新機動戦記ガンダムSEED DESTINY  -白き翼‐   作:マッハパソチ

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一つの小さくも大きな戦いが終わった。

少年たちは取り戻した小さな平穏の中で何を想うのか……。



第八話   Rest to next battlefield(前編)

プラント最高評議会 議長室

 

 

「御呼びでしょうか? デュランダル議長」

 

「やあ、久しぶりだね。ゼクス」

 

ザフトの軍服を着、胸に特務隊の記章を付けた金髪の青年

ゼクス・マーキスはプラント最高評議会議長ギルバート・デュランダルに

呼び出しを受けた。

ゼクスがデュランダルと相見えるのはゼクスがザフトに入隊してからはこれが初めてである。

 

「……あれから、機体の調子は如何かな?

 修理ほうはだいぶ難航しているという報告は聞いているよ」

 

「いえ、心配には及びません。

 私の機体の方は既に修理を終えています」

 

「君の機体は、か……」

 

異世界へとゼクスと共に流れ着いた4機のモビルドールの残骸を用いることで、

ゼクスのモビルスーツである『ガンダムエピオン』は

修理に当たっていた整備工の男とその知り合いのメカニック数人の

連日連夜の修復作業によりその真の姿を取り戻すに至っていた。

もっともそんな過酷な作業にも関わらず彼らは嬉々として

作業に携わってくれていた、ゼクスがいくら休むように指示しても

 

『もうちょっと、もうちょっとだけだから』

『今いいとこだからよぉ、ここが終わるまで寝るに寝れねぇよ』

『先に休んでてくれ、あとは僕らに任せてさ』

 

などと返すばかりで一向に手を止めることは無かった。

そのおかげで一足飛びに作業が進行し、

予定よりも早くエピオンの修繕は完了した。

 

しかし、一方でデュランダルが示唆した通り

作業の芳しくない、もう一機のモビルスーツ。

かつて、ゼクスの好敵手であった少年が搭乗し、

4機のモビルドールと同様にこの世界を漂っていた機体『ガンダム01』。

こちらの方は想像以上の損壊率で

エピオンやビルゴと比べても群を抜いていた。

現在は内装の機械部分とコックピットの

修繕が漸く完了した段階で、装甲と兵装に関しては

全くの手付かずの状態になっている。

エピオンの作業が終わり、これからはガンダム01の修理に専念できるわけだが

ここで一つ大きな問題が見つかる。

このガンダム01には兵装が無いのである。

装甲の方はまだいい、こちらも苦労はするだろうがビルゴの装甲を流用すれば

問題無く修理が可能である。

マシンキャノンとビームサーベル、シールドは溶けて、あるいは損傷率が著しく

修復不可能と判断された。

そしてガンダム01のメインウェポンであるバスターライフルはその存在自体が無い。

おそらくリーブラの主砲による攻撃を受けた際に消滅したか、

こちらの世界には飛ばされず、あちらに置き忘れて来たかのどちらかであるが

どちらにせよ無いものは無い。

故に、全ての兵装をこの世界の技術とビルゴの残骸を用い

一から作りだす必要が出てきたのである。

 

ただ、そんな問題にも関わらず

整備工(おとこ)たちの眼は

―――輝いていた。

 

そんなことを思い返していたゼクスは

 

「議長、その事については問題はありません。

 ……それよりも、本題を話されては頂けないでしょうか?」

 

この話題に終止符を打ち

今現在、自分がここに呼ばれた事の意味をデュランダルへと問う。

 

「ふむ……やはり、君との話は早くて助かるよ。

 実は君に折り入って頼みたいことがあってね」

 

「頼みごと……ですか?」

 

ゼクスのこの言葉には「命令では無いのですか?」という意味が含まれており

デュランダルもまたその意図に気付き、言葉を返す。

 

「無論、断りたいのなら断ってくれて構わない。

 ただ、これはおそらく君にしか頼めない事だろう……

 ……頼みたいことは他でもない、私たちと共に地球へと降りて貰いたい」

 

「地球へ……私が?」

 

「そうだ、今度地球で行われる『ラクス・クライン』のライブに便乗し、

 私も同行する事になった。

 そこで君には我々の護衛をお願いしたい」

 

「?……それは構いませんが……何故、私を?

