ある少女の斬魔大聖   作:アイオン

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第16話

 「虚数展開カタパルト稼動! デモンベイン偏在化します!」

 

 「またですか……警告した筈なのですが」

 

 都合三度目のデモンベインの無断使用。

 予測出来なかった事態ではないが、不愉快には違いない。

 

 「どないしましょうか、司令?」

 

 「デモンベインの主導権が向こうにある以上、こちらが介入できる余地はありませんわ。とりあえず、対象区画周辺、10キロ圏内の住民避難を徹底するように」

 

 「了解!」

 

 「出現地点、43廃棄区画です!」

 

 「―――デモンベイン、実空間に事象固定化。……衝撃波、来ます」

 

 モニタが出現地点を映し出した。

 景色を揺らがせ、空間を弾き飛ばし、圧倒的質量が実像を結ぶ。

 

 「……流石に今回は不問という訳には参りませんわよ、大十字九淨」

 

 モニタを見据えながら、瑠璃は冷やかな声で呟いた。

 

 

 

 

 

 暴風を伴い、衝撃波と雷光が吹き荒ぶ。

 既に廃墟となっているこの区画に、破壊を纏った鋼の巨人が顕れた。

 

 ―――デモンベイン。

 

 理不尽に抗う為の理不尽。

 規格外を打倒する為の規格外。

 何もかも、一切合財、総ての幕を引き得る絶対者。

 まさに、機械仕掛けの神(デウス・マキナ)

 

 そのデモンベインの上空。

 月の輝きを背に、メタトロンは眼下の戦いを見守る。

 

 (見極めねばならない)

 

 彼の者はその名の通り、魔を討つ者なのか。

 若しくは、アーカムシティ(地上)に破滅を齎す破壊神なのか。

 

 (それを決定付けるのは―――大十字九淨)

 

 彼女の駆るデモンベインは、果たしてどちらなのか。

 彼女は……どちらなのか。

 どちらでもなければ良い―――そう思う。

 人は、人として生きるべきだ。

 だが、彼女の運命を決めるのはメタトロン()ではない。

 それは神の領分だ。

 そして運命に対峙した時、選択するのは彼女自身の意志だ。

 メタトロン()に出来るのは、最善の(方法)模索する(取る)事だけ。

 喩えそれが、誰かの苦痛を伴う(方法)だったとしても。

 何故なら、神ならざるこの身。

 出来ることはいつだって限られているのだから―――

 

 

 

 

 

 『ふん! 現れたであるな、デモンベインとやら! では今から、我輩の真の実力というものを、じっくりしっかりコトコト煮込んだスープの如く貴様に教育してやるのであーるっ!』

 

 4本と1本、計5本のドリルが唸りを上げる。

 

 デモンベインを一歩踏み出させ、身構える。

 デモンベインの超重量に踏み締められた大地が、激震した。

 その衝撃で、崩れかけていた廃ビルのいくつかが倒壊する。

 

 『轟ォォォooooo!』

 

 ドクター・ウェストのシャウトと同時に、破壊ロボの足元から爆炎が噴出した。

 5本のドリルを前方に構え、爆炎を推進力に、こちらに向かって突進してくる。

 

 『えっ……速っ!?』

 

 鈍重な見た目からは到底想像の出来ないスピードに、反応が遅れる。

 何とか機体を捻るが、突き出されたドリルにデモンベインの肩を抉られ、火花が散った。

 

 『何よ、今のは……!』

 

 『どうであるか! このスーパーウェスト無敵ロボ28號の誇るロケットダッシュは! ふふんっ、そんなノロマな動きでは反応すら出来まいっ!』

 

 『っ!』

 

 トチ狂ったような見た目の破壊ロボだけど、装備したドリルのリーチと貫通力は厄介だ。

 一度距離を取って仕切り直したいところだけど……。

 

 『そらそらそらァ! ほれほれ! どうしたどうしたぁぁぁぁ!』

 

 怒涛のドリルラッシュ。

 僅かに、けど確実に。

 機体を掠めたドリルが、デモンベインの装甲を削っていく。

 

 (くぅっ……そう簡単にはいかないわね)

 

