ある少女の斬魔大聖   作:アイオン

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中の人は一緒。


第44話

 とりあえずの方針が決まったところで、エンネアの服を買いに行くことにした。

 いつまでもシャツ一枚では風邪を引いてしまうかもしれないし、何より世間体というものがある。

 そんな訳でエンネアには留守番してもらって、出掛けようとしたのだが……。

 

 「お出かけ? エンネアも行く行くー!」

 

 もの凄くキラキラした瞳で見つめられ、結局連れて行く破目に。

 流石に昨日着ていた襤褸やシャツ一枚で街を歩かせる訳にはいかないので、コートを着せて全身を隠す様にした。

 言うまでもなく違和感の塊みたいな感じだけど、しょうがない。

 

 「ある意味裸コートだな。……汝、やはりそういう趣味か」

 

 アルに何か失礼なことを云われたけど、誤解も甚だしい。

 私にそんな趣味はないのだ。

 誠に遺憾である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、繁華街までやってきた私達。

 女三人寄れば姦しいとは良く言ったもので、私たちも例外ではない。

 はしゃぎ回るエンネアに付き合い、会話に花を咲かせていた。

 

 「ほら、見て見て! これすっごく可愛い!」

 

 「うーん、ちょっと派手過ぎない? もっと大人しい色の方が良いんじゃないかしら?」

 

 「九淨は色選びが地味過ぎるよー! 絶対、冒険するぐらいが丁度良いって!」

 

 「うむ……そういえば汝が粧し込んでいるところなど見たことが無いな。曲がり形にも女子であろうに」

 

 「……ちょっとアル? 曲がり形にもってどういう意味かしら?」

 

 「そのままの意味だが? 汝の生活を見る限り、女子らしさの欠片も無いではないか」

 

 「うぐっ」

 

 アルの痛恨の一撃によって崩れ落ちる。

 悔しいけど言い返せない、ちくせう。

 

 「あ、これ良い! ちょっと試着してくるね―――!」

 

 どうやらエンネアは、気に入った服を見つけたみたいだ。

 店の試着室へと向かう彼女の背中を見送る。

 

 「……ふぅ、ホント元気よね」

 

 「九淨よ、随分と年寄りくさい発言だな」

 

 「うっさいわよ、そこ」

 

 あの天真爛漫で快活な顔が、彼女の素ということなのだろう。

 勿論、あの儚げで弱々しい顔も彼女の一面ではあるのだろうけど。

 まあ、元気に越したことはないし良しとしよう。

 そう考えを纏め、エンネアを待つ間店内を見遣る。

 

 「……あら?」

 

 ふと視線を向けた先に、変わった服一式を見つけた。

 近づいて、手に取ってみる。

 

 (これはまた……)

 

 それは、美しい深紅(ガーネット)のドレスだった。

 揃いの深紅のスカートと深紅の帽子、それに黒のブーツとハート型の髪留め。

 私には到底合いそうにない格好だけど、アルが着たら凄く似合いそうだ。

 

 (さっき色選びは冒険するぐらいが丁度良いって言われたし……うん)

 

 「アルー?」

 

 「ん? どうした、九淨」

 

 「コレ、アルにとっても似合うと思うの。良かったら着てみない?」

 

 と、いう訳で勧めてみた。

 

 「…………コレを、か?」

 

 「そそ、コレ。アルが着たところ、私見てみたいな。絶対可愛いと思うの」

 

 「そ、そうか……。まあ、汝がどうしてもと言うのであれば、妾としても着るに吝かではない///」

 

 アルはそう言うと、空いている試着室へと入っていった。

 

 ……やけにあっさり了承してもらえた。

 アルのことだからもっとゴネられると思ったけど……着てもらえるなら些細な問題だろう。

 私はのんびりと二人を待つ。

 

 ややあって、エンネアが入っていた試着室のカーテンが勢いよく開かれた。

 

 「九淨――――――!」

 

 そしてこれまた勢いよく、私のところまで駆け寄ってくる。

 

 「ねね! これどうかな? 似合う似合う?」

 

