新機動戦記ガンダムSEED DESTINY  -白き翼‐   作:マッハパソチ

5 / 13


期待、嫉妬、喜び、悲しみ、怒り、焦り、憎しみ
さまざまな感情に左右され、人は何かを選び取っていく……。


第四話   選択

「核攻撃をっ!?」

 

アスランはユニウスセブン落下テロを受け、

今後プラントがどう行動していくのかをデュランダルに確認するため、

形式上、オーブ代表カガリ・ユラ・アスハの名代『アレックス・ディノ』としてプラントへと渡航していた。

だが、その最中地球連合軍のプラントへの攻撃が始まり待ち惚けを食らっていた。

 

その間に『ラクス・クライン』と出会っているのだが、ここでは割愛する。

 

連合軍が撤退した後、ようやくデュランダルと対談の席に漕ぎ着けたが

デュランダルに、プラント軌道宙域で行われた戦闘状況を

初めて伝えられたアスラン・ザラは驚愕を露わにする。

 

「そんな……、まさか………」

 

「と、言いたいところだがね。だが事実は事実だ」

 

言いながらデュランダルはオープンチャンネルを開き、

今現在、プラント中で報道されているニュースを点ける。

そこには、交戦する両軍のモビルスーツと

核ミサイルで武装した連合軍、

それを阻止するザフト軍の光景が映し出されていく。

 

ただそこには、戦場にいた『とあるモビルスーツ』の映像が

デュランダルの指示によって消されていたのだが、アスランには知る由もない。

 

 

その光景を目の当たりにしたアスランの頭には、

やはり3年前の悲劇が甦るのだったが、

彼が抱いた思いは他のものよりも遥かに色濃い。

 

3年前の『血のバレンタインの悲劇』は

母を亡くした日であり、

父が憎悪という名の妄念に取りつかれた日であり、

憎しみに駆られ、自らが戦場に立つことを決意させた日。

まさに、彼――アスラン・ザラの運命を変えた日であった。

 

「……それでプラントは……この攻撃、宣戦布告を受けて……、

プラントは……、今後どうして行かれる御つもりなのでしょうか?」

 

「……、我々がこの攻撃に報復で応じれば、世界はまた泥沼の戦場と成りかねない。

わかっている、無論、私とてそんな事にはしたくはない。………だが……」

 

デュランダルは既に核がプラントに撃たれたこと、

プラント市民にそれが伝わり、憤っていること、

今また戦争が始まり、もう止める手立てがないことを話していく。

 

「しかし……、でもそれでも

 怒りと憎しみでただ討ち合っては駄目なんです!

 そうしなければ世界はまた何の得るものの無い

 戦いばかりのものに成ってしまう! どうか議長、それだけは……」

 

「……アレックス君」

 

「――俺は! 俺は『アスラン・ザラ』です!

…2年前、どうしようもないほどの憎悪を世界中にバラ撒いた

パトリック・ザラの息子です!」

 

アスランは2年前の戦いで、友を失い、親友と殺し合い、

そして、最後に父を失い、何も出来ずに戦いが終わったこと、

その心中を吐露していく。

 

「……そうして、戦いが終わっても、

 未だ父の憎悪に踊らされている者たちの所為で、

 新たな戦いが始まろうとしているっ!」

 

「………アスラン」

 

「今回のプラント襲撃も、ユニウスセブンの事も、

 元を糺せば全て父のっーーー」

 

「アスランっ!!」

 

「――っ!?」

 

「少し落ち着きたまえ。……つらい思いをしたようだね。

ユニウスセブンでのことはシンから報告を貰っている」

 

「っ、シンから?」

 

「ユニウスセブンのテロリストたちは、

自分たちの行いを正当化するために

ザラ議長の言葉を使ったに過ぎない」

 

「――っ!」

 

「だから君が彼らの言うことに悩むことはない。

 ……彼らは彼ら、ザラ議長はザラ議長、そして君は君だ。

 君が誰の息子であっても関係無い」

 

「……議長」

 

父へ憤り、何も出来ずただ答えを焦るアスランに対し

デュランダルは客観的に、論理的に、そして温情的に彼を諭していく。

 

「それにね、……アスラン。

私は、今また巻き起こる戦禍を止める為、

君がこうして立ちあがり、ここに来てくれた事が嬉しいんだよ。

……私はそういう想いがあれば、

必ず世界は平和になると信じている。……夢想かもしれないがね」

 

「……はい」

 

最後に自虐的に締め括り、言葉を紡ぎ終える。

彼の言葉は、未だ悩み多きアスランの心へと沁み渡っていくのだった。

 

 

 

『みなさん』

 