 その内容なら他の者でもよろしいのでは?」

 

「確かに……ここまではそうだ。だが……」

 

デュランダルは言いながら、いつかと同じようにモニター開く。

異なるのはそれが画像データではなく、映像データであることだ。

そして、そこに映し出されたものにゼクスは眼を剥くことになる。

 

 

「これは数時間前、中東地域のガルナハンで行われた作戦の様子だ。

 そしてこの映像はその作戦に参加していたミネルバから送られてきた。

 ……これを見たときは、私もまさかとは思ったが、やはりそうか」

 

「…………」

 

デュランダルの話を聞きながらも

ゼクスは黙って映像に見入る。

 

彼の目に映っているのは

おそらく攻略対象である砲台とそれを守る3機のビルゴ。

そして、それらを破壊している白き翼を有する

―――ガンダムの姿であった。

 

 

 

 

「ヒ……デュオ、本当に行っちゃうのか? もう少しここにいても……」

 

「お前たちからの依頼は既に果たした。

 任務が完了した以上ここにいる必要はない。

 ザフトとの話を済みしだい、この地を離れる」

 

ガルナハンの地球連合軍基地を陥落させてから数時間後、

ヒイロ・ユイと元レジスタンスの少女コニール・アルメタは

ミネルバ艦内にて別れの挨拶を交わしていた。

 

本来であれば作戦が終了した後、すぐにでもこの地を離れ

元々の目的であったザフト軍拠点基地ジブラルタルへ向かう予定であったが

そうもいかない事態となる。

原因はガルナハンの陽電子砲を攻略する際に

地球連合軍が用いた3機のモビルドールにあった。

 

現在、ヒイロはミネルバのモビルスーツハンガーにてザフトの

指示を待ちながらウィングゼロの整備を行っている。

ウィングゼロの翼は陽電子砲からミネルバを庇った際に

残念ながら無傷という訳にはいかなかった。

リーブラでの戦闘、大気圏への突入、そして今回の作戦と

かなりの酷使を強いられていた。

当初、今回の作戦では報酬は受け取らない話であったが

ヒイロはザフトに対し自分が破壊したビルゴの破片を要求した。

そして、マハムールに接収される予定であったものは

既にヒイロが回収し、現在の整備に当てている。

マハムールの指揮官ヨアヒム・ラドルに言わせれば

 

『これ以上、面倒を増やされるのは我々も勘弁願いたい

 これらについては、今回の功労者であるあなたが言うのなら』

 

との事であり、実にあっさりとヒイロの要求を承諾してくれた。

 

指揮官としてそれはどうかとは思うが

これからマハムール基地はガルナハンを落としたことの事後処理

近域にあるスエズ基地との激化する睨み合いを行わなければならない。

訳のわからないモノに手を焼いている暇などないのであろう。

よってこれらに関してはヒイロに委ねることにしたのである。

 

ただ、ヨアヒムとは違い、ミネルバの艦長は容易に肯いてはくれなかった。

軍の責任者としては立派な姿ではあるが

ヒイロとしては このビルゴの破片、ウィングゼロの修理に使うのはもちろんだがそれ以上に

ザフトに、いや、ザフトだけではない、

この世界のいかなる勢力に対してもビルゴの欠片一つ渡してはならない。

あんなものが世に出るのを許す訳にはいかない。

もしも、この艦の部隊がヒイロの要求を受け入れない場合は火を見るよりも明らかである。

 

 

「そう、だよね」

 

ヒイロはこれまでの経緯を思い返し、

また、モビルスーツの整備の手も止めず

コニールとの会話を継続する。

 