 エンネアは私の目の前で止まると、その場でくるりと一回転をしてみせた。

 彼女が選んだ服は、いつもアルが着ているものと似たタイプだ。

 随所にフリルが付いており、要所要所を可愛らしいリボンが纏めている。

 元々可愛らしいエンネアが着ていると、何処かのアイドルだと言われても信じてしまいそうだ。

 総じて、彼女によく似合っている服装だと言える。

 

 「うん、とっても似合ってるわ。すっごく可愛いもの」

 

 「ホント!? やったぁ♪」

 

 「っとと」

 

 エンネアは満面の笑みを浮かべると、私の左腕に抱きついてきた。

 ……どうしてか、彼女にやたらと懐かれている気がする。

 まあ、嫌われるよりは全然良いんだけど、理由がさっぱりなのだ。

 

 「あれ、そういえばあの子は?」

 

 「ああ、アルのこと? アルなら今試着室に―――」

 

 エンネアの疑問に答えると同時、アルが入っていた試着室のカーテンがちょっとだけ開かれた。

 開いた隙間から、アルが小動物の様に顔を出す。

 

 「く、九淨……///」

 

 「ん? 着れた?」

 

 「あ、ああ。着たは着たが……いくらなんでもコレは……///」

 

 試着はしてみたようだけど、何故か試着室から出て来ないアル。

 ……もしかして、恥ずかしかったりするのだろうか?

 

 「何してるんだろ?」

 

 「さあ? ちょっと引っ張り出してくるわね」

 

 私はエンネアにそう言い、試着室の前まで行く。

 

 「アル? 着れたなら、ちゃんと見せてよ」

 

 「み、見せろと云うか!? やはりそういう趣味なのだな、この変態めっ!///」

 

 「何言ってるのよあなた。吝かではないとか言ってたじゃないのよ。ほら、さっさと出てきなさい」

 

 「ちょ、ちょっと待っ―――!///」

 

 一向に出てこようとしないアルに業を煮やした私は、アルの腕を掴んで試着室から引っ張り出した。

 

 「うぅ……///」

 

 「………………」

 

 「おー」

 

 第一印象は、綺麗の一言。

 胸元の開いた深紅のドレスに、身じろぎと共に揺れる深紅のスカート。

 大胆に肩を見せる構図と、シースルー生地から覗く眩しい肌。

 ほっそりとした足を包み込む、黒のブーツ。

 テンガロンハットに似た深紅の帽子を冠り、ハート型の髪留めで左右にひと房ずつ髪を纏めている。

 今のアルの姿は、まさに一つの宝石の様であった。

 

 「せ、せめて何か言ってくれ……///」

 

 「え、ええ……その……凄く、綺麗よ。ね、エンネア?」

 

 「うん。ちょっとびっくりしちゃったよ」

 

 「き、綺麗か……そうか……うむ///」

 

 私たちの評価を聞くと、アルは顔を赤くしながらも満足気に頷いた。

 普段はあまり見られない、アルの表情。

 それが見られたのだから、勧めた甲斐があったというものだ。

 

 さて、そろそろお会計をと思っていると

 

 「あ、ねえねえ九淨!」

 

 突然エンネアが、何か企んでいる様な笑みを浮かべて言った。

 

 「私たちの服、どっちの方が似合ってると思う?」

 

 「へ?」

 

 「!?」

 

 (どっちの方がと言われても、比べるものじゃない気がするんだけど……)

 

 どうやらそう思っているのは私だけのようで

 

 「……妾としても興味があるな。聞かせてもらおうではないか、九淨よ」

 

 アルまでそんなことを言い始めた……仕方ない。

 ここは無難な言葉で凌ぐとしよう。

 

 「どっちも似合ってて可愛いわよ」

 

 「「却下」」

 

 同時に即答である。

 というかこの2人、意外と仲が良いのだろうか?

