ある少女の斬魔大聖   作:アイオン

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また短い玉座の間。


TAKE ME HIGHER
第12話


 「―――と言うことで理解出来たかな、ドクター・ウェスト。つつがなく任務を遂行したまえ」

 

 モニターの向こうの青瓢箪(アウグストゥス)が消える。

 ドクター・ウェストは、“アル・アジフ”の断片を回収する任務を通達された。

 大導師の意思だからと好き勝手調子に乗って言うアウグストゥスに怒りがこみ上げる。

 ドクター・ウェストは怒りに震える拳をモニターに叩きつけた。

 

 「おのれ……! このような屈辱を味わねばならんのも、全てはあのロボットのせいなのである!」

 

 破壊ロボを消滅させた、あのロボット。

 ―――デモンベイン。

 魔を断つ者? 覇道財閥の秘密兵器だか何だか知らないが、気に入らない。

 だが、それ以上に気に入らないのが……あのロボットのパイロットだ。

 大十字九淨―――あの時“アル・アジフ”と契約して彼を倒した、憎っくき娘っ子だと言うではないか!

 

 「あの小娘! この我輩に、二度も屈辱を味わわせおったのか……! 許さん! 許さんのである大十字九淨! アル・アジフ! もはや倍返しでは済まさん! この屈辱は百万倍返しにしてやるのであーるっ! さらには一一で利息が付く予定。オラオラお嬢さん、とっとと判押しちまいな」

 

 狂おしいほどに掻き鳴らされたエレキ・ギターの旋律は、まるで高笑いのように響き渡った。

 

 

 

 

 

 此処は祭壇にして玉座。

 

 「……本当に宜しいのですか?」

 

 スクリーン越しにドクター・ウェストに指示を下していたアウグストゥスが、玉座に座る大導師に訊ねる。

 

 「何がだ?」

 

 マスターテリオンは聞き返すものの、アウグストゥスを見ていない。

 上の空な返事に、ただ自らの髪を退屈げに弄っている。

 こうした大導師の度し難い退屈は、今に始まったことではない。

 アウグストゥスは続ける。

 

 「アル・アジフの捜索任務についてです。何故、よりにもよってあの男を?」

 

 「ウェストはアレで有能だぞ? 兵器開発、破壊ロボ製造―――その分野に於いて、あの男の右に出る者はそうそう居るまい」

 

 「科学者としての彼ならばそうですが……。彼は狂人(マッド)です」

 

 「あはははははは! 魔術師が他人を指して狂人呼ばわりか。アウグストゥス、貴公もなかなかどうして冗談のセンスがあるではないか」

 

 目元に涙さえ浮かべて、堰を切ったように笑い出すマスターテリオン。

 

 「からかわないで下さい。……とにかく、ドクターでは畑違いなのでは? 魔導書に関しては魔術師が最適かと。今からでも遅くはありません、七つの頭を招集するべきでは……」

 

 「それでは、簡単すぎる」

 

 「……はっ?」

 

 笑いが治まったマスターテリオンが、アウグストゥスに視線を合わせる。

 輝きを発しない、昏い、金色の眸。

 見慣れているはずのアウグストゥスでさえ、その異形に背筋が凍る。

 

 「それでは、簡単に済んでしまうではないか。折角、愉しめそうなモノを見つけたと云うのに。余の興を殺ぐでない、アウグストゥス」

 

 「…………」

 

 人間の規格を逸脱した大導師の思惑を、アウグストゥスに窺い知ることはできない。

 

 マスターテリオンは、先程から無言で膝にもたれかかるエセルドレーダの頭を撫で始めた。

 エセルドレーダは愛する主に撫でられた忠犬の様に、心地好さそうに目を細める。

 

 「それに、余の“頭”達には他にやってもらわねばならん事がある」

 

 「……と、仰られますと?」

 

 訝るアウグストゥスに、マスターテリオンは薄っすらと笑みを浮かべる。

 

 「C計画」

 

 エセルドレーダの瞳に、鋭い光が灯る。

 

 その言葉を耳にしたアウグストゥスは驚愕し、内から湧き上がる震えを押さえ込みつつ問う。

 

 「遂に……動き出すのですか?」

 

 「“アル・アジフ”が余の眼前に現れた今こそ好機。死霊秘法(ネクロノミコン)の知識は、計画遂行の為の大きな糧となろう。……まだ解決すべき問題は多いがな」

 

 思わず息を呑む。

 知らずかいた汗を、アウグストゥスは拭った。

 

 「貴公等も忙しくなってくるぞ。ウェスパシアヌスに仕事を急がせろ。例のもう一冊は“アル・アジフ”以上に重要やも知れぬ。他の者も自己の鍛錬を絶やさぬように」

 

 「御意……!」

 

 

 

 

 アウグストゥスが下がった後の玉座の間。

 マスターテリオンとエセルドレーダの2人きり。

 エセルドレーダが顔を上げ、マスターテリオンを見つめる。

 主を見つめる黒い瞳の奥の奥に、ソレは隠れていた。

 

 「どうした、エセルドレーダ? ……余がアル・アジフを褒めたから妬いているのか?」

 

 「いえ。そのようなことは……」

 

 黒い感情を読み取られ、ばつが悪そうに俯こうとするエセルドレーダの顎を掴む。

 そのまま無理矢理に自分の方を向かせ、顔を近づける。

 

 「あっ……んっ………」

 

 小さな悲鳴も束の間に、2人の唇が重なり合う。

 舌を口内に潜り込ませ、互いに絡ませる。

 滴る唾液を味わい、貪り、互いの熱に酔い痴れる。

 

 少年(マスターテリオン)の腕が、少女(エセルドレーダ)を抱き締める。

 少女(エセルドレーダ)の細腕が、少年(マスターテリオン)を掻き抱く。

 

 ―――薄暗闇を照らす松明の灯りに、重なる2人の影が、踊る。


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