新機動戦記ガンダムSEED DESTINY  -白き翼‐   作:マッハパソチ

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様々に動いていく事象の中で動き始めた者たち、

個々の想いと行動が再び交わるとき、

運命はどう動きだすのだろうか……。




第六話   戦いと擦れ違いの始まり 

敵機を全て撃墜した後、キラはフリーダムを格納庫に降ろし、今後の事をバルトフェルドと話し合っていた。

 

キラによってコックピットを残された敵機であったが

その後、パイロットは皆自爆を謀り、敵部隊の正確な情報は得られないでいた。

分かったのは、

敵の乗っていたモビルスーツが『アッシュ』というザフトの最新機であること

プラント側の何者かがラクスの命を狙ってきたことのみであった。

 

 

「それでヒイロは?」

 

敵部隊に関する推測を聞いた後、

キラは自分たちの囮になった少年の安否を尋ねる。

 

「まだ見つかっていない、

 さっきラミアス艦長と一緒に捜索したがな

 ……………しかし」

 

「しかし?」

 

「あの少年の遺体すら見つからん、本当に影も形もない

 …………どうにも、死んでいるとは考えにくい、」

 

「それじゃあ!」

 

「ああ、おそらく生きている

 ……どこに行ったのかは分からんがな」

 

「そう、ですか……よかった…本当に」

 

自分にまた戦う意志を持つ切っ掛けをくれたヒイロの生存に安堵する。

 

 

「……キラ」

 

「ラクス?……『それ』は?」

 

先ほどまで子供たちの元にいたラクスがキラたちのところへ歩いて来る。

その手には封筒を持っている。

 

「それが、カガリさんの使いの者という方がいらして

 この封筒をキラに渡してほしいと……」

 

「カガリが?…何だろう?」

 

ラクスから渡された封筒を開封する。

中には一枚の手紙と指輪が入っていた。

 

キラは手紙を読み上げる。

 

「『キラ、済まない―――』」

 

そこには

 

オーブが世界安全保障条約機構に加盟し正式な地球連合の一員になること、

 

それに伴いカガリが許婚であるユウナ・ロマ・セイランと結婚すること、

その為に今、キラたちの元へ直接話に行くことができない事への謝罪、

 

そして、最後に同封されている指輪、アスランがプラントに発つ前に

カガリにくれた指輪を、アスランに返しておいて欲しいと綴られていた。

 

 

現在マリューはこの国を出る為、

 

かつての乗組員であった

操舵士のアーノルド・ノイマン、

CIC電子戦担当のダリダ・ローラハ・チャンドラII世、

整備士のコジロー・マードック

の3名を合流させ、

フリーダムと共に隠してあったアークエンジェルの出航準備を行っていた。

 

ラクスの暗殺を仕向けた者のいるプラントに移住するなど以ての外であるが

オーブがコーディネイターを排斥する以上、

コーディネイターである、キラやラクス、バルトフェルドはもうこの国にはいられない。

 

 

「結婚!?カガリさんが?」

 

手紙を読み終えたキラが、

カガリがセイラン家と結婚することを伝えると、マリューは驚愕を露わにする。

 

「それも、セイラン家とだなんて、

 セイランはオーブ首長の中でも大西洋連邦よりの人間よ

 もし、このまま結婚が進めば………」

 

オーブは世界でも数少ないナチュラルとコーディネイターが共に暮らせる中立国であったが

先日のユニウスセブン落下テロを受け、大西洋連邦に同意、世界安全保証条約機構に加盟と

コーディネイターの排斥が進んでいる。

 

オーブ代表であるカガリ・ユラ・アスハは最後まで中立を貫こうと説得したが

他の首長たちの意見を変える事が出来ず、敢え無く説得は失敗に終わり、今に至る。

その首長の中でも特にカガリの意見を否定したのがセイランであった。

 

そして今、カガリがセイランと結婚すれば、益々セイラン家の権威増長を許すことになり、

前代表でありカガリの父であった、

ウズミ・ナラ・アスハの掲げたオーブの理念は完全に埋没されてしまうであろう。

 

しかし、理念を掲げたところで今のカガリにはそれを成し得るだけの

政治手腕はなく、現状に下る事しかできなかったのも事実である。

 

 

「それに、彼女、アスラン君と……」

 

そして、この結婚を彼女が心から望んでいる訳もない。

 

アスランとカガリ、普段は隠しているつもりだろうが

二人がお互いにお互いを意識している事は傍から見て一目瞭然である。

 

「はい、それでマリューさんにお願いが、…――――ということなんですけど」

 

「えっ!! ……でも、それは……」

 

「はい、ですけどもうこれしかないと思うんで……」

 

「……そうね、わかったは

 ちょっと寄り道になっちゃうけど仕方がないものね」

 

