうやら呟き声が聞こえていたらしく

男はもう一度、拳を振りかぶる。

コニールは慌てて目を瞑り、頭を守るように手を構える。

しかし、いつまでも殴られる感触はやって来ず

それどころかコニールの体を温かいものが包まれる。

見ると、つい先ほどまで彼女を叱っていた男がコニールを抱きしめている。

 

「心配かけやがって……馬鹿野郎が………」

 

「……うん………ごめんなさい」

 

 

 

 

「ところでよ、こちらさんは?……」

 

コニールとのやり取りに一区切りがついたところで

男は先ほどからコニールの後ろに立っていた少年へと目を向ける。

 

「ええと、紹介するよ。こいつはヒイロ、私をここまで連れて来てくれた

 あのモビルスーツのパイロット」

 

「そんなことはさっき見てたから知ってる。

 確かにあんなモンが歩いて来た時は肝を冷やしたがよ。

 俺が聞きてえのはこの小僧が何者かってことだよ」

 

「えっと……こいつは……」

 

コニールもヒイロが何者であるのか分からない。

咄嗟に言い訳を考えるが何も思い浮かばず、しどろもどろに成っていると

 

「俺は……傭兵のようなことをしている。

 今夜は偶々この辺りを移動していたにすぎない」

 

ヒイロが自分のことについて語り出す。

 

「まあ、あんなモビルスーツを持ってるんだ、そんなとこだろうと思ったよ。

 ……こんなご時世だ、おめえな生き方をしてる奴なんて巨万といる。

 俺らみたいなよ………」

 

男はヒイロの素性についてそれ以上詳しくは聞かなかった。

 

「……それにしても傭兵か……」

 

代わりに男は何やら考えるそぶりを見せ始める。

そして、

 

「ヒイロといったか……おめえ、俺らに協力してくれねえか?

 もちろんタダとは言わねえ、傭兵として雇うんだからな」

 

「なっ! 本気でっ!」

 

男の発言に反応したのはヒイロではなくコニールであった。

そんな彼女の驚きとは裏腹に会話は進んでいく。

 

「……内容は?」

 

「へっ、話が早くて助かる。

 ……実は今度、連合軍からガルナハンの街を解放する為に

 ザフトと合同で大々的な作戦を行うことになっている」

 

「ザフトと?」

 

「ああ、この近くにマハムールっていうザフト軍基地の奴らと

 名前は忘れたがザフトの新造艦の部隊が協力してくれる手筈になっている」

 

「……それだけの戦力がありながら、何故俺に依頼を頼む?」

 

「それは少しでも戦力が欲しいのもあるが……

 モビルスーツ戦になれば俺らに出来ることなんて何もない。

 ……協同作戦とはいっても俺らは敵の情報を渡して、

 後は後方で見ているだけだ。

 俺らの街を取り戻そうっていうのに何だか忍び無え。

 まあ、傭兵雇うんじゃ一緒なんだけどよ……それでも……」

 

「…………」

 

男はヒイロにその心中の全てを吐露する。

そんな男の言葉にヒイロは

 

「………了解した」

 

あっさり了承する。

 

「本当かっ!!」

 

「ヒイロ………本当にいいの?」

 

ヒイロの返答に男は歓喜を、

コニールは若干戸惑いを含ませた声を出す。

 

「了解したと言った。変更は無い」

 

「そうかそうか……それじゃあ短い間だけどよ。宜しく頼むぜ。

 作戦の詳しい内容についてはコニールに聞いてくれ。コニール、頼んだぞ」

 

「わ、わかった」

 

こうして話が纏まりかけたそのとき、

 

「……ただし」

 

ヒイロが口を挟んでくる。

 

「ん?」

 

「え?」

 

「俺がこの作戦に参加するに当たって、いくつか条件がある」

 

 

 

当初、ヒイロはこのコニールという少女を送り届けた後

早々にこの場を立ち去ろうと考えていた。

しかし、レジスタンスの男に『傭兵』としての依頼内容を

聞かされた際、事情が変わった。

 

(……ザフトの『新造艦』、か)

 

地球にいるザフトの新造艦。

キラやラクスたちを襲った部隊と関係しているか、

調査する価値は大いにある。

 