――突如、付けっ放しにしていたニュース映像が切変わり

アスランの耳に聞き慣れた声が届く。

 

思わずモニターへ振り向くと

 

そこには……、

 

 

   

    『―――私はラクス・クラインです』

 

 

 

デュランダルとの対談の前に出会った女性、『ラクス・クライン』の姿があった。

 

「っ!? 彼女は一体……」

 

 

 

 

地球連合軍の核攻撃隊を強襲し、ザフトが迎撃する為の時間を稼ぎ終え、

ゼクスがドッグへ戻ると整備工が待ち構えていた。

 

エピオンから降りると整備工は一目散にゼクスの元に駆け寄ってきて、

 

『大丈夫だったか!? いやぁー、良かった、良かった。無事に生きて帰ってきてよぉ』

 

ゼクスが仕事ではなかったのかと尋ねると、

 

『そんな事はどうだっていいんだよぉ。それよりあんたの事が心配だったんだ俺は……

 おっと、そうだ、あんたぁ腹減ってねぇか? 飯でも食いながら戦いの事聞かせてくれよ』

 

 

というような事がありゼクスと整備工は現在ザフト基地内の食堂にいるのだった。

 

食事を取りつつ、先の戦闘のニュースを見ながら、

ゼクスは整備工に戦闘中の当たり障りのない事を話していると、

モニターが急に切変わり、『ラクス・クライン』と名乗る女性が映し出された。

 

「ラクス・クライン?」

 

「あんたぁ知らねえのかい?

めずらしい奴だな?」

 

「そんなに有名なのか?」

 

「有名なのかって、有名も有名。

コ―ディネイターだけじゃねえ、ナチュラルにもその名は知れ渡ってるよぉ。

 なんたって、ラクスさんのおかげで前の大戦が終わったんだからなぁ」

 

「そうなのか? (それにしては……)」

 

ゼクスは整備工の話を聞き、

未だ演説し続けているモニターの女性の目を向け、

 

(何だ? 彼女から感じる、この違和感のようなものは……)

 

疑問を浮かべる。

それは、整備工から聞かされるラクス・クラインの印象と、

モニターに映る女性にズレの様なものを感じたからである。

 

浮かんだ疑問を追求すべくさらに考えを巡らせようとするのだが、

 

「俺はよぉ、ラクス様には本当に感謝してんだ、戦争を終わらせてくれてよ」

 

整備工の話によって思考を中断させられる。

 

「……俺の女房は『血のバレンタイン』のときに死んじまってよ。

息子と二人ぼっちになっちまった。

 …俺の息子も、あんたとおんなじでモビルスーツのパイロットだった……。

 俺の直したモビルスーツで母ちゃんの仇をとるんだって言ってたもんだ。

 息子は戦場から帰って来る度に、飯食いながら戦場での活躍を話してくれてよぉ。

 丁度、今みたいによぉ……。

 

 ……でもよぉ、そんな息子もある日、呆気なく死んじまった……。

 いつもみたいに帰ってくるもんだとばかり思ってたら……、

 届いたのは戦死の通知ときたもんだ……。

 ……まだ17歳だったんだ、生きてたら今頃あんたと同じぐらいだ。

 だからさっき、あんたが無事戻って来たとき、

 息子が帰って来た事のように感じちまってな……。

 

 っと、わりぃ、話ぃ戻すぞ。

 そんで一人きりになっちまった俺は、生きる気力が無くなっちまったぁ。

 ……そんなときだよ、ラクス様が平和を呼び掛けてんのを見たのは、

 最初見たときは、この嬢ちゃんは、なんて馬鹿げたこと言ってるんだ、

 戦争がそんな簡単に終わるわけねぇだろ、と思ってたらだよ。

 ……その数ヶ月後のことだ、本当に戦争が終わっちまったのは

 それも、ラクス様のおかげだっていう話じゃねえか……。

 

 俺は思ったよ。こんな若い、それも女の子が、平和のために頑張ったのに

 大人である俺は何してんだろうってな。

 

 それから俺は希望が湧いてきてよぉ

 また頑張ろうって気になったんだよ。」 

 

「………………」

 

「今では、若けえときみたいに機械弄んのが、本当に面白くってな

 そんで一人でも元気にやってるってわけよ」

 

「……………」

 

「今また世の中がこんな風になっちまったが、

 俺はもう、あのときみたいになったりはしねぇ。

 何てったって、俺には生きがいも希望もあるからよぉ」

 

そう言って、整備工は満面の笑みを浮かべる。

 

「……あなたは」

 

「あ?」

 

「あなたは、……強いな」

 

「へへっ、だろう!」

 

「ああ、私よりも遥かにな」

 