キラはマリューに耳打し、とある計画を伝えるのだった。

 

 

 

 

カガリ・ユラ・アスハとユウナ・ロマ・セイランの

結婚式は恙無く進行し、終盤へと差し掛かっていた。

 

 

「――この婚儀を心より願い、

 又、永久の愛と忠誠を誓うのならば

 ハウメアはそなたたちの願い聞き届けるであろう

 今、改めて問う、誓いし心に偽りはないか?」

 

「はい」

 

婚儀を取り仕切る牧師の詞にユウナは即答するが

 

「………………」

 

カガリはその誓いに対し何も答えない。

当然である、彼女はこの結婚をあらゆる面で望んでいない。

今彼女の頭に浮かぶのは、アスランとの思い出と父ウズミの顔であるが

それに加えてもう一つ、

 

『俺の家族はアスハに殺されたんだ、

 国を信じてあんたたちの理想とかってのを信じて、

 そして最後の最後に殺された』

 

『この国の正義を貫くって……あんたたちだって、

 あの時、自分たちのその言葉で誰が死ぬことになるのか、ちゃんと考えたのかよ

 何も分かってないような奴が分かったようなこと言わないで欲しいね』

 

ミネルバで聞かされたシン・アスカの言葉が甦る。

彼の言葉はカガリに現実を突き付け、

そしてこの言葉がオーブを再び焼かせてはいけないとカガリに教えた。

 

(……すまないな、キラ、アスラン……)

 

弟と自らの想い人に心の中で謝罪を述べ

もう仕方がない、こうするしかないと

カガリが誓いの言葉を口にしようとしたとき、

 

 

「駄目です! 軍本部からの追撃間に合いません!!、避難を!!」

 

 

式場の来賓席側から声が上がり

その声を聞いた来賓客たちが我先にと式場から駆けだして行く。

 

 

その直後、飛来する

 

「フリーダム!? キラっ!?」

 

「ひっ、う、うわぁぁ」

 

 

突然の来訪者に怯えたユウナがカガリを置いて逃げる。

 

 

 

 

そうこうしている間にフリーダムはカガリをその手に包み込みその場を後にするのだった。

 

 

 

 

フリーダムのカガリ強奪から数時間後

 

そんな状況を知らないアスラン・ザラはミネルバとの合流を果たすために

モビルアーマー形態のセイバーでオーブの領域内に接近していた。

 

「オーブコントロール、こちら貴国へ接近中のザフト軍モビルスーツ

 貴国に入港中のザフト艦、ミネルバとの合流の為、入港を許可されたし」

 

ミネルバが駐留しているはずの軍港まであとわずかといったところで

オーブ港の管制室へ入港許可の入電を入れるが、

 

「? オーブコントロール、聞こえるか?、オーブコントロール……」

 

応答がない。

 

それどころか、

 

「っ、ムラサメ? ――っ! ロックされた!?」

 

セイバーのセンサーがモビルスーツの接近を告げ、

目の前にオーブの最新モビルスーツであるムラサメがセイバーと同様に

モビルアーマーの形態で、2機接近してくるのが確認できる。

挙句には、こちらを敵機としてロックオンしてくる始末。

 

「オーブコントロール! これは一体どういうことだ!?」

 

再度オーブに通信を入れるが、当然返答はない。

 

その間にもムラサメからの攻撃が開始され、

数発の誘導ミサイルがセイバーに向かって放たれる。

追尾してくるそれををかわしながら、機関銃でミサイルを撃ち落とす。

 

「オーブコントロール! 何故撃って来る?

 こちらに貴国攻撃の意志は無いっ!」

 

『何を寝ぼけた事を言っている?

 オーブは世界安全保障条約機構に加盟している。

 プラントは既に敵勢国家となった』

 

「っ! 」

 

『我が軍はまだザフトと交戦状態ではないが

 入国など認められる訳など無い』

 

ムラサメのパイロットからの通信で

アスランはこのとき初めてオーブが地球連合に就いた事を知る。

 

「大西洋連邦との加盟に合意しただと?