 『アル! どうにかならないかしら!?』

 

 『前にも言ったが、此奴は操作系統の索引が滅茶苦茶でな……今すぐどうにかという訳にはいかん』

 

 私の問いに、苛立たしげにアルが答える。

 

 (……そうなのよねぇ)

 

 基本的な操縦は大丈夫だけど、武装に関することが問題だ。

 私達―――今のデモンベインの手札(武装)は2つ。

 頭部のバルカン砲と……あのレムリア・インパクトとかいう、とんでもない“必殺技”だけ。

 デモンベインを造った覇道財閥なら他の“何か”を知っているはずだけど、まさか聞くわけにもいかない。

 

 (さて……どうしようかしら)

 

 『今、とある武装について術式を改竄しておるところだ。しばし持ち堪えろ』

 

 『……分かった、なるべく早く頼むわよ!』

 

 今とれる手段で、どう戦うべきか考える。

 バルカン砲―――これだけでは無理がある。

 レムリア・インパクト―――ダメだ、威力が大き過ぎる。

 それに確か、封印(ロック)が掛かっているとか言ってた筈。

 なら―――手段というのもおこがましいけど、機体自体を用いた接近戦。

 

 (結局、それしかないわね!)

 

 ドリル相手に素手では不利だけど、仕方がない。

 

 『はあぁぁぁ!』

 

 間隙を縫い、踏み込む。

 超重量の踏み込みにコンクリートの地面がひび割れ、クレーター状に陥没した。

 

 『何ぃ!?』

 

 迫るドリルをスレスレで回避し、零距離まで詰める。

 

 『でりゃああああああ!』

 

 破壊ロボにデモンベインの鉄拳を叩き込む。

 鋭い打撃音と共に、破壊ロボのボディに拳の痕が穿たれた。

 

 『ぬおおおおおおおおおっ!?』

 

 『良いぞ、九淨!』

 

 『もう一発ッ!』

 

 逆の拳を振り被る。

 が、放つ前に破壊ロボのドリルが唸りを上げた。

 

 (ヤ、ヤバっ……!)

 

 『ドリルゥゥゥ・トルネェドォォォォ・クラッシャァァァァァァァ!』

 

 渦状のエネルギーが、デモンベインに炸裂した。

 凄まじい衝撃に、デモンベインの巨体が宙に浮く。

 

 『きゃああああああっ!』

 

 『くぬっ! ぐぅぅぅ……ああっ!』

 

 竜巻となったエネルギーの奔流に数十メートル巻き上げられた後、落下。

 

 (……何かここ最近墜ちてばっかりね)

 

 そんなどうでもいい事を考えつつ、私は落下の衝撃に備えた。

 

 

 

 

 

 「デモンベイン、42番区に墜落! 交戦地域が居住区へ移ります!」

 

 周囲のビルを押し潰しながら倒れるデモンベイン。

 落下の衝撃に、モニタに映る現場の映像が大きく乱れた。

 

 「付近の住人の避難は既に完了しております」

 

 「…………っ」

 

 瑠璃は苛立ちを抑えられず、強く歯を食い縛った。

 

 「あれだけの質量を吹き飛ばすとは……以前の破壊ロボとは違い、大分強化されているようですね」

 

 「だからといって、デモンベインがあの程度の相手に遅れを取るはずが……いったい何なのですか、あの体たらくは!」

 

 「兵装系に関しては何も説明しとりませんし、操縦は出来てもデモンベインの力を十全に発揮できんのでしょう。特に脚部シールド内蔵の断鎖術式を開放せんことには、デモンベインの機動力は本来の40%にも及ばへんです」

 

 

 

 

 

 『痛っっっつうぅ……』

 

 身体の痛みに顔を顰めつつ、デモンベインを起き上がらせる。

 衝撃の割に機体ダメージは大きくないけど、そう何発も受けるワケにはいかない。

 

 『アル! 武装の方はあとどれくらいかかるの!?』

 

 『もう少しだ! どうにか耐えろ』

 

 『頼むわよ! あんな奴にやられたくなんてないからねっ!』

 

 意識を正面、破壊ロボへと戻す。

 

 『今のを受けてまだ動けるであるか……ふん! 頑丈さだけのロボットなど、美しくないのである! やはりロボットは繊細に! 且つダイナミックに! そう! 例えば我輩の破壊ロボのやふに! 科学こそ芸術! 科学こそ美学! その美しさ故にジェラシーを一身に受ける今日この頃、如何お過ごしでしょうか』

 

 (……腐っても鯛ってヤツかしら)

 

 単なるイカレ系変質者と侮っちゃいけないわね……!