「俺がここで出来る事はもう無い」

 

「うん………」

 

「……お前も早く街へ戻れ」

 

「……うん」

 

そう返事をするもののコニールは

ヒイロの前から立ち去る気配を一向に見せない。

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

そうして二人の間には沈黙が立ち込めていく。

 

 

そんな二人の様子を見ている者たちがいる。

 

「何か、ホントに信じられない。

 私たちがいくら攻撃しても破れなかったのに

 たった一発で終わらせちゃってさ……」

 

「しかも敵の陽電子砲を防ぎ切った後にだぜ」

 

「……何でアイツ、最初からあの機体使わなかったんだろうな?」

 

ザクウォーリアのパイロットであり、ミネルバモビルスーツ隊の紅一点

ルナマリア・ホークと

黒髪に色黒の肌をもつ整備兵の少年

ヨウラン・ケント、

同じく整備兵の少年

ヴィーノ・デュプレ、こちらは赤色のメッシュという特徴的な髪色をしている。

そんな3人が言葉を交わしている後ろで、

 

「なあ、しゃべるんなら余所でやれよな。

 ……気が散るから」

 

コアスプレンダーの整備を行っていた、シン・アスカが

3人に対して文句を述べる。

 

「いいじゃんべつに、私のザクはもう整備終わって

 艦長たちの話し合いが終わるまで暇なんだから……」

 

「それにこうやって手伝ってるだろ」

 

「そうそう」

 

「ヴィーノとヨウランはそれが仕事だろ」

 

「そういえばさあ」

 

そんなごもっともなシンの主張を

バッサリと切り捨て、ヴィーノが会話を続ける。

 

「あのデュオって奴、作戦の前、シンたちよりも早くここに来たよな」

 

「……それが?」

 

「拗ねんなよ、シン。悪かったって」

 

「別に……拗ねてなんか……」

 

「で、あの子がどうしたって?」

 

「……ルナマリア、もうちょっと空気読もうぜ」

 

ヨウランが大人の対応でルナマリアを諌めるが

 

「だって、シンの機嫌が悪いのなんていつもの事じゃない。

 一々気にしてたら切りが無いわ」

 

と、こう返される。

 

「ハァ……もう、いいよ。

 ……ヴィーノ、続けてくれ」

 

「う、うん、……それでアイツ俺に聞いてきたんだよ。

『この艦のモビルスーツはこれだけか?』ってさ」

 

「……お前まさか答えたんじゃないだろうな?」

 

「えっ、いけなかったの?」

 

「お前ねえ……で、お前何て答えたんだよ?」

 

「えっと、前はゲイツとか乗せてたけど

 今はこれだけだって……」

 

 

「まあ、それぐらいならいいんじゃない。

 作戦前に戦力の確認をしただけでしょ。

 ……あっ!」

 

「? どうしたんだ?」

 

会話の途中で突然声を上げる、ルナマリアに

ヴィーノが疑問を口にする。

 

「話が終わったみたいね、隊長戻ってきた。ほら、あそこ」

 

ルナマリアに促され、ハンガーの入り口に目をやると

アスラン・ザラが入ってくるのがわかる。

 

 

アスランはハンガーに入るとヒイロを含め、

この場にいる者を自分の周りに召集する。

 

「……今後のミネルバの行き先についてだが

 ガルナハンを発ち、ディオキアの基地を経由、補給を受けた後

 本艦の目的地であるジブラルタルへ向かうことになった」

 

ヒイロはここで初めて、

ミネルバの目的が自分と同じくジブラルタルである事を知る。

 