 ……カガリは何も出来なかったのか?」

 

『それに、どういう作戦かは知らないが、

 既に出航したミネルバを出汁に使うなど以ての外だ。

 あまりオーブ軍を舐めるな』

 

「っ! ミネルバが、いない?」

 

この遣り取りをしている間にも相手機から次々と攻撃が仕掛けられる。

的確にセイバーの背後を取り、機関銃やビームを浴びせてくる。

 

「ええいっ、クソっ!」

 

アスランはセイバーをモビルスーツ形態に変形させ、

迎撃するべくビームライフルを構える。

相手方もすかさずムラサメを変形させ銃をこちらに向けて来る。

 

相手のうち一機が先制してビームを放つ、

アスランはこれを冷静に読み切りシールドで防ぎつつ

相手機のビームライフルを狙い、ビームを撃つ。

 

相手の右腕部分がビームライフルごと破壊されるのを確認する事無く、

ビームサーベルを抜き、もう一機へ急接近を仕掛けムラサメのウィング部分を切り落とす。

推進力を失った相手機が海面へ落ちて行く。

 

ムラサメ2機を一蹴、無力化し、

アスランはセイバーを再びモビルアーマー形態へ変形させ最大千速で

オーブを後にする。

 

 

「ここから、ミネルバが行きそうな所と言えばカーペンタリアぐらいか」

 

地球にも少ないながらも、ザフトの拠点基地は存在している。

そして、オーブから最も近い地球拠点のザフト軍基地がカーペンタリアである。

 

 

アスランは様々な疑問を抱き、セイバーの進路をカーペンタリアへ向けるのだった。

 

 

 

 

ザフト軍 カーペンタリア基地

 

 

ミネルバはオーブ沖での戦闘を

インパルスのパイロット、シン・アスカの活躍により

命辛々乗り切り、無事カーペンタリアへの入港を果たしていた。

 

 

オーブにおいて満足いく整備が行われないまま出航したミネルバは

先の戦闘の際、さらなる損傷を負い、

現在急ピッチで艦、モビルスーツの整備、また物資の補給行っている。

また、グラディス隊は別名が下るまでの間、カーペンタリアにて待機となり

ミネルバクルーたちは一時の休息を噛み締めていた。

 

 

「でも、もうすぐミネルバの整備終わるんでしょ?」

 

「そうみたいね、…まっ、これからどうなるのか、全然わかんないけどね」

 

「でも、いつ出航の命令が出るか分かんないじゃん。

 ねえ、お姉ちゃん? 買うものそれだけで本当によかったの?」

 

メイリン・ホークは姉のルナマリア・ホークとの買い物の帰りである。

 

「ていうか、あんたこそ、そんなに買ってどうすんのよ?」

 

メイリンの持つ買い物袋の中には、姉が買った3倍以上もの化粧品などの美容用品が入っている。

 

「いいじゃん別に……」

 

「何が何でそんなに必要なのか知らないけど、」

 

姉の言葉に対しメイリンは姉に聞こえないようそっと呟く。

 

「……悪かったわね、……私はお姉ちゃんとは違うもん」

 

ザフトレッドであり容姿端麗な姉のことを尊敬しつつも

メイリンはルナマリアに対し、どこか劣等感のようなものを感じてしまう。

そんな事を考えながら歩いていると、

 

「あっ!!!」

 

「どうしたのお姉ちゃん?」

 

突然ルナマリアから驚いたような声が上がる。

 

「今、ミネルバの方に見なことないモビルスーツが飛んで行ったの

 ほらメイリン、急ぐわよ」

 

「お、お姉ちゃん、ちょっと待ってよ。

 手を引っ張らないで」

 

そうして姉妹はミネルバの方へ走って行くのだった。

 

 

シンもまたハンバーガーを食べながら基地内を闊歩し何気なく空を見上げると

見た事のない赤色のモビルスーツが整備中のミネルバの方へ飛んで行くのを見る。

 

「? あれは? ……一体誰が?」

 

シンはそう呟きミネルバの方へ駆けだそうとしたそのとき、

 

「――うわっ!」

 

前方から歩いてきていた整備服を着た

小柄な少年と肩がぶつかってしまう。

 

「っと、悪い、よそ見してた。怪我とかしてないか?」

 

「………いや、大丈夫だ」

 

その少年は、肩から整備工具でも入っているのだろうか

大きめのショルダーバッグを下げている。

顔はつばつき帽子を深く被っている為確認できない。

 

「……この後も忙しい、もう行くぞ」

 

「あ、ああ」

 

少年は歩き出し、シンの元から離れて行く。

ザフトにはシンやルナマリアなど若くして入隊するものも多いため、

シンは特に何も気にせず少年を見送り、自らもミネルバへと急ぐのだった。

 

 

シンがミネルバ内のドッグへ行くと

先ほど見たモビルスーツの周りに人が集まっているのが分かる。

その中にルナマリアとメイリンを見つけ、二人に近づき尋ねる。

 

「何これ? どうしたの?」

 

「さあ? 私たちも今来たばかりで……」

 

「あ! お姉ちゃん、降りて来たよ」

 

メイリンの声がモビルスーツからパイロットが降りてきた事を教えてくれる。

シン、ルナマリアはともに降りて来る人物に顔を向ける。

パイロットの顔は未だヘルメットで確認することは出来ないが

その人物は紫色のパイロットスーツを着ており、また手にはアタッシュケースを持っている。

そして最も目を引くのは胸に付いている特務隊の証である『。

 

