ある少女の斬魔大聖   作:アイオン

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ランチェスター 「みんなー! 聞いてくれロボー! ダーリンって実は、バイなんだロボー!」

    『『『『ザワザワ……ザワザワ……』』』』

ハーバート 「マジであるか……!」

ラピスラズリ「バイって?」

夜の音 「バイ……!」

忠犬  「男も女もアリだと……!」

照夫  「確かに、男っぽくはあるな」

    『『『うーむ……』』』

ラピスラズリ「え? えぇー!?」

ハーバート 「おや? どこからともなく魔導書がヌオァー!?」

タイタス  「何勝手な事言ってるのよアンタたち! 私はバイじゃなくてレズよ!」

    『『『『『えっ?』』』』』

タイタス  「えっ?」

白天使 「キマシタワー!」


第36.5話―アーカムの休日・前―

 「あら?」

 

 シャワーを浴び終わり体を拭いていたところで、事務所のチャイムが鳴らされた。

 

 (誰かしら……?)

 

 この事務所を訪ねてくる人というのは、かなり限られている。

 わざわざ家まで来るような知人は零に等しいし、探偵事務所なのに依頼人が来るのも極々稀だからだ。

 ……なんでだろう、涙が出てきた。

 

 とりあえず裸で出て行くワケにもいかないし、ここはアルに対応してもらおう。

 私はリビングに居るであろうアルに呼び掛けた。

 

 「アルー! ちょっと出てもらえるー?」

 

 呼び掛けた……が、返事はなし。

 

 「アルー?」

 

 もしかしてまだ寝ているのだろうか? ちょっと困ってしまう。

 

 そこへ、再びチャイムが鳴らされた。

 

 (出ないワケにもいかないし……仕方ない)

 

 体を拭き終わった私は手早く下着を身に着け、シャツだけ引っ掴んでバスルームを出た。

 

 リビングに入ると案の定、アルが幸せそうな顔で寝息を立てている。

 ……流石にこんな顔を見せられては、起こすにも起こせない。

 

 催促する様に、もう一度チャイムが鳴らされる。

 私は玄関へと歩きつつシャツを着て、ドアを開けた。

 

 「すいませんこんな格好で。どちら様……って」

 

 「お早う御座います、大十字様」

 

 そこにいたのは、いつも通り涼しげな笑みを浮かべている執事さん。

 そして、何故か顔を真っ赤にして固まっているお嬢様だった。

 

 確かこの二人が家に来たのは、最初の依頼のとき以来じゃないだろうか。

 何かあったのだろうか、挨拶を返しつつ訊ねてみる。

 

 「おはよう、執事さん、お嬢様。わざわざこっちに来るなんて、何かあったの?」

 

 「いえ、特に問題が起きているという訳ではありません。今回の訪問は、お嬢様の私的なものです」

 

 「私的?」

 

 つまりプライベートって訳なんだろうけど……覇道総帥ともあろう人が仕事も関係なしに、私なんぞにどんな用事なんだろうか。全く想像がつかない。

 

 「―――って、そのお嬢様は何故冷凍林檎の様相を呈していらっしゃるのでしょうか?」

 

 「恐らくは、大十字様の格好が原因かと」

 

 私の格好―――下着にシャツ一枚。

 ……なるほど。

 こういう言い方はアレだけど、お嬢様は正にイイトコのお嬢様だ。

 多分同姓のものであっても、こうもあからさまな肌の露出は少々刺激が強かったのだろう。

 

 「あ、あははは……ちょっとシャワー浴びてたものでして……」

 

 とりあえず立ち話もなんだろう、私は二人を部屋に招き入れた。

 

 

 

 

 

 「それで、お嬢様? 私にどんな用事なのかしら?」

 

 ソファーに座って解凍されたお嬢様に聞く。

 お嬢様は赤みの抜けきらない顔のまま、軽く咳払いをして話始めた。

 

 「その……大十字さん。今日は、お暇ですか?」

 

 「へ? あー、うん。見ての通りアルがおねむだから、暇と云えば暇なのかしらね」

 

 言って、ダンセイニ(ウォーターベッド)で眠るアルを指差す。

 今日のアルは寝坊、というか完全に熟睡している―――珍しいこともあるものだ。

 

 そんなアルを見たお嬢様はなにやら、むんっと気合を入れ、挑むような視線を私に向けてきた。

 

 「あの! でしたら、今日はわたくしにお付き合い戴けないでしょうか!」

 

 「……私が?」

 

 ちょっと―――いや、かなりびっくりしてしまった。

 プライベートで、私がお嬢様に誘われるとは思いもしなかったからだ。

 

 「はい! ……ダメでしょうか?」

 

 「いや、ダメってワケじゃないんだけど……」

 

 確かにびっくりはしたけど、それはそれ。

 決してお嬢様に付き合うのが嫌な訳ではない。

 嫌な訳じゃないんだけど……

 