ローエングリン突破前の艦内にてキラ・ヤマトたちを

襲撃した部隊についての何らかの手掛かりを得ようとしたが

空振りに終わっている。

そして、当初の予定通りジブラルタルへ向かうのわけだが

ここでヒイロは大きなミスを犯した事になってしまう。

ミネルバの目的地が自分と同じであるなら、ヒイロがこの艦の

クルーと接触したことは重大な問題になり得る。

今回の作戦において初めはただの傭兵ということで

ヒイロの存在はそれほど認知されないはずだった。

現に作戦前はシンやアスランといった現場の兵士にのみ

上官クラスでいえばアーサーくらいにしか彼の存在を認知しなかったが

作戦中にミネルバブリッジに通信を入れた事、

何よりもモビルドールを撃破するために仕方なくとはいえ

ウィングゼロを晒した事によりミネルバクルーの末端に至るまでがヒイロの存在を認知している。

また、ザフトに自らの存在が知れるのを避ける為に『デュオ』という偽名を

使ったが、もしジブラルタル基地内で彼らと遭遇することになれば

それも意味を為さなくなってしまう。

ミネルバがどの程度の期間でジブラルタルに到達するのかは不明だが

この艦が到達するよりも早くにヒイロはジブラルタルに入り

情報を手に入れなければならない。

 

そんな算段を頭の中で巡らせていたところで

アスランからの話はヒイロが要求したものについてのことになる。

 

「……それから、デュオ、君から受けた要求だが

 こちらとしてもアレを簡単には君に譲ることは出来ない」

 

「……何か条件があるのか?」

 

「ああ、そうだ。悪いんだが君にはこのままディオキアまで

 この艦に同乗して貰うことになった。

 ……ある人が君と話をしたいと言っている。

 この条件を飲むなら君にアレを引き渡してもいいとそういうことだ」

 

「俺に会いたいというのは?」

 

「………あまり話を広げたくはないが、仕方がないか……」

 

「…………」

 

「……ギルバート・デュランダル。現プラントの最高責任者だ」

 

アスランがその名を口にした途端、

その場の誰もが出てきた名前の大きさに驚きを露わにし、ざわつき始める。

まさか、ザフトでも無い、一介の傭兵に

プラント政府の頂点が面識を諮るなど聞いたことも無い。

 

「……わかった、その条件を飲もう」

 

だが、当の本人であるヒイロはこの条件を眉一つ動かさず受け入れる。

 

このザフト側からの申し出、ヒイロにとってはを断る理由がないどころか

渡りに船な朗報である。

先ほどまで暗雲が拡がりかけたジブラルタルへの潜入であったが

ジブラルタルへ潜入するよりも遥かに有力な情報を得る機会が手に入り

尚且つ、こちらが欲したビルゴの破片も手に入るという

まさに一石二鳥の条件である。

 

「……ただ、君にミネルバを自由に歩かせる訳にはいかない。

 艦内での行動範囲を制限させてもらう、

 加えてディオキアに着くまで監視も付けることになる。

 ……心苦しくはあるが、理解してもらえると助かる」

 

これはアスランのというより、タリア・グラディスからの条件提示である。

 

今は戦時中だ、ザフト側としては部外者である少年を無条件で

新造艦であるミネルバに乗せるのは避けたい。

軍という立場であれば当然の判断であり、ヒイロもこれを受け入れる。

 

「監視役としては………シン、お前に任せるが、いいな?」

 

「えっ! 俺!?」

 

いきなりの指名にシンは戸惑いを見せる。

 

「そうだ、戦うだけが軍人の役目じゃない。

 君は優秀なんだから出来るだろう?