「ルナ、あれって……」

 

「ええ、『フェイス』の称号を持ってるなんて一体何者なのかしら?」

 

シンとルナマリアが小声で話している間に

そのパイロットはヘルメットを脱ぎその顔を晒す。

 

「――っ! あんたは」

 

「! アスランさん」

 

それはオーブで数日前に別れたアスラン・ザラその人であった。

 

「こちら特務隊『フェイス』所属、アスラン・ザラ。乗艦許可を」

 

 

 

 

 

アスランはルナマリアに案内されミネルバの艦長タリア・グラディスと面会していた。

 

 

艦長室に案内される途中

ルナマリアにミネルバやオーブの現状についての大間かな話を聞く。

ミネルバがオーブを出た途端、地球連合の艦隊に待ち伏せされた事

 

オーブ代表カガリ・ユラ・アスハが政略結婚した事

 

このとき、初めて、カガリが結婚した事を聞いたアスランは驚愕を露わにするが

 

直後聞かされた、カガリが結婚式の途中で何者かに攫われた話を聞くと

驚愕は、混乱へと変化しアスランの胸中を渦まくのだった。

 

 

 

タリアにアスランがフェイスとして復隊したこと、

デュランダルに言われ、ミネルバと合流した事を話した後

アタッシュケースから

タリア・グラディスの『フェイス』への任命書及び記章、

そしてデュランダル直々の指令書を手渡す。

 

「それで貴方、この命令内容について何か聞いてる?」

 

「いえ、自分は聞かされておりません……」

 

「そう、……中々 面白い内容よ」

 

タリアが読んだその指令書には

ミネルバが復帰次第、イベリア半島にあるザフト拠点ジブラルタル基地へ移動した後

中東地域の連合軍基地スエズの攻略を行っている駐留軍を支援せよとの事が書いてあった。

 

スエズ運河に位置するスエズ基地は連合にとって物流の拠点となっている。

 

ザフトのジブラルタル基地とスエズ基地は地域的にも近く、

開戦してから睨み合いが続いている。

確かに、スエズはジブラルタルにとって大きな問題となっているが

カーペンタリアからジブラルタルまでは距離もある上

ミネルバは本来、宇宙用戦闘艦である。

ジブラルタル近域のユーラシアの西側では

現在、大西洋連邦からの独立を叫ぶ一部の地域で紛争が起き、

今地球上で最も戦禍の激しい地域となっており、

地上用戦艦ではない向かわされるのには疑問が浮かぶ。

 

何故デュランダルがこの様な命令を下したのか

その思惑はアスランにもタリアにも推し量る事は出来ない。

 

「まあ、いいわ、上の命令には従わなければならないもの。

 貴方も下がっていいわ。出航まで時間は無いけれど、これからの準備をしておいて」

 

「はい、失礼します。あの………艦長は」

 

タリアに頭を下げ、艦長室を後にしようとしたところで

アスランは尋ねる。

 

「何かしら?」

 

「艦長はオーブの事について何かご存じないでしょうか?

 ……自分は何も知らなかったものですから」

 

「ああ、今大騒ぎですものね、何でも代表が攫われたとかで

 オーブ政府は隠したがっているけれど、

 彼女を攫ったのは、あのフリーダムとアークエンジェルという話よ」

 

「っ! (………キラが? ……)」

 

「何がどうなってるのか、こっちが知りたいくらいだわ」

 

「……ありがとうございます」

 

アスランはもう一度頭を下げると艦長室から立ち去るのだった。

 

 

 

 

数時間後、ミネルバがボズゴロス級ニーラゴンゴを同行させジブラルタルへ出航するのだが

近海からこれを見ている艦隊がある。

艦の名前はJ.P.ジョーンズ、この艦には現在、ある部隊が乗っている。

 

地球連合軍所属第81独立機動部隊『ファントムペイン』

その部隊の一つであるロアノーク隊の面々がこの艦に乗艦している。

彼らこそアーモリ―ワンよりザフトの新型モビルスーツを強奪した部隊である。

 

ロアノーク隊はとある組織の命令でミネルバ討伐の任についている。

標的がカーペンタリアに入ったという情報を受け、この艦に合流し

インド洋にて待ち構えていたのである。

 

 

「ようやく会えたな、……アウル、ステラを呼んできてくれ」

 

仮面をつけた男、この部隊の隊長であるネオ・ロアノーク

彼はブリッジからミネルバを確認すると

彼の後ろにいた二人の少年内、水色の髪の少年アウル・二ーダに声をかける。

 

「あいよー、どうせまた海でも眺めてんだろ」

 

そう言ってアウルはブリッジを出て行く。

それを見送ったあと、

今度はもう一人の少年スティング・オークレーに話しかける。

 

「スティング、お前も準備を急げよ、

 ミネルバのオーブ沖海戦のデータは見ているな?」

 

「ああ、……けどよ、あんな奴ら俺らだけで充分だぜ。

 それに今回はあんたも出るんだろ?