 

 『では大十字九淨! アル・アジフ! さらなる芸術の境地へとご招待しよう! OK! レッツ・プレイ!』

 

 破壊ロボの足裏から爆炎が噴出する。

 噴出して……浮上した。

 

 『……はい?』

 

 そう。

 破壊ロボが空を飛んだのだ。

 

 『んな、アホな……!』

 

 非常識にも程がある。

 が、飛翔した破壊ロボは一転。

 ドリルの回転速度を上げながら空中で転進し、地面に向かって飛び込んだ。

 ドリルで地面を掘り進み、やがて地中へと姿を消す。

 

 『……何のつもりかしら?』

 

 『……妾に訊くな』

 

 辺りに不気味な静寂が広がる。

 まるで嵐の前の……。

 突然、大地が震える。

 振動とともに、激しいドリル音が迫ってくる。

 

 『ッ! 真下だ! 九淨ッ!』

 

 『そういうことっ!?』

 

 慌てて飛び退いたところで、足元が崩れる。

 地中から姿を現した破壊ロボのドリルが、デモンベインの胸部装甲を抉った。

 そのまま悠々と飛び去っていく破壊ロボ。

 勢いを止めず、再び空へと上昇した後、転進。

 またしても地中へと消えた。

 

 『くぅぅぅぅぅぅっ!』

 

 やっぱり、デモンベインが立っていた真下の地面から姿を現した破壊ロボ。

 横っ飛びで回避しようとするも、今度は腕の装甲を剥がされる。

 そして破壊ロボはまた空へ―――。

 

 『どうだ! 貴様の手の届かない地中からの奇襲攻撃に、空へのヒットアンドアウェイ! 我が無敵戦法に手も足も出まいて!』

 

 『天才って割には頭の悪い戦法ねっ!』

 

 けど、今のデモンベインに効果的なのも事実だ。

 こっちも空を翔べるなら話は違うけど……残念ながら、そういうワケにはいかないらしい。

 

 『さてさて、その頑丈な機体も今度こそ終わりなのである! この我輩のドリルで、その機体を掘って掘って掘りまくって、無残な穴だらけにしてやるのであーる! ヒヤーッハッハッハッ!』

 

 『ええいっ! アンタなんかに掘られる趣味は無いわよ!』

 

 イカレた高笑いを残し、再び地中へ姿を消す破壊ロボ。

 

 (くぅっッ……!)

 

 

 

 

 

 「旗色が悪いですね。司令。やはり断鎖術式について、大十字様方に伝えた方が……」

 

 「……なりません」

 

 悩むも、却下する瑠璃。

 

 「アレもまた、使い様によっては街を破壊しかねない強力な兵器なのですから。あの2人に自由に使わせる訳には参りません」

 

 握り締めた拳は、震えていた。

 モニタに写るのは、破壊ロボに良い様にされるデモンベインの姿。

 出来ることなら、直接戦いに介入したい。

 ……何故、何故あの2人なのか。

 覇道家とは何の所縁もない、異分子の2人。

 

 「司令。このままではいくらデモンベインとはいえ……」

 

 「……ッ!」

 

 

 

 

 

 地中からの攻撃に翻弄され、ダメージを蓄積していくデモンベイン。

 一方的な展開だ。

 だけど……

 

 『げゃははははは! さっきまでの威勢はどうした! どうしたであるか!』

 

 ……………

 

 『女にしては骨のある奴だと思ったが……所詮は口だけであるな! 我輩を豚野郎と罵ってくれたが、貴様こそ他の連中同様、怯え震えながら喧しく鳴き喚く雌豚に過ぎんのであーるッ!』

 