 それとも、お前の着ている軍服の色は飾りか?」

 

「っ、わかりました。やればいいんでしょう、やれば」

 

若干納得のいかない表情だが、

アスランの挑発に乗ったシンは殆ど勢いで

ヒイロの監視役を引き受けてしまう。

 

「ということだ。デュオ、構わないか?」

 

「……誰でも構わん」

 

「そうか……なら、話は―――」

 

「ただ」

 

アスランが話を終えようとしたとき

ヒイロが口を挟む。

 

「こちらにも、一つだけ条件がある」

 

「条件? 君が要求したものは先ほど―――」

 

「違う……条件というより、これは忠告だ」

 

そこで一度言葉を区切り、アスランだけではなく

この場にいる全員を見まわすと

 

「俺のモビルスーツには不用意に近づくな」

 

そう口にする。

 

「……それだけ?」

 

その場にいたルナマリアが思わず

ヒイロの言葉に対して疑問を投げ掛ける。

声こそ上げないが他の者たちも同じ考えを持っているのか、

どこか拍子抜けという顔をしている。

 

「……どう思おうと構わんが、忠告は確かにしたぞ」

 

そんなミネルバのクルーに対して、ヒイロの表情は変わらない。

 

この場にいるミネルバクルーにとっては傭兵が自らの商売道具に

触れるなという捉え方しかできないだろう。

しかし、この忠告の本質は違う。

この世界において未知の技術の塊であるウィングゼロについての情報を

これ以上彼らに与える訳にはいかない。

そして、それよりも重要な事

ウィングゼロが危険視され6人の設計者たちに

封印されるに至った原因の一つである―――『ゼロシステム』。

ヒイロもかつてこの『ゼロシステム』に翻弄された人間の一人であり

その危険性について身を持って理解している。

現在もこの機体に乗れているのは一重に戦いへの確固たる意志を持つことが出来たからである。

 

例え整備のためであろうと不用意にコックピットに座り、

気高き意志を持たない者がこのシステムを起動させようものなら、

システムよって支配され、操り人形となり果てる。

最悪の場合、システムの負荷に耐えきれ無かった人間は

その命尽き果てるまで無意味な破壊と殺戮をことになってしまうだろう。

 

万が一この場でウィングゼロが暴走を来たしたなら、

現時点においてヒイロであっても、それを止める為の手段は存在しない。

 

 

ヒイロの忠告を最後にして話は終わり、

各自が持ち場に戻っていく。

 

「ミスコニール、そろそろ街へ戻られた方が……

 出航までもう時間がありません」

 

アスランが未だガルナハンへと戻らず、

ミネルバへと留まっている少女へと下船を促してくる。

 

「うん……」

 

そう返事をすると

自分を、この地の皆を救ってくれた一人の少年に目を向ける。

その少年は監視役を任されたシン・アスカに連れられ、

ここから出て行くところであった。

 

少女は何かを振り切るように彼から目を逸らす。

 

「死ぬなよ……ヒイロ」

 

誰にも聞かれないようにそっと呟き

これからも戦いに身を投じていく少年の無事を願うと

ミネルバを後にする。

 

 

少女がガルナハンの街へ戻ると多くの人たちが

彼女の元へと集まると、微笑みを携え、感謝をしてくれた。

この微笑みこそ少女が守りたかったものであり

少年が紡いでくれた明日への希望。

喜びを噛み締め、少女もまた笑みを浮かべたとき

少女たちの上から大きな影が覆いかぶさる。

ミネルバがガルナハンの真上を通過していくのがわかる。

街の大人たちは大きく手を振り、

子供たちは大声を上げ英雄たちを見送る。

少女もまたミネルバの姿が見えなくなるまで空を見上げ続ける。

 

 

かくして、ガルナハンにおける戦いの物語は幕を閉じるのであった。

 

 

 

 

「ほら……ここ」

 

「…………」

 

ヒイロはシンの案内でミネルバの来客用の空室へと通される。

来客用といえば聞こえはいいが、

部屋にはベッドが一つと扉の横に通信機が取り付けられただけの簡素な部屋で

まさに部外者であるヒイロを隔離するには打って付けの場所だ。

 

「何かあったらそこの通信を使え、

 それから何の指示もなくこの部屋から出るなよ」

 

シンにはインパルスのOSの調整や軍人としての訓練があるため

監視役とは言っても四六時中、見張っている訳ではない。

また、部屋を出てすぐのところに

見えないように監視カメラが設置されているため

その必要もない。

 

シンは必要事項の説明を終えると

ここまで一切口を開かないヒイロへと話しかける。

 

「なあ……お前」

 

「…………」

 

「? 聞いてるのか?」

 

「……聞いている」

 

「……お前、何で作戦のときあのモビルスーツを使わなかったんだ?