 何で増援を付ける必要があるんだ?」

 

「まあそう言うなって、念には念をっていう言葉があるだろ?」

 

「まっ、そういう事にしといてやるよ」

 

そうは言うがネオは自分たちだけではミネルバは落とせないと考えており、

そのため近くで建設途中の地球連合軍基地から

ウィンダム28機とダガーL10機を手配していた。

 

「さて、今回こそキッチリ仕留めてやるからな“子猫ちゃん”」

 

ネオはミネルバをそう揶揄すると自らもブリッジから出て行くのであった。

 

 

 

 

キラたちの元から去ったヒイロ・ユイはカーペンタリアへと潜入し

この世界に関する情報の補完と必要な物資を入手

その後基地から脱出すべくウィングゼロを隠した場所へと移動していた。

 

 

気付かれないよう海中から基地の反対側へウィングゼロで接近し、

カーペンタリア近辺の森林地帯に機体を隠した後、

基地に侵入、整備士の作業着を拝借し、情報と物資を奪っていく。

 

当初、キラやラクスたちを襲った部隊についての情報を得る為

オーブから最も近かったザフトの拠点である、

このカーペンタリアが襲撃者を送り込んだと予測したのだが

結果は何もわからずに終わった。

 

カーペンタリア基地から襲撃部隊に関する何らかの痕跡を発見した場合は

基地を破壊する予定であったが、何もわからない以上、手出しは出来ない。

 

ヒイロはかつて自分がいた世界でOZの拠点ニューエドワーズを攻撃した際

冷静さを欠いた行動により、

コロニーとの和平推進派であった人物を誤って殺してしまっている。

 

確かにラクスを襲ったのはコーディネイターであったが

それでも何の確証もない破壊を今のヒイロは絶対にしない。

何が敵か、誰が敵か、何処が敵か、これらを見誤れば

かつての様な過ちを繰り返してしまうだけである。

 

 

(さて……これからどうする?)

 

戦う事を決めたとはいっても

敵が誰なのか、何処にいるのか全く掴めていない。

現時点でこの世界におけるヒイロの敵は

キラたちへの襲撃を指示したものである。

 

カーペンタリアから何も出てこなかった以上

別のザフト基地に潜入を試みるべきだが

闇雲に潜入したところで今回と同じ結果になっては意味は無い。

 

(最も有力な情報を持つザフト拠点を特定し、探る必要があるな)

 

ヒイロはオーブ滞在時、この世界の大間かな地理を得ていた為

カーペンタリアに潜入出来た訳だが、

ここで得た情報から地球に存在するザフト拠点の数はカーペンタリアを含め8か所

その中で最も有力性の高い拠点を調べる必要がある。

もう一度データを視返すためにも一刻も早く基地を脱しゼロの元へ急ぐ。

 

その道中、ヒイロはあるザフト兵の少年とぶつかってしまう。

 

「うわっ! っと、悪い、よそ見してた。怪我とかしてないか?」

 

「………いや、大丈夫だ」

 

黒髪に赤い瞳、赤い軍服を着た少年。

年若いとはいえ相手は軍人である、ヒイロは瞬時に、警戒の色を強める。

 

「……この後も忙しい、もう行くぞ」

 

「あ、ああ」

 

しかし、警戒とは裏腹にザフト兵の少年は

あっさりとヒイロのことを通してくれる。

 

ヒイロは迅速に少年兵の元を離れ、基地を脱し、

無事ゼロの元へと帰還を果たす。

 

ゼロのコックピットへ入ると

早速手に入れた情報をゼロへインプットしていく。

 

(この世界の地球及び宙域に存在する ザフト、地球連合の拠点位置入力――完了。

 ザフト及び連合で使用されている兵器、モビルスーツに関するデータ――完了)

 

データの入力を終え、

今後の行動の為、地球に存在するザフトの拠点から

次の標的となるものを検索する。

 

(……ここだな)

 

そして見つける。

地上のザフト拠点の中でカーペンタリアと肩を並べる拠点

 

「ターゲット、ザフト軍拠点……ジブラルタル」

 

 

 

 

「コンディションレッド発令、コンディションレッド発令

 パイロットは搭乗機にて待機せよ」

 

ミネルバ、ニーラゴンゴの進行方向右舷より突如出現した地球連合軍。

メイリンがパイロット全員に戦闘配備を通達する。

その後、タリアの指示がブリッジ内に飛ぶ。

 

「メイリン、ニーラゴンゴとの回線を繋げて。

 バート、敵機の種類と数は?」

 

「はい、熱紋照合、ウィンダムです数『30』」

 

「30!?」

 

「それと内一機はカオスです!」

 

「っ!!あの部隊だというの!?

