バカとE組の暗殺教室   作:レール

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カルマ(の暗殺中)の時間

今日から登校してきたカルマ君は一通り僕らと挨拶を交わした後、グラウンドの隅にいる殺せんせーへと目を向けた。殺せんせーは烏間先生と何やら話をしていて、まだ登校してきたカルマ君には気付いていない。

 

「わ、あれが例の殺せんせー?すっげ、ホントにタコみたいだ」

 

殺せんせーを見て驚いたように反応してるけど、僕らの戦いを見てたってことは随分前から殺せんせーも見つけていたはず。

それなのに“今見つけました”って感じの反応は僕から見ても自然なもので、相変わらず騙し討ちに違和感がないと素直に思う。

そうして近付いていったカルマ君に先生達も気付いたようで、殺せんせーが前へと出てきてお互いに近距離で対峙する。

 

「赤羽(カルマ)君、ですね。今日が停学明けと聞いていましたが……初日から遅刻はいけませんねぇ」

 

「あはは、生活リズム戻らなくて。下の名前で気安く呼んでよ。取り敢えずよろしく、先生‼︎」

 

薄い紫色のバツマークを浮かべて注意する殺せんせーと、苦笑いを浮かべて誤魔化すように手を差し出すカルマ君。

この場面だけを見ると先生と生徒の平和なやり取りなんだけど、カルマ君が猫を被っている時点でこのまま終わるとは到底思えない。きっと何かを仕掛けてくるだろう。

 

「こちらこそ、楽しい一年にしていきましょう」

 

しかし殺せんせーは何も警戒していないようで、差し出されたカルマ君の手に触手を差し出して握手に応じる。

 

 

 

その瞬間、カルマ君の手が殺せんせーの触手を握り溶かした。

 

 

 

殺せんせーが驚いて手元を凝視する。その隙にカルマ君は今までの人懐っこそうな笑みを獰猛に変え、左腕の袖口に仕込んでいた対先生ナイフを突き刺そうとしーーー高速で距離を置いた殺せんせーを見て動きを止めた。

 

「……へー。ホントに速いし、ホントに効くみたいだね、対先生(この)ナイフ。試しに細かく切って手に貼っつけみたんだけど」

 

種明かしをしながら不敵な笑みを浮かべるカルマ君は、間合いを空けた殺せんせーとの距離を再び詰めていく。

しかし追撃する気はないようで、動揺する殺せんせーを観察するようにゆっくりと歩いていった。

 

「でも聞いてた話とはちょっと違うね。殺せないから“殺せんせー”って聞いてたのに……あっれぇ?せんせー、ひょっとしてチョロい人?」

 

そのまま至近距離まで近づいていくと、殺せんせーの顔を下から覗き込むようにして人を小馬鹿にした表情と仕草で挑発していた。

うわぁ、煽ってる煽ってる。殺せんせーも顔を赤くして全体的に青筋を立ててるよ。いや、ここは身体が赤いから赤筋と言うべきか。そもそも血管と呼べるものがあるかどうかも分からないし。

でも殺せんせーは触手を破壊された事実に何も反論できないようで、煽るだけ煽って立ち去っていくカルマ君を見送ることしか出来ないでいた。

こっちに戻ってきたカルマ君に雄二が話し掛ける。

 

「初っ端から派手にかましたな。殺せんせーも度肝抜かされただろうぜ」

 

「そういう坂本達は意外と大人しくしてるみたいだね。防衛省の人からE組の暗殺は大体聞いてるよ。いったい何を企んでんの?」

 

まぁお互い不良相手に暴れ回ったことのある仲だ。あまり暗殺に参加しない僕らを周りは暗殺非積極的派と捉えているかもしれないけど、カルマ君は僕らに限ってそれはないと踏んでいるのだろう。

言われた雄二は肩を竦めて首を振る。

 

「今お前がやったみたいに単発じゃ避けられてお終いだからな。先に情報収集して確度の高い暗殺計画を練ってるところだ。一回やっちまった手は警戒される」

 

「そんなことは百も承知さ。でも単発じゃ避けられるってんなら、成功しようが失敗しようがどっちでもいいんだよ。殺せないことには変わりないし、俺も今日は様子見って感じかな」

 

様子見ねぇ。今分かってる情報は防衛省から全部教えられてると思うけど、実際に殺せんせーを体験しておこうってことかな?