そんな打算的な理由もあるが、

ヒイロがこの作戦への協力を決意したのは

やはりレジスタンスの男の律儀な言葉が最大の要因となった。

 

自分たちの守りたいもの、取り戻したいもののために

戦い抜こうとする姿勢に称賛を抱いたのである。

ただザフトに関する情報を得たいなら単独で行動し

カーペンタリアと同様にマハムール基地へ潜入すればいいだけだ。

 

 

そんなヒイロがこの作戦への参加条件として

レジスタンス側に提示したものは以下の通りである。

 

 

「先ず、今回の作戦にゼロ―――俺のモビルスーツは使わない。

 ザフト側に一機、何でもいいからモビルスーツの手配をするよう伝えてくれ」

 

「え? どうして?」

 

「……あの機体は非公式なものだ。ザフトに見つかれば接収されかねん」

 

コニールの疑問に対してヒイロはそう答える。

表向きにはヒイロの口上と同意であるが

その本来の意味するところは自らの存在を

ザフトに対して、極力知られない為の配慮であった。

 

「ふーん、そういうことなら……

 じゃあ、次の条件は?……」

  

一つ目の条件に含むものはあるが

コニールたちは一応納得の様子を見せてくれる。

 

「二つ目は俺の名前をザフト側に紹介する際に偽って貰いたい。

 俺もこういう生き方をしている身だ、正規軍に名が知られるのは避けたい」

 

「……うん、別に構わないけど……それじゃあ、ヒイロのこと何て呼べばいいの?」

 

「……そうだな……デュオとでも呼んでくれ」

 

「デュオ?」

 

「ああ、そうだ。作戦行動中はそう呼んでくれ」

 

「……わかった………」

 

どこか遠くの世界で死神の少年が「ヒイロてめえ、この野郎ッ!」と

叫んだような気がしたが、ヒイロは気にせず話を続ける。

 

「そして三つ目、これが最後になるが……俺に褒賞金は要らない。

 作戦が成功しようが、失敗しようがタダでこの依頼を引き受ける」

 

「えっ!! 本当に!?………だけど」

 

「俺からの話は終わりだ。あとはお前たちの好きにしてくれ。

 もし、断るのであれば俺は作戦内容を聞かずにここを去る」

 

コニールの困惑を無視し、話を終わらせ

ヒイロはここまで黙っていたレジスタンスの男へと目を向ける。

ヒイロの視線を受け男は喋り出す。

 

「……おめえの要求については良くわかった。

 だが……全て飲める訳じゃねえ」

 

「…………」

 

ヒイロは黙って男の話を聞く。

 

「二番目と三番目の条件については良くわかった。

 特に三番目なんて願ったり叶ったりだ。

 ……だが、一番目の条件に問題がある」

 

「……というと?」

 

「いくら協同作戦とは言っても、正規の軍隊が

 俺らみたいな連中に快くモビルスーツを貸してくれるわけが無え

 十中八九、無理だな」

 

「……そうか、それならこの―――「けど」――?」

 

「おめえがどうしても自分のモビルスーツを使いたくねえなら

 手が無い事も無い……ちょっと付いてきてくれ。

 ……コニール、お前はもう寝とけ」

 

「で、でも……」

 

「いいから……作戦内容は明日にでも説明してやればいい。

 ヒイ……『デュオ』もそれで構わないな?」

 

律儀なのか、気が早いのかは分からないが

まだ作戦行動中でもないのに男はヒイロの事をそう呼ぶ。

 

「ああ、俺は構わない」

 

「と、そういうことだ。わかったら、さっさと寝ろ」

 

「………わかった。……じゃあヒイロ、また明日な」

 

「……ああ」

 

少し納得のいかない様子であったがコニールは

ヒイロにそう告げると二人の元を離れていく。

それを確認すると男は再度ヒイロに言うのだった。

 

「さて、それじゃあ付いてきてくれ」

 

 

 

 

ヒイロは男の先導でベースから数メートル離れた場へと

連れて来られていた。

そこは周りを断崖に囲まれ、

ヒイロたちが入った所のみ開けているという

まさに何かを隠すには打って付けの場所である。

 