 「…………」(捨てられた子犬のような視線)

 

 「…………」(↑の後ろから飛んでくる物理的圧力を伴った殺気混じりの視線)

 

 「…………」(滝汗)

 

 いや、うん。

 アルが寝てるから私ものんびりしたいとか、アルが居ないといざって時に対応できないとか、その他諸々の言い訳がましい台詞は全部消し飛んだ。

 あの凶悪な二つの視線―――無論、それぞれ意味は異なる―――に抗うことなど、私には出来そうにない。

 こうして今日の私の行動は(半ば強制的に)決定した。

 

 「ヨロコンデオツキアイサセテイタダキマス」

 

 「ほ、本当ですか!?」

 

 私の言葉に、笑顔を浮かべるお嬢様。

 執事さんの視線(物理)も、同時にいつもの柔らかいものへと戻った。

 

 「ではお嬢様、大十字様。アル・アジフ様のことも含め、後のことは私にお任せ下さい」

 

 「頼みましたわ、ウィンフィールド。―――では大十字さん、参りましょうか」

 

 「え、ええ……」

 

 まあ、執事さんになら任せてしまっても大丈夫だろう。

 私はそう結論付け、お嬢様の後へと続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 事務所を出て、街を歩く私とお嬢様。

 

 「そういえばお嬢様」

 

 「は、はい?」

 

 「付き合うのは良いんだけど、何処に行くの?」

 

 何故か、若干緊張している様子のお嬢様に問い掛ける。

 プライベートという事はつまり、遊びに行くって認識で良いんだとは思うけど……お嬢様が何処かへ遊びに行くというのが想像出来なかった。

 

 「あ、えーと……」

 

 お嬢様は何処からかメモ帳を取り出して捲ると、頷きながら私の問いに答えた。

 

 「先ずは映画鑑賞で……昼食を挿んだ後ショッピング街を練り歩き、最後は夜景の見えるレストランでディナー―――です」

 

 「ふーん……」

 

 まるでデートプランだ、と思う―――夜景の見えるレストランなんて正にだし。

 此処は一つ、相手役としてエスコートでもすれば良いんだろうか……って、あれ?

 

 (何でナチュラルにエスコートする側の思考になってるのかしら……)

 

 多分私云々というより、お嬢様が間違いなくエスコートされる側だからだろう。

 ……そう思うことにした。

 

 最近―――アルと出会ってから―――私の思考が男性っぽくなっているのは気のせいだろう。

 ……そう思いたい。

 

 (とりあえずは……っと)

 

 頭の中を切り替え、お嬢様に視線を向ける。

 私の少し前を歩くお嬢様は、なにやらソワソワしていたり、視線がキョロキョロと忙しなく動いていたり、偶にチラリとこちらを見たり、私と目が合うと顔を赤くしたり……なんていうか、落ち着きが無かった。

 

 (お嬢様ってこんな感じだったっけ?)

 

 普段とは違う様子のお嬢様に、少し首を傾げる。

 傾げて……一つ、思い当たった。

 

 覇道財閥というのは世界でも有数の財閥であり、当然日常の業務もそれ相応のものであるはずだ。

 そしてその財閥の総帥ともなれば、仕事に忙殺されていると言っても過言ではあるまい。

 ならば、休みを取れるのも年にほんの数日のはずだ―――むしろあるのか疑わしいレベル。

 ……要するに、久し振りの休日ということで浮かれているのだろう。

 

 (お嬢様……よしっ!)

 

 そんな年齢相応の姿を見せるお嬢様に、私は決意した。

 

 「お嬢様」

 

 「ひゃい!?」

 

 何故か跳ね上がる様に振り向いたお嬢様に、そっと手を差し出す。

 

 「え……?」

 

 「宜しければ、お手をどうぞ」

 

 最初は何を言われているのか分からない様子のお嬢様だったけど、少しして理解したようだ。

 私の顔と差し出された手を交互に見遣り、そして

 

 「は、ははははい! よ、よろしくお願いしましゅ!///」

 

 赤い顔を更に赤くして、思いっきり噛みながら私の手を取った。

 ―――ナニコレカワイイ。

 

 「ええ、こちらこそ」

 

 手袋越しのお嬢様の手を、優しく握る。

 

 そうだ。

 貴女が偶の休日を楽しめるというのであれば、この九淨。

 今日一日、貴女の為の紳士(ジェントル)となりましょう。

 

 「じゃあ、アーカムの休日と参りましょうか!」

 

 「は、はい!///」

 

 トレヴィの泉も真実の口も無いけれど、我等が愛するアーカムシティ。

 拙いエスコートではございますが、どうぞ最後までお楽しみください。




一応街に出たけど、まだ休日の内容に入っていないと云う……前回の予告を詐欺って申し訳ありません。
こんなペースだと、ホントにいつ完結するんだろうこの小説。

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