 一体どこから?……付近に母艦は?」

 

「確認できません!」

 

「どういうこと? 近くに基地でもあるっていうの?」

 

「! また、ミラージュコロイドじゃ!?」

 

「アーサー、海でそれは無いでしょ。在り得ないわ」

 

副官のアーサー・トラインの見当違いな言葉を諌める。

 

「まあ、何にせよ、戦闘は避けられないわね。

 ――ブリッジ遮蔽! 対モビルスーツ戦闘用意!」

 

タリアの号令を下にミネルバのブリッジが遮蔽され

下段にある戦闘指揮所へとスライドする。

 

『艦長』 

 

スライドが完了したところで、アスラン・ザラから通信が入る。

 

「何?」

 

『地球軍ですか?』

 

「そうよ、既に戦闘は避けられないわ

 ……貴方はどうするの? 私には貴方に対する命令権は無いわ」

 

特務隊フェイスはその行動に自由が認められており

出撃するもしないも、本人の意志により決める事ができる。

例え、同じフェイスであっても命令、強制することは出来ない。

 

『……私も出ます』

 

「いいの?」

 

『はい、確かに指揮下にはないかもしれませんが

 今は私もミネルバの搭乗員です。

 残念ながら私もこの戦闘は不可避と考えます』

 

「…そう、それなら、出撃後の戦闘指揮を御任せしたいわ」

 

『…わかりました』

 

 

 

 

「何だ? あの機体は?」

 

スティングはコックピットの中で呟く。

 

今さっき、ミネルバからモビルスーツの出撃が確認されたが

インパルスの他に見慣れぬ機体がある。

 

「へっ、あんなもの」

 

スティングはカオスを先行させ単独で未確認機へと接近する。

そこへネオからの通信が入る。

 

『おいおい、スティング、あまりいきり立つな。

 作戦はちゃんと理解してるんだろうな?』

 

「分かっている、敵を引きつけときゃいいんだろ?

 ちょっと、からかってやるだけだ」

 

『たく、しょうがないな。相手の性能は未知数だ油断するなよ』

 

「余計な御世話だ、おっさん」

 

『お、――』

 

通信を一方的に切り、スティングは敵機に攻撃を仕掛けていく。

 

 

 

「やれやれ、……さてと、こちらも行きますか

 覚悟しろよ、ザフトのエースくん……。

 ウィンダム隊、連携して敵を足止めする、用意はいいな?」

 

『『『了解!』』』

 

「それからアウル、ニーラゴンゴは任せるぞ」

 

『わかてるって』

 

ネオが各員に指示を伝える。

 

今回のミネルバ討伐の作戦はこうである。

先ず、ネオ、スティングを含む30機で空中から攻め

インパルスを母艦から遠ざけ、撃墜、もしくは足止めを行う。

 

未確認機がいたことは予想外であったが、

ネオは想定の範囲と判断し、作戦を継続する。

 

次に、海中よりアウルの駆るアビスで

ミネルバの右側に位置するニーラゴンゴを叩き

最後にミネルバの左舷から別動隊のダガーL10機で強襲

手薄になった本丸を潰す。

 

 

既に数機落とされているがインパルスは、どんどんと此方に攻め入ってくる。

一方の未確認機はカオス相手に善戦、どころか、ややスティングが押されぎみであるが

徐々にミネルバとの距離は開いている。

 

作戦は順調に進行している

 

 

―――はずだった。

 

 

インパルス、未確認機がミネルバとの間に一定の距離ができたとき

ネオがアウル、ダガーL別動隊へ連絡を入れる。

 

「アウル、頃合いだ、頼んだぞ」

 

『あいよー、任せとけ』

 

「ダガーL隊、頃合いだ作戦を実行してくれ」

 

『――――』

 

「? ダガーL隊? 応答しろ、ダガーL隊!」

 

『――――』

 

「おいっ! ……くそっ、どうなっている?、

 …―――ジョーンズ! こちらロアノークだ。

 ちゃんと別動隊は出撃させたのか!?」

 

『こちらジョーンズ、戦闘開始直後に全機出撃を完了させています』

 

(馬鹿な、では何故通信が開かない?……)

 

ネオはジョーンズとの回線を閉じ、再度、別動隊へと入電する。

 

「ダガーL隊! 応答しろ! ダガーL隊!