まだ体育の後にも授業は残ってるし、“今日は”ってことはこの後も仕掛けるつもりだろう。ちゃっちゃと着替えて教室に戻った方がいいみたいだ。

あーあ、それにしても小テストやだなー。

 

 

 

 

 

 

ブニョンッ……ブニョンッ……

 

今は体育の後に行われている小テスト中……なんだけど、さっきからブニョンブニョンうるさくて仕方ない。

なんの音かって言うと、殺せんせーが壁に向かってパンチを繰り出している音だ。壁パンのつもりなんだろうけど、触手が柔らかくて全然壁にダメージが行ってないよ。

 

「ブニョンブニョンうるさいよ殺せんせー‼︎ 小テスト中なんだから‼︎」

 

「こ、これは失礼‼︎」

 

いい加減に集中できなくなったショートカットで気の強い岡野ひなたさんが皆も思っていたことを指摘すると、殺せんせーは狼狽えながら謝ってきた。

明らかに動揺を引き摺ってる……カルマ君の煽りが相当効いてるみたいだ。身体は超生物なのに心はまるで豆腐だなぁ。いや、身体も特殊素材に当たったら豆腐みたいなもんだった。

しかし身体も心も豆腐って言うと物凄く弱そうに聞こえる。でも殺せないんだから殺せんせーは謎だ。

 

「よォ、カルマァ。あのバケモン怒らせてどーなっても知らねーぞー」

 

「またお家に籠ってた方が良いんじゃなーい」

 

カルマ君と席の近い寺坂君達が挑発するように声を掛けていた。そんな子供みたいな挑発……カルマ君からすれば可愛いもんだろう。

僕の席は前の方だから顔までは見えてないけど、聞こえてくるカルマ君の涼しい声色から眉一つ動かさずに挑発し返してることが手に取るように分かる。

 

「殺されかけたら怒るのは当たり前じゃん、寺坂。しくじってちびっちゃった誰かの時と違ってさ」

 

「なっ、ちびってねーよ‼︎ テメ、喧嘩売ってんのか‼︎」

 

「こらそこ‼︎ テスト中に大きな音を立てない‼︎」

 

挑発に耐えれなかった寺坂君が机を叩いたらしく、ドンッ‼︎ という大きな音が聞こえてきた。

それに対して殺せんせーも注意してるけど、そもそもうるさくしてたのは殺せんせーだから。先生だけど注意できる立場じゃないよね。

 

「ごめんごめん、殺せんせー。俺もう終わったからさ、ジェラート食って静かにしてるわ」

 

なんでカルマ君はジェラートなんて持ってるんだろう?登校してきた時は飲み物しか持ってなかったはずなのに。

 

「駄目ですよ、授業中にそんなもの。全く、何処で買ってきてーーーってそれは先生が昨日買ってきた奴‼︎」

 

ってあんたのかい。

しかしカルマ君は悪びれもせずに清々しいくらい堂々としてるなぁ。いつの間に盗ってきたんだ?

 

「あ、ごめーん。職員室で冷やしてあったからさ」

 

「ごめんじゃ済みません‼︎ 溶けないようにマッハで買ってきて楽しみにしてたのに‼︎」

 

「へー……で、どーすんの?殴る?」

 

「殴りません‼︎ 残りを先生が舐めるだけです‼︎」

 

いや舐めんのかい。

ジェラートを取り上げようと殺せんせーが後ろに向かったところでーーーバチュッという音が聞こえてきた。

今度はなんの音か分からなかったので少し振り返ると、殺せんせーの触手がまた溶けているのが机の隙間から見える。

更によく見ると対先生BB弾が床にばら撒かれており、多分それを踏んでしまったのだろうと予想できた。

 

「あっは、まァーた引っ掛かった」

 

そしてばら撒いた犯人は考えるまでもなくカルマ君だろう。今も殺せんせーに向けて対先生BB弾を発砲してるし。

まぁそれは全部避けられてるんだけど、カルマ君は気にすることなく何発も撃ち込んでいく。

 

「何度でもこういう手を使うよ。授業の邪魔とか関係ないし。それが嫌なら……俺でも俺の親でも殺せばいい」

 

席から立ち上がったカルマ君は殺せんせーへと近づいていくと、手に持っていたジェラートを先生にぶつけた。

あぁ、勿体無い……とか言える空気ではないので黙って見守ることにする。

 

「でも、その瞬間からもう誰もあんたを先生とは見てくれない。ただの人殺しのモンスターさ。あんたという“先生”は……俺に殺されたことになる」

 