そしてそこには、一機、四つ足のモビルスーツが野ざらしに置いてあった。

ザフトの地上用量産機『バクゥ』に似ているが

装甲の色が橙色と特殊で、まるで誰かの専用機のように見える。

 

「……これは?」

 

「こいつは『ラゴゥ』って機体だ」

 

「ラゴゥ……」

 

「ああ、これはな万が一のためにジャンク屋から買ったモンだ。

 何でも前大戦のときに破壊されたらしくてな、

 砂漠のド真ん中でバラバラの状態のコイツを回収して修理したらしい。

 この機体は2年前ザフトの『砂漠の虎』っていう凄腕パイロットが

 乗っていた折り紙つきの性能だ」

 

ヒイロは以前オーブで共に過ごした男、

アンドリュー・バルトフェルドが、件の『砂漠の虎』であることを知らない。

 

「……コックピットを確認してもいいか?」

 

「ああ、構わねえよ」

 

そう尋ねながらヒイロはラゴゥへと近づいていく。

男もあっさりとそれを了承する。

 

ヒイロはラゴゥのコックピットハッチを開く。

レジスタンスの男はヒイロの側に立ち、それを見ている。

 

「? 二人乗りか?」

 

ヒイロがコックピットを開くと

前後に座席が一つずつ備わっているのが目に入る。

 

「そうだ、と言いてえがそうじゃねぇ。

 後部がメインで、前部がサブになってたはずだったんだがよ

 前部の方は今はもう飾りだ。

 ジャンク屋の奴ら修理するときに一人用に改造しちまったらしい」

 

男の言葉を聞き終えるとヒイロはコックピットの後部座席に座る。

 

「……武装は?」

 

「背部にビームの砲門が二つ、

 頭部に左右両サイドからビームサーベルが出る仕組みで

 それから脚部が格闘戦用のクローになっている」

 

「理解した………―――この機体」

 

「ん? どうした?」

 

「いや、何でも無い。それよりもこのモビルスーツ

 本当に俺が使っても………?」

 

「構わねえよ。買ったはいいがOSがコーディネイター用に組まれてて

 俺らには使いこなせ無かった……これだったら戦車でも買った方がましだったな」

 

(なるほど……通りで………)

 

男は苦笑いしながら言うが

ヒイロはこの機体の欠陥に気付き、考えを巡らせる。

 

この『ラゴゥ』という機体は二人で操縦するからこそ

本来の力を発揮できる機体である。

一人用に改造すれば返って性能の低下に繋がる。

おそらく、改造を行ったジャンク屋もその欠陥に気付き、

彼らのレジスタンスにこの機体を売ったのだろう。

そして、こんな簡単な欠陥など乗っていればすぐに分かるはずだが

どうやら彼らはそれほど、この機体を使っていないとのことであり

その為この欠陥に気付けなかったのだと思われる。

これでは機動力は上だが『バクゥ』とそれほどの違いは無い。

 

それでもザフト軍の新造艦部隊を隠密に調査する為にも

ウィングゼロを使うわけにはいかないヒイロはこの機体を選択するしか無かった。

 

 

 

 

ザフト軍拠点 マハムール基地

 

 

インド洋での戦闘を経たミネルバ一行は

中東のザフト基地マハムールで補給を受けていた。

また、グラディス隊に送られた指令書の中には

ジブラルタルへ行く前にこのマハムール基地を経由すようにと書かれていた。

おそらく、グラディス隊にこの地で何かやって貰いたい事があるという

デュランダルの意図が垣間見える。

そして、

艦長のタリア・グラディス、

副長のアーサー・トライン、

特務隊のアスラン・ザラの3名は

到着して早々にマハムールの作戦司令室へと呼ばれることとなった。

 

 

「ガルナハン、ですか?」

 

マハムールの司令官、ヨアヒム・ラドルから

ガルナハン地球連合軍基地の攻略を依頼され、

アーサーは疑問の声を上げる。

 

「そうです。この中東の連合軍拠点スエズは

 このマハムールと地中海を挟んだ先にあるジブラルタルを

 叩きたいはずなのですが、今はそれが上手くいかない。

 その理由というのが―――」

 

「ガルナハンという訳ですわね?」

 

タリアがヨアヒムの言葉を繋げる様に

声を重ねる。

 

