ある少女の斬魔大聖   作:アイオン

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 この話は読まなくても、本編に支障はありません。


番外話:1

 「……そうだ」

 

 ふと、ある事に気づいて立ち上がる。

 

 「どうした、九淨?」

 

 「ちょっとね」

 

 アルに返事を返しつつ、部屋の片隅に置かれている()()へと歩み寄る。

 

 「それは?」

 

 「レコードプレイヤーよ」

 

 「れこーどぷれいやー?」

 

 (確か世界で最初のレコード(音声記録)システムが1857年……だったかしら?)

 

 アルが知らないのも無理ないわね。

 

 「そ、コレを再生する為の機械よ」

 

 言って、近くに仕舞ってあるEP盤を取り出す。

 

 「……円盤?」

 

 「そ、円盤。コレをこうしてセットして……っと」

 

 プレイヤーにEP盤をセットし、針を落とす。

 一拍。

 そして、柔らかな音色が流れ始める。

 

 「ほう、音楽(ミュージック)か。……やはり人の世は面白い。機械が音を奏でるとはな。少し目を離しただけで、随分と様変わりしたものだ」

 

 アルはそう言って近寄り、興味深そうにレコードを観察し始めた。

 

 「どうかしら、私は結構気に入ってるんだけど」

 

 「うむ、悪くないな。……して、なんという曲なのだ?」

 

 「“Fly Me to the Moon” よ」

 

 ジャズのスタンダードナンバーの一曲……といっても、私はジャズに詳しい訳じゃない。

 ジャズが好き―――ではなく、この曲が好き。

 ということだ。

 

 「“Fly Me to the Moon(私を月に連れて行って)”のう」

 

 「所謂、ラブソングってやつね」

 

 それも、聞いてるこっちが恥ずかしくなるくらいの。

 

 (……まあ、そこがイイんだけどね)

 

 「手を繋いでほしい、キスしてほしい、あなたは私がずっと待ち焦がれていた人、憧れ慕うのはあなただけ、私はあなたを愛してるの……ってね」

 

 「解説はいいが……言ってて恥ずかしくないか?」

 

 「……すっごい恥ずかしい」

 

 冷静に指摘され、顔が赤くなる。

 自爆なだけに何とも言えない。

 

 (何かしら、この羞恥プレイは……)

 

 「……シャワー浴びてくる」

 

 「ん」

 

 既に音楽に聞き入って空返事なアルに背を向け、バスルームに入る。

 

 

 

 

 

 シャワーシーンはカット。

 

 

 

 

 「ふぅ……アル。出たわよ」

 

 「ん? おお、湯浴みか」

 

 私の言葉に振り向いたアルは、心なしか嬉しそうだ。

 

 「では、入らせてもらうとしよう」

 

 「はいはい、行ってら~」

 

 バスルームに入っていくアルを見送る。

 お風呂上りな私はキッチンへと向かい、コップに水を注いだ。

 まだ乾ききっていない髪の毛をタオルで拭きつつ、水を呷る。

 

 「……ぷはっ」

 

 コップの水を飲み干してリビングに戻り、ソファーに腰掛ける。

 

 ちなみに今の私の格好は、寝巻き代わりの白シャツに黒のスキニージーンズだ。

 白シャツだけでも良いんじゃない? って思うかも知れないけど、ダメなのだ。

 以前白シャツにショーツだけで寝ていた頃、早い時間帯に来たお客さんに、寝惚けてそのままの姿で対応してしまい、とても恥ずかしい思いをした経験があるのだ。

 ……まあ、私の恥ずかしい過去は投げ捨てておく。

 

 ソファーに座った私は、ふと疑問を抱いた。

 

 (……アルって魔導書よね? シャワーとか湯船とかって大丈夫なのかしら)

 

 書物的な意味で。

 

 (まあ、本人が湯浴みって分かって入っていったし、多分大丈夫なのよね)

 

 自己完結したところで、閑話休題。

 

 このレコードプレイヤーは、こちらに来るときに父親に持たされたものだ。

 ……もういらないからって渡されたのを、持たされたと表現して良いかは微妙だけど。

 しかも、何故かプレイヤーだけ渡されて肝心のレコード盤は渡されなかったのだ。

 まあ、単純な渡し忘れなんだろうけど。

 

 そんなこんなでレコード盤を買うべく、お店を散策したのだけど……いやはや。

 最初はクラシックでも聴こうかなと探していたのだけれど、正直どれが良いか全く分からなかった。

 偶に聴くぐらいであろう物に、そこそこの金額を出す気にならなかったというのもある。

 

 そうしてジャンルを変えて、そんな中見つけたのが……この曲だった。

 ジャズなんて詳しくない私にも理解出来た、コレは良い曲だと。

 最近では生活の余裕の無さから、あまり聴いてなかったのだけど―――

 

 (……やっぱり良い曲ね)

 

 お風呂上りということもあって、しっとりとした曲の雰囲気に包まれ、瞼が重くなってきた。

 

 (明日から厳しく行くって言ってたし……先に寝ちゃおうかしら)

 

 それが良い、と結論した私は、ソファーに寝転がり眠りについた。




 レコードやジャズに関しては完全に俄なので、色々おかしい部分があると思いますが、あくまでこの小説の中のソレとお考え下さい。

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