凶悪な笑みを浮かべて告げたカルマ君の言葉に、殺せんせーは何も言わないまま黙っている。反論しないってことは、カルマ君が言っていることは真実ってことなのか。

渚君が自爆テロを仕掛けた日、殺せんせーは僕らを叱るために僕ら以外を人質に例えて脅してきた。しかし本当にそれをやってしまったらカルマ君の言った通り、僕らは先生を“先生”として認識することはなくなるだろう。

その脅しを実行できるだけの実力を持っているからこそ僕らは恐れたが、先生が“先生”をしていく上で実際に行動に移せるわけがなかったということだ。

 

「はいテスト、多分全問正解。じゃあね先生〜、明日も遊ぼうね‼︎」

 

先程までの凶悪な笑みを隠して柔和な笑みを作り、殺せんせーに小テストの答案用紙を渡してからカルマ君は帰っていった。

たった一日で殺せんせーの本質を見抜く辺りは流石だけど、先生がこのまま黙りっぱなしってのはあまり考えられない。

明日はいったいどうなるのかなぁと思いつつ、僕は目の前に立ちはだかる白紙の答案用紙に向かい合うのだった。

 

 

 

 

 

 

カルマ君は昨日の宣言通り、今日も朝から暗殺を仕掛けていくようだ。

カルマ君にとって殺せんせーは玩具みたいなもんだろうから、攻略しようとして新しい先生の弱点とかを見つけられるかもしれない。

頭の回転も早いし、まずはお手並み拝見ってところかな。

 

「……で、なんで教卓にタコを置いてナイフ突き刺してんの?」

 

「いやぁ、殺せんせーってタコがトレードマークって聞いたからさ。まずは精神的に揺さぶって心から殺していこうと思って」

 

なるほど、これがカルマ君の暗殺か……ただの嫌がらせじゃない?でも殺せんせー、豆腐メンタルだからこの手の方法は案外効くかも。

取り敢えずこのタコは殺せんせーの挑発が終わったら用済みだろうし、後で貰えるか訊いてみよう。貰えるものは貰っておかないと勿体無いからね。

 

「おはようございます」

 

それから少しして殺せんせーがいつも通り教室へとやってきた。先生がどういう反応をするのか分からないからか、皆は先生から顔を逸らしている。

その様子に訝しんでいた殺せんせーだったが、教壇でナイフに刺されているタコを見て動きを止めた。

 

「あ、ごっめーん‼︎ 殺せんせーと間違えて殺しちゃったぁ。捨てとくから持ってきてよ」

 

そのタイミングでカルマ君が分かりやすく挑発を入れる。しばらくは昨日と同じパターンで行くのだろう。

しかしカルマ君が声を掛けても殺せんせーは動きを止めたままだった。いったい何を考えて動きを止めているのか、表情も変わらない先生の顔色からは推し量れない。

 

「……分かりました」

 

ようやく動き出した先生はタコをカルマ君の方へと持っていきーーー触手をドリルのように高速回転させ、何処からかミサイルと何かが入った袋を取ってきた。

……マジで何処から持ってきたんだろう?特にミサイル。そしてそれらの物を使って何を始めるつもりなんだろう?特にミサイル。

 

「見せてあげましょう、カルマ君。このドリル触手の威力と、自衛隊から奪っておいたミサイルの火力をーーー先生は暗殺者を決して無事では返さない」

 

そう言うと殺せんせーはミサイルを逆さに持って点火し、タコと袋の中身とドリル触手をミサイルの火に翳した。

 

「あッつ‼︎」

 

そうして出来上がったたこ焼きはカルマ君の口の中へ……ってこんだけ大掛かりな道具を使って作ったのがたこ焼きかい‼︎

 

「その顔色では朝食を食べていないでしょう。それを食べれば健康優良児に近づけますね」

 

いやいや、朝からたこ焼きって意外と重いですよ殺せんせー。カルマ君もいきなり過ぎたのか熱くて吐き出しちゃったし。

っていうか残ったたこ焼きは自分で食べちゃったんですけど‼︎ カルマ君が食べなかったら健康優良児にはなれないじゃん‼︎

 

「先生はね、カルマ君。手入れをするのです。錆びて鈍った暗殺者の刃を」

 

そんな僕のツッコミなど露知らず、殺せんせーとカルマ君は二人でシリアスムードに入っている。

 