 最初から使ってれば、あんな戦い、すぐに終わったんじゃないのか?」

 

ガルナハンでの作戦に際、

シンは死ぬ思いで難易度の高い役割を果たしたが

思わぬ伏兵の出現によって結果は失敗。

一転して奇策を仕掛けたザフト側は劣勢に追い込まれた。

しかし、その直後、この少年が例のモビルスーツに乗り

戦場へと舞い戻ると戦いの決着は即座についたのであった。

 

「あれじゃ、俺たちが何の為に命を賭けたのか……

 それに、お前がその気になれば街の人たちだって

 もっと早く助けられたんじゃないのか!?」

 

でも、だからこそシンは

ガルナハンで苦しんでいた人々を前にして

 

「お前、言ったよな? 命を賭けてるのは全員だって

 なら……なら、お前は本当に命を賭けて戦ってたのかよ!?」

 

最初から全力で戦わなかった

この少年の事を許すことが出来ない。

 

シンはその少年の顔を真っ直ぐ睨みつける。

 

ヒイロもまたそんなシンの眼差しを

正面から受け止め、言葉を返していく。

 

「俺は戦いにおいて、命を賭けなかった事など無い。

 ……だが、先の戦いでの事は俺のミスだ」

 

「え?」

 

「俺の事を許す必要はない、そして許してもらおうなどと思ってもいない」

 

ヒイロの言葉はシンの問い詰めへの反論でも無ければ

自身の擁護でも無く、自らの責を容認するものであった。

 

ザフトに対して自らの存在を知られない為に行った事であっても

それが裏目となってしまったことに変わりは無い。

最終的に戦いを終わらせる事ができ、

コニールを含むガルナハンの人々を救う事が出来たが

一歩遅ければ全てを失わせることに為っていただろう。

 

ただ、そんな少年の言動にシンは頭を冷やす。

 

「……悪い、本当は分かってる。

 本当はお前に感謝すれど、責めるのは間違ってるんだ。

 ……ただ、あの時何も出来なかった自分を俺は何よりも許せない!!」

 

作戦中、突如出現した連合の兵器に対して苦戦を強いられ、

何の対抗もできず、自分の非力さを痛感し、そんな自らに対して憤りを感じてしまう。

 

「自分が弱い所為で何も守れないのは……もう嫌なんだ」

 

シンはポケットの中に手を入れ、携帯電話を強く握りしめる。

 

そんな焦燥感にも似たものを抱いているシンの様子を目の当たりにし、

ヒイロは言葉を紡いでいく。

 

「……人間が戦う力を得ても強くは成れない」

 

「え?」

 

「銃でもモビルスーツでも同じだ。

 武力を行使することなど、弱い者たちによる方法論でしかない。

 ……力を誇示して意見を述べる限り、俺たちが強者になる事は無い。

 俺やお前だけではない、戦う者全てが強者という仮面を付けた弱者だ」

 

「っ!……だったら、だったら、どうすれば―――」

 

「強く在ろうとする必要などない。元々、人は弱い生き物だ。

 ……シン・アスカ、そんな弱者であるお前が戦ってでも

 手に入れたいと願ったものは力では無いはずだ。

 戦う決意をしたとき、お前が本当に欲したものは何だ?」

 

「―――っ!」

 

シンの本当に守りたかったものはもう取り戻すことは出来ない。

だからこそ、その時の弱い自分を消したくて力を欲し、戦う事を決めた。

しかし、強くなりたいと願ったのも、力を手に入れたのも本当の目的ではない。

もう二度と同じものを見なくて済むように、

平和に暮らす人々が同じ想いをしないように、

大切なものをこれ以上失わないために、

心の中にそんな想いがあったからこそシンは戦い始めたはずなのに

思いがけず始まった戦争の中で目の前の事しか見る事が出来ず

いつの間にかシンの中から大事なものが欠け始めていたのだ。

 

