ある少女の斬魔大聖   作:アイオン

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第60話

 結界を破った私達を、悠然と見下ろすマスターテリオン。

 その顔に忌々しい笑みを浮かべてはいるものの、動く様子は無い。

 

 ―――錆びた剣に興味は無いと言ったぞ? 余を舞台で踊らせたくば、先ずは力を示してみよ。

 

 此方に向けられた視線には、そんな意が込められていた。

 

 (なら、先ずは雑魚共を黙らせる!)

 

 アーカムシティ中に出現している量産型の破壊ロボ、それら全てを撃墜すれば奴も降りて来ざるを得まい。

 敵機の数は多いが、今の私達にとって大した問題にはならないだろう。

 戦意は漲り、気は昂り、魔力に不足無し。

 

 『出し惜しみは無し! 一気に征くわよ!』

 

 『うむ、目に物見せてやろうぞ!』

 

 自由を取り戻したデモンベインに対し、破壊ロボ達が行動を開始した。

 此方を包囲する様に動き、装備されている武装を展開する。

 ……だが、敵の行動を態々待ってやる義理など無い。

 

 ―――アルクトゥルスより来れ、忌まわしき双子の風。

 喚び出すのは真紅と紺碧の刃。

 双剣を素早く連結させ、振り被る。

 通常であれば投擲するところだが、今回は違う。

 

 巨大な十字剣を真下―――即ち、地面へと突き立てる。

 極々僅かな時間集中し、“条件”を設定。

 対象―――地上の量産型破壊ロボに限定。

 範囲―――アーカムシティ全域。

 時間―――十秒。

 設定完了―――開放。

 

 連結し、束ねられた“風”の呪力を解き放つ。

 指向性を与えられた呪力は突き立てた十字剣より大地を伝い、アーカムシティ全域へと拡散。

 一拍を置き、一斉に爆ぜた。

 

 大地より天空へと吹き荒ぶ風は、如何な原理か破壊ロボ達のみを打ち据える。

 人々を襲う機体が、治安警察の部隊を踏み潰そうとした機体が、破壊活動を行う機体が、今まさに此方へと攻撃を加えんとしていた機体が、一様に上空へと打ち揚げられた。

 舞い上がる機体と風が、上空の破壊ロボ達の射線を僅かな時間遮る。

 

 だが、その僅かな時間で十分だ。

 十字剣をそのままに一歩後退し、新たな武装を喚び出す。

 

 『バルザイの偃月刀!』

 

 両手に偃月刀を召喚し、掴み取る。

 勢いをつけて横合いへと投擲―――投じられた偃月刀は分離し、それぞれ七つの刃となって飛翔。

 計十四の刃が、手近な破壊ロボ達へと躍り掛った。

 

 『フォーマルハウトより来れ―――』

 

 『風に乗りて来れ―――』

 

 徒手になった掌に更なる呪法兵装を喚ぶ。

 アルの声に重ねて、旧支配者達の名を謳う。

 

 『『クトゥグア! イタクァ!』』

 

 敵に破壊を齎す自動式拳銃(オートマチック)―――クトゥグアを右掌に。

 敵に死を齎す回転式拳銃(リボルバー)―――イタクァを左掌に。

 

 今や空は敵で埋まっている―――何百か、将又何千か。

 まあ、どれだけいたところで私達がやる事に変わりはない。

 その数が零になるまで、戦うだけなのだから。

 

 『さて、選り取り見取りといったところだが……どれから撃墜(おと)すのだ、九淨?』

 

 怒涛の勢いで迫る破壊ロボの軍勢。

 もう間も無く“風”も止む。

 けれど、欠片の脅威も感じない―――鉄屑の群れの、何を恐怖するというのか。

 

 『勿論、目についた奴から片っ端よッ!』

 

 何発でもくれてやる―――遠慮せずに、持って逝け。

 

 風の呪力が消失すると同時に、トリガーを引いた。

 クトゥグアとイタクァの咆哮(ハウリング)

 閃光(マズル・フラッシュ)が夜闇を引き裂き、爆音が響き渡る。

 

 クトゥグアの弾丸は、射線上の一切合財を噛み砕き粉砕する。

 イタクァの弾丸は、空を縦横無尽に駆け巡り―――まるで意思を持つ様に、標的を自動で追尾する能力があるらしい―――敵を引き裂き、墜として行く。

 

 『九淨! 8時の方向から攻撃が来るぞ!』

 

 『了解!』

 

 無論、敵も棒立ちでいる訳ではない。

 無人機ならではの無茶苦茶な機動で、此方に接近・攻撃しようとしてくるのだ。

 

 デモンベインの装甲であれば、破壊ロボの攻撃は被弾しても問題ないけれど……態々受けてやる必要は無い。

 射撃を続けながら、素早く横っ飛びで回避する。

 

