予定としては今話から2~3話+番外話と云う感じです。
デモベがデモベしていませんけど……申し訳ありませんが、ご了承ください。
白。
白。
しろ。
……ああ。
また、この、しろい、景色。
私のゆめを染め上げる、しろ。
私の過去を覆い尽くす、しろ。
よごれひとつない、気がくるってしまいそうな、無慈悲な白。
しろい、ろうや。
白い牢獄の中、身を寄せ合う2人の子ども。
私はまた、その夢を見る―――
私が“施設”に引き取られる以前の記憶は、おぼろげなものだ。
何せ、親の顔すら知らないのだから。
記憶の始まりは、とある教会の古ぼけた孤児院。
そこで活動するシスター達は、孤児院での仕事をただの作業としか思っていなかった。
子ども達に抱くのは、仕事としての義務感のみ。
当然、愛情などあるはずもなく……しかし、憎しみもまた存在しなかった。
だから、“施設”と孤児院の“取引”は、打算によっていともあっさりと成立した。
大人の事情、という名の打算。
子どもの諦観、という名の打算。
成長すれば祈りの言葉一つを押し付けられて、放り出される運命。
そんな私達に、後々まで衣食住に困らない環境を用意してくれるというのなら―――教会ではなく、“施設”を選ぶのも当然だろう。
暖かくもなく、然りとて冷たい訳でもない環境。
私達の心は、砂漠の様に乾き切っていた。
そうして“施設”へとやって来た私達だけど……結局のところ、大した変化はなかった。
冷たい風に凍えたり、今日食べる食事には困らないというだけ。
―――分かってはいたけど。
白。
白。
しろ。
何処へ行っても、何をするにも、白。
白い廊下を歩き
白衣の研究員と擦れ違い
白い部屋に着く。
白。
白。
しろ。
一切混じり合わない白。
近寄る事も離れる事もない白。
延々と続く、白の毎日。
そんなしろのせかいに、わたしのこころは、だんだんと―――
「ねえ、ほら……早く起きてよ」
……ゆらゆらと風に揺れる、白いカーテンの向こう。
「こんな晴れた日に、寝てばかりじゃあ勿体無いよ」
窓の外に広がる、唯一、白ではない世界。
「見てごらんよ、あの空を。とても、とても、きれいな青空だ……」
そう。
そうだ。
総てが白に眩むこの世界で、唯一、この蒼い空だけは。
あおい あおい そらだけは。
何よりも、何よりも鮮明だ―――。
「……んぇ?」
鳥の囀りと、瞼を刺激する陽の光に目を覚ます。
布団はベッドから床に落ちており、何故か枕―――ですらなく、自分が着ていたはずの少女趣味全開なパジャマを抱き締めて眠っていた(因みに枕は足蹴にしていた)。
……これはひどい、よく風邪を引かなかったものだ。
一体どうして就寝中にパジャマを脱いだのだろうか。
「ふあぁぁ~~~っ……」
大きな欠伸とともに身を起こし、時計を見遣る。
時計が指し示していたのは、いつも起きる時間よりも遅い時間―――つまりは寝坊だった。
……あの子たちがお腹を空かせているだろう。
立ち上がり、カーテンを開く。
「んっ―――」
一気に取り入れられた陽の光に、一瞬目が眩む。
次いで目に入ったのは、蒼く、澄み切った空。
その蒼は何処までも広がっていて―――先程の夢を、思い出させた。
「ふぅ……どうしてまた、あんな夢」
折角気持ちの良い朝に、昔の夢は宜しくない。
何故かと聞かれれば、あまり目覚めが良いものではないからだ。
……さて、引き摺っても仕方ない。
気分を切り替え、さっきまで抱き締めていたパジャマを畳む。
そして下着を身に着け、何時ものシスター服に着替えた。
朝食というのはとても大切なものだ。
忙しく、時間に追われる生活を送る現代人。
中には面倒だ、朝食を食べる時間があればギリギリまで眠る、そもそも食べないのがデフォだ
しかし、それは宜しくない。
腹が減っては戦は出来ぬ、と云う言葉があるように、朝にキチンとした食事を取らなければ、今日という
健康的且つ充実した一日の始まりは、やはり朝食からなのだ。
―――そんなワケで私こと大十字九淨は、今日もまたライカさんのところへ朝食を集りにやってきたのだった。
「おはよー、みんな」
意外な事に、ライカさんは少し遅めに起きてきた。
元気一杯に返事をするがきんちょどもに混じり、私も朝の挨拶を返す。