「はい、連合軍はスエズと大陸との間の地域を

 安定させ、供給ライン得なくてはなりません。

 でなければスエズはマハムールとジブラルタルという

 二つのプラント勢力に挟まれ完全に孤立してしまいます。

 そして、連合はそれを成すため豊富な火力プラントの在るガルナハンに

 かなり強引なやり方で一大巨頭邦を築き上げ、

 辛うじてスエズとのラインを保っているという状況です」

 

「それで連合はそのラインを保つのに必死で

 ジブラルタルやマハムールを攻める事が出来ないという訳ね」

 

「その通りです」

 

さらに言えば、現在ユーラシア西側で活動中の反連合を掲げた

レジスタンスなどの抵抗勢力に対しての牽制ともなる意味合いも

このスエズ、ガルナハン間のラインは持っている。

 

「ただ、逆にいえば」

 

ここまでヨアヒムの話を静聴してきたアスランはその口を開く。

 

「そのガルナハンの連合軍基地さえ落としてしまえば

 スエズとのラインが分断でき、結果的に抵抗勢力への支援にもなって

 結果的にスエズの地球連合軍に間接的にも大きな打撃を与えられる訳ですね?」

 

「そういうことです。

 しかし、その事は当然連合側も分かっている。

 故に向こうさんも簡単には落とさせてはくれない」

 

マハムールからガルナハン基地へ攻め入るには

一本道の渓谷を通らなければ進攻する方法は無い。

そして、その地形を利用した連合軍は

 

「渓谷の先にある山岳の中腹に『ローエングリン』と呼ばれる

 陽電子砲を配備して、進軍するこちらを狙い撃ちして来るという次第です」

 

「? それだけならこの基地だけでも落とせるんじゃ……」

 

ヨアヒムの説明にアーサーが疑問を挟む。

確かに陽電子砲は強力ではあるが一度放つとエネルギーが尽き果て

再発射するためにはチャージが必要となる。

つまり一発目さえ凌げばマハムールの戦力でも十分に攻略は可能のはずである。

そんな疑問に対してヨアヒムは

 

「ええ、それだけなら問題はありません。

 ……我々もそう思い、一度攻略を試みましたが

 相手も一枚岩ではありませんでした。

 奴ら砲台の前に陽電子リフレクターを装備したモビルアーマーを配置してまして

 こちらの反撃はことごとく防がれ、その隙に陽電子砲を貰い……

 結果は散々なものに終わりましたよ。

 ……グラディス隊の方々もオーブ沖で同様のモビルアーマーと交戦したと

 報告を受けていますが………?」

 

「ああっ! あの時のっ!!」

 

ヨアヒムの質問に思い当たる節があった様にアーサーは

声を上げる。

 

オーブを出た直後、地球連合軍に強襲を受けた折

ミネルバは『ザムザザー』という陽電子リフレクターを装備した

モビルアーマーと交戦している。

その『ザムザザー』はミネルバの放った主砲『タンホイザー』

ローエングリンと同じ陽電子砲を防ぐという、

まさに鉄壁と称するに相応しい性能を見せてくれた。

 

「では、どうやってガルナハンを攻めるつもりなの?

 同じことを繰り返しても意味は無いですよね……

 私たちに協力を仰いで来たのだから何かしらの

 作戦があるということに成りますわよね?」

 

タリアがヨアヒムに疑問を投げかける。

 

「ご明察です。実は現地のレジスタンスで

 とある強襲作戦を実行する予定なのです。

 そしてその作戦内容は―――」

 

そしてヨアヒムはアスランたちにガルナハン攻略の詳細を伝えるのだった。

 

 

 

 

一夜明けた同じころ、レジスタンスのベースにて

ヒイロもまたコニールから作戦内容の詳細を聞かされていた。

 

そして、その全貌を聞いた段階でヒイロに疑問が生まれる。

 

「……それだけの詳細な情報を持ちながら、

 何故昨夜、連合の基地を偵察していた?」

 

「……昨日言わなかったっけ?」

 

「いや、聞いていない」

 

「そうだったかな?……まあ、いいか。

 えっと……私が昨日偵察に行ったのはある噂を聞いたからなんだ」

 

「……噂?」

 

