ある少女の斬魔大聖   作:アイオン

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ギリギリ一週間……?
待たせた割りには微妙な感じに(微妙な出来なのはいつもの事ですが)。
それと、かなり中途半端な切り方です。


THE ARKHAM CITY
あるフォト・ジャーナリストの体験:1


 ―――今、私の思い出す姿は余りに不鮮明。

 それは例えば、アーカムシティに放たれた眩い光。

 例えば、人並みの途絶えた街並に落ちる巨大な影。

 そんな、まるで微かな手触りのようなものでしかないんだけれど……。

 でも、その手触りはアーカムシティを遠く離れた今でも、ハッキリとした感触として残っていて……時々不意に表れては、私の心に強烈な色彩を放っていってくれる。

 

 そう、貴方の名前を聞いたその時から、ずっと―――。

 

 

 

 

 

 「ねぇお姉ちゃん! デモンベインって知ってる?」

 

 「デモン……ベイン?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜空を貫くかのように聳え立つ摩天楼。眠ることのない街。繁栄の絶頂。

 あらゆる人種/階層/職種の人々が集い、今なお成長続ける世界の中心。

 大黄金時代にして大混乱時代にして大暗黒時代―――それが此処、アーカムシティだ。

 

 時刻は夜の帳が下りる頃。

 色とりどりのネオンサインが繁華街を染め、街灯の灯りが大通りを照らす。

 眠らない街、アーカムシティの時間はまだまだ続く。

 続く……のだが、今日は一騒ぎ起きていた。

 

 ビルが倒壊し巻き上がる土煙に、逃げ惑う人々の悲鳴。

 そして蒼い月光に照らされる―――巨大なドラム缶。

 次いで響くギターの旋律と、男の声。

 

 「ドォォォクタァァァァァァァァ・ウェェェェストッッッ!」

 

 声の主は、その巨大なドラム缶の上に立っていた。

 白衣を身に纏い、エレキギターを掻き鳴らしているちょっと逝っちゃってる雰囲気の男。

 大きなアホ毛がチャームポイントだ。

 

 「地を這う哀れな虫けらの皆さんッ! この世紀の大天才、ドクター・ウェストの偉大な力を心行くまで思い知るが良い! そして、我輩の恐ろしさを脳裏に焼き付け、忘れられない一夏の思い出―――と云うか、ちょっぴり切なく甘酸っぱい失恋にも似たトラウマとして、その胸に深く刻み込むのだ。ぬははははっ!」

 

 ドラム缶に乗り込む白衣の男。

 ドラム缶は操縦者に従い、自身に装備された火器を展開。

 アーカムシティへの破壊行動を始めた。

 

 

 

 

 

 「市民の避難、完了しました」

 

 「あっそう。じゃあ、俺等もボチボチ引き上げますか」

 

 こちらは治安警察の2人。

 今回の騒ぎ―――ぶっちゃけいつもの事なのだが―――に対する市民の避難誘導をしており、今し方作業が完了したところだ。

 

 「しかし警部! 市民の財産が理不尽にも破壊されていると云うのに、我々治安警察が何もせず逃げ帰るなど―――!」

 

 お堅そうな警官は、どうやら上司の判断に納得出来ないようだ。

 対する上司―――警部は煙草に火を点け、諭す。

 

 「はいはい。君の心意気は立派だと思うよ? けど、現実問題俺等があのデカブツをどうにか出来るか?」

 

 警部はデカブツ―――ドラム缶―――いや、破壊ロボを煙草で指して言う。

 

 「うっ……それは……」

 

 口籠る警官。

 勇敢なのは結構だが、彼等が破壊ロボに挑むのは勇敢ではなくただの無謀だ。

 万全の準備を整えた状態ならまだしも、現状では時間稼ぎすら出来ないだろう。

 

 「早く逃げないと、俺等も巻き添え食っちゃうよ?」

 

 市民の安全を守る―――元凶の排除ではなく、市民を避難させるという対応だが―――と云う目的は、避難が完了した事で一応達せられているのだ。

 

 彼等の出来る仕事はここまで。

 後は―――

 

 「ん? ……ようやく、アーカムシティの“正義の味方”の御出座しだな」

 