 (はぁ、まったく)

 

 コイツはつくづく……

 

 『ふははははははは! 無様ッ! 無様無様無様だなぁ! 大十字九淨! さあ、これで終いであぁぁぁぁる!』

 

 これで何度目になるのか、破壊ロボの地中潜行。

 一瞬の静寂の後、迫る轟音。

 

 『九淨ッ!』

 

 地中より強襲するドリル。

 唸りを上げるソレが、渦状のエネルギーを纏う。

 爆風が吹き荒れ、破壊の力がデモンベインを捉える。

 

 そして―――

 

 『ドリルゥゥゥ・トルネェドォォォォ・クラッシュ・アッパァァァァァァ―――――!』

 

 

 

 

 

 『―――此処までだな』

 

 戦いを見守っていたメタトロンが、重い腰を上げる。

 いくら覇道鋼造の造ったロボットとはいえ、今の攻撃を受けて戦闘続行とはいかないだろう。

 

 ―――これではっきりした。

 やはり、彼女はただのヒトなのだ。

 彼女にブラックロッジと渡り合う力は無い。

 

 (それで良い。君が戦う必要など……何処にも無い)

 

 さて、ここからは自分の出番―――

 

 『―――何?』

 

 大十字九淨を救出し、破壊ロボを撃破するべく戦場へ翔ぼうとして、メタトロンは驚愕した。

 デモンベインが倒れ、大地に沈んでいるはずの光景。

 しかし、機械仕掛けの目に映ったのは、我が目を疑うものだった。

 

 

 

 

 

 破壊のエネルギーの影響で、モニタの映像が途絶える。

 

 「デモンベインが……」

 

 思わずその場に膝を突く瑠璃。

 

 「…………」

 

 場が重い沈黙に包まれた。

 いち早くショックから立ち直ったウィンフィールドが、瑠璃を気遣う。

 

 「司令、大丈夫でございますか?」

 

 「……大丈夫です。わたくしのことよりも、デモンベインを……」

 

 「承知しております。すぐに回収班を……」

 

 「―――モニタ回復します。……えっ?」

 

 エネルギーの波が過ぎ、モニタが回復する。

 それを見た者、この場の全員が驚愕に目を見開いた。

 

 「デ、デモンベイン……健在ですっ!」

 

 

 

 

 

 『……無様で良いじゃないのよ』

 

 『な、な、な、何ぃ……ッ!?』

 

 破壊ロボ、その必殺の一撃は見事に決まった。

 決まって、そのエネルギーは破壊した―――攻撃を放った破壊ロボ、そのドリルを。

 

 デモンベインは―――無傷。

 

 その正面には五芒星形が輝きを放ち、その円周を魔術文字が幾重にも重なり合う事で、防禦結界を為していた。

 そしてそれはデモンベインを守護するだけではなく、触れた破壊ロボを逆に、蒼い極光で灼いていた。

 

 硬直したままの破壊ロボに―――ドクター・ウェストにもう一度告げる。

 

 『無様で良いじゃないのよ』

 

 

 

 

 

 「ど、どうなっとんや! いくら特殊合金ヒヒイロカネっちゅうても、こんだけの強度は得られへんで! 何者なんや、彼女は!?」

 

 「大十字……九淨」

 

 

 

 

 

 『それに……』

 

 

 

 

 

 『―――どんなに無様晒したって! 最後に勝てば良いのよ! 無様にすらなれない豚野郎が……ギャーギャー喚いてんじゃないわよ!』

 

 『そ、そんな馬鹿なァ!? い、いったい何なのであるかこのロボットは!? 我輩の無敵ロボと! 何が違うというのだぁぁぁッ!』

 

 足元から爆炎を噴出し、破壊ロボが空を飛ぶ。

 ロケットの炎に焼かれながらも、防禦結界は一切の蔭りも見せずデモンベインを守護している。

 

 『またしても! またしてもこの我輩が敗れるというのか!? そんな! そんなことが! あってなるものかぁぁぁぁ――――――!』

 

 残ったドリルを突き出し、デモンベインへと一直線に急降下してくる破壊ロボ。

 だが―――

 

 『―――待たせたな、九淨』

 

 『アル?』

 

 『ぐおおっ!?』

 

 アルの呟きと同時に、降下していた破壊ロボが、まるで見えない何かに引っかかったように中空で停止してしまった。

 

 『な、なな何であるか!? 何が! 何がどうなっておるのである!?』

 

 数十tの巨体を中空に留める“何か”。

 意識を集中し、それを見る。

 夜空に走る光のライン。

 

 (これって……!)