モニターからはいつの間にかラクス・クラインの歌声が聞こえてくるが、

ゼクスの耳には入って来ない。

 

「………あとで、……」

 

「ん?」

 

「あとでまた、エピオンの調整を手伝ってくれ」

 

「っ! おうよっ!」

 

 

「それから…、安心してくれ。

  ―――私は簡単には死なん」

 

ゼクスの言葉を聞き、整備工はさらに笑みを浮かべるのだった。

 

 

 

 

デュランダルとの対談を終え、

ホテルの自室に戻ったアスランは

今日一日の事を振り返り、考えを巡らせていた。

 

 

『笑ってくれて構わんよ。無論君にはわかっているのだろう?、

 我ながら小賢しい事だと思う、だが仕方ない…。

 彼女、『ラクス・クライン』の力は私より遥かに大きい』

 

モニターに映る『ラクス・クライン』について聞かせてくれたデュランダルのこと、

 

 

『君にこれを託したい。想いを同じくする者には共に立って貰いたいのだ。

 ……出来れば戦いは避けたい、

 だが、だからといって、一方的に滅ぼされるわけにもいくまい。

 そんなときのために、君にも力のある存在でいて欲しいのだよ、私は』

 

彼がアスランに授けるといった『剣(つるぎ)』のこと、

 

『急な話だすぐに心を決めてくれとはいわない。

 だが、君に『出来る事』、君が『望む事』、それは君が一番理解しているはずだ』

 

最後に彼にかけられた言葉のこと、

 

 

『ラクスさんは必要なんです。……ミーアは別に必要じゃないけど………。

 だから今だけでもいいんです。

 今いらっしゃらないラクスさんの代わりに

 議長や皆さんのお役に立てる事ができれば、それだけで嬉しい』

 

その後、再び出会った。

偽りの『ラクス・クライン』であるミーア・キャンベルのこと、

 

 

 

『ラクス』の事は確かに許せなかったが、

ミーアの言葉やデュランダルの言いたいことも理解できる。

 

そして、デュランダルが自分に与えた選択肢の事、

 

(……俺の『出来る事』と『望む事』か……)

 

そうして答えが出ないまま、

アスラン・ザラの夜は更けていくのだった……。

 

 

 

 

「頼んだ件はどうなっている?」

 

『はい、先ほど報告が入り、…………だったと』

 

「そうか分かった、では明日

 『彼』にここに来るように伝えてくれ」

 

『了解しました』

 

アスランとの対談の後、

デュランダルは自室にて、『とある案件』について確認し終え静かに通信を切るのだった。

 

 

 

 

翌日、ゼクスはデュランダルに呼ばれ

議長室へと案内されていた。

 

ゼクスが整備工とエピオンの応急修理、調整を行っていたとき、

デュランダル議長の使いと名乗る男が現れて、

昨日の戦闘の事で議長から話があるとの事であった。

 

整備工は終始「俺も連れて行け」と使いの男に組み付いていたが

何とか諌め今の状況に至る。

 

 

「やあ、マーキスさん」

 

「ゼクスで構いません、デュランダル議長閣下」

 

「そうか…、これからはそう呼ばせて貰うよ、ゼクス。

 私も別に『閣下』はいらないよ」

 

議長室に入室し互いに

 

「……わかりました、デュランダル議長。

 ……それで御話とは?」

 

「ああ、それなのだが……」

 

デュランダルは言いながら、室内のモニターを点ける。

そこには、ニュースでは消されていた、

エピオンが連合軍のモビルスーツを次々に撃墜し、

さらに核攻撃隊に強襲を掛ける姿が映し出されていく。

 

「このモビルスーツに乗っていたのは、君だね?」

 

「その通りです、デュランダル議長。

 ……両軍の戦闘状況に、私のような部外者が介入してしまい申し訳ありません」

 

「いや、そう正直に話されるこちらとしても話が早く進んで助かるよ。

 ……別に君に罰を与えようと思って、ここに呼んだ訳ではない」

 

「……それでは何故?」

 

「君に礼を言おうと思ってね、本当に感謝している。……ありがとう。

 君が戦場にいなければプラントは壊滅していた。

 核の迎撃も間に合わず跡形もなくね」

 

「いえ、礼には及びません、私が勝手にした事ですから……。

 ……話は以上ですか? でしたら、私はこれで失礼します。

 エピオンの補修作業が残っていますので」

 

「待ちたまえ、まだ話は終わってはいない。

 ……むしろここからが本題だよ、ゼクス」

 

「?……本題?」

 

ゼクスが疑問に思う中、

デュランダルはモニターを切り替える。

画面に5枚の画像が映し出される。

 

「――っ! これはっ!!」

 

それらを目の当たりにしたゼクスは驚愕に目を見開く。

 

「これは昨日、戦闘が終了した直後、

 私が調査隊を出し、君が発見された宙域を調べさせたものだ」

 

そこには、ゼクスの世界にあるはずで、この世界にはないはずの、

 

(…『ビルゴ』と、……『ガンダム01』だと!?)