「おはよう、ライカさん。何かライカさんが遅く起きたのって、初めて見た気がするわ」
「あら、来てたのね九淨ちゃん。うん、今日はちょっとね」
ライカさんは言葉を濁すと、朝食の支度にキッチンへと行ってしまった。
「ふむ。確かに朝寝坊を見たのは初めてだな」
隣に立つアルの声に、少し原因を推測してみる。
(夜更かしは、何となく違うわね。悩み事、って顔でもなかったし……)
だとすると、あと考え付くのは夢見が悪かったと云うところだろうか。
(うーん、あんまり考えてもしょうがないか)
……何て云うか、すっごく無駄な行為な気がしてきた。
早々に思考を放り投げ、着席。
テーブルの上に置かれていた新聞、“アーカム・アドヴァタイザー”を手に取った。
“アーカム・アドヴァタイザー”。
此処、アーカムシティではお馴染みの地方紙だ。
ロンドンや上海を凌駕する規模で事件が頻発するこの街に於いて、正に生命線とも呼ぶべき情報媒体である。
一面から目を通し、中の記事へと読み進めていく。
“
「性について語るのは、基本的人権の問題……」
って、なんで朝っぱらから同性愛志向について考えなくちゃいけないのだろうか。
何となく隣に座るアルをチラリと横目で一瞥し、それから別の記事に目を移す。
“映画製作倫理規定―――ヘイズ・コード作成”。
「映画や漫画が若年者や犯罪者に与える影響を憂慮し、暴力や性行為、社会に対する描写を制約する規定の作成を決定……」
むぅ、求めていた記事とは全く関係がない。
「うーん……断片が関わっていそうな記事は載ってないわね」
「まあ、仕方あるまい。妾の散らばった断片も、残り少なくなってきたからな」
「そうなの? なら、しょうがないのかしらね」
残り少ないなら、早々に回収してしまいたい気持ちもあるけど……焦っても良い事はない。
私は軽く息を吐き、新聞を畳んでテーブルの脇に置いた。
「はぁーい、みんな~。朝御飯が出来ましたよぉー」
丁度そのタイミングで、ライカさんがキッチンから戻ってきた。
とりあえず朝食を食べよう、全てはそれからだ。
「さて、朝食を食べ終わった訳だけど……今日はどうする?」
隣で同じく朝食を食べ終わり、マッタリとしていたアルに訊ねる。
「ふむ。とりあえずは修行をしつつ、断片の捜索だな」
「つまりはいつも通りね、りょーかい」
そう言って立ち上がろうとする私達。
そこへ、洗い物から戻ってきたライカさんが声を掛けてきた。
「あ、九淨ちゃん。今日って暇だったりしないかな?」
「ん? どうかしたの?」
「ちょっと買い出しついでに、色々と街を回ろうと思って。良かったら一緒にどうかな?」
成程。
そういう事なら折角だし、一緒に行くのも悪くはない。
修行は出来なくなるけど、街を回るなら断片の探索にもなるだろう。
「アル、良いかしら?」
「……妾も連れて行くのなら、まあ良かろう」
「ん、了解ー。じゃあ準備してくるから、ちょっと待っててね~」
ライカさんはそう言うと、私達に手を振りながら自室の方へと向かって行った。
さて、そんなこんなで今日の行動が決定した訳だけど……
「か、勘違いするなよ九淨!///」
何やらアルが急に、顔を赤らめて捲くし立て始めた。
「妾も連れて行けというのは、あくまで危機管理の一環と云うか不測の事態に備えてであって……断じて、断じて! 前に覇道の小娘と出掛けていたのが羨ましかったとか、そんなことはないのだ! 故に妾が……その……し、嫉妬しているなどと、妙な勘違いをするでないぞ!///」
「え、ええ……」
「わ、分かれば良いのだ、分かれば……///」
そう言って、アルは視線を逸らしながら俯いてしまった。
朝食は大事、と書きつつ私自身はギリギリまで眠る派の人間だったり。
そういえばつい勢いでパジャマを脱がせてしまったのですが……ライカさんって、寝るときは下着を着けない派の人間なんですよね。
寝るとき着けない派:九淨、ライカ
寝るとき着ける派 :瑠璃
って、勝手に妄想しているのですが(ライカさんに関しては、ライカさん√での本文から)皆さんはどう思いますでしょうか?
……え、アル?
アルはそもそも、着けるだけ胸がn―――おや、誰か来たようだ。