 そう。

 後は()()()の仕事だ。

 

 

 

 

 

 『博士、前方に巨大な機影出現ロボ』

 

 破壊ロボに同乗する少女―――エルザが言う。

 

 彼等の進路上―――パウダーミル・ストリートの上空に、巨大な魔法陣が出現した。

 そしてその魔法陣から顕れるモノを、彼等は知っている。

 

 魔法陣の周囲を高密度の情報が駆け巡り、収束し―――やがて、魔法陣が空間ごと爆ぜた。

 空間が爆砕したことによって急激な気圧の変化が発生し、暴風が吹き荒れる。

 砕けた瓦礫や停めてあった車が、まるで枯葉のように舞い上がった。

 

 破壊を纏って顕現化(マテリアライズ)する巨体。

 アーカムシティの夜空を飛翔する、圧倒的な威容。

 降臨するは―――鋼の巨人。

 

 『おのれ、現れたな!』

 

 超重量が着地したことにより、大地が激震し土煙が上がる。

 鋼の巨人はゆっくりと立ち上がり、破壊ロボを視界に捉えた。

 モノ言わぬ機械の眸が、まるで戦意漲るように輝きを宿す。

 

 『今日こそは貴様をこの“スーパーウェスト無敵ロボ28號+スピードコントローラーと連射機能付き”の破壊力で鉄屑と変えて、昨日出し忘れた資源ゴミと一緒に燃えないゴミの日に出してくれるわァ!』

 

 鋼の巨人に見せ付けるように、腕―――何を間違ったのか、4本ある腕全てがドリルだった―――を掲げる破壊ロボ。

 次いで、その剣先?鉾先?を鋼の巨人へと向ける。

 

 対する鋼の巨人も、それに応じるように構えた。

 鋼の脚が大地を踏み締める。

 

 『イィィィィッッツ! ショウ・タァァァァァイムッ!』

 

 唸りを上げて回転する、破壊ロボのドリル。

 コンクリートの地面を陥没させながら踏み込む、鋼の巨人。

 そして―――両者は激突した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「これはどういう事だッ!」

 

 「えぇっ!?」

 

 ―――デイリー・アーカム社、その編集長室前。

 突如、中から聴こえてきた大声に、私は驚いてしまった。

 

 「アーカム・アドヴァタイザーには“ロボット”の写真が載っているのに、どうして我がデイリー・アーカムには“ロボット”の写真が無いんだッ!」

 

 「……編集長。いくらなんでも、あの“ロボット”の周りに近づくのは危険ですよ。踏まれでもしたら、あっと云う間にペシャンコです」

 

 「―――ッたく! そんな腰抜けはあの“ロボット”に、ズボンと一緒にプレスしてもらえ……ん? 誰だ?」

 

 会話を中断し、部屋の外―――つまり、こちらへと掛けられた声。

 私は軽く服装を整え、扉を開けた。

 

 「初めまして! 私、リリィ・ブリッジ―――フリーのフォト・ジャーナリストです!」

 

 「……それで?」

 

 「昨日この街に来たばかりで、仕事先を探しているんです。こちらで雇ってもらえないかと」

 

 さっそく切り出してみたものの、反応はよろしくない。

 

 「人手なら足りている。……おい、ブレイク」

 

 「はい。……さあ、こっちも急がしいんだ。悪いが他を当たってくれ」

 

 早々に追い出されそうになる私。

 このままではいけないと、食い下がる。

 

 「あっ、昨日写真を撮ったんです! ―――街で暴れてる巨人の!」

 

 それを聞いた瞬間、2人の目の色が変わるのを感じた。

 一枚の写真を取り出し、編集長へと手渡す。

 

 「どうでしょうか?」

 

 「……駄目だ。これじゃあ何が写ってるか判らん」

 

 「遠かったんで引き伸ばしたんです」

 

 「せめてコレぐらいの写真を持って来い。でないと勝負にならん」

 

 そう言って渡されたのは、アーカム・アドヴァタイザー―――アーカムシティの地方紙だ。

 一面に目を向けると、昨日の巨人と巨大なドラム缶の戦闘の写真が載っていた。

 ……正直、私の撮った写真より遥かに上だ。

 