 

 『蜘蛛の巣!? もしかして……アトラック=ナチャの!』

 

 『その通りだ! これぞ捕縛結界呪法“アトラック=ナチャ”!』

 

 

 

 

 

 『―――魔導書、アル・アジフ』

 

 

 

 

 

 摩天楼の夜空を覆う蜘蛛の巣。

 それは淡い輝きを放つビーム状の糸で構成されていた。

 

 デモンベインのステータス画面を覗いてみる。

 ビームが発生しているのは、デモンベインの頭部……その鬣からだった。

 このビームの鬣がアーカムシティ全体に伸び、数多のビルを支えにしながら、この巨大な蜘蛛の巣を形成しているようだ。

 

 『元々はアイオーン用の呪法兵装だったものだが、それをデモンベインでも使用出来るように術式を編纂したというわけだ』

 

 『なるほどね……』

 

 『ふっ……この意味が分かるか、九淨?』

 

 『アトラック=ナチャの断片を回収して、その力が使えるようになったってことは……断片を取り戻せば取り戻すほど、デモンベインも強力になっていくワケね!』

 

 『そうだとも! 我が主、大十字九淨よ! デモンベイン、そして汝もまだまだ強くなる! さあ、ヤツにトドメを刺してやれ!』

 

 『ええ! ……って、どうすればいいのよ……』

 

 破壊ロボが停止している場所は、結構な高度がある。

 あの場所まで届く攻撃っていうと―――

 

 『―――断鎖術式壱号ティマイオス・弐号クリティアス』

 

 『へっ?』

 

 私たちの会話に、突如通信が割り込む。

 モニタの片隅に開かれた通信ウィンドウに、覇道のお嬢様の顔があった。

 

 『む……小娘か』

 

 『お、お嬢様っ? えっ、あっ、これはその、ですね……』

 

 デモンベインの無断使用についてだと思い慌てふためくも、どうやら違うみたいだ。

 

 『その話は後回しで。今はあの破壊ロボの排除のみを考えて下さい。今から、デモンベインの機動システムについての説明をします……』

 

 

 

 

 

 『……では、速やかに事態の収拾を。以上(オーヴァー)

 

 『検索終了―――成程、こいつか。くくっ……デモンベインよ。お前はつくづく面白い鬼械神だな』

 

 自分の腰掛けるシートを撫でながら、アルが愉快そうな声で言う。

 まあ、理解できる。

 覇道のお嬢様から教えられた、デモンベインの機動システム……現代の技術を遥かに凌駕するソレは、非、常識といったところかしら。

 

 (このトンでも兵器を作った覇道鋼造って、ホント何者なのかしらね)

 

 『どれ、早速試してみようではないか。九淨、準備は良いか?』

 

 『……ええッ!』

 

 精神を集中し、思考を研ぎ澄ませる。

 冷たく澄んだソレと、真逆に、熱く滾る血が力を漲らせる。

 

 この感覚―――覚醒。

 私は遂に、魔術の本懐に踏み込んだのだ。

 

 カラダの(なか)で精製した魔力を、外側―――デモンベインへと流すイメージ。

 デモンベインの脚に備え付けられた、二基の大型シールド。

 私のイメージに呼応して、その表面に魔術文字が走る。

 

 『断鎖術式、開放! ティマイオス!クリティアス!』

 

 『時空間歪曲!』

 

 魔術文字が浮かび上がった脚部シールドにより、脚部全体が眩く輝いた。

 発生した凄まじいエネルギーにより、周囲のビルが押し潰されていく。

 砕け、スコールのように降り注ぐ瓦礫が、歪められた時空による重力異常に落下と上昇を繰り返す。

 