「今日一日、本気で殺しに来るがいい。その度に先生は君を手入れする。放課後までに君の心と身体をピカピカに磨いてあげよう」

 

あーあ。カルマ君、殺せんせーを本気にさせちゃったよ。カルマ君が殺せんせーを殺せるか、殺せんせーがカルマ君をピカピカに磨き上げるか。どう転ぶにしても、カルマ君の暗殺は今日中に決着がつきそうだった。

……それにしても、タコ欲しかったなぁ。

 

 

 

 

 

 

一時間目・数学の時間。

〜カルマ君、銃撃しようとしてネイルアートされるの巻〜。

以上、カルマ君の表情が引き攣ってました。以下省略‼︎

 

 

 

四時間目・技術家庭科の時間。

今回は家庭科寄りの授業内容で、それぞれ班に分かれてのスープ作りだ。僕にとってはタダでカロリーを摂取できるお得な授業である。

まぁ授業で作る料理だからそこまで凝ったものでもないし、協力すればあっという間に作り終わるだろう。早く作って美味しく頂くことにしよう。

 

「雄二。こっちでお肉とか切って調理しとくから、先にスープの出汁作っといてよ」

 

「おう。ムッツリーニ……は作業中か。矢田、残ってる野菜とか洗っといてくれ。片岡はその洗い終わった奴の調理を頼む」

 

「あ、じゃあ先に玉ねぎをお願いできるかな?こっちで一緒に炒めちゃうから」

 

お肉は焼いた後でスープに入れた方が旨味が閉じ込められて美味しいからね。玉ねぎも炒めてから入れた方が柔らかくなるし。

 

「……なんか中学生男子とは思えないくらい手慣れてるわね」

 

「うぅっ、ちょっと女子としては敗北した感じあるかも……」

 

文武両道でもう一人の委員長でもある片岡メグさんが僕らの手際を見てそう呟いていた。ポニーテールが特徴的で、何処とは言わないけど発育の良い矢田桃花さんもちょっと落ち込んだ様子で僕らを見ている。

このメンバーで秀吉がいないのは珍しいかもしれないが、班構成が男女で五人だったから秀吉とは別の班になっているのだ。

 

「そうかな?別にこれくらいだったら何でもないと思うけど」

 

「同世代の男の子でそこまで料理が上手って人の方が少ないんじゃないかしら?」

 

「そうそう、女子でもあんまり料理しないって人はいるし。三人はよく料理とかするの?」

 

矢田さんは僕らの生活に興味でも出てきたのか、野菜を洗いながら訊いてくる。

 

「…………紳士の嗜み」

 

「俺はよく家で料理してるぞ。……おふくろ()は放っておくと何を作るか分からんからな」

 

「僕も最近はあんまりだけど、一人暮らしする前までは家で毎日作ってたからね。流石にもう手慣れたもんだよ」

 

二人の料理の腕前は前から知ってたけど、どういう理由で得意なのかは知らなかったな。でもどうして雄二は遠い目をしてるんだろう?

 

「へぇ、吉井君って一人暮らしなんだ。でも普通、一人暮らしになってから料理をするようになるものじゃない?」

 

「いやぁ、父さんは仕事で料理できないから僕が作ることになってたんだ」

 

僕がそういうと片岡さんが少し気まずそうな表情になっていた。どうかしたのかな?

 

「あ……もしかして父子家庭だったの?ごめんなさい、不躾なことを訊いちゃったかしら?」

 

「ほぇ?うちは父さんも母さんも一緒に暮らしてたけど?」

 

なんなら今でも海外で一緒に暮らしてるはずだし。なんで片岡さんの中では僕の両親が離婚してることになってるんだろう?

 

「じゃあお母さんは料理しない人だったの?あ、共働きだったとか?」

 

矢田さんも続けて訊いてくるけど、二人とも何か気になることでもあったの?僕、何も変なこと言ってないと思うんだけど……

それにしても矢田さんは面白いことを言うね。さっき片岡さんがなんか気まずそうにしてたから空気を和ませようとしたんだろう。そういうことなら僕も軽い感じで流れに乗っておかないと。

 

「あはは、矢田さんは何を言ってるのさ。母親は家で一番偉いんだから料理なんてするわけないじゃないか」

 

「「「「………………」」」」

 

何故か今度は片岡さんだけじゃなくて全員が気まずそうな表情になっていた。

……あれ、皆どうしたの?ここは笑うところだよ?