 「……そう、ですか。他を当たります―――失礼しましたぁ」

 

 私はガックリと肩を落とし、デイリー・アーカム社を後にした。

 

 

 

 

 

 「……編集長」

 

 「分かっとる。経理に言って、あの娘にギャラを渡してやれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ねぇ、君」

 

 「え?」

 

 聞き覚えのある声に振り向く。

 そこには、先程のデイリー・アーカム社の男性―――確かブレイク、と呼ばれていた―――がいた。

 

 「コレ、君へのギャラね」

 

 差し出されたのは数枚の紙幣。

 彼はギャラと言った―――と云う事は?

 

 「雇ってくれるの?」

 

 「ま、よろしく頼むよ」

 

 「やったぁ! いただきぃ!」

 

 一度断られたはずだけど、雇ってくれると云うなら些細な問題だろう。

 私は笑顔でギャラを受け取った。

 

 歩きながらブレイクと会話する。

 

 「そういえば、昨日この街に来たばかりだって言ってたけど……何でこの街に?」

 

 「都会で一旗上げたくってってとこかしら。この街なら、特ダネに出合えそうでしょ?」

 

 私がそう言うと、ブレイクは

 

 「……そりゃあ残念だな」

 

 と、不思議な事を言った。

 

 「えっ?」

 

 アーカムシティほどの都市なら、特ダネに出合う確率も高いはず―――なのに残念とは、どういう事だろう?

 そう疑問に思っていると、ブレイクは説明してくれた。

 

 「このアーカムシティは、ブラックロッジって奴等が牛耳っててな」

 

 「ブラックロッジ?」

 

 「有り体に言うと“悪の秘密結社”だ。今までこの街は、そのブラックロッジの魔の手から白い天使(メタトロン)が守ってくれていた。そこへ最近になって、謎の痴zy……超人が加わり、謎の怪事件が勃発―――」

 

 “悪の秘密結社”に、それと戦う白い天使。

 そこに謎の超人―――即ち“正義の味方”が加わり、それに呼応するように勃発した怪事件。

 まるで漫画(カートゥーン)のような展開に、私は興奮気味の声を上げた。

 

 「凄い! 特ダネの山だわ!」

 

 そんな私に、ブレイクは溜息を吐いて言った。

 

 「山程度なら良かったんだが……ここまで来ると特ダネのインフレだ。これじゃあ、余程の事件じゃないと人目に付かない。それこそ、“デモンベイン”のスクープくらいじゃないとな」

 

 「……“デモンベイン”?」

 

 それは確か―――アーカムシティへの列車の中で聞いた名前。

 

 「そう、アンタが昨日写真に撮った巨大ロボットの名前さ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 “デモンベイン”。

 その名前に惹かれた私は、仕事と云う事もあり早速調査を始めた。

 

 道行く人やマーケットの商人、眼鏡のシスターに警官等々……。

 警官に話を聞いたときに、立ち入り禁止とされていた区画に“覇道財閥”が関わっている事を聞いたものの、デモンベインについて目ぼしい情報は得られなかった。

 

 「ふぅ……何か、変な人の多い街」

 

 公園のベンチに腰掛け、安物のコーヒーで一息吐く。

 

 変と言うと語弊があるけど、他の街とは違う不思議な空気の街だと思う。

 勿論、そこに住む人々を含めた話だ。

 

 「…………?」

 

 ふと、視線を向けた街灯の柱。

 そこに一枚のビラが貼られているのに気付いた。

 

 「大十字……探偵事務所」

 

 探偵。

 ……探偵。

 ……探偵?

 ……探偵!

 

 「そっか! ()()()の事なら、探偵に訊けば良いんじゃない!」

 

 なんで今まで思いつかなかったんだろう。

 私はコーヒーを飲み干して立ち上がり、ビラに書かれている住所へと向かった。




本当はもっと長くする予定だったのですが、忙しいのも相俟って思った以上に進まないので、そこそこのところで投稿する事にしました。
楽しみにしてくださる方、毎度毎度申し訳御座いません。

※パウダーミル・ストリート
何番区とか分からなかったので捏造。どっかにアーカムシティの地図とか載ってないですかね……?

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