戦うことへの憎しみも、過去に対する後悔も無くなることはない

しかし、シンの心の中には戦うことへの確固たる意志が再び宿る。

シンはその意志を二度と失くさないように決意する。

 

 

そして、シンは問うてみる

 

「……お前にもあるのか?」

 

この少年にも戦う理由があるのかどうかを。

 

それに対しヒイロは肯定の意を呈するのであった。

 

「なければ、俺は自分で自分を殺している」

 

 

 

 

ユーラシア西部のとある別荘にて一人の男が

幾人もの人物の顔が映し出されたモニターを見ている。

モニターの中の人物たちがが男に向かって話しかけてくる。

 

『……ジブリール、一体何の用だ?』

 

『核攻撃失敗の件ならもう聞かんぞ、

 ……本来であればお前は既に盟主を失脚している身だ』

 

「まあ、皆さん落ち着いてください。

 本日は少し面白い報告がありましてね」

 

男の名前はロード・ジブリール。

反コーディネイター思想を掲げる組織『ブルーコスモス』の盟主の一人で

ブルーコスモスの支持母体組織『ロゴス』の代表でもある。

ロゴスの表の顔は軍需産業を生業とした企業であるが

その実、裏ではブルーコスモスと繋がっている。

 

彼こそが民衆を煽り、地球連合軍を操り

プラントに核攻撃を仕掛けさせた張本人。

そして、モニターに映っているのは

ブルーコスモスのその他の盟主たちである。

 

『面白いもの?』

 

「はい、これをご覧ください」

 

言いながらジブリールはモニター上に

画像データを映し出す。

通信先のモニターにも同じようにその画像は映し出されているだろう。

 

『……何だ、これは?』

 

『ただの壊れたモビルスーツではないか』

 

「……これはスエズ基地から送られてきた画像で

 ガルナハンという連合拠点で実際に使われていた機体だそうです」

 

ジブリールの開示した画像に映し出されていたのは

数機の壊れたモビルスーツで、そのどれもが同じ形をしている。

 

「残念ながら動かせるものはもうありませんし

 技術が違いすぎて、修理や量産は不可能だそうですが……」

 

『……なら、意味などないのでは?』

 

『何かと思えばとんだがらくたでは無いか……くだらん』

 

「お静かに……話はまだ終わってません。

 ……確かにこの機体自体に意味はありませんが

 重要なのはその中身です」

 

『……中身? というと?』

 

『勿体ぶらずにさっさと言え』

 

「わかっています。……基地からの報告では

 これらの機体全てが無人機だそうでして

 また、そのシステムの量産は可能だそうです」

 

『……なるほど……確かに面白い』

 

この報告を聞かされると

ジブリールの意図を理解した数名の盟主たちが

手のひらを返したかのように態度が変える。

 

「このシステムさえあれば、もはやパイロットなど不要。

 エクステンデッドなどの金の掛かる『部品』も生産の必要が無くなるという事です」

 

『……して、そのシステムの名は?』

 

その質問を受け、

ジブリールは一度モニター内の全員の顔を見渡し

静かにそのシステムの名を告げる。

 

 

 「……―――モビルドールシステムというそうです」

 

 

                 つづく




第八話(前編)です。

冒頭部分で出てくる、ウィングガンダム(ver C.E.)ですが
何かと批判はあると思いますが、物語の構成上必要な措置ですので御了承お願いします。

それから、気づいている方も居るかも知れませんが
本作ではこの時点でハイネが出ないです、代わりにゼクスとなっています。
ハイネについては終盤あたりでゲスト出演出来ればと考えています。

後編は様々な再会や出会いがありそうです。

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