 『ッ!』

 

 回避の勢いそのままに振り向き、撃ち墜とす。

 

 ざっと百は撃墜しただろうか、しかしまだまだ敵はいる。

 

 『良し、突っ込むわよアル!』

 

 『応とも!』

 

 脚部シールドの空間反転エネルギーを開放し、大地を蹴る。

 “風”が討ち漏らした機体は偃月刀に任せ、敵集団の中へと飛び込んだ。

 

 

 

 

 

 破壊ロボの軍勢を相手に闘うデモンベイン。

 その姿を、多くの者が見ていた。

 救われた一般市民、治安警察、覇道財閥の面々。

 どこぞの変態科学者と、アンドロイドの娘っ子。

 玉座よりアーカムシティを見下ろす女に、ブラックロッジの大導師。

 

 祈る様に空を見上げる者。

 激励の言葉をかける者。

 ただ見惚れる者。

 闘い振りを観察する者、感心する者、愉しむ者。

 

 味方も敵も第三者も……皆が皆、デモンベイン(彼女達)の闘いに釘付けだった。

 ―――白と黒の天使を除いて。

 

 

 

 

 

 光刃(ビームセイバー)と剛拳が激突し、衝撃で互いを弾き飛ばした。

 白と黒の天使は、両者共に傷―――自己修復の範囲を超える程度―――を負っている。

 しかし、サンダルフォンにはそれが不満だった。

 

 『……まだ、手を抜く心算か?』

 

 憤怒を滲ませた声で、そう問い掛ける。

 

 メタトロンの刃は確かに鋭いし、こうして己はダメージを受けている。

 受けている……が、それだけだ。

 あの刃には己を殺そうという意思、即ち殺意が込められていない。

 多大なダメージを与えて行動不能にさせよう、そんな甘ったれた意図しか感じられない。

 そして何より、それが通用する相手だと―――嘗められているのが、堪らなく不満だった。

 

 『……手を抜いている積りなど無い』

 

 お前を止める為に全力を出している―――言外にそう仄めかされ、サンダルフォンの怒りは頂点に達した。

 

 『ふざけるなよ……メェェェェェタトロォォォォォォォン!!』

 

 抑え切れぬ激情の発露に応じ、サンダルフォンの体内に内臓されたダイナモが唸りを上げる。

 彼専用に製造され調整・改造が施された魔導ダイナモは、周囲の字祷子(アザトース)を吸い上げ喰らい尽す。

 取り込んだ字祷子を体内で高速循環させる事で、サンダルフォンは膨大な戦闘力を発揮するのだ。

 

 『―――!』

 

 サンダルフォンの発する膨大な魔力に、メタトロンは瞠目した。

 全身を駈け巡る字祷子によって回路が紅い輝きを放ち、翼からは禍々しい真紅の魔力フレアが溢れている。

 字祷子を吸い上げられた空間が軋み、悲鳴を上げていた。

 

 『呼ォォォ―――』

 

 唸る様な声と共に、サンダルフォンが構えを取る。

 ―――まるで、獣が獲物に飛び掛る予備動作の様だ。

 そんな考えが、メタトロンの頭を過ぎる。

 

 『覇亜亜亜ァァァッ!!』

 

 大気を裂くかの様な咆哮、爆発音。

 そして同時に、サンダルフォンの姿が視界から消失した。

 

 『!?』

 

 突如、全身を貫く死の予感。

 このままでは死が訪れると、第六感が警鐘を鳴らす。

 刹那の思考―――メタトロンは今までの戦闘経験から、眼前に向けて光刃を全力で振り下ろした。

 

 メタトロンは見事、最適解を導き出した。

 まるで鋼と鋼をぶつけた様な音を立て、光刃と剛拳が激突する。

 凄まじい衝撃が叩き付けられ、剛拳が捻じ込まれ―――光刃の構成が崩壊した。

 

 『なッ―――』

 

 光刃の感覚が消失し、光の粒子が視界に舞う。

 思わず零れた驚愕の声は、剛拳に中断させられた。

 

 『ぐぁぁっ!?』

 

 剛拳が肩部装甲を粉砕し、そのまま肩へと叩き込まれる。

 激痛がメタトロンを襲い、同時に後方へと吹き飛ばされた。

 その勢いは凄まじく、錐揉み回転しながら、倒壊を免れていたビルの壁を突き破っていく。

 そして崩壊させたビルが10を数えた時、漸く停止した。

 濛々と、周囲に土煙が立ちこめる。

 

 その様子を見て、サンダルフォンは呟く。

 

 『……直撃を避けたか』

 