 ……ちぃ、このままでは」

 

しかし、終ぞ別動隊が通信に出る事は無かった。

 

 

 

インド洋、ミネルバから左舷方向に位置する海域

そこには本作戦の要であったはずのダガーLの残骸が漂っていた。

 

 

 

 

数分前

 

 

ミネルバとファントムペインが交戦を行っている海域周辺に一つの機影があった。

 

ミネルバへ強襲の為、移動を開始していたダガーL別動隊は偶然にも

これに遭遇してしまう。

 

「何だ!? あの機体は?」

 

ダガーL隊の小隊長が突然姿を現した機体に驚きの声を上げる。

その背に白い翼を配した機体がこの海域を抜けようとしていた。

そしてその進行方向は彼らと彼らの母艦が待機している位置に繋がる。

 

「まさか! ザフトの連中こちらの作戦に気付いて!

 ……だが、あんな機体の情報は……」

 

考えを巡らせてる間にも、それはこちらへと近づいて来る。

 

「とにかく迎撃だ、……母艦をやらせる訳にはいかん、

 …―――各員に通達、前方のモビルスーツを迎え撃つ

 敵は一機だ、全員で取り囲め!」

 

『『『了解っ!』』』

 

 

 

 

ザフト拠点ジブラルタルへと進路を取っていたヒイロは

ウィングゼロの進行方向にモビルスーツ群を捉える。

 

ヒイロは現在この海域近辺で開始されているザフトと地球連合との戦闘に気付き、

それを避けるべくルートを大きく逸らし移動していたが、

どうやらこのルートもハズレであったらしい。

 

既に相手方もこちらを捉えている様子で、このままでは接触は避けられない。

 

(……素直に通してくれればいいが…)

 

しかし、そんな都合の良い現実など存在しない、

相手はウィングゼロの四方八方にモビルスーツ展開してくる。

 

この瞬間、ヒイロは相手機を敵機として認識する。

 

「敵モビルスーツを地球連合のダガーLと確認」

 

カーペンタリアで仕入れたデータから敵機を特定し

左右の翼から2挺のバスターライフルを取りだし、構える。

 

「―――戦闘レベル、ターゲット確認、…排除開始!」

 

右腕にあるバスターライフルのトリガーを弾き、

撃ち終えると即座に左のトリガーを、

先制攻撃にて、それぞれ別方向にいた敵機を2機まとめて吹き飛ばす。

 

上下左右あらゆる方向から敵機がビームをこちらに向けて浴びせてくるが、

上に、下に、右に、左に、機体を高速で移動させ全攻撃を掻い潜る。

その過程でバスターライフルを放ち、さらに3機の敵機を撃ち落とす。

 

攻撃が当たらず焦れた敵の一機がビームサーベルを抜き、切り掛ってくる

敵機がビームサーベルを振り抜いた位置から

翼を羽ばたかせ上方に回避、そのまま敵機を海面に蹴り落とす、

敵機が海面に到達するよりも早くトリガーを弾き、破壊する。

 

 

「…残り4機」

 

ヒイロは残る敵機を確認する。

戦闘状況が開始されて2分にも満たない間に

敵の数は既に過半数以下となっている。

 

そんな圧倒的優位な状況であっても

ヒイロが気を抜くことは決してない。

 

残りの4機が一斉にビーム、ミサイル等の攻撃を放ってくるが

ウィングゼロに届く事は無い。

 

その後も、敵の攻撃を的確にかわし、バスターライフルで撃墜していく。

 

そして余りにも一方的な展開の中、終に残り一機となる敵モビルスーツ。

 

一機になっても未だビーム撃ち続けているが

 

「余裕で避けきれる」

 

当然当たらない。

 

ヒイロはウィングゼロを急接近させ敵機の眼前まで移動すると

バスターライフルの銃口をコックピット部に突き付け

 

「…終わりだ」

 

トリガーを弾く。

0距離からバスターライフルの直撃を受けたダガーLは跡形もなく消し飛んだ。

 

「敵ターゲットの殲滅を確認」

 

敵の排除を確認しバスターライフルを納め。

再びジブラルタルへ向け進路を取り、迅速に現海域を離脱するのだった。

 

 

 

 

戦闘終了後 ミネルバ:モビルスーツハンガー

 

 

地球連合の襲撃を辛くも退けたミネルバクルーであったが

その代償は余りにも大きかった。

 

海中より接近してきたアビスによってニーラゴンゴが沈められたのである。

ミネルバからルナマリアとレイ・ザ・バレルのザクを救援に向かわせたが

抑えきる事が出来ずに終わった。

 

カーペンタリアを出たばかりだというのに戦力の二分の一を失うという事態となった。

 

 

そして問題はそれだけではなかった。

 

 ―――ッ

 

モビルスーツハンガーに乾いた音が鳴り響く。

アスラン・ザラがシン・アスカの頬を張ったのである。

 