 

「えっと、その……うん、それぞれご家庭の事情があるわよね」

 

「明久、お前も母親には苦労してたんだな……」

 

さらに片岡さんや雄二からは同情というか何というか、よく分からない眼差しを向けられていた。何で皆がそんな表情を浮かべているのか全然見当がつかない。家族で地位の低い人が料理をするのって普通だよね?

皆の反応に色々と考えさせられていたところで、ガシャンッ‼︎ という大きな音が聞こえてきて僕は反射的に振り返った。誰か鍋でもひっくり返したかな?

などと思っていたら、ナイフを振り抜いたカルマ君が花柄フリフリの大きなハートがあしらわれたエプロンを装着していた。

 

〜カルマ君、斬殺しようとしてエプロンを装着させられるの巻〜。

以上、カルマ君が恥ずかしそうにしてました。以下省略‼︎

 

あ、もう一つ報告あるの忘れてた。出来上がったスープは凄く美味しかったよ。久しぶりにカロリーの味がしたね。

 

 

 

国語の時間。

〜カルマ君、暗殺しようとして髪型を整えられるの巻〜。

以上、カルマ君の髪型が真ん中分けにされてました。以下省略‼︎

 

え、カルマ君の時間省略しすぎじゃないかって?

仕方ないじゃない。技術家庭科の授業以外は僕ら授業中で静かにしてるんだから。

こうしてカルマ君の暗殺は悉く殺せんせーに封殺され、やっぱり殺すことは出来ずに一日が終わったのだった。

 

 

 

 

 

 

「明日の放課後、仕掛けるぞ」

 

学校からの帰り道。E組のある山を降りて市街地に入ったところで雄二がそう言って話を切り出してきた。

 

「仕掛けるって……殺せんせーの暗殺?」

 

「そうだ」

 

「それはまた随分と急じゃの。確率の低い暗殺なんぞ時間の無駄と言ってあまり積極的ではなかったというのに」

 

「…………暗殺の目処が立ったのか?」

 

秀吉とムッツリーニも雄二の提案を聞いていたけど二人とも思案顔だ。僕も似たような表情をしてると思う。

今日は一日中カルマ君がひたすら暗殺を繰り返していたものの、特にこれといった新しい殺せんせーの情報が分かったわけじゃない。僕らは学校でほとんど一緒に行動してるけど、雄二が急に仕掛けようと言い出した理由に思い当たる節がなかったのだ。

そんな僕らの疑問など余所に、雄二はいつもの調子で軽く言う。

 

「暗殺するとは言ったが、別に殺せるとは思ってない。暗殺を仕掛けて成果があれば良し、もし殺せたらラッキーくらいなもんだ」

 

「それって、暗殺は仕掛けるけど殺せなくてもいいってこと?昨日カルマ君に言ってたことと矛盾してない?」

 

「あぁ、その理由も順を追って説明してやる。お前らには暗殺に参加してもらうからな」

 

そりゃまぁ、暗殺に参加する分には拒否する理由なんてないけど……雄二はいったい何を考えてるんだろう?

 

「HRのやり取りで分かってるとは思うが、どれだけ暗殺者の数を揃えたところで真正面からは殺せねぇ。こっちが殺そうと思って行動した時には見切られちまってるからな」

 

「うむ。マッハ二十で動けるわけじゃからの。その動きを制御できるだけの動体視力も備えておるじゃろう。それを処理するための思考速度と頭脳もまた然りじゃ」

 

確かに秀吉の言う通りだ。僕らが撃つエアガンの弾よりも、マッハ二十で過ぎていく景色の方が遥かに速いだろう。

マッハ二十で動ける身体能力ってことは、マッハ二十で身体を動かせるだけの頭も必要ってことか。それだったら前に雄二が言っていた“弾道を見切って跳弾も計算する”っていう離れ技は可能だと思う。

 

「だから俺は前に“策を巡らせねぇと殺せねぇ”って言ったが、それも今の俺達には限界がある。暗殺訓練を受けてるっつっても一ヶ月前まではただの中学生だったんだ。複雑な策を完璧に実行するだけの技術もなければ、学校内だけだと大掛かりな仕掛けも実行できねぇ」

 

「…………じゃあ明日の放課後はどうする?」

 