 

 「エンネアの方が絶対似合ってるよー! そうだよね九淨?」

 

 「何を言うか小娘! 此奴はパートナーである妾を選ぶに決まっておろう! そうだな九淨?」

 

 ま、まあ、それは置いておいて。

 

 「と、とりあえずお会計しちゃいましょう。ほら、二人とも!」

 

 「はーい」

 

 「ふん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2人の服は、普段私が買っている服とは桁が一つ違った。

 予想外の出費だ、とても痛い。

 

 「九淨~♪」

 

 「九淨!」

 

 左腕にはエンネア、右腕にはアル。

 何故か二人とも離れようとしないので、とても歩きづらい。

 

 (……それにしても)

 

 今更になるけど、エンネアをこんなに堂々と連れ回して良いものだろうか?

 追われている可能性が高いし、今この瞬間も“何か”に狙われているかもしれない。

 

 「―――白昼堂々と仕掛けてくるとは思えんし、妾等が注意していれば問題はなかろう」

 

 考えていることが顔に出ていたのか、アルが小声で言う。

 

 (……それもそうかしらね)

 

 確かに、そういう輩が真昼間に事を起こすというのは考えにくい。

 アルの言う通り、私達が注意していれば問題な

 

 「ななななァァァ―――んとォォォ!?」

 

 いと思ったんだけどなぁ……。

 

 「公衆の面前であると云うのに、世にも恐ろしい光景が展開されているではないかァ!」

 

 大変遺憾ながら、非常に聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 態とらしく溜息を吐きながら、そちらを向く。

 

 「まだ年端も行かぬ娘を、一人ならず―――いや、二度までも餌食にするとは!」

 

 声の方にいたのは、当然ドクター・ウェストとエルザだった。

 ドクター・ウェストは、私を指差して何事かを喚いていやがったりする。

 

 「大十字九淨! 貴様は悪ッ!」

 

 「……厄介なのが来たわね」

 

 しかしドクター・ウェストの言葉からすると、別にエンネアを狙っているという訳ではないらしい。

 ……つまりはいつものパターンだ。

 

 「悪の番付では上位に食い込むと自負する我輩ではあるが、事その分野に関しては貴様の方が上! 極悪横綱! あー参りましたぁ許してくださーい」

 

 「誤解される様なコト言ってんじゃないわよっ!」

 

 心なしか、遠巻きに見ている人たちの視線が冷たくなった様な気がする。

 ……気がするだけだと思いたい。

 

 「良いかエルザ? 彼奴は見ての通り、群を抜いた超弩級の変態であるから決して近寄っては……」

 

 ドクター・ウェストはエルザに言い聞かせるが、当のエルザは此方に近づいて

 

 「ダーリン♪」

 

 何か正面から私に抱きついてきた。

 

 「ならぬ……って? ぬおおォ!?」

 

 漸くエルザが隣にいないことに気付いたドクター・ウェストだったが、時すでに遅し。

 奴の発言は、全部エルザにスルーされていた。

 

 「二人ヤるのも三人ヤるのも同じロボ」

 

 エルザの発言に、ドクター・ウェストは地団駄を踏んで悔しげな表情をした。

 

 「ウチのダーリンがお世話になっていますロボ」

 

 「何を言っておるのだ、機械人形! 九淨は妾のパートナーだ!」

 

 「そしてエンネアが九淨の奥さんだよ!」

 

 「汝もどさくさに紛れて何を言っておる小娘!」

 

 やいのやいの喧喧諤諤。

 現場は収集がつかなくなる程の騒ぎになってしまった。

 ……全部ドクター・ウェストのせいだ。

 とりあえず一発殴らせてもらおう。

 

 「な、何故我輩がウボァ―――!?」




真紅ではなく深紅。なので、エロ本さんの服とは若干違います(ほとんど同じですけども)。具体的に言うと下着は見えません。肌は透けて見えるけどパンツは見えません。
そんな感じの服を着たアルが、お腹の辺りで指を組んで、もじもじしながら恥ずかしそうな上目遣いで九淨を見上げるんですよ、はい。

因みになんで真紅じゃなくて深紅なのかは、機神飛翔まで行けたら書こうかと思ってます。

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