「っ、…殴りたいのなら、別に構いませんけどね。

 けどっ、俺は自分がした事を間違ったとは思いませんよ」

 

このインド洋での戦闘指揮はアスランに任されていたが

シンはアスランの指示を聞かず、独断専行をする。

ウィンダムの部隊に囲まれ、さらには、近くの島に待機していた

強奪された最後の機体であるガイアに襲撃される。

ガイアはインパルスとの交戦中に何故かに撤退してしまう。

 

そんな中、シンは島にある建設中の地球連合軍の拠点基地を発見する。

 

強制労働を強いられていた現地民がいきなりの戦闘に逃亡しだすが

それを阻止するため地球軍の兵士が彼らを銃殺する。

 

その光景を目の当たりにしたシンは激昂し、その基地をインパルスで破壊する。

 

戦闘状況が終わり、戻って来ないシンを見に来たアスランに制止を受けるまで

その破壊行動を続けたのであった。

 

 

「あそこいた人たちだって、あれで助かったんだ」

 

 ―――ッ

 

再度アスランがシンの頬を叩く、

確かにシンが連合の基地を壊したことで

現地の人たちは苦痛から解放されたが

シンはあくまでザフトの軍人である、

ましてや、フェイスの様な自由な権限持っている訳でも無い。

 

今回のシンに課せられた命令は敵からミネルバ、ニーラゴンゴを守る事であって

現地の苦しんでいる人たちを助ける事ではなかった。

 

「戦争はヒーローごっこじゃない!」

 

アスランからの叱責が飛ぶ。

 

戦闘中、ニーラゴンゴが襲われているとミネルバから

通信が入った時には、もう遅かった。

シンが独断で進攻して行くのを止めるため

カオスとの戦闘を継続しながら

シンを追いかけてアスランもまた艦から離れてしまっていたからだ。。

インパルスとセイバー、防衛の要であった2機が母艦から距離を離し、

隙を作ってしまった事こそがニーラゴンゴが沈められた最大の要因であったのだ。

 

「自分だけで勝手な判断をするな!

 力を持つ者なら、その力を自覚しろ!」

 

シンのした行いは多くの人を助けたかもしれないが

その実、多大な犠牲の上に成り立った事であった。

 

 

 

 

ユーラシア西部・ガルナハン山岳地帯

 

 

その夜、レジスタンスの少女、コニール・アルメタは

ジープを走らせ、追ってくる連合のダガーLから逃走していた。

 

反連合のレジスタンスに所属しているコニールは

現在連合によって虐げられているガルナハンの街を解放するために活動している。

そして今夜、ガルナハンを解放するに当たっての最大の鬼門である場所に

単独で偵察に出た際、不運にも連合軍に見つかってしまい今の状況に至っている。

 

 

「ちくしょう、どこまで追って来るんだよ!?」

 

コニールがモビルスーツから逃走を開始してから

既に30分以上が経過していた。

今まで逃げ通せてきたのは地の利があってこそであった。

しかし、このままではいずれ追い付かれてしまう。

さらに敵はこちらの事など御構い無しに攻撃を仕掛けて来る。

 

(どうする? どうしたら?)

 

危機的状況の中、思考を巡らせるが気が動転して何も思い浮かばない。

 

丁度そのとき

 

「―――ッ!」

 

車が唐突に動かなくなる。

 

「何で、何でこんなときにっ!」

 

コニールは何度も、何度も、アクセルを踏むが一向に動く気配は無い。

 

そして、そうこうしている間に敵機が目の前に現れる。

 

「――――っ」

 

コニールは恐怖のあまり悲鳴さえ上げられない。

 

少女へと向けられる銃口。

間近に迫った死の恐怖に耐え切れず、目を瞑り、腕で顔を覆う。

 

(もう……駄目、………誰か――)

 

少女には、もう自らの最後の時を迎え入れるしかなかった。

 

 

 

――――しかし 

 

 

 

(…………、……?)

 

 

その時はいつまでも訪れる事は無い。

 

コニールは恐る恐る眼を見開く。

 

「っ、……何、………これ?」

 

開いた少女の瞳に映ったのは、

 

白き翼を広げたモビルスーツが

まるで彼女を護るかの様に背を向けている姿だった。

 

「……天、使?」

 

 

              

                    つづく

 




第六話です。

凄く長くなってしまいました、グダグダです。
今回も前編・後編に分けたかったんですが切りよく別ける事が出来ませんでした。
自分の技術不足です。申し訳ありません。

次回はとうとうミネルバクルーとヒイロが対面します。

・連絡
 今月末に引っ越しのため、18日からネットが使えなくなります。
 しばらくの間、投稿、感想への返信ができなくなってしまうので、ご了承ください。
 ネット環境が整い次第、また更新をしていきたいと思います。

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