「うん、真偽のほどはわからなかったけど

 最近になって連合軍の間で新しい兵器が使われるっていう噂が流れたんだ。

 でも昨日は何もわからなくて…………ただの噂ならいいんだけど」

 

「……ザフトはその事を知っているのか?」

 

「うーうん、知らない。何の信憑性もない情報なんか渡せないよ……」

 

「……そうか」

 

「うん……」

 

コニールの話によるとこの作戦には不確定要素が存在する事になる。

今回行われる作戦はコニールたちのレジスタンスが集めた情報に則し行われ

順調に事が運べば高確率で成功するだろう。

しかし、そんな勝ちに繋がる作戦に一つでも綻びが生じれば

連鎖的に全ての成功への道がが潰えてしまう可能性が在る。

 

だが、作戦実行日までもう時間は残されていないため

これ以上連合への調査を行うこともできない。

 

結局、ヒイロもコニールも当日までに出来た事は何もなかったのだった。

 

 

 

 

ヨアヒムより作戦内容を聞かされた後

アスランはミネルバの甲板へと訪れ、

偶然にもシン・アスカと対面していた。

 

 

「無茶苦茶ですよ、あなたは」

 

シンがアスランに声を浴びせる。

 

「つい先日までオーブでアスハなんかの護衛をやってた人が

 いきなり復隊して、特務隊だ、隊長だ何て言われても

 はいそうですかって、納得できるはずが無い」

 

「……確かに君からすれば、俺のしている事は無茶苦茶だろう。

 認めるよ……自分でも時々そう思うからな。

 ……だが、だからだと言うのか?」

 

「え?」

 

「俺の指示に従わず、勝手な行動をするのは」

 

「っ、それは……」

 

「自分だけは正しくて、

 自分が気に入らない、認められないものは全て間違っているとでも言うつもりか、君は?」

 

「そんなことは―――」

 

「なら、あのインド洋での戦闘は何だ?

 君は今でも自分のしたことは間違いじゃないと思っているのか?」

 

アスランの言葉にシンは数瞬想いを巡らせる。

インド洋で虐げられ、殺された人々を目の当たりにしたとき

シンは2年前のオーブでの事を思い出した。

そして彼は感情に強い意志と信念を乗せて答える。

 

「はいっ」

 

シンの眼に揺らぎは無く、しっかりとアスランを見据えている。

 

「…………、……君はオーブで家族を亡くしたと言っていたな?」

 

「殺されたって言ったんです。アスハに」

 

「……まあ、それでもいいさ。

 だが……だから君は考えたっていう訳か?

 あのとき『力』があったなら、『力』を手に入れさえすれば、と」

 

「何で、何であんたにそんなこと……」

 

「自分の非力さに泣いた事のある者は誰でもそう思うさ、たぶん」

 

アスランもまたシンとは違うが戦う事を

躊躇したことで3人の戦友を死なせることになってしまった。

そして、そんなかつての経験があったからこそアスランは言う。

 

「でも……その『力』を手にしたそのときから

 今度は自分が誰かを泣かせる者となる………それだけは忘れるなよ。

 俺たちはまたすぐに戦場に出る

 だがそれを忘れて闇雲に敵を討てばそれはただの破壊者だ。

 ……そうじゃ無いんだろ君は?」

 

「―――っ」

 

「俺たちは軍としての任務で戦うんだ。

 喧嘩をしに行く訳じゃない」

 

「わ、わかってます。それぐらい」

 

「そうか、ならいいんだ。

 それさえ忘れなければ君は優秀なパイロットだ」

 

「え?」

 

アスランはそうシンに告げると甲板をあとにする。

シンはまだ兵士としては若い、

2年前のイザークに少し似ているなとアスランは思う。

また、これからの戦いで成長していく彼の姿を見たいとも思うのであった。

 

                  つづく




第七話(前編)です。


すいません。嘘つきました。この話ではまだ彼らは出会いません。
後編も一緒に投稿しますので、そちらで出会いを果たします。

それから、この作品を読んで下さっている皆様にお詫びいたします。
自分の勉強不足の所為で大変、読みにくい文章になってしまい誠に申し訳ございません。
精進していきますので、今後も御鞭撻のほどよろしくお願い致します。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。