 デモンベインの足許で、巨大なエネルギーがうねり―――爆発。

 それを推進力にデモンベインは跳躍した。

 中空の破壊ロボ目がけ、砲弾の如く……()()()()()

 

 『デ、デモンベインが……空を翔んだだとぉぉぉぉ!? ええい、むしろ好都合! このまま我がドリルにて粉砕玉砕大喝采なのであぁぁぁぁぁる!』

 

 唸りを上げるドリルから放たれる、渦状のエネルギー。

 急速で上昇するデモンベインに、それを回避する術はない。

 

 そう。

 ()()()()()

 

 『な、なななんとぉぉぉぉぉぉ―――――!?』

 

 ドリル・トルネード・クラッシャーが空を切る。

 そこにいるはずのデモンベインは、しかし。

 激突の寸前、推進力のベクトルを操作・重力制御によって渦状のエネルギーを……()()()()()

 慣性を捻じ曲げたような、超機動。

 

 『あ、ありえん! 何なのであるか、その非常識な機動は!?』

 

 お前が非常識とか言うな。

 

 渦状エネルギーを回避し、アトラック=ナチャに捕縛された破壊ロボに迫る。

 今度は時空間歪曲エネルギーを“円”状に解放し、まるで鉄棒競技の選手の如くデモンベインの機体を捻り、回転させる。

 その遠心力を利用しデモンベインの脚を振り上げ、軌跡を描きながらエネルギーを収束。

 破壊ロボに、必殺の一撃を放つ!

 

 『はあああああああああああああ!』

 

 膨大な時空間歪曲エネルギーを敵に直接叩き込む、デモンベイン近接粉砕呪法。

 その名も―――!

 

 『アトランティス・ストライク!』

 

 爆発的なエネルギーが込められた渾身の回し蹴りが命中し、破壊ロボの装甲を紙のようにブチ抜く。

 エネルギーの奔流が破壊ロボ内部を暴れまわり、爆裂―――!

 

 私は叫ぶ。

 ブラックロッジ―――ヤツに届けと、力の限りの宣戦布告。

 

 『覚えておきなさい! ブラックロッジ! アンタらはこの私とアルがブッ潰すわ! 全員……いや、一匹も残さず、完膚なきまでに! 返品はナシよ、しっかりその脳裏に焼きつけなさい!』

 

 『ノオオオオォォォォォォォォォ!』

 

 

 

 

 

 「―――敵機、完全に沈黙しました」

 

 「や、やったぁぁぁ!」

 

 「にしても……アレをぶっつけ本番であそこまで使いこなすとは。スゴイ連中ですなぁ」

 

 「……今回の戦果は評価しない訳には参りませんね。ですが……」

 

 

 

 

 

 『だが……私はまだ、君達を認めるわけにはいかない』

 

 『メタトロン……』

 

 空から、白い天使がデモンベインの近くに舞い降りる。

 

 『とりあえず、今回は見事と言っておこう。それでも―――君達を手放しに評価出来る訳ではない』

 

 『……あなたが何を思い、どれだけ戦い続けてきたのかは知らない。あなたから見れば、私たちはまだまだなのかもしれない。だけど』

 

 デモンベイン越しに、メタトロンを見据える。

 

 『あなただって、生まれた瞬間からヒーローだったワケじゃないはず。私……もっと強くなるわ。強くなって、アイツらを打倒してみせる』

 

 だから―――

 

 メタトロンは答えず、背中の翼を拡げた。

 上空へと浮かび、翼からフレアを迸らせ、明の空へと飛び去る。

 けど、飛び去る前に

 

 『何故……君はそうまでして戦おうとするのだ』

 

 そんな、どこか悲しそうな声を聴いた気がした。

 

 『メタトロンは……自分以外の誰かを戦わせたくないのかしら?』

 

 『さあな、妾の知るところではない。それに……汝はもう、決意したのだろう?』

 

 『そうね……メタトロンに良く思われなくても、もう決めた事だからね』

 

 

 

 

 

 

 今此処に、1人の英雄が誕生した。

 大十字九淨。

 外道の知識を携え、魔を断つ刃金を駆り、邪悪と狂気の道を往く者。


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