だからこそ問題は暗殺する方法なのだ。技術も仕掛けも不十分となれば、万に一つの確率であっても殺せんせーは殺せないだろう。

それが分かっていながら暗殺を仕掛け、別に殺せなかったらそれでもいいと言っている。いい加減に雄二の考えも気になってきたけど、実行する方法にも興味が引かれてきたところだ。

 

「別に難しいことをするつもりはねぇ。学校内で実行できて大掛かりな仕掛けも高度な技術も必要ない、こっちの狙いを見切られることなく暗殺対象(ターゲット)の回避行動も封じることができる策を考えりゃいい」

 

なんか物凄く簡単そうに言ってくれるけど……僕らの現状を補って殺せんせーの動きも抑えられる、そんな夢のような作戦があったら誰も苦労してないと思うよ。

しかしそんな僕らの気持ちなど全く気にしていないようで、雄二は構わず説明を続けていく。

 

「んで、その策ってのは……」

 

そして、いよいよその内容が語られる。

 

 

 

 

 

「ーーー俺らも含めてクラス全体を巻き込んだ無差別攻撃だ」

 

雄二から告げられた突拍子もない答えに、僕らは唖然とすることしか出来なかった。




次話
〜バカ達の時間〜
https://novel.syosetu.org/112657/5.html



渚「これで“カルマ(の暗殺中)の時間”は終わりだね。皆は楽しめたかな?」

カルマ「後書きはいつも通りメタ話と駄弁りで進めていくよ」

明久「あ、今回は“暗殺教室”メンバー二人で行くんだね」

渚「そうみたい。僕は今回出番なかったのになんでか二回目だよ。てっきり他の人が呼ばれるものだと思ってたけど……」

カルマ「今回は俺の話だったから相棒の渚君ってことじゃない?まぁぶっちゃけ片岡さんや矢田さんだとネタにしにくいから渚君が指名されたみたいだけど」

明久「本当にメタいよ‼︎ そういう後書きの裏事情まで語らなくていいから‼︎」

渚「あはは……そういえば、ついに坂本君が本格的に動き出したね。でも、クラス全体を巻き込んだ無差別攻撃って……」

明久「カルマ君が殺せんせーの脅しをハッタリだって見抜いちゃったから、形振り構わず殺せる手を選んできたのかも」

カルマ「いやいや、坂本だったら俺に言われるまでもなく気付いてたでしょ。そんな手で行くんだったらとっくにやってるはずだね」

渚「じゃあ坂本君はいったいどんな暗殺を考えてるんだろう?」

カルマ「それこそ次回のお楽しみって奴でしょ」

明久「それもそうだね。っていうかカルマ君はこの後どうなったの?やっぱり原作通り?」

渚「うん、飛び降りたけど殺せんせーに助けられてって感じだよ」

カルマ「なーんにも捻ってないから俺の出番が省略されまくったんだよ」

明久「そんな棘のある言い方しなくても……実はカルマ君の飛び降りに対して没ネタがあるんだけど、聞きたい?」

渚「そんなのがあるんだ。その没ネタではどういう結末になったの?」

明久「いや、結末自体は変わらないんだけどね。カルマ君が身投げしたのは暗殺の一環じゃなくて、暗殺できなくて身投げしたって僕が勘違いしてカルマ君を励ますんだよ」

カルマ「あぁ、何となく想像できるわ。渚君から俺の暗殺を聞いた吉井が、いつも通り訳分かんない思考回路で外れた結論を導き出すんでしょ」

渚「所謂お約束ってやつだね」

明久「で、僕が勘違いしたまま突っ走るから、カルマ君は面倒臭くなって僕を黙らせるんだよ。どうやって黙らせたかは保身のために秘密にするけど」

カルマ「へぇ、吉井が保身に走るような方法なんだね……こんな感じかな?」

ズボッ、ブチュッ。←練りからしを明久の鼻に突っ込んで中身をぶち撒ける音。

明久「☆●◾️▽⤴︎♬✖️っ⁉︎⁉︎」

渚「ちょっ⁉︎ カルマ君、吉井君がのたうち回って痙攣してるんだけど‼︎」

カルマ「あちゃ〜、ちょっと刺激が強すぎたかな?吉井もこんなんだし、今回はここまでだね」

渚「そんなことより今は水だよ‼︎ ちょっと取ってくる‼︎」

カルマ「そんな急がなくてもいいのに……じゃ、次回も楽しみにしててね〜」





殺せんせー「…………(シクシクシク)」

ブニョンッ……ブニョンッ……

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