 

腕がなかったり、脚がなかったり、頭部がなかったりと

損傷度こそ違えど4機の『モビルドール』と

 

右腕、右脚、左脚がなく、頭部の半部は崩れ落ち、

また背部には左翼しか残っておらず。

装甲の7割はなくコックピット部が剥き出しになっている。

何とか原型を繋ぎ止めているすぎない、

かつて好敵手の少年が乗っていた『ガンダム』が宙を漂っているのが映し出されていた。

 

「……その様子、やはりこれは君の世界のものなのだね?」

 

デュランダルはゼクスに確信のある疑問を投げ掛ける。

 

「御言葉ですが、議長はこれを見つけて、どうしようというのですか?」

 

「……どう、とは?」

 

「もし議長が、これらを軍事利用なさるおつもりなら

 ……私は、この命に賭けて、ギルバート・デュランダル

 あなたを殺さなければいけなくなる……」

 

「………なるほど、それほどのものなのか、これは……」

 

問題は『ガンダム』ではなく『モビルドール』の方である。

 

ゼクスは整備工と作業の中で聞かされた、

この世界のシステム、プログラム構築の技術は

元いた世界とも引けを取らないと考えている。

もし、ビルゴが解析され『モビルドールシステム』が見つかれば

瞬く間に世界に拡がるだろう。

 

「……さあ、議長の答えを御聞かせ願いたい」

 

「安心してくれ、私はこれらを何かに利用しようとは考えていない。

 ……ただ、もし君の機体のようなものが、今の地球連合に渡れば

 彼らは確実に戦場に投入してくる。それを未然に防ぐために行った調査で

 偶然見つけたものにすぎないよ、これらは……」

 

ゼクスの射殺さんとする視線にも、動揺をみせずデュランダルはそう返答する。 

 

「……そう、ですか。それを聞いて安心しました」

 

「いや、こちらも悪かったね。

君に何も伝えず、いきなりこの様なことをしてしまって……。

 …今…頃これらの機体は回収され、プラントへと運び込まれている、

 これらの機体の処遇は君に一任したい、よろしいかな? ゼクス」

 

「それは、私も願ったり叶ったりです。

 謹んで御受け致します」

 

「そうか…、これでこの件については終わりだ」

 

「この件について『は』?」

 

「ああ、実はもう一つ君に話があってね。

 これが最も、重要な話なのだがね。

 

  ―――ゼクス・マーキス、君を私の騎士として任命したい」

 

 

「……騎士、ですか?」

 

「ああ、そうだ、もちろん手続き上ザフトに入隊して貰うことになるが、

 ……君とて、何か肩書を持っていれば、

 この様な異世界で生きていくためには動き安いと思うのだが、どうだろうか?」

 

確かに、この世界では『ゼクス・マーキス』の名も

『ミリアルド・ピースクラフト』の名も、まったくの意味をもたない。

それにいつまでも、あの整備工の男のもとで、世話になるわけにもいかない。

元の世界へ戻る算段は付かず、このまま何もせず

戦禍に巻き込まれる世界をただ、見ているだけになるぐらいなら……、

 

(……死んだ方がましだ、……それに、私はあのとき誓ったはずだ

 戦士として最後まで生き抜くと……)

 

そうしてゼクスはデュランダルに己の選択を告げるのだった。

 

「……わかりました。その役目御引き受けします。

 ……ただし、『騎士』としてではなく、『戦士』として、ですが…」

 

「……ああ、それで構わないよ………」

 

 

 

 

その夜、デュランダルの元に一報が届く、

 

『議長、アレックス・ディノ様より、明日、会う事ができないかと連絡が入りました。

 如何いたしますか?』

 

「そうか…、わかった。大丈夫だと彼に伝えてくれ」

 

『了解しました』

 

そのまま通信を閉じ、

 

(そうか、決めてくれたか……アスラン・ザラ)

 

机の引き出しからチェスの駒、ナイトを取り出し、盤上へと置くのだった。

 

 

                       つづく

 

 

 

 

 

 

 




第四話です。

プラントの中でのことは、次回作の前半で終わります。
次回の後半からはとうとう『少年』視点での話が入ってきます。

それから、この作品では物語の構成上、ミネルバのオーブ沖での戦いは書きません。
クロス要素が絡まずアニメと変わらないですからね。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。