 確かに必殺の意を込めた一撃。

 喉元を目掛け放った拳は、しかし繰り出された光刃によって逸らされていた。

 命中すれば鬼械神の装甲すら穿つと自負するソレを受けて猶、生きているのだから間違い無い。

 

 『どうしたメタトロン! これで終りか!?』

 

 あの一撃で動けなくなる様ならば、止めを刺しに行くまで。

 だが、もしそうではないのならば―――投げ掛けた言葉の返答は、白い閃光だった。

 

 『フッ』

 

 拳で閃光を撃ち払う。

 放たれた方を見遣れば、メタトロンがサンダルフォンを見据えていた。

 砕けた肩部装甲をそのままに、再び空へと舞い戻る。

 

 『…………』

 

 サンダルフォンと同じ高度にまで上昇してきたメタトロンは、無言で二振りの光刃を顕現させた。

 次いでその光刃を十字に構える―――十字・断罪(スラッシュクロス)の構え。

 

 咎人を屠る必殺の構えを前に、サンダルフォンは歓喜しながら言った。

 

 『漸くその気になったか?』

 

 『お前は、斃されなければ救われないと理解した。ならば―――私の手で』

 

 応えるメタトロンのダメージは大きいが、光刃に込められた魔力の輝きは敵対者にとって決して無視出来るモノではない。

 

 『必殺の一撃……という訳だな』

 

 面白い、望むところだ。

 

 サンダルフォンもまた、メタトロンに応じる様に構えを取る。

 両手でそれぞれ天と地を指して静止―――天地上下の構え。

 

 二人から立ち上る闘気が瓦礫を払い、土煙を払い、塵を払う。

 吹き込もうとした風さえも、互いの闘気に押し潰されて消えた。

 激突する闘気と闘気。

 それに呼応する様に二人もまた―――

 

 『―――覇ッ!!』

 

 『―――悪ォォォッ!!』

 

 白と黒の閃光と化した。

 

 

 

 

 

 疾走、飛翔、咆哮、斬撃。

 両断、粉砕、撃墜、爆散。

 撃って打って討ち続け―――遂に、最後の一体が沈黙した。

 

 クトゥグアとイタクァの構成を解き、戻って来た偃月刀を受け止める。

 此方は構成を解かず、地面に突き立てて置く。

 

 『…………』

 

 舞台は整えてやった、後は奴に降りて来てもらうとしよう。

 

 近くに墜ちていた、辛うじて原型を留めている破壊ロボを軽く蹴り上げる。

 ―――断鎖術式壱号・弐号、開放。

 

 『アトランティス―――』

 

 落下してくる破壊ロボに合わせて一回転し、蹴りを叩き込む。

 

 『ストライク!』

 

 膨大なエネルギーを受けた破壊ロボは、まるでボールの様に軽々と吹き飛んだ。

 弾丸の様な勢いで空を翔け、標的―――マスターテリオンへと迫る。

 

 「フッ」

 

 質量兵器と化した破壊ロボを見遣り、奴は笑みを浮かべた。

 迫る超質量は、しかし虚空より喚び出された紅の掌によって当然の如く受け止められる。

 鋼の腕は破壊ロボをそのまま圧壊させ、残骸へと変えた。

 そして主を守る様に姿を顕す紅の鋼、鬼械神―――リベル・レギス。

 

 これで良いだろう。

 奴を見上げ、言葉を投げつける。

 

 『さあ、降りて来なさいマスターテリオン! ―――真逆、嫌とは言わないわよね?』

 

 「ああ、そうこなくてはな」

 

 マスターテリオンがリベル・レギスへと乗り込む。

 主を迎え入れた機体が、ゆっくりと地上へ降下してきた。

 

 『さあ、決着(フィナーレ)と征こうか―――エセルドレーダ』

 

 『イエス、マスター』

 

 紅の鋼が舞い降りる。

 絶対者の如く、地上に舞い降りる。

 

 『上等! 征くわよ、アル!』

 

 『応ッ!』

 

 だが、相手が絶対者だろうが何だろうが必ず討ち砕いてみせる。

 

 此処に至るまでの幾度もの怪異、幾度もの戦いが私達を鍛え上げた。

 嘗ての様に、撃ち合う事すら出来ない鈍らではない。

 この剣は必ずお前に―――お前の喉元に届く。

 それを今、証明してやる。




※魔導ダイナモ
多分これくらい出来るでしょという大雑把な描写。

※構成を解き~
ロイガー&ツァールの描写をしていませんが、本文に入れると微妙にテンポが悪い気がしたので書いてません。構成は解いているという事で脳内補完をお願いします。

※辛うじて原型を~
アトランティス・ストライク叩き込んだら爆散するだろっていう突っ込みは無しでお願いします。そこらへんは九淨さんとアルが上手いこと加減したって事で1つ。

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